真GR(チェンジ!! ジャイアントロボ)~戯曲セルバンテス~   作:いぶりがっこ

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第四話

 ――かつて、まだ地上に、文明の灯りが満ち溢れていた時代。

 

 繁栄を謳歌する人々の笑顔の影で、激しい争いを繰り広げる二つの勢力が存在していた。

 

 一方は、世界征服を企む悪の秘密結社【BF団】。

 ビッグファイアなる人物を首領と仰ぐ彼らは、時に怪ロボットを操り世の治安を大いに乱し、時には絶大なる力を有する能力集団・十傑集を軸とした大規模な破壊活動を展開。

 仰天動地の悪事を以って、時の指導者達の無能を嘲笑い、世界中を大いに不安に陥れた。

 

 だが、各国政府の要人達も、BF団の脅威にただ手をこまねいていた訳ではない。

 やがて政府間で合意が無され、悪のBF団に対抗すべく、世界でも指折りのエキスパート達が一同に招集された。

 後の【国際警察連合】の誕生である。

 

 国際警察連合は、BF団の策動より無辜の民を守るべく、天然の要害たる梁山の地に一大拠点を設け、世界中の不穏な動向を絶えず監視し続けていた。

 

 梁山泊こそは、英雄・好漢達の集う正義の要石。

 人々の未来を守る、平和の礎であったのだ……。

 

 

 ――その梁山泊が、燃えていた!

 

 

 兵達が日々技を磨いた殿堂が、当代一流の科学者達が心血を注いだ数々の兵器が崩れ落ち、広大なる大河に水柱を跳ね上げる。

 水面を走るオイルが赤々と燃え上がり、バリヤーの残滓が燐光のように降り注いでは、凄惨なる血の臭い、眼下に広がる地獄絵図とは不釣り合いな幻想的な輝きを灯し、GR3の細身を怪しく照らし出していた。

 

「こいつは……、一体、何だってんだよ」

 

 川面に満ちた惨劇の光景を臨み、戸惑いが知らず、竜馬の口を突く。

 

「おっさん、いい加減に教えてくれや。

 この梁山泊とやらの中心に、一体何があるって言うんだよ」

 

『その答えは、本当は既に気が付いているんじゃないのかい、竜馬君?』

 

「何?」

 

「――竜馬」

 

 珍しく緊張の混じった声で、隼人が二人の会話に割って入る。

 

「先の光球……。

 アンチ・エネルギーシステムを使える可能性のあるロボットは、このGRとガイアーを除けば、歴史上で僅かに一体のみだ」

 

「――! おいおい、それって、まさか……」

 

 ごくり、と武蔵が喉を鳴らす。

 崩壊する伽藍を避けながら、GR3が破壊の中心たる熱源へと近づいていく。

 ドジュゥ、と言う大河の煮えたぎる音が彼方より轟き、やがて広大な川面がすっぽりと水蒸気の壁に覆われ始めた。

 

「……いる!」

 

 機体を止め、熱源の指し示す方角を睨みつける。

 沸き立つ蒸気の彼方に揺れ動く影が徐々に大きくなり、ズン、ズンと言う振動が、その度に洞内を揺らす。

 水蒸気の壁が大きく揺らめき、真紅に染まった『それ』の両眼が、慧々とした輝きを放つ。

 チッ、と隼人が舌打ちをする。

 

「やはり、ジャイアントロボかッ!!」

 

 

 

【 ガ オ オ ォ オ オ オ ォ オ オ ォ オ ォ ォ ン ッ !! 】

 

 

 

 狂乱する鋼の悪魔の叫びが、燃え尽きんばかりの梁山泊を再び揺るがす。

 衝撃と烈風が蒸気を打ち払い、瓦礫の山が容赦なく川面に降り注ぐ。

 

 銀色の地金は炎を映して紅に染まり、GR3より一回り大きい鋼の巨体が大河を揺るがす。

 偉大なる王(ファラオ)の風格はもはや無い。

 赤々と燃えるその瞳は、哭いているのか、あるいは笑っているのか。

 無機質な兵器にそぐわぬ悪鬼の形相で以って、世界の終わりを告げる咆哮を上げる。

 

 ジャイアントロボ。

 

 ありとあらゆる可能性を持った数多の世界。

 その全てを燃やし尽くす宿命を負った鋼鉄の巨人が、三人の眼前で、その真価を露わにしようとしていた。

 

 

「くそッ! どういう事だよ!?

