真GR(チェンジ!! ジャイアントロボ)~戯曲セルバンテス~   作:いぶりがっこ

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第三話

 ――会議は踊る、されど進まず。

 

 夕刻より始められた作戦会議は難航し、今や日付が変わる時刻に至ろうとしていたが

 それでも一同は、かの『神の軍団』に対する有効な措置を見出せずにいた。

 居合わせた者達が無能だった訳でも無ければ、複雑な陰謀を巡らせていた訳でもない。

 ただ、ガイアーと謎のロボット軍団に対する情報が、圧倒的に不足していただけである。

 

 ともあれ、五時間近い会議による収穫は、これまでの戦いによって得られた

 以下の三項目の情報の確認のみであった。

 

 ①敵のBFロボは、未解明の手段によってその数を補充している。

 ②現在の敵ロボットの総数は、およそ三百体である。

 ③敵は何らかの手段でゲッター線を探知し、追尾するように行動している。

 

 資料に目を通したセルバンテスが顔を上げ、正面の早乙女へと問いかける?

 

「……博士、この、敵がゲッター線を探知している、と言うのは?」

 

「これまでの戦闘記録より推測した仮説じゃよ。

 だが、おそらく間違いは無いかと思う。

 何せこれまで、GRが単機でヤツらと渡り合えたのは、ゲッター線照射による誘導で各個撃破に徹してきたためなのじゃからな」

 

「ですが、今度ばかりは同じ手は使えません」

 

 ふう、と長く煙管の煙を吐き出し、残月が早乙女の説明を引き継ぐ。

 

「地球が燃え尽きたあの日より、宇宙より降り注ぐゲッター線は、分厚い黒雲によって大半が阻まれ、その照射量は、いまや、かつての十分の一程度にまで激減してしまいました。

 これまでは四十年分のエネルギーの蓄えで、何とか渡り合ってこれましたが、おそらくGRが全力で戦えるのは、せいぜい後、二、三回と言った所ではないでしょうか?」

 

「…………」

 

 残月の推測を受け、室内に重い沈黙が溢れる。

 だが、既に敵は数日中には浅間山に迫ろうと言う距離まで近づいているのだ。

 このまま黙りこくっているわけにもいかない。

 

「やはり、目標をガイアーに絞るべきではないかな?」

「……うむ」

 

 セルバンテスの提案に、曖昧な口ぶりで早乙女が応じる。

 セルバンテスの言葉は、ガイアーさえ倒せば一連の侵略は終わるかもしれないと言う、何とは無しの希望的観測に基づくものである。

 一科学者としては、根拠の無い可能性に人類の命運を賭けるのは躊躇われるのであろう。

 その一方で、()()神体ガイアーならば、という理屈抜きの畏怖を、BFロボの傑物が持ち合わせているのもまた、事実であった。

 しばし間を置いて、やがて早乙女が溜息とともに心嘆を吐き出した。

 

「……もはや、その可能性に賭けるしかないじゃろうな。

 元より今の研究所に、ガイアーとBFロボの軍団を同時に相手にする力は無い」

 

「問題は、どうやってあのガイアーを攻略するか、ですか?」

 

 残月の言葉に、再び室内がシン、と静まり返る。

 総勢三百もの敵より、大将のみを引きずり出す、それだけでも相当な困難が予想される。

 ましてや相手は、かつて世界を燃やし尽くした怪物の片割れである。

 うまく一対一の場面を作り出せたとして、エネルギーに不安のあるGRで、どこまで太刀打ち出来るものなのか。

 状況は、限りなく絶望的であった。

 

 どれ程の時間がたったであろうか?

 やがて早乙女が、重い口をゆっくりと開いた。

 

「……この研究所の灯を、落そうと思う」

 

 早乙女の沈痛な言葉に、室内のそこかしこより一斉にざわめきが溢れる。

 その周囲の態度を見て、セルバンテスも早乙女の意図を即座に理解した。

 研究所の灯……、つまりは施設の動力源であるシズマ・ドライブのエネルギーを、丸ごとGR1の光球へと注ぎこんで、ガイアーにぶつけようと言うのだ。

 

 自滅行為である。

 アンチ・エネルギーシステムを起動したが最後、シズマ管は内在する全エネルギーを吸収され、おそらくは二度と再利用する事は叶わないだろう。

 それは同時に、研究所に住まう全人類のライフラインを断つ事を意味している。

 

「早乙女博士……、それではあまりに、あまりにも代償が大き過ぎる……!」

 

「わかっておる!

