戦闘回ですね。え?的な所が出てきたらゴメンナサイ(-_-;)
セレスタは、港外れの埠頭に立っていた。
革製のサンダルに、カラフルな刺繍を施したワンピース。 特徴的な蜂蜜色の金髪が風に吹かれ揺れている。
錆びた手摺に凭れたまま、彼女は沖合に浮かぶ船を眺めていた。 船の名前は、
恩人であるヴァトラーには会いたいが、しかし会いたくない。という気持ちもあるのだ。 おそらく彼に会えば、全てが終わってしまう予感があったからである。
「セレスタ!」
古城が彼女の名前を呼び、セレスタは迷惑そうに振り返る。 息を切らした古城たちは、セレスタの無事を確認して足を止める。
「何でついてきたのよ!? あんたらって変態!?」
「うるせぇ! お前こそどういうつもりだよ!? 一人でどっかに行って、ヴァトラーに会えなかったらどうする気だったんだ!?」
「……俺は変態じゃないからな。 さっきも言ったけど、俺は途中で投げ捨てないだけだ」
だが、凪沙に出会う前の悠斗だったら、完全に投げ捨てていただろう。 絃神島に訪れ、凪沙との出会いが悠斗の人生を180度変えたともいえる。
「何それ!? わけわかんない!?……それに、私、思い出したのよ」
セレスタは、言葉を紡いでいく。
「私は、自分の村からあいつらに攫われて、森の奥にある壊れかけた神殿に連れて行かれた。 あいつらは、私を生贄にするつもりだったの」
セレスタの記憶を取り戻す切っ掛けになったのは、
「あいつらって、あの獣人の事か? ザザラマギウの信者だな?」
セレスタは古城の言葉に首を振った。
「違う……あの人たちは……私を護ろうとして……。 私を生贄にしようとしてたのは軍人よ。 命令してたのは女だったわ」
セレスタは目を閉じて、その光景を思い出す。
攫われたセレスタを救い出す為に、多くの獣人たちが神殿に押し寄せ、彼らは殺された。 近代的兵器と奇怪な技を操る軍人たちが殺したのだ。
その時、ディミトリエ・ヴァトラーが現れなかったら、獣人たちは全滅していたに違いない。 そして、間違いなくセレスタも殺されていただろう。 邪神に捧げる生贄として――、
「(……じゃあ俺は、根本から間違ってたのか……。 最初の段階から、俺の思考は間違った方向に進んでいた、のか……)」
悠斗は愕然とした。 そう、あの時の獣人たちは、セレスタを奪うのではなく
――――セレスタが発言した女軍人。 おそらく奴は、アンジェリカ・ハミーダで間違えはないだろう。 那月の伝言と辻褄が合うのだから。
その時、悠斗は咄嗟に体を捻り、肩に鋭い痛みが走る。 悠斗は右肩に銃撃を受けたのだ。 超直感が遅れていたら、確実に
悠斗は振り向き、
「(……迷彩を使った、長距離からの狙撃かよ……。ったく、眷獣に頼り過ぎたつけがきたのかもな……)」
古城は、悠斗の右肩から流れる血を見ながら、
「悠斗!――姫柊!? 今のは!?」
「長距離からの狙撃です! おそらく、狙撃者は神代先輩の対策をしてるんだと思います!」
「対策って……悠斗の玄武と朱雀の焔の事か!?」
雪菜は、はい、おそらく。と頷いた。
そう、敵は悠斗の戦闘能力を落とし、全快を出させない事だ。 敵も気づいているのだろう、真正面から悠斗と戦闘になったら勝てないと。 ならば、隙を突いて戦闘能力を削ぎ落とし弱体化させればいい話だ。
「囲まれてます! そんな……いつの間に……!?」
雪菜がギグケースから雪霞狼を抜き、展開する前に古城たちの周囲に複数の人影が現れた。 女が一人と男が二人。 そして、全員が外国人だ。
