オリ怪人は、ヒーローに倒してもらうんでいいよね!! 作:チビメガネ
テラフォーマーズは未読です。
すいません。
俺は、色々なバイトをしてきた。どれも長くやっていたわけではないが、それなりにいい経験であったと今は思っている。
初めてのバイトは、確か本屋のバイトであったと思う。レジ打ち、商品の陳列が主な仕事だ。別に大きな店舗というわけではないのに客の出入りの激しく、それなりに人気の店だった。バイト割引なるものの存在していて、いいバイトであったと思う。
しかし、1つ気に入らない点があった。別に人間関係とか給料とかではない。『客の万引き』である。
客の出入りが激しいのもあるせいなのか知らないが、店内の隅にあった漫画コーナーから新巻を盗み出す客が想像以上にいたのである。人気の漫画だと、高く売れるからであろう。何度が逃がしてしまったせいか、初めて見つけた万引き犯の中高生を殴り飛ばした。
そして、クビになり警察にお世話になった。
次のバイトは、中古のゲーム店だった。ここでもときどき店員や監視カメラの目を掻い潜り、万引きが行われていた。俺は偶々とある高校生が自分のバックに入れているのを発見した。だから殴った。
そしてクビになり警察にお世話になった。
そんなことを繰り返し、今は20も折り返して無職となってしまっている。お前の気性が荒いせいだと言う者もいる。確かに殴ってしまった俺も悪い。ただ考えてみて欲しい。本当に悪いのは俺なのか。違う。俺が殴ってしまったのは、万引きのせいだ。そう殴ってしまった原因があちらにある以上全て……
万引きが悪いのだ。
『災害レベル鬼。市民の皆様は速やかに避難してください』
名前も知らないA級ヒーローに一撃を食らわせ、そのヒーローに背を向けて歩き出す。何の弾だか良く知らないが痛くも痒くもなかった。お前らは所詮万引きなんていう怪人のでない犯罪など見て見ぬ振りをしているに違いない。そんなやつらに負ける気がしない。
「待て。昆虫怪人。まだ俺は死んでねえ」
「俺はとあるデパートの万引きを掃除しなくてはならなくてはいけないんだ。君もヒーローだろ。万引きを掃除しようとする俺を邪魔しないでくれ」
立ち上がってくる男に歩みを止め、改めてそちらを向き、両手を呆れているのを表現する。その様子を見た男は、少し口角を上げてパチンコを向けてくる。
「人間的に考えりゃ、お前の方のほうが掃除したほうがいいぜ。ゴキブリさん……よ」
そのA級ヒーロー倒れている相棒を一瞥して、弾を乗っけたパチンコ越しにこちらを見てくる。
一度息を整えて、紐を引っ張り極限まで伸ばしていく。パチンコ越しにヒーローの目に映っているのは、怪人の右眼である。
「食らいあがれ」
ヒーローが、緊張した紐から手を離すと、弾が紐から離れ怪人に飛んでいく。
怪人は、右の目に向かって突き進んでくる弾道に、右手をかざす。1秒も経たないうちに右手の中に弾先が触れたのを感じながら、指を曲げる。そして息を切らしてこちらを見てくるヒーローに見せつけるように、折った指を開いていく。
「バケモン……」
弾が道路に落ちていくのを見て、思わず口からそんな言葉が出てしまうヒーロー。
「君も終わりだな」
怪人は、腹から4枚の翅を出しヒーローの真正面まで飛んでいき、ヒーローを見下ろす。そして、不快な音を出していた翅を戻しながら右手を振りかぶる。
「行くか」
倒れたヒーローに背を向けて、怪人は歩いていく。
……それは、昨日の晩のことである。
俺は、自分の部屋でテレビをつけて夕飯を食べていた。昨日も万引きのせいでバイトをクビになったとこであった。幸いにも警察にお世話になることはなく、クビだけで済んだ。しかしまたも万引きのせいだったので、心底苛立っていた。加えて、今見ているテレビの特集が万引きを取り締まる特集であったのも、この苛立ちを加速させている一因であっただろう。そのときには、まだ腕の色が少し褐色になっていたのかもしれない。