 じゃがな、ここであの【神の軍団】に敗れれば、人類はどうなる?」

 

 早乙女が語気を強め、セルバンテス、いや、狼狽を見せる室内の所員全員へと断言する。

 

「たとえここで一たび文明を失い、多くの人間が飢えと寒さに倒れる事になろうとも……。

 それで人類と言う種を、わずかでも後世に残す事が出来たならば、全てはそれでいい」

 

「……博士」

 

 早乙女の覚悟の前に、セルバンテスは沈黙せざるを得なかった。

 元より、滅亡の未来に一粒ばかりの希望を求め、無常の荒野をさすらい続けた彼である。

 燃え尽きた世界に残る、早乙女研究所と言うちっぽけな灯りの中に生きる救いを見出した彼には、早乙女の決意を止める事は出来なかった。

 

(……だが)

 

「――無駄ですよ、おそらくその手は、あのガイアーには通用しません」

「なんじゃとッ!?」

 

 淡々とした残月の台詞に、早乙女がギョロリと鋭い眼差しを向ける。

 だが、当の残月は何ら怖じること無く、瓢々と煙管をくゆらせる。

 

「セルバンテス殿、いくつもの世界でジャイアントロボとガイアーの戦いを追い続けていたあなたになら、この戦いの結末が予測できるのではないですか?」

 

 渋々ながらセルバンテスが頷き、答える。

 

「……敵は、かつてジャイアントロボと相対し、世界を丸ごと燃やし尽くすほどのエネルギーを浴びながら、尚も機能を停止する事の無かったガイアーだ。

 おそらくは、現在の早乙女研究所の全エネルギーを注ぎ込んだとしても、アレを止める事は叶わないでしょう」

 

「だが……、だとしても、他にどんな手があるッ!?」

 

 ダンッ、と拳を打ちつけられ、長机が鈍い音をたてる。

 たちまち周囲が水を打ったように静まり返り、静寂が時間を支配する。

 

 どれくらいの時が流れたのか、やがて、おもむろに残月が口を開いた。

 

「手はありますよ、早乙女博士。

 私はただ、博打を打つにしても、もっと勝てる目に張るべきだ、と言っているのです」

 

「……何?」

 

 残月の思わせぶりな口調に、早乙女がはっと顔を上げる。

 残月はそこで一端言葉を切ると、じっ、とセルバンテスに視線を向けた。

 

「私があなたの事を、救世主と呼んだ事を覚えていますか【幻惑のセルバンテス】殿?

 この浅間山で玉砕覚悟の戦いを挑むより、ずっと有効な一手が、あなたの力ならば打てるのではないですか?」

 

「――ッ!? バカな!」

 

 珍しく狼狽の色を見せたセルバンテスに、一同の視線が集まる。

 だが、セルバンテスは周囲の目も介せず、今にも掴みかからん勢いで残月へと詰め寄った。

 

「残月……!

 まさか、あの戦いにGRチームを、竜馬君達を巻き込めと……?

 君は自分が何を言っているのか分かっているのか!?」

 

「ですが、それこそが今の我々に出来る最善の選択でしょう?

 少なくとも、この研究所をまるごと放棄するよりは犠牲が少なくて済む」

 

「私は反対だ! 我々に一体何の資格があって、彼らを犠牲に出来るというのだ!?」

 

 セルバンテスの怒声を震わせ、一触即発といったような緊張感が場を支配する。

 だが、爆発寸前の空気は、直後に開け放たれたドアと共に室外へと掻き消えた。

 

「俺達は一向に構わないぜ! バンテスのおっさん」

 

「――! 竜馬くん」

 

 思わぬ来訪者に、セルバンテスの声が力なくしぼむ。

 一方、竜馬の瞳は力に満ち、まっすぐにセルバンテスを捉えていた。

 

「あの化物どもをブッ壊す手があるって言うんなら、迷わず使えよ!