 ジャイアントロボは四十年も前にぶっ壊れちまったハズだろ?」

 

「武蔵、言ってる場合じゃねえ、来るぞッ!」

 

「――オープゥンッ!」

 

 大きく振りかぶった対主の豪腕に対し、後方に飛び退きながら、GR3が分離する。

 機動力を旨とするGR3が、崩壊する空間も中で旧世代の怪物を相手取るのは、明確な悪手であった。

 直強靭なる鋼の拳が旋風を巻き起こし、ズオン、と、かろうじて残っていた社殿の跡を岩盤ごと消し飛ばす。

 

「なんて馬力だ……、あれが草間ナンバーの最高傑作、か」

 

「言ってる場合か! 隼人、GR1だッ!」

 

 降り注ぐ岩盤を縫うように避け、機体を大きく旋回させてドッキングする。

 オォンと言う唸り声が跳ね上がる水音に混じり、水面を割ってGR1が着水する。

 

 GR1とジャイアントロボ。

 本来出会う筈の無い『親子』が時間の壁を越えて対面する。

 

 崩壊する現世の中、両機に挟まれた300メートルのみが、あたかも地獄から取り残されてしまったかのように、張り詰めた時をゆっくりと刻む。

 

 操縦桿を握る竜馬の手に力が籠る。

 ハイブリットと言えば聞こえはよいが、GR1の新炉心は、元来アンチ・エネルギーが備えていた絶対の破壊衝動を、ゲッター線と言う鎖で押さえつけ、人の手で制御できるようにしたセーフティに過ぎない。

 

 一方のジャイアントロボは、ロボット工学の最盛期に生み出された、天才・草間博士が残した究極の黒歴史(ブラック・ボックス)

 しかも今、その制御が人の手を離れているのは、傍目にも明白であった。

 同じシステムを用いていたとしてもも、引き出される威力には、まさしく大人と子供ほどの開きがあるだろう……。

 

 ――と。

 

 不意にジャイアントロボがついと向きを変え、ゆっくりと両手を広げ始めた。

 GRの存在をまるで無視したかのような悠然とした佇まいに、気勢を削がれた竜馬が思わず弛緩する……、が。

 

「――!? いかん! 竜馬、バリヤーを張れッ!」

「……ッ、ロボ!」

 

 隼人の声と竜馬の動きは同時であった。

 オオン、とGRが一鳴きし、前方にかざした両掌から、薄緑色に輝くヴェールを展開する。

 程なく、相対するジャイアントロボの全身が燐光を放ち、周囲に白色の輝きが溢れ始めた。

 

「アンチ・エネルギーシステム、クソッ! まずいぞ、これは……」

 

「あ、ああ。

 ある程度はゲッター線で防げるとはいえ、これじゃあ反撃が出来ねえ」

 

「……そうじゃない、武蔵。

 忘れたのか? 崩壊しつつあるとはいえ、ここは梁山泊。

 国際警察連合の防衛システムの全てが結集した、大規模なエネルギー源だ」

 

 隼人の低い声を受け、二人がハッと周囲を見渡す。

 対岸を赤々と照らす大火。

 破損した設備から走る稲光、いや!

 日の目を見なかった巨大兵器の数々や、残存する手つかずの備蓄エネルギーすら、今のジャイアントロボの前では、格好の好餌に過ぎないであろう。

 現にロボの周囲では、大気中に拡散した防衛バリヤーの残滓が光の奔流を刻み。

 黄金色に輝くボディの中へと取り込まれ始めていた。

 

「くっ……!」

 

 覚悟を一つ決め、GR1が両腕で全身を庇いながら、一歩、また一歩と歩を進める。

 

『竜馬くん、一体どうする気だね?』

 

「うるせえ!

