真GR(チェンジ!! ジャイアントロボ)~戯曲セルバンテス~   作:いぶりがっこ

1 / 5
第一話

 男がやってくる。

 焦げ付いた匂いの残る、砂だらけの乾いた風を蹴散らして。

 男が通り過ぎる。

 その身の孤独を、血の色のゴーグルの奥に隠して。

 男が去っていく。

 無常の大地に、ただ転々と、男の足跡だけが道程を刻む。

 

 その男は、一体どれ程の時間を、こうして歩み続けてきたのだろうか。

 

 何カ月?

 何年?

 あるいは、それ以上か。

 

 男が歩み続けた時間に対し、しかし、世界が報いる事はない。

 男の眼前に広がるのは、ただ真っ黒に塗潰された無人の荒野。

 森も、街も、人も、全てが燃え尽きてしまった世界。

 何もかもが手遅れであった、世界の残滓のみである。

 

 幾たびもの刻を超え、幾つもの世界を渡り歩き、幾度となく、男はこの光景を目にしてきた。

 多重世界(パラレルワールド)

 この地上のあらゆる可能性の数だけ存在し、決して互いに交わり合う事のない平行線。

 だが、それぞれに因果の異なるはずの数多の世界の終焉は、いつも決まってこの光景であった。

 

 日没と共に絶望の夜を過ごし、夜明けには「せめて、あと一日」と、再び杖をその手に取る。

 未練とも執念ともつかぬ想いのみによって重ねられてきた男の歩み。

 

 その道程が、今、ついに終わりを迎えつつあった……。

 

「ふぅ……」

 

 大きく一つ息をついて空を見上げ、砂ぼこりにまみれたゴーグルを外す。

 開けた視界に広がるのは、心の底まで滅入るような、いつもの薄汚れた空のみであった。

 

(こんな時くらい、あの雲がのけてくたらなぁ……)

 

 ぼんやりと、子供のような我儘を思いながら、大の字になって、どぅっ、とばかり倒れこむ。

 体を傷めたわけではない。

 疲労に音を上げたわけでもない。

 例え純白のスーツが煤の色に染まり、上等なアラビア風のマントがほつれて破れ果てようとも、誇り高き戦士である男の体が衰える事などありはしないのだ。

 

 衰えたのは彼の心だ。

 世界征服を策謀する悪の秘密結社・BF団。

 かつて彼が忠誠を誓った、頂上の能力者達が集う組織の中にあって尚、重なり合う世界を渡り歩く使命をこなせるだけの能力を有した者は、男一人だけであった。

 

 自らに課した苛烈な任務を、今ここで彼自身が放棄したとして、誰が責める事が出来よう。

 幾星霜もの時をかけ、無限の孤独に耐えながら重ねられた男の歩みは、結局、人類にはひと握りもの可能性が残されていない、と言う事を確認するだけの作業に過ぎなかったと言うのに。

 

 

(……雨)

 

 雨。

 

 雨。

 

 雨が降る。

 死んだ筈の大地に、男の長旅を労うように雨が降る。

 

(全てが燃え尽きた大地にも、雨は降る、か)

 

 口元を濡らした一滴が、風景の一部となりかけていた男に、僅かに人間らしい思考を蘇らせる。

 

(何もかもが燃え尽きた大地、一度は煮えてしまった海。

 だが未だ大気は澄み、地球上のサイクルは、何ら変わる事なく繰り返されている……)

 

 呆然と巡る思考の中、雨足はいよいよ強さを増し、額のゴーグルを激しく叩きはじめる。

 

(こうして何千年、何万年と、同じ営みが繰り返されたなら

 やがて、この世界にも再び生命が戻り……。

 そして、その時は……、今度こそ燃え尽きる事のない世界ができるのであろうか?)