 俺達だって、そう簡単に潰れやしないさ。

 そうだろ? 隼人、武蔵!」

 

 持ち前の向こうっ気の強さで、竜馬が輩へと呼びかける。

 

「フッ、早乙女研究所一つと俺達三人……、

 どっちを切った方が得かなんて、引き算の問題にもなりゃしないぜ」

 

 ニヒルに毒を吐きつつも、隼人が自信に満ち溢れた瞳を向ける。

 

「ダハハ、愛しのGR2と心中なんて、嬉しくて涙出そうだよ、俺」

 

 威勢良く武蔵がおどけて見せるが。

 そこは流石にひょうげ過ぎたか、乾いた笑いが室内を通過する。

 

「おっさんよォ、犠牲だの資格だの、あんたが何を恐れているのか、俺には分からねぇ……」

 

「…………」

 

「けどなァ、ここは早乙女研究所で、俺達のシマだ!

 シマを守るのは俺達自身でやる。

 ヤツらをブチのめすためなら、何だってやってやるさ!

 それであんたが抱え込まなきゃならねえものなんざ、何一つあるもんかよ?」

 

 ジッと、若者達の眼差しを見渡す。

 三者三様、大きく個性の異なる彼らの、しかし、その瞳の根底にあるのは同じ色。

 いくつもの世界で、あの少年が最期に見せたものと同じ輝きをしていた。

 

(結局、この世界でも私は、彼らを止める事は出来ないのか……)

 

 未練と諦観を溜息と共に吐き出し、セルバンテスがゆっくりと立ち上がる。

 

「……どうやら、私の方が間違っていたようだな、竜馬君」

 

「おっさん!」

 

 竜馬の二の句を片手で制し、額のゴーグルをかけ直す。

 戦士の瞳であった。

 その淀みない動きから、セルバンテスの迷いは完全に払拭されていた。

 

「今から大陸に渡る。

 残月君、サポートを頼めるかね?」

 

「ええ、もちろん」

 

 セルバンテスの言葉を予期していたかのように、残月がすっくと立ち上がる。

 

「早乙女博士、我々はこれより、ガイアー攻略のための準備に移ります。

 詳細は追って、無線にて連絡いたします」

 

「うむ……、ええじゃろう。

 どの道この場は、君達に人類の命運を託すしかあるまい」

 

「ちょ、ちょっと待てよ、おっさん!」

 

 二の句も告げずに部屋を出ようとしたセルバンテス達を、慌てて竜馬が引き止める。

 

「ガイアー攻略の準備って、この世界は一面が焼け野原何だぜ。

 どこで戦おうと同じ事なんじゃないのか?

 大陸に……、そこに一体何があるって言うんだよ?」

 

 竜馬の問いを受け、セルバンテスはもったいつけるかのようにゆっくりと振り向くと、口許に不敵な笑みを浮かべて呟いた。

 

「ふふ……、すばらしい事だよ、竜馬君」

 

 

 ――二日後、AM10:30 旧佐渡島・金北山跡

 

 時に多くの貴人の配流先として、時に北前船の文化交流点として、また、時に莫大な金の産出で徳川幕府の懐を支えた離島の名残は、既に無い。

 そこにあるのは、僅かばかりに焼け残った荒涼とした大地に、来訪者を拒むように逆巻く海。

 そして、決戦の時を今や遅しと待ち望む、鋼鉄の巨人の姿のみであった……。

 

『諸君、作戦の全容をもう一度確認しておこう』

 

 コックピットの内部に、ノイズ混じりの早乙女の声が届く。

 GRに乗り込んで以来、心のどこかで待ち望んですらいた決戦の刻……。

 我知らず、操縦桿を握る竜馬の拳に力がこもる。

 

『【神の軍団】は既に昨夜、東北地方を席捲し、現在も時速100kmで南下を続けておる。

 浅間山近郊に到達するまで、およそ三十分と言ったところじゃ。

 そこで、君達にはGRを使い、ヤツらを引き付けてもらう』

 