 どの道このままじゃジリ貧だ。

 こうなっちまったらイチかバチか、とことんブチ込んでやるまでだ」

 

『……それはイカン。

 早乙女研究所を救う唯一のチャンスを、自分達の手で潰すつもりかね?』

 

「……なんだと」

 

 セルバンテスの意味深な言葉に、竜馬が進撃の手を止め、スピーカーへと耳を傾ける。

 そうしている間にも、ジャイアントロボの巨体を中心に大河が逆巻き、大気に溢れたエネルギーの奔流が、鋼鉄の悪魔の全身にオーラの渦を生じ始める。

 

『ジャイアントロボにとって今の行動は、決戦の前のウォーミングアップのようなものだ。

 ああやって梁山泊中のエネルギーを取り込み、【敵】に丸ごと浴びせようとしているのだ』

 

 セルバンテスの言葉を肯定するかのように、ロボの接合部にピシリと亀裂が走り、直後、巨大な頭部がガゴンと展開した。

 ぽっかりと空いた頭部に稲光が走り、白色に輝く光球が生じ始める……。

 

「お、おい……、やべぇぞ、こりゃ」

 

 戦慄すべき眼前の光景に、単純豪放な武蔵らしからぬ弱音がこぼれる。

 GRチームが二の足を踏んでいる間にも、超エネルギーの竜巻は暴虐さを増していく。

 あたかもその場に小型の太陽が現出したかのように、光球が際限無く膨張を続ける。

 ともすればバリヤー諸共機体を呑み込まんとする衝撃波の嵐に、炉心を燃やしてGRが踏み止まる。

 

「どうすりゃあいい! あんなもんが炸裂したら、ここら一帯は……!」

 

「規模が違い過ぎる。

 あの光球のサイズは、東アジア全体を消し飛ばしてなお釣りがくるぞッ!!」

 

『その通り……。

 ジャイアントロボは今、内在する全アンチエネルギーをフル回転させて、間もなく訪れるであろう宿敵を、地上ごと焼き払おうとしているのだ。

 ――ゲッター線に導かれこの地に辿り着いこうとしている、神体ガイアーを』

 

「 !? 」

 

『竜馬君、そしてGRチーム、今から私の言う事を良く聞くんだ……』

 

 滅亡のカウントダウンが始まった梁山泊の中心に、セルバンテスの低い声が響く。

 

『おそらくはあと数分弱で、ガイアーはその場に辿り着く。

 そして時を同じくして、ジャイアントロボは臨界状態に達した光球を打ち放つだろう』

 

「…………」

 

『……GRチーム。

 君達はその時、GR1でアンチ・エネルギーの中心へと飛び込み、ゲッター線で光球を誘導し、全エネルギーをガイアーへと叩きつけるんだ!』

 

「――ッ!?」

 

「バカなッ!? 無謀すぎるッ!!」

 

 セルバンテスの【作戦】に絶句する竜馬に代わり、あらん限りの大声で隼人が叫ぶ。

 

「今のGRが炉心をフル回転させたところで、あのエネルギーの前では数秒も持たん!

 もしコントロールに失敗すれば、早乙女研究所は、人類は……!」

 

『問題無い』

 

 常ならぬ動揺を見せる隼人に対し、迷い無くきっぱりと断言した。

 

『今は詳しく説明している時間は無いが、()()光球には、()()()()()()焼く力は無いのだ。

 最悪、エネルギーの制御に失敗したとしても、死ぬのは私と、君達三人だけで済む……』

 

「……おっさんの言ってた【犠牲】って言うのは、つまりこの事か?」

 

『……すまない』

 

 沈黙は雄弁に真実を語る。

 へっ、と一声吐き捨て、竜馬が糞ったれな現実を鼻息で笑い飛ばす。

 

「上等じゃねぇか……。

 俺達がこの程度の事でくたばるかどうか、やってみてもらおうじゃねえかッ!

 ゲッターチームの底力、目ん玉ひん剥いてよく見てやがれ!」

 

「フン、死なば諸共か……、いっそ清々するな」

 

「ハハ、いいじゃないの、バンテスのおっちゃん!