 

とりとめの無い、無意味な思考が男の脳裏に浮かんでは消える。

 

 感傷である。

 男にとってはあるまじき、そして、戦士にとっては唾棄すべき感傷であった。

 

 

 ――故に、気付くのに遅れた。

 

 

「……おかしい」

 

 魂に急速に火が灯り、同時に、屈強な肉体が大地に跳ね上がる。

 

「いかに自然のバランスの崩れた世界とはいえ、雨足が早すぎる……」

 

 嚢中に湧き上がる仮説をまとめるかのように、男が呟く。

 確かに、全ての理が燃え尽きてしまったこの世界の気候に、かつての常識は通用しない。

 今日の叩きつけるようなスコールに見舞われた事も、一度や二度では無かった。

 

 だが果たして、これほどの嵐とあってはどうか?

 何の前触れもなく、男の体を刻まんばかりに顎を広げたこの烈風。

 これすらも、過酷な自然現象の一部と割り切れるものなのか?

 

 否。

 

 男の体が覚えていた。

 そして、男の本能は感じていた。

 吹きすさぶ暴風の彼方より伝わる明確な悪意。

 知っている。

 これは異常気象でもなければ天変地異でもない。

 

 これは、兵器である。

 

 左手で降り注ぐ雨粒を凌ぎながら、ゴーグル越しに地平の彼方を睨みつける。

 果たして視線の先、荒れ狂う二本の竜巻を連れ添うように、その悪意が形となって空を覆った。

 

「おお!」

 

 思わず嘆息が漏れる。

 UFO、或いは鋼鉄の深海魚と呼ぶべきか。

 巨大な中華鍋を上下に張り合わせたかのような円盤型のフォルム。

 その正面に、鼻のように突き出したセンサー。

 何らかの宗教的な意図すら感じられるアンテナに、機械の兵器らしからぬ瞳の紋様。

 よもや見紛う筈もない。

 それはかつての彼の同胞、草間博士が造り出した兵器のひとつ――。

 

「ウラエヌスの仕業か!?」

 

 驚嘆の声を上げる男を脇目に、漆黒の鉄塊【ウラエヌス】が宙を往く。

 嵐の中、竜巻を従えて悠然と進むその姿は、さながら深海の主の威容である。

 

「だが、どういう事だ?

 全て生命が燃え尽きたこの世界で、誰がアレを動かせるというのだ。

 ヤツは、ウラエヌスは誰と戦っていると? あるいは……」

 

 

【ピィイイイイィイィィイィン】

 

 

 男の詮索を遮るかのように、ウラエヌスが独特の金切り音を上げる。

 ぎりりと歯を喰いしばる男の眼前に、唸りを上げる竜巻の片割れがじりじりと迫っていた。

 

 「あるいはまだ、この世界は燃え尽きてはいないと言うのか!?」

 

 

『ドリルッ ハリケェーン!』

 

 荒れ狂う猛竜巻が男を呑み込まんとした、まさにその時、若者の雄叫びが天空に轟いた。

 驚く暇もない。

 間髪入れず烈風の大渦が横合いから吹き抜け、男の眼前の竜巻を呑み込みにかかる。

 竜巻 対 竜巻。

 相食む二頭の竜が絡み合い、そして相殺する。

 礫の一つが男のこめかみを掠め、目じりの脇に一筋の紅い線を引く。

 

「これは……」

 

 呆然と男が呟き、上空を見上げる。

 そこには鋼鉄の螺旋を右手に描き、彗星の如き速度でウラエヌスへと迫る悪魔の姿があった。

 

 そう、悪魔、だ。

 男の背中がぞくりと泡立ち、凄まじき闘争の記憶が鮮やかにフラッシュバックする。

 あれはかつて、世界を燃やし尽くした悪魔の兄弟。

 天空を統べる黄金の巨人。

 

「まさかッ! GR3か!?」

 

『目だアァ――ッ!!』

 

 驚愕と咆哮の声が同時に轟き、巨人のドリルがウラエヌスの左目に深々と突き刺さる。

 

【ピィイイイ―】

 

『悪足掻きを、喰らえ、ドリルヘッド!』

 

 滅茶苦茶に暴れ始めたウラエヌスに対し、巨人は右のドリルを突っ込んだまま、左脇で対手の「鼻」をガシリと抱え込み、頭部に生えた大きな角を新たに突き立てた。

 たちまち角は螺旋を描き、ウラエヌスの強固な装甲を穿ち始める。

 