地味なグレーの衣服を身に着けているが、男二人は異様に目立ち、どちらも身長は二メートル近いスキンヘッドの大男だ。 片方は髭面で、片方は機械化した両目にサングラスをかけている。
そして女は、モデルのような長身と人工的な美貌。 毛皮つきの豪華なコートを纏っていているが、その下はかなり鍛え抜かれた肉体が隠されている事がよく解る。 それに見るものが見れば解るだろう、女の動きは訓練された軍人の動きだと。
その女がコートの下から取り出したのは、小型のサブマシンガンだった。
一瞬先の未来を見る霊視能力を持つ雪菜にとって、サブマシンガンの連射性能は脅威である。 迂闊に動く事ができない。
「さて、紅蓮の織天使。 今のお前は手負いだ。……今のこの状況、如何にかできるのか」
「……さあどうかな。……――アンジェリカ・ハミーダ、貴様は命を狙われているのに余裕そうだな」
悠斗は左手を突き出し、掌はアンジェリカ・ハミーダの急所を狙っているのだ。
だが、古城が第四真祖とは露見してる様子はない。 素姓が露見されていたのは悠斗だけらしい。
「余裕に決まってるだろう。 お前は負傷し、ほぼ人質が三人。 どちらが優勢で主導権を握ってるか、普通に解る状況だろう。 それに、私がお前の攻撃で確実に死ぬと断言できるのか」
アンジェリカが一方的に告げてくる。
確かに、悠斗が的確な攻撃をしても、訓練された軍人であるアンジェリカならば、今の距離からでも急所を躱す事が可能なのかもしれないのだ。
それに、相手は三人であり銃器で武装している。 状況から見て、絶対絶命の危機だ。
「我々からの要求は一つだ。 セレスタ・シアーテの身柄を引き渡してもらおう。 無用な交戦は避けたいのでな。 素直に応じてくれるとあがりたい」
悠斗はセレスタの表情を見ると、セレスタの瞳に浮かんでいたのは、アンジェリカたちに対する純粋な恐怖。
悠斗は視線で、古城。セレスタの護衛を頼んだぞ。と目線で語る。 古城は顔を歪めたが頷いた。
「嫌に決まってるだろうが、このアホが」
「そうか。 残念だ」
アンジェリカが無造作に左手を振った。
その瞬間、古城たちを襲ってきたのは目に映らない斬撃だ。 雪菜の雪霞狼で魔力を打ち消す事はできるが、あの強烈な運動エネルギーまで撃ち消す事はできない。 古城と雪菜、セレスタが受ければ一溜まりもないだろう。
悠斗は、アンジェリカに向けていた左手を古城たちの方へ突き出し、
「――
悠斗は紅い結界を展開させ、古城たちに飛来する刃を弾くが、悠斗は、ブイエ、マティスと呼ばれる部下のたちから銃撃を受け、左手に召喚した刀で弾くが相手はサブマシンガンだ。 急所だけを狙撃から防ぐのが精一杯だ。 悠斗は、ほぼ蜂の巣状況に近い。 そして、これはただの銃弾ではなかった。 そう、朱雀の焔の鎧も貫通しているのだ。 悠斗は、朱雀の鎧の出力を上げれば防げると踏んだが、その対策もされていたのだ。
「ほう。 冷酷と言われた紅蓮の織天使が民間人たちを護るか。 しかし、お前を護ってる守護も紙切れ同然だろう」
お前が創り出す結界は別だがな。と、アンジェリカは付け足す。
悠斗は唇を曲げ、
「……うるせぇな。 つか、認識阻害魔術もそうだが、魔力を込めた銃弾とか、どんだけ俺の事を研究してんだよ……」
「軍人である私たちは、紅蓮の織天使と出くわしたら死ぬと思えと言われていたんだ。 自分を護る為、お前の対策をするに決まってるだろ」
「……ったく、有名になり過ぎるのも考えものだな……――古城!」
古城は霧の塊と化した腕で地面を殴りつける。 その瞬間、古城の腕が触れた地面も、実体の持たない霧へと変わった。 足場を失ったアンジェリカたちが咄嗟に反応して背後に跳び退く。