 作戦ってヤツは今みたいに、バカにでも分かるように言ってくれなきゃな!!」

 

 狂気の沙汰は瞬く間に機内を走り、三人の戦士を恐れ知らずの馬鹿へと変貌させる。

 刻一刻と破滅の時が迫る中、奇妙な高揚感が場を包み込む。

 

『おしゃべりはそこまで、来ますよ……』

 

 冷や水を浴びせるかのような残月の呟きに、三人がたちまち戦士の目に戻る。

 彼方より、ビイィィィン、ビイィィン、と言う独特の機械音が、岩肌をこだまする。

 超エネルギーの中心地にふさわしからぬ奇妙な静寂が、三者を包み込む。

 

 ――そして、時は満ち、神体が、ゆらり、と、影をなし

 

 

【 オ オ オ ォ オ オ ォ オ オ オ ォ オ オ ォ オ ォ ォ ッ―――!! 】

 

 

 

 人類の到達した究極の破壊神が、ついに、歴史の終わりを告げる咆哮を解き放った!

 

 

 

「ウオオォッ!! いくぜェッ、ロボッ!」

 

【 ガ オ オ ォ オ オ オ ォ オ オ ォ オ ォ ォ ン ッ !! 】

 

 ジャイアントロボの暴走に。

 そして流竜馬の裂帛の一撃に共鳴し、GR1も唸り声を上げる。

 同時に三人が一斉にペダルを踏みしめ、緑の雷光を纏った人類最後の悪鬼が、一直線に破壊の中心へと飛び立っていく。

 

「うおおォおオォオォォォッ!!」

 

 竜馬が吼える。

 視界はたちまち白色の閃光に包まれ、帯電する計器の類が小刻みに爆裂する。

 強烈な熱風と衝撃がコックピットを襲い、煮え滾る血液が全身の毛穴から噴出さんばかりの錯覚に見舞われる。

 

『竜馬君、破壊の衝動を正面から受け止めてはいけません。

 エナジーの奔流を掴み、乗りこなし、ガイアーへと誘導するのです』

 

「勝手な事言ってんじゃねえェェ―――ッ!!!」

 

 暴走する操縦桿を文字通り腕力で抑えつけ、火事場のクソ力で竜馬がGRを旋回させる。

 光球は激しくブレ、洞内を必死で暴れ狂いながらも、やがて緑色のヴェールと混じり合い、神体の許へと大きく弧を描いて跳ね上がった。

 

 

 

「「「 シャァイイィイィンッ スパアァァァ――――クゥッ!! 」」」

 

 

 

【真・GR計画】最期の切り札、シャインスパーク。

 

 旧世界を燃やし尽くした光球の輝きに、ゲッター線の化身となったGRが融合した時……。

 

 

 ――その破壊力は!?

 

 

 

「……なあ隼人、竜馬。

 俺達、何か夢でも見てたのか?」

 

「聞くな! こんなモン、誰にも分かりはせんさ」

 

「……ガイアー」

 

 一面の青空があった。

 終末の光景を置き去りにしてしまったかのような蒼穹が、三人の頭上に広がっていた。  

 

 燃え尽きたドス黒い大地を踏みしめ、ポツリと竜馬が呟く。

 虚空の彼方まで吹き抜けたかのような晴天の下、三人は、陽光を遮り佇立するそれを、ただ茫然と見上げていた。

 

 神体ガイアー。

 

 四十年前、この地球上を破滅へと導いた、究極の神体であった。

 そう、そこにあったのは、数分前までの、人類を破滅に導こうとしていた幽鬼ではない。

 

 いかなるテクノロジーによるものなのか、外装こそ大きく汚れ、くたびれきってはいたものの、地上の何もかもが燃え尽きた世界で尚、神体はその身を歪める事なく、当時のままの姿で現存していた。

 だが、その瞳からは、見る者の心を震わす畏怖の輝きが抜け落ちていた。

 三人の眼前にあるのは、もはや何ら魂の宿らぬ、巨大な偶像のオブジェに過ぎない。

 

 おかしな言い方をするようだが、そのロボットはやはり、初めから死んでいたのだ。

 おそらくはもう、四十年も昔に。

 

 ゆっくりと竜馬が振り返る。

 視線の彼方には、神体と相打ちを遂げたと思しき悪魔の名残があった。

 