「なんだ……? 何と言う戦い方をする」

 

 吐き捨てるように男が呟く。

 GRシリーズの中でも造形美に秀でた細身のボディ。

 かつてはそこに、ある種の気品すら感じさせていたGR3。

 そんな優雅な外見とはかけ離れた醜悪なる戦法に、思わず顔が引き吊る。

 

「……だが、それでも似ている。

 武装やサイズは異なるが、やはり、あれはGR3」

 

 ぐっ、と男が一つ喉を鳴らす。

 GRシリーズ。

 それはかつての同胞、草間博士が最高傑作の一つ。

 地上を焼き尽くすほどの力を有した鋼鉄の巨神と、それを守護する兄弟たちの総称である。

 

 だが、GR3が草間博士の賜物ならば、相対するウラエヌスもまた草間ナンバー。

 どうにも振り切れぬ対手に痺れを切らし、まるで癇癪を起した子供のように、自らが生み出した猛竜巻へと遮二無二突っ込む。

 

「ム……、いかんな。

 アレでは翼が使えぬ」

 

 竜巻と鉄塊。

 質量と暴風に挟まれ、サンドイッチとなったGR3が、ミリミリと哭く。

 いかにGRナンバー中、最も飛行能力に長けたGR3と言えども、あの巨体である。

 出鼻を猛竜巻に抑えられた現状では逃れる術がない。

 そして、このまま我慢比べが続いたならば、恐らく先に音を上げるのは、コンセプトの段階で装甲を犠牲にしているGR3の方だろう。

 

(どうする? この場はこのまま、事態を静観しておくべきか……)

 

 目まぐるしく変わる状況に対し、男が思考を回転させる。

 眼前で死闘を繰り広げているのは、共にかつての同胞である、BF団のロボットである。

 一体いかなる事情で、かかる事態に陥ったのか、判断する材料は皆無に等しい。

 どちらを助成するべきなのか。

 選択を誤れば、ようやく見つけた未来の可能性を、自ら摘み取りかねない状況であった。

 

 ただ一つ、両者分ける要素があるとすれば、GR3の内部より発せられた「声」であろう。

 加えてGR3のとった戦法は、見ようによっては竜巻から男を守るかのようであった。

 その後、ウラエヌスを相手に見せた我武者羅な戦法もまた、傍目には極めて「人間臭い」戦い方であるように思えた。

 

「やはり……、助けるべきはGRだ」

 

 グッと両の手を力強く握りしめ、ゴーグルの奥にギラついた輝きを宿らせる。

 かつて悪鬼天魔とまで謳われた【十傑集】に名を連ねる男が見せる、本気の表情である。

 その鋭い眼光の前では、ウラエヌスの堅牢なる鋼鉄の装甲も、ゆうに十倍を超す対格差も、搭載された諸々の兵器群すらも、物の数ではない。

 

 独特の呼気を響かせ、ゆっくりと、男が肺腑に満ちた酸素を吹き放つ。

 その動作に合わせたかのように、男の周囲の空間が揺らぎ、迫りくる暴風雨が眼前で真っ二つに割れ……。

 

 ――と。

 

「あのロボになら加勢は無用ですよ、十傑集【幻惑のセルバンテス】殿」

「何?」

 

 まさに攻撃に移らんとした刹那、絶妙なタイミングで傍らから声をかけられた。

 高まった気勢が殺がれ、雲散する。

 反射的に振り返った先にいたのは、スーツ姿の細身の男であった。

 懐かしい顔に、思わず戸惑いがこぼれる。

 

「君は……」

 

「しばし、高みの見物と洒落こんでもらって結構。

 面白いもの見られるのは、これからですよ」

 

 

『チィッ! 一筋縄じゃいかないようだな』

 

『チェンジしろ、隼人!

 こう言う一つ覚えのパワー馬鹿相手には……』

 

『ハイ!ハイ!ハーイッ! おれだ、おれ!!

