ストライク・ザ・ブラッド ~紅蓮の熾天使~   作:舞翼

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舞翼です!
今回から新章開始ですね。この章では、悠斗君の動向がどんな風になるんでしょうか?

では、投稿です。
本編をどうぞ。


逃亡の第四真祖
逃亡の第四真祖 Ⅰ


 直射日光が降り注ぐ無人の校庭で、陽炎が揺れていた。

 開かれた教室の窓からは、湿気を含んだ生温い風が吹き込んでくる。

 だが、正面教卓の席に座った、暁古城、神代悠斗は、難解な英作文の問題を解いていく。 悠斗は問題ないが、古城は苦痛の表情を浮かべていた。 古城に限っては、額から大きな汗の滴が伝い落ち、湿った手首に張り着く回答用紙が鬱陶しい。

 

「暑ィ……」

 

 制服の襟元に指を掛けながら、古城が弱々しく呟く。

 

「絃神島だしな。 暑いのはしょうがない」

 

 古城の呟きに、悠斗は平然とした様子で答える。

 悠斗は守護に護られている為、絃神島の暑さも、本土の寒さも関係ないのだ。 悠斗が旅の途中、朱雀の守護に何度助けられた事か。

 

「悠斗は、朱雀の焔で自身を守護するとかズル過ぎだろ……。 オレにもやってくれよ」

 

「できない事はないが、その為には俺の宝玉を受け取るか、俺の“血の従者”にならないとできないぞ。 宝玉は凪沙が大事にしてくれてるし、古城が紅蓮の織天使の“血の従者”とか無理だろうが」

 

「……マジか。 それは無理だな」

 

 だろ。と悠斗は呟く。

 如何にか最後の問題を解き終わった古城と悠斗はシャーペンを置く。

 

「あのさ、那月ちゃん。今日って大晦日だ――」

 

 そう言いかけた古城の眉間に、見えない拳骨に似た青白い火花が散り、仰け反った古城の姿を那月は冷めた目つきで睥睨する。

 

「暑くてイライラしてる時に、担任をちゃんづけで呼ぶな。 馬鹿者」

 

「そんな理由で、教師が生徒に暴力を振るうのは許されるんですかねぇ……!?」

 

 涙目で顔を顰める古城が、額を押さえて言い返す。 アンティーク風の豪華な肘掛の椅子に座っている那月は、鼻を鳴らして古城の抗議を黙殺した。

 那月の隣では、メイド服を着たアスタルテが扇風機の前に座り込んで「ああああああ」と声を出していた。 初めて見る扇風機が、興味深かったのだろう。 結果的に、扇風機はアスタルテに独占されてる形になっている。 そもそも、職員室から扇風機を運んで来てくれたのも彼女なので、古城たちは文句を言える立場ではないが。

 

「そういえば古城。 年越し蕎麦って姫柊が作るのか? 何なら、俺が作るけど」

 

「あ、ああ。 そういえば、決めてなかったな」

 

「……馬鹿者らと暁妹、転校生は最早家族だな。 さっさと回答用紙を寄こせ」

 

 古城と悠斗は立ち上がり、英語の回答用紙を那月に渡した。

 採点が終わった那月は、

 

「ふん。 合格点だ。 こんな日まで補習につき合ってる私に感謝するんだな」

 

「ああ、それは感謝してるよ、本当に」

 

「補習がなかったら、今頃俺たちは留年確定だしな」

 

 吸血鬼絡みの事件に巻き込まれた古城たちは、出席日数を減らしてきたが、那月が頼み、時間を割いて補習授業を設けてくれているので留年を回避できているのだ。 なので、那月には感謝しかない。

 感謝の気持ちを口にすると思ってなかった那月は、少し面食らったように唇を曲げた。

 

「ところでお前ら、暁牙城は今どこにいる?」

 

 古城の父親、暁牙城と南宮那月は接点が殆んどない筈だ。

 なので古城が真っ先に考えたのは、不倫、という二文字だ。 見た目、幼女としか思えない那月だが、自称二十六歳の大人だ。 大人の恋愛が一つや二つあってもおかしくはない。

 そんな事を考えてる古城の頬を、那月は乱暴に吊り上げた。

 

「その目は失礼な事を想像してるんだな、暁古城」

 

「痛ィ! 痛ィ!――って、まだ何にも言ってないだろうが!」

 