「敵の習性を逆手に取り、高濃度のゲッター線を拡散して、ガイアーを誘導する、ですね?」

 

 隼人の言葉に、早乙女が静かに頷く。

 

『その通り、目的地は中国大陸・旧山東省近郊。

 そこでは軍師殿たちが、ガイアー打倒のための手筈を整えておるはずじゃ』

 

「まったく、あのおっさん達の秘密主義にゃあイヤになるよ。

 何をするか教えといてくれたっていいのに」

 

「へっ、どの道やるっきゃねぇんだからよ

 後はもう、ついてからのお楽しみって事さ」

 

 呆れ顔の武蔵に対して、ハイキングにでも出かけるような気軽さで、竜馬が応える。

 この底抜けの陽性もまた、若きチームを死線で支え続けた武器であった。

 

 

『――敵BFロボの一団・カメラに捉えました!』

 

 

 オペレーターの緊張した声に、三人が軽口を止める。

 

『よし、作戦開始じゃ。

 リョウ、ゲッター線照射のタイミングを、こちらのカウントダウンに合わせるんじゃ』

 

「了解、始めるぜ、GR1」

 

 オォン、と竜馬の声に合わせGRが小さく嘶き、諸手を開いて上空を仰ぎ見る。

 

『カウント開始します……、10、9、8――』

 

 カウントダウンに合わせながら、竜馬が手元のレバーを徐々に倒す。

 ブウウゥゥゥンと言う小さな起動音が反響し、コックピットに昂揚感が溢れだす。

 

『――5、4、3、2、1……』

 

 

「ゲッタアァァ――ッ ビイィィ――ムッ!!」

 

 

 刹那、吐き出された咆哮と激情に呼応して、GR1の大口がガバリと開き、薄緑に輝く閃光の渦が撃ち放たれ、ブ厚い黒雲を突き抜け天空へと一直線に駆け昇る。

 

 しばしの静寂。

 上空に空いたドーナッツの輪より晴天が覗き、GRの上へと降り注ぐ。

  

『――! 敵機ガイアー、進路を北西へと変更』

 

「よしッ! 行くぜ、隼人」

 

「ああ……、チェンジッ! GR3!」

 

 オペレーターの報告を聞くや否や、たちまちGR1は分解しゲットマシンへと転ずる。

 三台は上空へと旋回し、流れるような動きでスマートなロボットへと変じた……が、

 

「……ッ!」

 

 どうした事か、GR3は直後、空中で見えない壁にぶつかったかのように静止し、

 つんのめる形で大地へと降り立った。

 

「どうした!? 隼人」

「いかん、竜馬! 作戦失敗だッ!」

 

 隼人の声を受け、竜馬が反射的にレーダーを見る。

 瞬間、彼も事態を悟り、肌を泡立たせた。

 

「どう言う事だ? 敵が……、進路を変えてねぇだと!?」

 

「前線のBFロボ軍団と、ガイアーの距離が離れすぎていたんだ。

 ゲッター線に反応したのはガイアーだけだ!

 残りの三百は、まっすぐ研究所に向かってやがる」

 

 言いながら、隼人が素早い判断で機体を反転させる。

 

「この場は作戦中止だ、ひとまずは、早乙女研究所防衛に……」

 

『――いや、作戦は問題なく進んでおる』

 

「は、ハカセ……?」

 

 すかさず飛び立とうとするGRの動きを静止し、早乙女が動じた風も無く言い放つ。

 

『全てはセルバンテス君と示し合わせた結果なんじゃ。

 ガイアーと三百のBFロボ、いかにGRであっても同時に相手はできん。

 研究所に敵を引きつけておるうちに、ガイアーの活動を停止させるんじゃ!』

 

「バカなッ!? 無謀すぎる!」

 

「隼人の言うとおりだぜ、博士。

 ガイアーさえ何とかすれば、ってのは、あくまでただの推測なんだろ?

 それに、ヤツらの総攻撃に曝されたら、早乙女研究所だって長くは……」

 

『長くは、とは何じゃい! 