「そして、こっちにはジャイアントロボ、全ては歴史の通り、か……」

 

 竜馬の視線を追って、誰にともなく隼人が呟く。

 半ばまで大地に埋もれたロボの半身は無事とはいかず、全身が大きく蕩け、錆び、あるいは風化し、かろうじて残った面立ちの隻眼のみが、じっ、と三人を睨み据えていた。

 

『……聞こえるか、GRチーム……応答せよ……』

 

 ゲットマシンより響くノイズ混じりのダミ声に、三人が慌ててコックピットへと駆け戻る。

 

『――どうやら、うまくやってくれたようじゃな……

 こちらではたった今【敵】の消滅を確認したところじゃ』

 

「消滅……? 研究所に向かっていたBFロボが?」

 

 竜馬の口から漏れた疑念に、どこか戸惑いつつも早乙女が答える。

 

『……ああ、そうじゃ。

 研究所を包囲していた三百のBFロボ。

 その全てが、まるで煙のように消え失せてしまったわい。

 まるでそんな物は、はじめから存在しなかったかのようにな……』

 

「……そんな」

 

『にわかには信じがたい話じゃが、セルバンテス君の読みは当たっていたと、言う事じゃろうな』

 

「……ところで、そのおっさんは?」

 

 ややためらいがちな竜馬の言葉に、スピーカーより小さな溜息が洩れる。

 

『さっきから呼びかけを繰り返してはいるが、反応が無い。

 ……おそらくはもう、研究所には戻ってこないつもりじゃろう』

 

「結局、あのセルバンテスとは何者だったんです?」

 

『うむ……、まだ若い君達には分かるまいが』

 

 と、隼人の問い掛けに対し、早乙女が訥々と言葉を紡ぎ始めた。

 

『かつて、まだ地上に文明の灯りが満ち溢れていた頃。

 彼らのような超常的なエキスパート達が確かにおった。

 時に絶大なる超能力で人々を恐怖に陥れ、時には巨大なロボット相手に生身で立ち向かう。

 彼らは国際警察連合とBF団、二つの勢力に分かれ、繁栄を謳歌する人々の影で、激しい争いを繰り広げておったんじゃ。

 今、こうして言葉にしても、荒唐無稽な御伽噺としか思えんじゃろうがな』

 

「あのバンテスのおっちゃんは、そん時の生き残りだって言うのか?」

 

『さぁての……。

 さ、昔話は終わりだ。

 彼らには彼らの、そして、ワシらにはワシらの戦いがあるんじゃ。

 お前たちには明日からまた、ガンガン働いて貰わねばならん。

 分かったらとっとと帰投せんか!』

 

 うへぇ、と武蔵が思わず叫ぶ。

 

「とほほ、ガイアーなんかよりも博士の方が百万倍もおっかねぇや」

 

「フフ、いっそあの場でくたばっちまってた方が、よっぽど幸せだったかもな」

 

 銘々に憎まれ口を叩きながら、手慣れた動きでゲットマシンへと乗り込む。

 竜馬は一つ溜息をつくと、澄みきった天空を見上げ呟いた。

 

「素晴らしい事、か……」

 

 

 三台の機影が蒼穹の彼方へと消えていく姿を、セルバンテスは小高い丘の上から見送っていた。

 

「これで、全てが終わりましたね」

 

「ああ」

 

 と、事もなげに応じたセルバンテスに、残月が更に言葉を重ねる。

 

「【舞台演劇】

 初めてお目にかかりましたが、本当に凄まじい技ですね。

 滅びゆく異世界と現世をつなぎ、あのガイアーまでをも呑み込んでしまうとは……」

 

 残月の賛辞に、ニヤリ、とセルバンテスが口ひげを撫で付ける。

 

「フフ……、狙った人間の意識を狩り出し、その空間で一つの目的をもたせ、本人達の思うがままに行動させる……。

 ただし、そこに呼ばれた者が傷ついた場合、その肉体もタダでは済まない。

 それぞ、我が【舞台演劇】。

 ……とは言え、今度ばかりは内心ヒヤヒヤものだったがねぇ」

 

 セルバンテスは大きく肩をすくめ、残月に対し恨めしげな苦笑を覗かせる。

 