「黙れ。 いいから質問に答えろ」

 

「今は絃神島にはいねぇよ。 凪沙を連れて丹沢の婆さん家に帰省中」

 

 那月は、意外そうに声を上げた。

 

「ほう。 悠斗が暁凪沙を手放すとはな。 何の心境の変化だ」

 

「いや、過保護になり過ぎんのも良くないだろ。 それに、身内との時間も凪沙には必要だと思ってな」

 

 凪沙は、悠斗の眷獣を召喚できるし、眷獣の技も使えるのだ。 まあ、朱雀と白虎のだけ。という制限もあるんだが。 なので悠斗は、あまり心配していない。

 

「暁牙城とは連絡は取れるのか? 暁古城」

 

「それはちょっと難しんじゃねーか。 あの辺りは、スマホの電波も届かないし」

 

 そもそも、古城たちは牙城の番号を知らないのだが、取り敢えずそれは黙っておく。

 

「田舎なのだな。 暁古城の祖母が住んでる土地は」

 

「……那月。 何で関心の無い事を古城から聞いたんだ。 何か理由でもあんのか」

 

 そう言った悠斗の視線は、那月の内心()を読み取ろうとしている。

 那月は平静を装い、

 

「いや……少し気になっただけだ。 気にするな」

 

 古城は、那月と悠斗の醸し出した(重い)空気を感じ取り押し黙ってしまう。

 暫しの沈黙が流れ、悠斗が嘆息する。

 

「……そうか」

 

 今の会話は、高レベルな腹の探りあいだ。

 流石は那月といったところだ。 悠斗は那月から、何の情報も引き出せなかった。 おそらく、逆の立場になっても同じ事だろう。

 緊張(空気)も解れ、古城は息を吐く。

 

「私の補習はこれで終わりだ。 精々、良い年を迎えるんだな」

 

「うっす」

 

「了解」

 

 古城と悠斗は席に戻り筆記用具を片付けていると、教室のドアが開き新たな人物が姿を現した。 体育教師、佐崎岬だ。

 岬は、那月に授業終了の確認を取り、肩を落としている古城たちを見る。

 出席不足の古城たちは、英語の補修だけではなく、体育の補習もあるのだ。 しかし、少しの間だけでも解放感に浸りたかった古城たちである。

 

「綺麗に纏まった所悪いんだけど、英語の次は体育の補習だったりして。 取り敢えず、マラソン十キロだから、着替えてグラウンド集合ね」

 

 テンションの高い口調で、岬が古城たちに笑いかける。

 古城たちは、光輝く真昼の太陽を見上げ、陽射しに灼かれている運動場に目を向けた。 太平洋の真ん中にある絃神島は、亜熱帯気候に属する常夏の島だ。 例え、大晦日でも正午近くなれば気温は三十度に迫る。

 古城は、直射日光に弱い吸血鬼だ。 悠斗は、暑さが問題なくても動けば体温も上がるし汗を流す。

 

「「……十キロか……」」

 

 迫り来る恐怖を覚えつつ、古城たちは弱々しく呟いた。

 アスタルテが扇風機に向かって奏でる澄んだ声が、青空に吸い込まれるように響いていく。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

 それから二時間が過ぎて、補習から解放された古城たちは、ふらつく足取りで駅へと向かう。

 古城の隣には、黒いギターケースを背負った雪菜の姿もある。 第四真祖の監視役として、古城たちの補習が終わるのを校内で待っていたのだ。

 雪菜の隣には悠斗も居るのだが、雪菜にとってはついでの監視である。 正式な監視が可能なのは、獅子王機関の三聖くらいだろう。

 

「あ、あの……先輩方。 大丈夫ですか?」

 

 足取りが覚束ない古城と悠斗を見て、雪菜が心配そうに聞いてくる。

 

「何とかな……。 本気で干涸びると思った……」

 

「……いや、それを言うなら脱水症状で倒れるじゃねぇか」

 

 小テストで頭を使った後に、炎天下でのマラソンだ。 なので、古城と悠斗は完全に消耗していた。 駅までの徒歩十五分足らずの道のりが遠く感じる。

 

「と、とりあえず、先輩方は水分補給してください。 あと、これ、レモンのハチミツ漬けとスポーツドリンクです」

 

「ああ、サンキュ」

 