 ヒヒッ【燃え尽きた日】の生き残りを舐めんじゃねぇぞ!』

 

 老人のひょうげた啖呵と共にモニターが切り替わり、ガギョン、という重厚な金属のぶつかり合う音が反響する。

 画面には、鈍く輝く地金も誇らしげに、威風堂々BFロボ軍団に立ち向かう、鋼鉄の巨人達の姿が映し出されていた。

 無骨な鈍色に、真っ赤に燃える瞳を宿した、顔、顔、顔――。

 

 古参兵であった。

 歴史の流れの中で存在意義を失った古鉄たちが、今、一世一代の舞台を前に、一斉に炉心を燃やしていた。

 

「な、な、何だ! こりゃァ!?」

 

「これは、まさか【27体の鉄人】か!」

 

「――!? 知っているのか、隼人!?」

 

 驚きの声を上げる竜馬に、冷や汗混じりで隼人が応じる。

 

「かつて、地球が燃え尽きる前、日本の天才科学者・金田博士をリーダーとして、究極の巨大ロボットの建造を目的とした【鉄人計画】が進められ、27体の試作機が造られた……」

 

「それが、あのポンコツどもってワケか?」

 

「ああ、だが信じられん。

 鉄人計画は、機体の制御方法の問題をクリアできず、凍結されていたハズ」

 

『ヒヒヒ、どうじゃ、ヒヨッ子共! ちったァワシの研究の素晴らしさを思い知ったか!』

 

「げえっ!? 敷島」

 

 ジャーンジャーンとばかりに画面いっぱいに映し出された狂人に、武蔵が驚き叫ぶ。

 そこにいたのは、巨大なアンテナが二本突き出した電気椅子に座り、うなり声を上げながら帯電する敷島の姿だった。

 

『見よ、隼人ッ!

 これぞワシの新発明・人間リモコンじゃ!

 27体の鉄人どもを脳波一つで同時操作可能。

 しかもパーツであるワシ自身が完全武装しておるから、リモコンを奪われる心配もないぞ!』

 

「な……、なんて科学者だ」

 

『ムホホ、さあ行け鉄人! 不埒な怪ロボットどもをブッ殺すんじゃァ~ッ!!』

 

【 ガ オ オ ォ オ ォ ォ ォ ン 】

 

 

 敷島の電波を全身に受け、27体の鋼鉄の勇者が、怪ロボットの群れへと特攻する。

 その勇ましき姿を皮切りに、どうっと鬨の声が上がり、研究所に残っていたならず者達が、一斉に反攻の口火を切った。

 

「今だあ、ヤツ等を日本から叩き出せェ―ッ!」

「うおおッ!! 科学者ばかりが研究所の所員じゃねぇぞ!!」

「構うこたァねえ、この国はどこもかしこも焼け野原じゃッ!

 廃 墟 弾 片っぱしからブチ込んじゃれェ~ッ!!」

 

 一斉に鴇の声が上がった。

 人類の侠気、狂気、狂喜、驚喜が乱舞していた。

 四十年、踏まれ、にじられ、虐げられ続けた人間のストレスが、浅間山で一斉に噴火した。

 

 夥しい数の廃墟弾が、既に廃墟しかない前線に躊躇いもなく投下され、そして――!

 

 

 ――ド ワ ォ !!

 

 

 

『……まぁ、そんなワケだ。

 こちらはしばらく心配いらん。

 諸君らはガイアーの攻略に専念するんじゃ』

 

「博士」

 

『さあ、分かったら早く行け、ここでガイアーに捕まっては、全てが水の泡じゃぞ』

 

「……よし、GR3!」

 

 隼人の指令を受け、GR3は勇ましく翼を広げる。

 そのまま機体は鮮やかに身を翻し、西の空へと飛び立った。

 

 

 ――PM13:00 中国大陸・山東省上空

 

 GRチームが日本を発ってから二時間弱。

 GR3の翼は朝鮮半島を飛び越え、既に目的の地へと近づきつつあった。

 だが、一行はそこで、奇妙な違和感を感じ始めていた。

 