「なにせ、もしもあのガイアーが本当に何の変哲もないロボット。

 人工知能で動く機械人形だったなら、舞台演劇は大失敗。

 早乙女研究所は今頃、成す術も無く陥落していたところだったのだからね」

 

「けれど、セルバンテス殿も気付いていたのでしょう。

 あのガイアーが以前とは別物の、まるで幽鬼のような存在であった事に」

 

「まあ、何とはなくだが、ね……」

 

 そこで短く言葉を切ると、セルバンテスは再び、長く尾を引く飛行機雲を眩しげに見上げた。

 

 ――結局、ガイアーの正体が何であったのかは分からずじまいであった。

 

 かつてセルバンテスが夢想したように、人類を滅亡へと導こうとする運命じみた存在が、過去の亡霊の姿をとったものであったのか?

 あるいは、彼すらも知りえぬ神体に秘められた力が、活動を停止した筈の機体を動かしていたのか?

 今となっては真相を知る術は無い……。

 

 ただ一つだけ確かなのは、【敵】が実態を持たぬ、ある種の意思であったが故に、セルバンテスはその意識を捉え、崩壊する異世界の狭間に葬り去る事が出来た。

 その事実のみであった。

 

 と、そこでセルバンテスは思索を止め、思い出したように背後を振り向いて言った。

 

「……ところで、そろそろ全貌を種明かししてくれても良い頃合ではないのかね?

 ()()()() 君?」

 

「……その言葉は正確ではありませんよ、セルバンテス殿」

 

 言いながら、残月がゆっくりと上着を脱ぎ捨て、その右手を自らの胸骨の辺りに差し込む。

 ギッ、と言う音とともに胸板が開き、ぽっかりと空いた胸元から、たちまち薄緑色の輝きがこぼれ始めた。

 

「なぜなら私は、草間大作の記憶情報を有してはいても、元の個性までプログラミングされている訳ではありませんから」

 

「小型のゲッター炉心……。

 やはり君は、草間大作博士が製造したロボットだったのだね?」

 

 セルバンテスの断定に、今度は残月も頷く。

 

「……この胸元のゲッター炉心が、全ての始まりでした」

 

 どこか遠くを見るような表情で、残月が独白を始める。

 

「異世界より持ち込まれた一本のサンプル、ゲッター線エネルギー。

 その性能を解析するうち、草間大作は対アンチ・エネルギーへの可能性を見出しました。

 草間はゲッター線に関する論文の収集を始め、やがて当時、異端の科学者として名を馳せていた、若き日の早乙女博士と知り合い、ゲッター線研究のための活動を開始しました」

 

「それが、早乙女研究所の始まりと言うワケか」

 

「ええ。

 けれど歴史の流れの早さは草間の予想を遥かに超えていました。

 万一の事態に備え、草間は自らの記憶をプログラムしたロボットと、ジャイアントロボに関するデータをまとめたブラックボックスを、早乙女研究所の地下深くに封じました。

 ……それから四十年の時が流れ、外界に飛び出したプロトゲッターが消滅したのを察知し、私もまた、目覚める事となった訳です」

 

「ふぅむ……」

 

 残月の言葉の一つ一つを、セルバンテスが反芻する。

 しばしの間を置き、再びセルバンテスが問いをこぼした。

 

「――今の話だけでは、まだ話半分と言ったところかな。

 なぜ君は、私がここに来るのを知っていた?

 なぜ大作君は、自らの死期を知っていたんだ?

 いや……、そもそも最初にそのゲッター炉心を、この世界に持ち込んだのは誰だ?」

 

 矢継ぎ早に繰り出される問い掛けに、残月がクスリと苦笑を漏らす。

 

「その答えは簡単です。

 草間大作に未来の出来事を教えたのも、最初のサンプルを持ち込んだのも、もう一人のあなたがした事なのです。

 ここまで言っても分かりませんか【幻惑のセルバンテス】殿?」

 

「――そうか! ()()()()私の仕業、か!?」

 

 望外の回答に、一瞬、セルバンテスの思考が真っ白になる。

 だが、その答えはよくよく考えれば十二分にありえる話であった。

 