 ここは俺の出番だぜぇ! お二人さん!』

 

荒れ狂う猛竜巻に軋むコックピットの中、突如割り込んできた、緊張感のカケラもない通信に、拍子抜けしたGR3パイロット・神隼人が、思わず自嘲の笑みを浮かべる。

 

『フン、馬鹿には馬鹿か……。

 いいだろう、やってみろムサシ! オープゥンッ』

 

威勢の良い掛け声と共にレバーが倒され、一転、防戦一方だったGR3が驚異的な変化を遂げる。

竜巻相手に丸め込まれていたその姿が、一瞬、縮こまったかに見えた刹那、鋼鉄の巨体は三台の戦闘機へと分離して、吹きすさぶ暴風を却って利用する形で、一気に天空へと舞い上がった。

 

「なんと! GR3が、変形しただと!?」

 

「そう、あれこそが新たなるGRナンバーの形。

 そして、水と風を武器とするBFロボ・ウラエヌスが相手ならば……」

 

 GR3の性能からは想像もしなかった仰天動地の脱出法に、セルバンテスが驚愕の声をあげる。

 だが、それにも増して彼を驚かせたのは、その後、三台機がとった行動であった。

  

『へへっ、待ーってました!

 チェンジッ!GR――2!!』

 

 豪快なる叫び声と共に、三台の戦闘機が一直線に駆け上がり……。

 そして、空中でド派手にクラッシュしたではないか!

 

「なッ!?」

 

 驚く間もない。

 超高速のドッキングで三機が鋼鉄のミンチになったかと思われた刹那、鉄塊より武骨な手足がズドンと飛び出し、その全身が青黒く変色していく。

 ニョキリと生えた巌のような顔面に、特徴的な三日月の刃がジャキリと展開する。

 

 知っている、その無骨な面立ちは、GR3と同じ悪魔の守護者、GR2。

 

「馬鹿なッ、GR、2、だと?」

 

「その通り!

 元々、異なる状況での戦いを想定し設計されていた3台のロボ。

 そのコンセプトを、金属の分裂、変形による分離合体で再現し、臨機応変に使い分ける。

 それこそが、ゲッター線のもたらした【真・GR計画】なのです」

 

「ゲッター、線……?」

 

 スーツ姿の男の突拍子の無い言葉に、セルバンテスが眉をひそめる。

 知っている。

 その言葉は、()()()()()燃え尽きる前の世界において、耳にした記憶があった。

 

 気宇ばかり壮大で、一向に実用化の向きをみない、理屈倒れの次世代エネルギーとして。

 

【ピィイイイイィイィィイィン】

 

 束の間の思考の世界を突き破り、小癪な敵を仕掛けんと、ウラエヌスが竜巻をけしかける。

 確かにこの荒れ狂う風は、空戦に特化したGR3には有効な戦法であっただろう。

 だが今、ウラエヌスの眼前にいるのは、海中戦を想定し、超深海層での運用にすら耐え得る重装甲を有したGR2である。

 

『ワッハッハ!

 ムダムダ、そんなチンケな竜巻じゃあ、このGR最強の男には通じやせんのよ!』

 

 2号機パイロット・巴武蔵の威勢のいい啖呵を響かせつつ、ズン、とGR2が大地を揺らす。

 迫りくる竜巻を真っ向から掻き分け、その視界にウラエヌスの機影を捉えるや、両の豪腕をすっくと突き出す。

 

『うりゃあぁ――っ!