そのことに、風呂に入りそのことに気づいた。両腕何とも言えぬ光沢をしていたのである。何度もシャンプーを使った。今思うと何を思ったのかリンスも使った。しかしながら、褐色の色も光沢も消えないばかりか、より一層美しく輝きを放ってしまった。そのことを確認した俺は、とりあえず手を放置して足を洗おうと足に視線を向けた。視線を落とした先には、同様に褐色の光沢を帯びた肌が見えた……日焼けをするような仕事をした覚えはない。
ここまできて俺は悟ったのである。
あぁ疲れているのだ、と。
だから寝た。これは夢だと思ったから。
そして、朝に全身ゴキブリになっていたのだ。
今日の朝、このことを鏡で認識したときに思ったことは絶望ではなかった。俺は思った、これは神が俺に万引きを成敗する力を与えてくれたのだと。そう、ゴキブリ怪人万引きGメンとして生きていけという命令なのだと。
だから家を出て、街に繰り出し万引きを成敗しようとしているのだ。
昨日の夜からの出来事を思い出しながら、道路を歩いている。緊急アナウンスのせいか、普段車が頻繁に行き交うこの道も、駐車してある車のみで、人影も見えず、動いているものはなく、強いて言うとすれば信号機が赤から緑に変わるくらいで、風も吹いていないせいか音の一つも聞こえない道になっていた。
しかし万引き犯というのはこういうときにこそ現れる。そこら辺のチンピラは、
「どうせゴキブリだろ、スリッパあれば十分なんだよ」
と馬鹿にしながら、レジ打ちもいない店に入り込み、万引きというより窃盗を始めることであろう……許せん、殺してやる。
大型デパートを見つけたので、拳を握り直し自動ドアから入るために方向を変えようとした。
……そのときである。
ドッドッドッドッドッドッ、と地響きとも勘違いしそうな音とともに背後から殺気を宿した視線を感じたのである。
「なひpのfypとおうfyrり」
俺は思わず、その男のほうを振り返りながら翅を素早く広げて数メートル飛んで離れていく……驚き過ぎて変な声出してしまった。
しかしこの男なんだ。この強さを纏ったような雰囲気は……しかも鬼レベル認定をされた俺に対面したのにも関わらず、ただ俺の目だけを見てただ佇んでいる。冷静に俺の強さを見極めているのか。となると、ポケットに手を入れたままなのは相手の出方を窺っていると考えるべきか。
「……」
ドッドッドッドッドッドッ。
何故俺が汗をかいている……防衛本能がこの男を危険と察知しているのか。ん? ポッケから手を出した……くる。
俺が右足だけを半歩後ろに下げ、手の平の汗を払い、構え直す。
「……」
ドッドッドッドッドッドッ、ドッドッドッドッドッ。
先程より音が速くしながら、その男が被っていたフードに手をかける。
「……!! 」
フードを降ろしたことで、見ることが可能になった左目には三本の傷が数メートル離れたここからでも、はっきりと確認することができる。
「……」
ドッドッドッドッドッドッ。
その男は、一歩も動かずに音だけを鳴らしていく。
顔に三本の傷。
この敵からも聞こえるこの音。
まさか……この男。
「君が、キングなの……か」
「……そうだ」
一呼吸置いて、一言そういうヒーロー、キング。
『キング』
人類最強の男と呼ばれるその男は、鬼レベルの怪人であっても、いとも容易く倒すことができる。いや、どのような怪人であっても一撃で倒すことができることができると言われている、ヒーロー協会の最強の切り札とも呼ぶべき男である。そして、彼が戦闘態勢に入ったときに鳴るという音、それこそがキングエンジンである。この音を聞いた怪人は、全員生き延びることはなく、全員死を迎えると言われている。
まだ避難のアナウンスが流れてから数分も経っていない……ヒーロー協会はこの件を迅速に終わらせるためにこの男を仕向けたというわけか。ネット情報で不確かではあるが、キングはこの地区に住んでいないはず。そうであるのに数分も経たずこの地区に辿りつくとは、流石は人類最強の男。力だけでなく速さもあるとは、やはりこの男……
「……」
ドッドッドッドッドッドッ。
脳の中でキングエンジンが鳴り響くなか、体感する。
やはりこの男……強い。
「……」
ドッドッドッドッドッドッ、ドッドッドッドッドッドッ。