 可能性の数だけ世界が存在するのと言うならば……。

 その可能性の数だけ、異世界を彷徨うセルバンテスがいたとしても、何ら矛盾はない。

 

「こちら世界のセルバンテス殿は、自らの命と引き替えにして、異世界より一本のサンプルを持ち帰り、草間大作へと託しました。

 地球が燃え尽きる未来も、大作に迫る死期も、全て、こちらのあなたが教えてくれたものだったのです」

 

「…………」

 

「――それと、もう一つの答えについてですが。

 私は別に、貴方の来訪を予見できていた訳ではありません。

 ただ、一つの予感がありました」

 

「……予感、かね?」

 

「ゲッター線に携わり続けた、研究者としての予感です」

 

 てらいなく、真剣な面持ちで残月が言う。

 

「万物を奪い破滅に導くアンチ・エネルギーと、惜しみなく与え、生命の進化を促すゲッター線。

 二つのエネルギーは、まるで対の柱です」

 

「…………」

 

「一年前、滅びた筈の人類が地上に飛び出したのと呼応するかのように、あの、アンチ・エネルギーの亡霊が、再び動き出しました。

 ならばきっと、対の一柱も、ガイアーに合わせて動き出すはず、と、そんな妄想じみた予感があっただけです」

 

「ふむ、私もまた、運命の歯車の一部、と事かね?」

 

「……気分を害されましたか?」

 

「いや、構わんよ。

 自分が何者であるかなど、正確に答える事の出来る人間などおるまいよ」

 

 そう言って、セルバンテスが苦笑する。

 そう、自分であるのか、自分の行動が世界に何をもたらすのか?

 そんな事に一々思いを馳せていてもキリがない。

 運命の神がセルバンテスに何を望んでいたとしても関係ない。

 少なくとも彼は自身の意思で、自分の望む未来を探して、数多の世界を流浪しているのだ。

 

 

「さて、セルバンテス殿、これは私自身の興味から聞くのですが……」

 

 と、残月から一つ、問いが出される。

 

「今ここに、あなたが探し続けていた世界、人類滅亡の運命を回避した世界があります。

 幻惑のセルバンテス……、あなたの旅は、それでも続くのですか?」

 

「……さて、私もね、今それを考えていたところさ」

 

 言いながら、セルバンテスが再び飛行機雲の行方を目で追いかける。

 思い出されるのは、この世界を自分達のシマだと言いきった、若者の熱い啖呵である。

 

「――うん、やはり違うんだろうな。

 この世界は、竜馬君やGRチーム、早乙女博士達が守り抜いた世界だ。

 私にいるべき場所などはないか……」

 

 ――それならば、自分のいるべき場所とはどこであろうか。

 

 フッ、とセルバンテスが自嘲する。

 答えは明白であった。

 偉大なる主、頼れる戦友、恐るべき強敵達。

 文明、陰謀、闘争、繁栄、破壊――、そして一時の安らぎ。

 不意に湧き上がった望郷の念が、年甲斐もなくセルバンテスの胸を焦がす。

 

「私が求めるのは、地上が燃え尽きずにすむ世界……、君が死なずに済む世界だよ」

 

「……それならば、私はここで見送る他はないようですね」

 

 そらとぼけた風に煙管を燻らせる残月に、セルバンテスが不敵な笑いを向ける。

 それが別れの合図であった。

 

「フフフ……、では次はまた、別の世界で会うとしよう【白昼の残月】君」

 

 セルバンテスがさっ、と身を返し、その姿を断崖へと躍らせる。

 直後、ごうっ、という一陣の風が巻き上がり、マントの翻った先には、男の姿はすっかり消え失せていた。

 

「ええ、またお会いしましょう……、バンテスおじさん」

 

 風の行く先を見上げながら、ぽつり、と残月が呟いた。

 

 

 

 

 過ぎ去りし近未来!

 

 人類は避けがたい滅亡の運命を、その身を以って知る事になる日が来るのだと言う……。

 

 絶対の刻が迫る中、因果の掌からこぼれ出す道を探し求め、今日も無常の荒野を彷徨い続ける、一人の男の姿があった。

 

 

 その名は――

 

 

 

 

 

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