 行け!ダブルロケットパァーンチィ!!』

 

 絶叫と共にGR2の瞳が瞬き、ズバン! と両手が射出される。

 スーパーロボットの代名詞、堅牢な要塞すら容赦無くブチ砕くであろう、圧倒的な速度と質量。

 

 だが今回、それを両腕共にの撃ち出したのは、いささかに博打が過ぎた。

 

【ピィイイイイィイィィイィン】

 

 迫りくる鉄拳に対し、ウラエヌスが再び烈風を巻き起こす。

 たちどころに展開した風の障壁が、その軌道を、横凪に左右へと逸らす。

 目標を失った両の腕が、勢いのままに虚空の彼方へと消え去っていく。

 

『……へっ? う、うわあぁーっ!?』

 

 呆然と立ち尽くGR2めがけ、たちまちありったけの水弾が浴びせられる。

 両腕と言うウエイトを失った鋼鉄の巨人が、猛烈な反撃の前に成す術もなく転倒する。

 何とか体勢を立て直そうというGR3の眼前に、後続の水弾が矢継ぎ早に降り注ぐ。

 

『クソッ、このお調子モンが』

 

『バカッ!バカ! 何やってやがる! もういい、代われ、ムサシ!』

 

『ま、待てっ、待てって竜馬! GR2の本気はこれからだ……よっ、と!』

 

 武蔵の掛け声と同時に、ガギョン、という一際大きな音が響き渡り、巨大な掌がウラエヌスを挟み撃ちにする。

いつの間にか、武蔵は両椀を大きく旋回させ、ウラエヌスの両脇を抑えていたのだ。

 

『ドリャアァアァァ! 大雪山・おろしイイィイィィィッ!!』

 ロケットが火を噴く! 

 武蔵の絶叫が再び轟き、ウラエヌスを掴む両椀が、狂ったかのように猛旋回を開始する。

 バランスを崩したウラエヌスが、自ら作った暴風の中へと飛び込み、制御不能となって巻き上げられていく。

 

『よしッ! 今度こそ行くぜ、オープゥン、ゲェーット!』

 

 チームリーダー、流竜馬の叫びが轟き、ロボは再び三台の戦闘機に。

 瞬く間に音速の世界を超えてウラエヌスの背後へと回り込む。

 

『チェーンジッ GR……1ッ!』

 

 勢いのままにレバーが倒され、戦闘機が流れるような動きでドッキングする。

 鮮やかな魔術のように中空で機体が姿を変えていく。

 鈍い銀色の輝きを放つ装甲。

 背中に負った二門のロケットブースター。

 古のファラオのような風格を漂わせる瞳。

 

 そして――!

 

 

【 ガ オ ォ オ オ ォ ォ ン ! 】

 

 

「……ジャイアント、ロボ」

 

 そして、セルバンテスは再び聞いた。

 かつて世界の終わりを告げた、鋼鉄の悪魔の咆哮を……。

 

 

『うおおぉォ――ッ! ブチのめせ、ロボッ!

 ジャイアントロボの本当の恐ろしさを味あわせてやれ!』

 

 裂帛の気合を込め、竜馬が操縦桿を握り締める。

 あたかもそうする事が、愛機に無限のエネルギーを与えるかのように。

 

 主の意思をくみ取るかの如く、GR1の装甲が異変をみせる。

 胸元からこぼれた淡い輝きが、徐々に力強い光となって、両肩、肘先を通過する。

 閃光放つ両の掌がバチバチと帯電し、強大なオーラが光球の形をとって膨らみだす。

 

 その光景を目にした途端、セルバンテスの全身が総毛だった。

 知っていたる。

 その輝きが、何を意味する物であるのかを。

 

「イ、イカン!? それを使ってはならん」

 

 

『ストナアァ……』

 

 

 セルバンテスの叫びは届かない。

 既にGR1はウラエヌス目がけ、光球の投擲体勢へと移っていた。

 

「やめるんだッ! それを使っては――」

 

「大丈夫ですよ、セルバンテス殿。

 あの光球は、世界を燃やし尽くすための力ではありません」

 

「何だと?」

 

「御覧なさい」

 

 

【ピィイイイイィイィィイィン!!】

 

 

 おぞましいばかりのエネルギーの潮流から逃れようと、ウラエヌスが出力を上げ 、ありったけの暴風を解き放つ。

 だが、竜巻は閃光の前で力を失い、GRを掠める事もなく消え失せて行く。

 

 その輝きは絶望の光。

 あらゆる物質のエネルギーを奪い、己が輝きへと変える最凶の兵器――。

 