「何か悪いな」

 

 雪菜の手回しに感謝しつつ、古城と悠斗はレモンが入ったタッパーとスポーツドリンクを受け取った。

 古城は《第四真祖》であり、悠斗は《紅蓮の織天使》。 そして、雪菜は政府から派遣されてきた監視役。

 しかし、今の古城たちはどう見ても試合後に疲れ切った運動部員と、気の利く敏腕マネージャーだ。

 

「悪いな、姫柊。 大晦日なのに学校につき合わせて」

 

「つっても、姫柊が居た事で助かった事も多々ある」

 

 悠斗の言う通り、雪菜に世話になってるのは確かである。 今となっては、凪沙も含まれるが。

 

「いえ、監視は私の任務ですから。 まあ、神代先輩の監視は私には務まりませんが」

 

 雪菜は、いつもの生真面目な表情で答える。

 

「それにしても、俺と古城が姫柊に出会ってから半年は経つんだな」

 

「長いようで短かった気もするが。 つか、姫柊の最初の印象は最悪だったんだぞ」

 

「だよな。 野郎吸血鬼に、雪霞狼を持ち出すのは弱い者虐めだろ」

 

 悠斗と古城の言葉を聞き、雪菜は頬を赤く染める。

 

「そ、それは忘れて下さい! そ、そもそも、あちらがナンパして来たのが悪いんです! 条約違反をしたんです! したんです!」

 

 雪菜は珍しく声を上げて言い返してくる。 あの頃の刺々しい言動は、本人にとっても思い出したくない恥ずかしい記憶らしい。

 駅に着いてモノレールに乗り込んでも、雪菜は拗ねたように顔を背けたままだ。 モノレールの車内は、大晦日という事で通勤客が少ないのか、普段よりも空いていた。 やはり、年末だからだろうか。

 車内に吊り広告にも、新年の挨拶や、新春初売りなどの広告が吊り下げられている。

 

「つーか、古城。 さっきからスマホ見すぎだ」

 

 悠斗がそう言うと、古城が肩を震わせる。 そう、古城は黙々とメールの確認していたのだ。

 

「い、いや。 最近、凪沙から連絡がないなーって思ってな」

 

 悠斗は溜息を吐く。

 

「俺の眷獣を還してだが、凪沙は安全だ。 心配すんな」

 

「そ、そうか。 でもなぁ……」

 

 再び古城は、スマホに目を落とす。

 この時悠斗が、古城のシスコンは一生治らないと思う。と思ったのは古城には秘密である。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

 駅前で昼食を済ませ、古城たちが自宅に帰り着いた時には午後三時を回っていた。

 エレベーターでマンションの七階に上がって、悠斗が七〇四号室のドアを開け、古城と雪菜は、お邪魔します。と控え目な口調で言いながら、悠斗に続いて玄関に入り、靴を脱いでリビングへ続く廊下を歩く。

 古城と雪菜の自宅である七〇五号室は前の事件でボロボロになっており、復旧工事が終わったものの、生活に必要な家電製品等が未だに揃っていない。 そんな訳で、古城と雪菜は、悠斗と凪沙のマンションに居候しているのだ。

 リビングに入った所で、古城たちは驚愕に息を呑んだ。 リビングにある全ての棚やタンスの中身が残らず床に散らばっていたからだ。

 古城と雪菜は、泥棒か。と思っていたが、悠斗はある人物が思い当たった。 侵入者が居るのは、廊下の手前側。 凪沙がある人(・・・)の為に、洗濯物や小物を仕舞っている部屋だ。

 ドアを開け、古城たちが目にしたのは、クローゼットの正面に屈み込んだ、よれよれの白衣姿の人影。 寝癖の髪に、眠そうな瞼。 だらしない大人だな。と解る童顔の女性だ。

 

「わー、悠斗君に古城君、雪菜ちゃんも。 ちょうどいいところに!」

 

 部屋に入って来た古城たちに気づいて、童顔の女性は、ふんふー、と鼻歌い混じりに言った。

 悠斗は嘆息し、

 

「……深森さん。 何でここに? 大体の予想はつくけどさ」

 

