ストライク・ザ・ブラッド ~紅蓮の熾天使~   作:舞翼

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か、書きあげました。
この章も、中盤?くらいまで突入しましたね。
では、本編をどうぞ。


咎神の騎士Ⅵ

 古城が、だろ、と確認するように唯里の目を覗き込み、唯里は頷いた。

 グレンダの名前を知っているのは、古城たちと、襲われたトラックに乗っていた自衛隊員だけ。 上柳が、グレンダの名前を知る機会はなかったはずだ。

 

「仮に龍族が女の子に変身した──って情報を知ってたとしても、ここにいる連中からどうやってあんたは本物のグレンダを見分けたんだ?」

 

 そう言って古城は回りを見回した。

 そこにいるのは、紅蓮の翼と氷結の翼を展開した、悠斗と凪沙。 年齢も国籍も髪の色も違う謎の美女集団、オシアナス・ガールズ。 しかも彼女たちが着ているのは、グレンダとお揃いの迷彩柄のミリタリージャケット。

 悠斗と凪沙を除外しても、迷彩柄の服を着た女の子から、迷わずグレンダの正体を見分けることなど不可能に近い。 できるとしたら、グレンダの詳細を知っていた者だけ。 つまり、黒銀の魔法使いの仲間だけ、という事になる。

 

「小僧──」

 

 上柳が、表情を憤怒に歪めて古城を睨む。

 

「お前が沖山一尉の報告にあった第四真祖か。 可能な限り交戦を避けろと言われていたが、この状況ではやむを得んな──」

 

 自然な動作で、上柳が右手を上げた。

 瞬間、古城の顔面が何者かに狙撃されそうになるが――、

 

「――炎月(えんげつ)!」

 

 狙撃の瞬間、凪沙が古城の前方に張った結界が銃弾を弾き飛ばす。 これは、高難度の部分展開だ。

 

「……暁凪沙が奇妙な力を有してる報告も事実だった。という事か――」

 

 凪沙は結界を解き、

 

「これでも、紅蓮の織天使の“血の従者”ですから」

 

「まあそういうこった。 つか、凍ってくれ――吹雪の嵐(ブリザード・ストーム)

 

 ――吹雪の嵐(ブリザード・ストーム)

 この技は、悠斗が視認し、その対象を下半身から凍らせる、妖姫の蒼氷(アルレシャ・グラキエス)の技の一つだ。……凍らせた自衛隊員は、死亡してはないはずだ。

 だが、上柳は流石と言うべきか、この技から逃れていた。

 まあでも、悠斗が妖姫の蒼氷(アルレシャ・グラキエス)の技の制御に慣れていない。殺傷しないように手加減した。という要素も入っているが。 ちなみに、雪菜と唯里は、グレンダたちの護衛に回っている。

 

「……神よ、我が神よ、我に報復の力を──」

 

 装輪装甲車に駆け寄った上柳は、腰のポーチから奇妙な道具を取り出した。 それは銀黒色の籠手だった。 中世の騎士が身につけるものに似たガントレットだ。

 その籠手で上柳が触れた瞬間、装輪装甲車の輪郭に変化が起きた。

 金属製の装甲が融けたように流動し、甲虫に似た傀儡(ゴーレム)へと姿を変えていく。

 逸早く動いたのは、古城だった。

 

龍蛇の水銀(アル・メイサ・メルクーリ)──!」

 

 古城が喚び出した双頭龍が、巨大な顎を広げて傀儡(ゴーレム)へ襲いかかった。 だが──、

 

「なに!?」

 

 古城が戸惑いの声を洩らす。 空間を抉り取るはずだった双頭龍の攻撃が、傀儡(ゴーレム)の装甲に届く前に弾かれる。

 激突の衝撃で傀儡(ゴーレム)の巨体は吹き飛ばされたが、その表面はほぼ無傷。 古城の眷獣が喰いきれなかったのだ。 黒銀の魔法使いの飛龍と同じ──魔力無効化能力だ。

 

「……こいつら“聖殲派”は、一人一人“魔力無効化”の魔具を所有してるって事か」

 

 悠斗は、古城にとっては面倒な相手だな。と呟く。

 “彼ら”は、魔力の塊である眷獣の攻撃を無効化するのだ。 吸血鬼である負の眷獣なら尚更だ。と言っても、神々の眷獣には効果を持たないんだが。

 

「伏せてくださーい!」

 

 古城たちの背後で、突然、軽やかな声がした。

 咄嗟に身を屈めた古城たちの頭上を、何かが物凄い勢いで駆け抜けていく。

 振り返ると、黄色いベレー帽を被ったオシアナス・ガールズの一人が、金属製の筒を担いでいるのが見えた。 対戦車ロケットランチャーだ。

 戦慄する唯里たちの目前で、爆発に巻きこまれた傀儡(ゴーレム)が横転する。 魔力を無効化する黒い膜も、純粋な射撃兵器には効果がない。 戦車の正面装甲すら撃ち抜く成型炸薬弾頭は、傀儡(ゴーレム)の外殻を貫通し爆散させた。