飛べば、逃げられるか……いや速さから考えて人間離れした跳躍ができるに違いない。俺より上に飛ばれそこから右手で一発入れられたら終わるに違いない。
じゃあ、どうする。翅で加速して背後に回り込むか……いや殴るのはおそらく残像。背後を取った俺を嘲笑うように背後を取られ、一発。
「……」
ドッドッドッドッドッドッ。
今でさえ、ポケットに手を戻して仕掛けもせずただこちらを見ているだけなのだ。そう……お前の攻撃など来た時に処理できるので構える必要もないと言わんばかりに。何なのだ、この余裕は。俺では勝てないと悟らせるその佇まいは。
俺が仕掛けないのを見飽きたのか、キングは口を開き衝撃の一言を投げかけるのだった。
「まだ……気づかないのか」
「な……に」
ドッドッドッドッドッドッ。
その言葉を受けポケットを改めて見ると、右手を出していることが確認できる。いつ出した? 今さっきポケットに手を入れていただろう……まさか。
「貴様。攻撃を仕掛けたといの……か」
「……」
ドッドッドッドッドッドッ。
キングは目を見開きながらこちらを見ている。汗が額から落ちているのがここからでも確認できる……キングは汗をかくほどの一撃を一瞬で近づいて俺に放ったのか。いや、しかし感触がない。腹を指すっても血が出ている様子もない。どういうことだ。
「貴様何をした!! 」
「二人称は、君ではなかったのか」
「なっ……」
ドッドッドッドッドッドッ。
汗を落としながら、動かずにこちらを見てくるキング。何故落ち着いている、もう終わったということなのか……。
「貴様に放った一撃はすぐに効くという代物ではない。俺の気を送り込んだ。この気は体の至る所で作用し、まずは発熱。そして、そこから体を蝕んでいき……明日には貴様は死ぬ」
「なんだ……と」
キングは、俺を指差し淡々と言っていく。心なしか指が震えているのが見てとれる。
そんなことがあってたまるか、ハッタリに決まっている。ただ何故だ、キングエンジンが未だに鳴り響いている、それも今まで以上に……嘘ではないのか。
キングは、俺の動体視力で判断したところ一度も動いていない。そう一歩たりとも……あり得るのか。地上最強の男だぞ。自分のことをビビッている敵に対していつまでも胡坐をかく男ではないはず。
もう一度キングの全身を見る。もし今の言葉が嘘で、俺に攻撃をしていないのであれば、ここまで汗をかいていないはず。つまりキングは俺が見えなかった攻撃で急激に動いたため、汗を流したと考えるべき。そしてその攻撃は、自分の全てを賭けた攻撃としたとするならば、今震えている手にも説明がつく。その攻撃を放ったら立つこともままならない。今この言葉もやっとの思いで発している……と考えれば今の立ち姿にも納得がいく。
流石は、ヒーロー。敵ながら凄いと言わざるを得ない。
それに、ヒーローには超能力を使って戦うものもいると聞く。気で戦ってもおかしくはない。
俺の汗ばんでいる姿を見て、再び口を開くキング。
「俺は最近漫画を読んでな。ゴキブリの戦っている姿を見ると、少し応援したくなってしまうんだ……」
「なんのことだ」
こちらを見てくるキング。
「猶予をやった。この気は、D市のデパートに売っている発熱剤を数時間以内に飲めば、治る仕組みになっている。今日のところは見逃してやろう」
「キング……」
こちらを見ずに全身を震わせているキング。
この男の気まぐれで俺は生かされているというわけか……。
「すまない」
「……あぁ」
キングに背中を向け、俺はD市に飛んでいった。
キング、この借りは必ず返す……覚えておけ!!
「RPGのネタだってバレなくてよかった……やっぱ名作って凄いですな」
上空に飛んでいくゴキブリを見上げながら、キングは一人で呟いていた。
「サイタマ氏に会おうとしただけなのに……もうやだ家に帰ろう。ミホたんに励ましてもらわなくてわ」
自分も来た道に戻っていくキング。
……ちなみに
万引きGメンというとは、デパートの特売を潰したという理由でサイタマに一撃で倒されたのは言うまでもない。
卵は高いから、特売日に買いたいと思うのは仕方ないよね!!
またネタが考えついたら、もしかすると投稿するかもです。