【アンチ・エネルギー・システム】の光の輝き。

 

「……ですが、あの光が地上を焼き尽くしたのは、今や40年以上も昔の事。

 あの時、燃え尽きかけた世界を救ったゲッター線が、光球の制御法を教えてくれたのです」

 

 

『――サァン、シャァイィィーンッ』

 

 

 スーツの男の言葉に呼応するかのように、遂に光球が放たれる。

 薄緑のコロナを纏った小型の太陽が、たちまちウラエヌスの全身を包み込む。

 

「あの光球を覆う緑色のオーロラ。

 あれこそがゲッターエネルギーの障壁です。

 光球はあの障壁の外に溢れること無く、内部に捕われた敵のみを焼き尽くします」

 

「だが、光球がウラエヌスのエネルギーを吸い尽くせば、次はゲッター線を呑み込むであろう。

 そうしたアンチエネルギーの力は連鎖反応を生み、やがて、未曾有の消滅を引き起こすのではないのか?」

 

「ところが、そうはならないのです。

 何故ならばこの地上おいて、あのゲッター線のみが、アンチ・エネルギーに対抗出来る唯一無二のエネルギーなのです。

 理論は未だ不明ですが、ゲッターの輝きは、あの光球に侵されざる神秘を宿しています。

 故に二つのエネルギーは吸収しあう事なく相殺し、やがて、虚空へと拡散します」

 

「なんと……」

 

【ピイィ……】

 

男の説明が終わるのに合わせたかのように、エネルギーを失ったウラエヌスが、塵芥と化して大地に沈む。

程なく、白色の閃光が周囲を染め上げ、後には静寂のみが残った。

 

 

「あらためて紹介しましょう、セルバンテス殿

 彼らが、現在のGRを動かしている、GRチームの三人です」

 

「この子達が……」

 

 流竜馬、神隼人、巴武蔵――。

 真正面から向き合った少年達の若さに、セルバンテスが驚きの声を漏らす。

 

 一人は空手着の上から学生服を羽織った、燃えるような瞳の少年。

 一人は長髪をたなびかせ、冷めた表情の中に一抹の危うさを感じさせる長身。

 そして一人は、工事用ヘルメットに赤胴というありあわせの防具をまとった、愛嬌のある太っちょ。

 

 生気が漲っていた。

 いずれもこの、草の根一本育たぬ大地で生き抜いてきた強かさを、全身で感じさせる少年達。

 かつてのジャイアントロボの操縦者であった少年とのギャップに、思わず苦笑する。

 

 もっとも、少年達から言わせるならば、この無常の荒野に突然現れた、アラビア貴族風のスーツ姿の男の方が、よっぽど胡散臭い存在であったのは間違いない。

 やがて痺れを切らしたかのように、竜馬が口を開いた。

 

「なあ、軍師さんよォ

 本当にこの怪しいオッサンが、アンタの探していた【救世主】だって言うのか?」

 

「救世主? 私が、かね?」

 

 少年の思わぬ言葉に、セルバンテスがスーツの男を見やる。

 一方、竜馬から軍師と呼ばれた、その男はと言えば、涼しい顔で煙管をくゆらせている。

 

「ええ、間違いありませんよ、流君。

 少なくとも、このままあの【神の軍団】と、不毛な戦いを続けるよりは

 よっぽど勝算を持った男ですよ、彼は」

 

「――今一つ話が見えて来ないのだが、その、神の軍団とは」

 

「無駄話はそのくらいにしておいた方がいい」

 

 セルバンテスの言葉を遮り、ぶっきらぼうに隼人が言い放つ。

 程なく、地平の彼方より、大地を揺さぶる地響きが聞こえてきた。

 

「クソッあんにゃろうども、もう来やがったのか!」

 

「三人は急いで撤退の準備を、ゲットマシンで浅間山に帰還します」

 

 男の指示を受け、三人が慣れた動きでGRへと乗り込む。

 直ちに周囲に慌ただしい空気が満ちる。

 

「……一体、何が来るというのかね?」

 