 

「くっ……“情報”が……オレの“情報”が……!」

 

 傀儡(ゴーレム)内部から吐き出された上柳が、千切れかけた自分の右腕を押さえている。

 上柳の肉体から流れ出しているのは、オイルに似た黒い液体だった。 それは青白い閃光を散らして、地面に落ちる前に虚空に溶けていく。 上柳が身に着けた籠手は、彼の肉体を人間以外の何かに変えていたのだ。

 

「くそ……許さん……許さんぞ、貴様ら……!」

 

 古城たちの目前で、上柳が再び装輪装甲車に近づいた。 残っていた二台の装甲車を融合させて、彼は新たな傀儡(ゴーレム)を生み出した。 攻撃力を犠牲にして、防御を強化したのだろう。 古代の鎧竜に似た重装甲の爬虫類だ。

 オシアナス・ガールズの一人が対戦車ロケットを発射し、残る四人も、それぞれ対物ライフルや無反動砲を放つ。 どれもが並の魔獣なら一撃で仕留められる強力な武器だ。

 しかし上柳の鎧竜は、その攻撃を平然と受け止めた。

 

「あいつ……装甲車の頑丈さをそのまま引き継いでるってことか……」

 

「だろうな。 あの傀儡(ゴーレム)は、奴が“情報”を与え生み出した新たな生物だ」

 

 工業製品を生物へと変える魔具。 機械と生命の等価交換。

 それが聖殲派が使う銀黒色の武器──咎神の魔具の正体だ。 上柳の肉体が、人外のものへと変貌しつつあるのは、魔具を使った代償ということだ。

 このまま魔具を使い続ければ、彼は人ではいられなくなるはず──

 

「先輩」

 

「悠君」

 

 雪菜と凪沙は、槍と刀を構え古城と悠斗の隣に立った。

 雪菜の雪霞狼は、魔力を無効化するフィールドそのもの無効化する事ができ、凪沙が携える鋼の刀――いや、白虎を武器に具現化した刀だ。 なので、ただの刀ではない。 空間切断(・・・・)能力が付与されているのだ。――凪沙はこの短時間で、悠斗の切り札を模倣したのだ。 それにしても、凪沙の成長速度は目を見張るものがある。

 

 ――閑話休題。

 

 唯里は怪訝な表情を浮かべた。 四人が今から何をするかが理解できなかったのだ。

 

「姫柊?」

 

「凪沙?」

 

 古城と悠斗は、雪菜と凪沙と目を合わせた一瞬に、彼女たちの意図を悟っていた。

 巨大な鎧竜が旋回する隙をついて、二人同時に攻撃を仕掛ける。

 

「──雪霞狼!」

 

「――牙刀!」

 

 雪菜の槍が鎧竜の表面を覆う漆黒の薄膜を消滅させ、凪沙の刀が空間を切り裂く。

 ありとあらゆる結界を斬り裂く“雪霞狼”の神格振動波は、魔力を無効化するフィールドそのものをも無効化し、凪沙の刀は、六式降魔剣・改(ローゼンカヴァリエ・プラス)と同じ 空間切断の能力で魔力フィールドを切り裂く。

 

『なに!?』

 肉体の大半を鎧竜と融合させた上柳が、愕然して動きを止める。

 

疾く在れ(きやがれ)──双角の深緋(アルナスル・ミニウム)!」

 

「我の守護から解き放つ。――降臨せよ、妖姫の蒼氷(アルレシャ・グラキエス)

 

 上柳の目前に、眷獣が出現する。 陽炎にも似た濃密な大気の歪み。 暴風と振動そのものを実体化させた緋色の双角獣。

 悠斗の背から氷結の翼が消滅し目の前に現れたのは、氷河のように透き通る巨大な影だ。 上半身は人間の女性に似ており、下半身は魚の姿である。 背中には翼が生え、指先は猛禽のような鋭い鉤爪になっている。 氷の人魚、あるいは妖鳥(セイレーン)

 古城の戦意に共鳴して双角獣が吼え、悠斗の意思によって妖鳥が空気を震わせる。

 そして、妖姫の蒼氷(アルレシャ・グラキエス)の吹雪が鎧竜を凍らせ、凍らせた鎧竜を、超振動の蹄が鎧竜を粉砕する。 原形も留めぬ程の鎧竜は粉々に砕け散り、金属と融合した姿の上柳だけが地面に投げ出される。

 

「ぐ……魔族ごときに、このオレが……」

 

 オイルに似た液体を零しながら、上柳が憎々しげに古城たちを睨んだ。 半ば機械と融け合った彼の肉体は、身動きもままならない有様だ。 これ以上の戦闘は不可能だろう。

 古城はやれやれと首を振りながら、双角獣の召喚を解除しようとし、悠斗はこの光景を見て溜息を吐く。

 

「──先輩!」

 

「――悠君!」

 