 クローゼットを引っ搔き回していたのは、古城と凪沙の母親、悠斗にとっては義母になる、暁深森だ。

 通勤が面倒くさいという理由で、普段は研究室で寝泊りしており、自宅にはほぼ帰って来ない彼女だが、年末は研究室から追い出されたらしい。

 彼女の荷物等は凪沙が管理しているので、神代家にやって来たのだろう。 合鍵も、何かあった時の為にと凪沙が深森に渡している。

 そんな彼女が、クローゼットの奥にあった荷物に手を掛け、

 

「スーツケースを見つけたんだけど、結構奥にあってね、取り出せないのよ。 古城君か悠斗君。 ちょっとこの辺押さえててくれる」

 

「ちょ、待て! 折角、俺と凪沙が綺麗にしたんだぞ! あの時見たいに、またグチャグチャにする気か!?」

 

 そう、悠斗と凪沙が帰って来た時に、このような光景に出くわした事があるのだ。 その時にはもう、リビングもクローゼットも寝室も。 物が散らばっていたが……。

 

 ――閑話休題。

 

 家事能力皆無の深森は、典型的な《片付けができない大人》である為、家事等は偶に研究室に訪れる凪沙が行っているのだ。

 そして、クローゼットの中は綺麗に整理整頓させており、スーツケースを無理やり取り出そうとすると、整理された荷物が崩壊するのは火を見るよりも明らかだ。

 だが、悠斗の制止は虚しく、荷物は崩壊し、その残骸が悠斗の頭上に降り注ぐ。

 

「よかった。 これで荷造りができるわ」

 

 大惨事の元凶である深森は、ご機嫌でスーツケースを開けている。 悠斗が彼女の防波堤になり、深森は荷物の崩落による被害を受けなかったのだ。

 悠斗が思うに、リビングの惨状も、深森がスーツケースを見つける為に汚したのだろう。

 

「おいこら。 この惨状をどうしてくれるんだよ」

 

 責めるように悠斗は深森に言ったが、深森は不思議そうに悠斗を見返して、

 

「時間がないの。 今夜から職場の社員旅行で北海道に行くから」

 

「帰って来たと思ったら社員旅行で北海道か。 んじゃ、土産を頼む。――じゃなくてな、何か言う事があるだろうがっ」

 

 深森は、ふんふー、と笑う。

 そして、悠斗にウインクをして、

 

「悠斗君、ナイス突っ込みよ♪」

 

 悠斗は、諦めたよ。という風に盛大に溜息を吐いた。

 

「……楽しんで来いよ。 深森さん、疲れが溜まってそうだし。 息抜きも必要だろ」

 

「さっすが悠斗君、わかってるわねー。 ホント、凪沙ちゃんも良い旦那さんを捉まえて来てくれたわね。……ところで当の凪沙ちゃんが見当たらないんだけど、何処に行ったの?」

 

「暁牙城と帰省中だよ。 一週間前からな」

 

 帰省中。と聞いた瞬間。 深森の表情が引き攣るように歪んだ。

 

「チッ……あの妖怪め。 まだ生きてたのね」

 

 多国籍企業の研究所で働く天然者の超能力者、片や神社の神職を務める攻魔師崩れの霊能力者。 お互いに話が合うはずもなく、両者の仲は最悪なのだ。

 深森は表情を戻し、悠斗の頭に声が流れる。 これは、深森が悠斗の魔力に、超能力を使って周波数を合わせたからだ。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

『それにしても、顔が解らない妖怪に、悠斗君が凪沙ちゃんを預けるなんてね』

 

『……俺も最初は渋ってたよ。 でも、凪沙の事を考えると丹沢の婆さんに会わせてあげたいし、過保護すぎるのも良くないだろ。 遺跡での後遺症の事も気になるしな』

 

『……そうだけど。 でも、あの妖怪には気をつけるのよ。 何を考えてるか解らないし。 もしも――――があるかも知れないんだから』

 

 凪沙は、祖母から受け継いだ巫女としての素養と、深森から受け継いだ過適応能力者(ハイパーアダプター)の力。 その両方を併せ持つ混合能力者(ハイブリッド)だ。 だが、今はその力は失われているらしいが、潜在能力として眠ってる可能性は多いにある。 悠斗はその一部を、眷獣憑依とも考えてもいるのだ。

 なので、良い意味でも悪い意味でも利用しようとする奴は居るかもしれない。 深森は言葉を濁して、そう言っているのだ。

 

『……身内だぞ。 俺の眷獣もいるし、そんな事ありえないだろう』

 