「我々の『敵』ですよ。

 セルバンテス殿、よくご覧になっておいて下さい」

 

 男に促され、セルバンテスが地平を睨み据える。

 大地を埋め尽くし蠢く黒色の群れ、その正体を理解した瞬間、セルバンテスに戦慄が走った。

 

「うっ!?」

 

 西の大地を駆けるは、灼熱の太陽の如き力を秘めた人頭獅子、BFロボ【スフィンクス】百頭。

 

 東の大地に漂うのは、雷を操るまつろわぬ神の化身、BFロボ【シン】百体。

 

 北の大地より迫るは、天文を統べ、万物を凍らせる巨大顔面、BFロボ【ウラヌス】百機。

 

 さらにその奥、日食すら想起させるひたすらに大きな黒い塊、BFロボ【大壊級・ラー】。

 

 そして、大壊球の上に神体の如く鎮座するは、かつての【GR計画】の要石。

 BF団最強の兵器。

 

 神体ガイアー。

 

 ジャイアントロボと共に、地上の全てを燃やし尽くした災厄の象徴……。

 

「ガイアーだとッ! バカな!?

 ジャイアントロボと共に機能を停止したハズではないのか?」

 

「あれが【神の軍団】です。

 地球が燃え尽きたあの日から四十年余り……。

 ここまで生き延びてきた人類を、再び滅ぼさんとしているのですよ。

 我々がようやく地下から抜け出した、ここ一年ほど前から、ね」

 

「……!」

 

 セルバンテスの呻きは、もはや言葉にならない。

 地球が燃え尽きたあの日に、共に消滅した筈のBF団とBFロボ。

 かつての同胞たちが、よもや過去の亡霊と化して、運命の輪から逃れつつあった世界を呪い殺さんとしていようとは。

 忠実なるBF団の戦士たる彼にとって、我が目を疑うような事態であった。

 

「――さあ、今はこの場を離れましょう

 まずはあなたに、もっとこの世界の事を知っていただかなければ」

 

「……分かった、ひとまずは、君たちの指示に従うとしよう。 

 ああ、ところで」

 

 と、そこで一つ言葉を切ると、セルバンテスは、ややとぼけた調子で再び口を開いた。

 

「……こちらの世界でも君の事は【白昼の残月】君と呼べばよいのかな?」

 

「私の名前など、好きなようにお呼びくだされば結構ですよ、幻惑のセルバンテス殿」

 

 セルバンテスの問い掛けに対し、その、スーツ姿の男……、

 中国王朝風の帽子を被り、包帯を覆面のように巻きつけた、極めて胡散臭いスーツ姿のその男は、不敵な笑みを浮かべてそれに応じた……。

 

 

 




 第一話をお読みいただきありがとうございます。

 本作はご覧のとおり、GR=ゲッターロボ=ジャイアントロボ。
 つまりジャイアントロボにオープンゲットさせりゃ良いのか、と言うネタから始まったクロスSSです。
 陸・海・空と、それぞれに同じ役割を持つ両シリーズですが、ナンバーごとの割り振りが違うため、二号機に武蔵、三号機に隼人をあてがっております。
 下に覚書を置いておきますので、何かの参考にどうぞ。

・GR1(パイロット:流竜馬)
 陸戦型、ファラオ顔の主人公機。
 燃え尽きる日ベースなので、ミサイル、バズーカは無し。
 物騒なアンチ・エネルギーへの対抗策にゲッター線を用いた、危険極まりない複合炉心が売り。
 格闘が得意な砲戦機。

・GR2(パイロット:巴武蔵)
 水中戦型、戸田先生をして「完璧なデザイン」と言わしめた三日月が自慢。
 陸上で特に弱いわけでもなく、頑丈だが機動力がないと言う訳でもない。
 男のロマン、ロケットパンチもある、強い。

・GR3(パイロット:神隼人)
 空戦型、三機の中で一番線が細い。
 GR1にドリルが似合わない等の理由から、こちらが隼人用に。
 ゲッター翔とかネオゲッターとか、そんな感じ。






  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。