しかし、古城が撒き散らす霧化の方が圧倒的に早い。
「ああ、解ってる!そのまま海に突き落としてやる!――
古城の背後に、うっすらと銀色の巨影が浮かんだ。
第四真祖が従える四番目の眷獣、
「第四真祖か! 織天使に気をかけ過ぎて、こちらが手薄になったのか!?」
軍人からして、紅蓮の織天使と第四真祖を比べると、圧倒的に紅蓮の織天使の方が脅威なのだ。 第四真祖ならば眷獣召喚をする前に処理できるが、紅蓮の織天使は常時眷獣能力を行使できるのだから。
「チッ、ポーランド!」
アンジェリカが首に嵌め込んだ通信機に向かって怒鳴る。
「がっ!?」
古城が鮮血を吐き出して膝を折った。
古城の心臓が吹き飛ばされ、意識が一瞬途切れ眷獣召喚が解除されてしまった。 霧化してた地面が再び実体を取り戻し、溶岩大地のようにドロドロに歪んだ姿で定着する。 そしてこれは、長距離からの狙撃だ。 アンジェリカの部下はもう一人いたのだ。 離れた場所に建つ灯台の上から、狙撃用のライフルで古城の心臓を狙い撃ちしたのだ。
「――
悠斗が放った稲妻の無数の槍は、離れた場所に建つ灯台から狙撃した男に突き刺さった。 これで確実に男の息の根を止めただろう。
だが、体の自由が効かない古城は上体を必死に起こそうとするが、顔を上げるのが精一杯だ。 そんな古城を狙って、髭面の男が動いた。 手袋を脱ぎ捨てた腕は、無骨な金属製の義手だった。
男が義手の掌を古城の頭に向けた。 この距離で撃たれたら逃れようもなく、生き返ったとしても既に戦闘は終了しておりセレスタの安否を確認する事ができなくなる。
だが――、
「――
冷ややかな響く少年の声と共に、閃光に包まれた巨大な猛禽が現れる。
翼長数メートルに達するその巨体が、遥か上空より降下して、義手の男を吹き飛ばしたのだ。
間一髪で直撃を逃れた男の足元が、高熱に炙られて一瞬で融解する。
猛禽の正体は吸血鬼の眷獣だ。 摂氏数万度にも達する高密度の炎の塊。 古城たちのすぐ傍に現れたのは、冷たい刃物を連想させる顔立ちの少年だ。 少年は、悠斗に向かって敬意を持ち頭を垂れる。
「お久しぶりです、紅蓮の織天使様。 それにしても、酷い傷で」
悠斗は苦笑した。 だが、一時的に眷獣召喚が不可能なのだが。
「ったく、皮肉か? まあいいや、ジャガンはゼンフォースの動きを監視してたでいいのか?」
「ええ、動きがあるまで此方から動けなかったもので」
悠斗は、なるほどな。と言って頷いた。
「――
ジャガンが猛禽の眷獣を還し、新たな眷獣を召喚した。
それは全長四、五メートルにも達する鋼色の類人猿だった。 濃密な魔力によって実体化した、鋼鉄の
先に仕掛けたジャガンは、義手の男と戦闘になっており、ジャガンが“
そして、隙を突かれたジャガンに、サングラスの男の両肩の体内に埋め込まれていた魔具が露出し、放熱フィン似た男の魔具が虹色の鮮やかな陽炎を放った。 これは、灼熱の陽炎を生み出して目標を消し炭へと変える魔具だ。原理は解らないが、それは間違いなく魔族を殺す為に作られた魔具なのは確かだ。
隙を突かれたジャガンは、陽炎の攻撃範囲から逃れる余裕は無い。虹色の輝きがジャガンを包むが――、
「お前ら、オレを忘れてもらっちゃ困るぜ。――
片膝を突いて立ち上がった古城が、獅子の黄金を呼び出していた。
破壊された心臓の再生は終わっている。正確には、心臓というよりは、魔力の塊で出来た得体の知れない臓器。が適切だが。 とにかく、万全でないものの、何とか戦えるのだ。