「な、なあ竜馬、隼人……。

 なんて言うか、なんか、おかしくねえか?」

 

 巴武蔵の戸惑の声に、油断なく辺りを見回しながら竜馬応じる。

 

「ああ、いつからだ? この霧は、いつから出ていた?」

 

「…………」

 

 竜馬の問いかけに、しかし、皮肉屋の隼人すらも答えることが出来ない。

 三人があらためて周囲を見やる。

 辺りはいつしか濃い霧に包まれ、視認すら困難な状況となっていた。

 

 GR3の搭載する高感度のセンサーならば、視界が不良であっても航行に支障はない。

 地上の常識が丸ごと燃え尽きてしまったこの世界では、突然の異常気象も珍しくはない。

 だが、GRには三人が搭乗していたのだ。

 早乙女博士が選び抜いた三名の若きエース。

 その三名が三名とも、目の前が真っ白な壁に塞がれるまで、誰一人、気象の変化に気付かないなど、そんな事態がありえるのであろうか?

 

『――GRチーム、よくぞここまで来てくれた』

 

 手元の通信機より、ノイズ混じりのセルバンテスの声が届く。

 

「おっさん、この霧は一体……?」

 

『大丈夫、目的の場所には近づいているよ。

 君たちはガイアーを誘導しながら、そのまままっすぐ黄河を遡るんだ』

 

「黄河……、だと?」

 

 セルバンテスの言葉に、驚いた隼人がじっ、と眼下を見下ろす。

 確かに目を凝らせば、そこにはぼんやりとだが水面らしき影が映る。

 航行をやめエンジンを切ったならば、大河のせせらぎを聞く事もできよう。

 

 だが……。

 

「……どう言う事だ?

 世界の地形は、四十年前のあの日を境に一変したハズだ。

 なぜこんな場所に、黄河などが存在する」

 

『目的地が近いのだよ……、ほら、見たまえ、徐々に霧が晴れていく』

 

 びゅう、と緩やかに風が吹く。

 まるで、セルバンテスの言葉に促されたかのように、霧のカーテンが引いていく。

 視界がゆるりと開けていく。

 

 最初に三人瞳に映ったのは、広大なる大沼沢であった。

 雄大なる大河の流れに分かたれた丘陵が、島を成して入り組んで、大陸特有の荘厳な光景を作り出していた。

 その中央、揺らめく霧の奥に黒い影が見えた。

 近づくほどに影は山を成し、武骨な岩肌が覗き始める。

 切り立った断崖の端々に豪奢な伽藍が姿を見せ、尖塔のような山肌が、絢爛たる山塞の姿を露わにする。

 

「こ、こりゃあ……、一体?」

 

『梁山泊……、かつて、国際警察連合の名の元に英雄・好漢達が集結した、夢の跡と言うだよ』

 

「夢の跡だと!? バカな、梁山泊は四十年も前に――」 

 

 と、隼人が疑問を投げかけようとしたその時であった。

 

 不意に山塞のそこかしこより光がこぼれ、大気が一瞬にして静寂に満ち、そして……、

 

 

 ―― カ ッ ――

 

 

 とばかりに閃光が周囲に満ちた。

 

「なッ!?」

 

 驚いている暇は無かった。

 閃光より数瞬遅れ、破滅を導く衝撃波がGR3を襲った。

 歴史を刻む伽藍が天空へとブッ飛び、偽装の下より現れた近代兵器の数々が、無残にも打ち砕かれて湖面に沈む。

 尖塔の如き山肌が断たれ、轟音と共に崩れ落ち、大河を下る大津波がGRをも呑み込む。

 

「何だ! 今のはまさか【光球】かッ!?」

 

「お、おっさん!? これは……!」

 

『あの梁山泊はね、まさに今、この時に、燃え尽きようとしているのだよ……』

 

「「「 !? 」」」

 

 思わず息を呑む三人に対し、セルバンテスがスピーカー越しに力強く呼びかける。

 

『さあ、行きたまえGRチーム! 

 神体ガイアーを葬り去る最期の希望は、あの破壊の中心にある!』

 

 

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