 直後、雪菜と凪沙が鋭い声で警告した。

 雪菜たちが見つめていたのは、眷獣たちの頭上だ。

 銀黒色の翼を広げた飛龍が、眷獣たちを狙って急降下してくる。

 漆黒のオーロラを纏った飛龍の激突に、双角獣と妖鳥がよろめいたが、眷獣にダメージはない。 だが、魔力を無効化する黒いヴェールのせいで動きは封じられる。 飛龍の背中に跨がっているのは、唯里たちを襲っていた黒銀の魔法使いだ。

 

「(……ミスったな。 妖姫の蒼氷(アルレシャ・グラキエス)にはまだ、神力が循環してなかったか……)」

 

 妖姫の蒼氷(アルレシャ・グラキエス)とは、一時的とはいえ繋がり(リンク)が切れてしまったのだ。 なので、負の眷獣に戻っていた。という事だ。

 

「さっきのコスプレ女か!」

 

「まだだ、古城。 もう一体来るぞ」

 

 飛来した飛龍は二体いた。最初の飛龍が眷獣を抑えているうちに、地面スレスレを滑空してきたもう一体が、上柳の真横に着地する。 二体目の背中に乗っているのは、銀黒色の騎士鎧を纏った長身の男だ。

 

「安座真三佐!」

 

 黒銀の騎士を崇めるような姿勢で、上柳が歓喜の声を上げた。

 その言葉に古城と雪菜、唯里は衝撃を受ける。 安座真とは、唯里が口にした、自衛隊の指揮官の名前だったからだ。

 

「お前が黒幕か。――いや、咎神の騎士」

 

「如何にも、やはり、紅蓮の織天使には露見していたか」

 

「よく考えれば、誰でも辿り着く答えだぞ」

 

「ふむ。 以後それも踏まえて注意しよう。――やはり、君たちの相手はあの方たち(・・・・・)に任せるしかないか」

 

 あの方とは誰だ?と思い悠斗は眉を寄せたが、これだけの情報では結論に至る事はできなかった。

 騎士鎧で全身を覆った安座真は、上柳を無表情に見下ろした。

 

「増援感謝します、三佐! 自分に“情報”を、もっと強力な“情報”を──」

 

 上柳は、縋るよう安座真に手を伸ばす。

 

「グレンダの足止め、ご苦労だった、上柳二尉──」

 

 感情の籠らない平坦な声でそう言って、手に持っていた騎槍を上柳に向け、安座真は騎槍の先端を、無造作に上柳に突き入れた。

 

「え?」

 

 胸に突き刺さった騎槍を、上柳は間の抜けた表情で見下ろした。

 彼の全身が、光り輝く無数の光点に変わり、騎槍の中に吸い上げられていく。

 

「三……佐? なぜ……」

 

「不完全な君の魔具の力では、ここまでだ。 今、楽にしてやる──」

 

 安座真の言葉を最後まで聞くことなく、上柳の姿は消滅した。 彼らが言うところの“情報”へと変換されて、安座真の騎槍に喰われたのだ。

 

「あ……あ……」

 

 驚愕に声を失う古城たちの背後で、グレンダが声を上げた。

 

「ああああああああああああ────っ!」

 

「グレンダ!?」

 

 激しく取り乱すグレンダを、唯里が必死で落ち着かせようとする。

 古城たちも、慌てて彼女たちの方へ駆け寄った。

 

「落ち着け、グレンダ! いったいな何が────うおおおっ!?」

 

 古城は、グレンダの肩に手をかけようとした瞬間、凄まじい衝撃をを襲った。

 身に着けていたミリタリージャケットを引き裂いて、グレンダの肉体がいきなり何十倍もの質量へと膨れあがったのだ。 龍族化だ。

 

「せ、先輩!」

 

「掴まれ、姫柊!」

 

 グレンダの背中から振り落とされそうになった雪菜に、古城は必死で手を伸ばす。

 ほっそりとした雪菜の手首を握り締めた瞬間、強烈な加速が古城と雪菜を襲ってきた。

 魔力を帯びた巨大な翼が大きく羽ばたき、物理法則を無視した強烈な速度で、龍族化したグレンダが空へと舞い上がる。

 

「悠君! 早く妖姫の蒼氷(アルレシャ・グラキエス)と融合して、グレンダさん飛ぶよ!」

 

 凪沙は、紅蓮の翼を羽ばたかせる。

 

「ああ、了解した!」

 

 悠斗も融合の呪文を唱え、背に二対四枚の氷結の翼を展開させ、翼を羽ばたかせた。

 

「いやあああ──っ、グレンダの馬鹿ぁ──!」

 

 龍の前脚に握られた唯里が、半泣きになって絶叫している。

 叩きつけてくる暴風に息を詰まらせながら、古城は、遠ざかる地上を呆然と眺めていた――。




今回は、繋ぎ回ですね。
さて、安座真が言っていた、あの方とは誰の事なんでしょうか?その辺は、次回書こうと思ってます。
今回も、ご都合主義が満載ですが、ご了承を。てか、これからずっとだと思うが(-_-;)

ではでは、次回もよろしくです!!

追記。
戦闘も、四人を活躍させなければ。という事でお願いしますm(__)m

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