 だが、それを見越して対策をされていたら、悠斗の宝玉も、朱雀の焔も結界も、白虎の()も意味を持たなくなるのだ。

 

『……私もそう願いたいけどね。 一応身内なんだし、あったとしても凪沙ちゃんには危害はないでしょ。 何もないのが一番だけどね』

 

『……そうだな。 でももしもがあったら、俺の歯止めが効かなくなりそうで怖いな』

 

 悠斗は自分自身が暴走した場合、何を仕出かすか解らない。 もしかしたら、世界に混沌を齎そうとするかも知れないのだ。

 

『……悠斗君、世界を破壊しちゃダメよ。 いいわね』

 

 深森の表情は、いつになく真剣なものだ。 悠斗が混沌を齎す。という事になると、悠斗は完全に闇に飲まれ、日常に戻る事は不可能だ。 そう、――昔のように孤独に生きていくしかないのだ。

 

『……そうならないように努力はするが、――――約束は、できない』

 

『……そう。 その時はその時考えましょうか』

 

『ああ、悪いな』

 

 ともあれ、悠斗は先程の会話に戻る。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

「あー、そういうのはいいから。 急いでるなら行っていいぞ。 片付けはやっておくから。 まあでも、後で何か奢れよ」

 

「ホント頼りになる旦那さんだわ。 凪沙ちゃんが羨ましいっ。 まあそれは置いといて、三人とも、そこに並んでちょうだい」

 

 窓辺に立つように促され、古城たちは深森の言葉に従う。

 

「はい、雪菜ちゃんは、あともう一歩古城君の方に近づいて」

 

「こ、こうですか?」

 

 今ひとつ状況を把握できないまま、古城の隣に立つ雪菜。

 

「悠斗君はそのままでOKよ」

 

 古城を真ん中にし、左側に立っている悠斗にOKの指示を出す深森。 深森が手に持っているカメラは、銀色のコンパクトなデジカメだ。 サイズはスマートフォン程度。 其処には、大口径のレンズがついている。 見るからに高価そうなカメラだ。

 カメラの製造元はMAR社。 深森の勤務先の多国籍企業である。

 深森は、古城たちがフレームに収まったのを確認すると、

 

「さて問題です。 一+一は」

 

「普通に二だから、小学生か」

 

 シャッターが切られ、三人は記念写真を撮ったのだった。

 

「うん。 よく撮れてるわ。 このカメラ、雪菜ちゃんにあげるわ」

 

「いいんですか? 私が頂いてしまって?」

 

 遠慮がちに尋ねる雪菜に、深森は悪戯っぽく笑う。

 

「いいのいいの。 一足早いお年玉だと思って。 元々、職場からタダで貰ってきた試作品だし」

 

「そういう事なら……あの、ありがとうございます」

 

 雪菜は、おずおずと深森からカメラを受け取る。

 

「んふ。 人間の記憶なんて曖昧なものだから、思い出に残しておくのも悪くないわよ。 本当に大切な時間って、なくすまで気づかないものだしね。 まあ、悠斗君は一番わかってそうだけどね」

 

「確かにな。 大切な思いでを共有できないのは、結構きついもがあるし」

 

 その間も、スーツケースに荷物を放り込んでいた深森は、膨れ上がったケースの蓋を力任せに閉め、一息吐く。

 

「ふんふー、荷造り完了っと。 行って来ます」

 

「おう。 行って来い」

 

 深森はスーツケースを持ち、古城たちの脇をすり抜けるように、サンダルを玄関で履き外に出て行った。

 悠斗は回りを見渡し、溜息を吐く。

 深森が散らかした場所を掃除するのには、大掃除よりも手間だろう。

 

「……さて、片付けますか」

 

 そんな悠斗を見た、古城と雪菜が、

 

「まあうん。 悠斗、オレも手伝うよ。 居候してる身だし、オレの母親の仕業だしな」

 

「私も手伝います。 人は多い方が早く終わりますし」

 

 そういう事なので、古城たちの大掃除が始まったのだった――。




序盤は、大晦日の話になりそうです。

ではでは、次回もよろしくです!!

追記。
補修などの根回しは、那月ちゃんがやってくれてます(^o^)
レモンのハチミツ漬け等は、モノレールに乗る前に食べてゴミは捨てました。
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