まあ、プライドの高いジャガンは、古城に助けられて屈辱に震えていたが……。
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悠斗はこの戦場を見ながら、一人の眷獣に話かける。
「(この場はお前に任せていいか?――――
「(構わない。 体を貸してもらうぞ、悠斗。 だが、僅かな時間しか表に出る事ができないと覚えておけ。 我の存在に、お前の体が持たない)」
「(了解)」
悠斗は掌を開き、左腕を突き出す。
「降臨せよ――
悠斗の背後に浮かび上がったのは、氷河のように透き通る巨大な影だ。 上半身は人間の女性に似ており、下半身は魚の姿である。 背中には翼が生え、指先は猛禽のような鋭い鉤爪になっている。 氷の人魚、あるいは
そして悠斗は、
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古城たちが戦闘してる中、周囲に冷気が漂い寒さが増していく。 その発生源はアンジェリカたちの方に歩み寄る悠斗だ。――――だが、悠斗の様子がいつもとは違う。 瞳は蒼く、何かに憑依されたような、冷たい刃を連想させる。
「……やってくれたな貴様ら、我が護ろうとした者を傷つけた罪。 貴様らの命で償ってもらおうか」
その声は、男性と女性の声が混ざったような声だ。
「あ、貴女は!」
巫女である雪菜はすぐに気づいた。 今の悠斗は、第四真祖の眷獣に憑依されているのだと。
悠斗が左手を挙げると、周囲の冷気が増し、周囲の物が徐々に凍っていく。
「――坊やたち、死にたくなければそこから退く事をお勧めするぞ」
ジャガンは反論しようとしたが、それは叶わなかった。 そう、――自身との力量が桁違い過ぎるのだ。 古城たちは、後方に跳び退きアンジェリカたちから距離を取る。 それを見た悠斗は、愉快に笑うだけだ。
アンジェリカは唇を曲げた。 この場では悠斗と戦うのは得策ではない。
「ッチ」
これ以上の戦闘は無益。 そう判断したアンジェリカは、即座に戦術目標を修正した。
敵の殲滅から、自軍の撤退へと。
「撤退だ。 援護しろ!」
部下たちにそう命じて、アンジェリカは跳躍する。
だが――、
「……――
悠斗がそう言うと、古城たちがいる前方。 港の方向に吹雪が吹き荒れ徐々に周囲を凍りつかせていく。 既に、付近の海は凍っていた。
アンジェリカは吹雪から逃れる為、港外れにある倉庫の屋根に着地して姿を消した。 彼女の部下の男たちも既に撤退を終えている。 敵が完全に立ち去ったのを確認して、古城たちは、憑依、眷獣召喚を解除した。
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「やあ。 古城、悠斗」
金色の霧を纏って、古城たちの前に現れたのは金髪碧眼の吸血鬼だ。 既に、古城と悠斗の傷は塞がっている。
「『やあ』じゃねから。 何でもっと早くに現れねぇんだよ」
悠斗はそう言ってから、ヴァトラーを睨み付けるが、ヴァトラーは、やれやれと首を振るだけだ。
「あの時の悠斗は、
古城は目を丸くする。
「やっぱり、悠斗のさっきのは憑依、なのか?」
「ああ。 簡単に言えば、
「……悠斗。 お前、規格外さが増してるぞ」
古城はそう言って、溜息を吐いていた。
ともあれ、セレスタは無事に護る事ができ、ヴァトラーとも合流できたのだった――。
悠斗君。遂に妖姫の蒼氷まで憑依(融合?)させちゃたよ(笑)まあ、凪沙ちゃんもほんの短時間ならできるんですが。
ちなみに、張った結界は正面だけですね。
ではでは、感想、評価、よろしくお願いします!!