ODIUM   作:hahya

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第3話

 学校帰りは、いつも1人で家に帰るのが私の日課だ。新井最愛は今日も1人で下校していた。といっても今日は夏休み初日だ。私は生徒会の行事で学校にきていた。夏休みの後にある文化祭や体育祭についての会議だ。

(結構長引いたな。今は昼過ぎか)

 私は夏休み何をしようかと考えつつ、駅まで向かう。

「夏休みの宿題といっても、5日もあればすぐ終わってしまうしな。適当な問題集と、とりあえず読書感想文のための本でも買おうか」

私の父は医者を、母は教師をしている。だから、というわけではないが、勉学に対しては非常に厳しい躾をうけた。だからといって、いい大学に入れだの将来はこういう仕事につけだのとそんなことは言われない。少なくとも私の親は、自分の娘の進路についてはそこまで口出ししようとしないようだ。放任主義ともいうべきだろうが。だから子供の頃は少々辛いと思っていた勉学の躾も親の愛の裏づけだったと理解している。

 それに成績だけでもクラス上位をキープし続けるだけで、小遣いも毎月渡してくれるしな。実力に応じての対価があるのなら今の生活もそう不満は無い。

 しかし家では勉強をしている姿でも見せなければならない。そうしないと親の機嫌を損ねてしまうしな。そうなると小遣いが貰えなくなる。夏休みの宿題というものがあるのだが、私にとってはすぐに終わってしまう。しかしこの長い休みを小遣いなしで過ごせというのは女子高生にとってあまりにも酷な話だろう。いくら私でも家に閉じこもって休みじゅうじっとしていろというのは我慢ならない。だから不本意ながらも問題集は溜めておかねばならない。ということで私は駅近くの書店へ寄った。店内には様々な雑誌、漫画の単行本、ライトノベルなどの本が並んでいる。私はそこに見向きもせず『センター試験対策問題集』と書かれたプレートの本棚へ一直線にむかう。まあ受験生というわけではないが。

(適当に今年の問題集を買おう。それと読書感想文はどうしようか)

 一応課題の読書感想文はジャンルに限らずどんな本でも構わない事になっている。だからどうせ読むのならおもしろいものがいい。私はノンフィクションよりもフィクションが、ファンタジーよりも日常の作品のほうが好みなのだ。だが日常といっても純愛ラブコメのような作品はごめんだ。癪に障るからな。

 私は自分の好みの本を探すため、『いまオススメの作品はコレ!!』と書かれた本棚へむかう。そこには見覚えのある女が2人。

「やあ、お前たちも読書感想文の本をさがしてるのか?」

「ああ、こんにちはモアちゃん」

 モアとは私の名前をもじったあだ名だ。最も愛すで最愛ならモアのほうが可愛いよねということでこのあだ名になった。

「こんにちは。しかし美坂、そのモアというのはやめろ」

 こいつは赤坂美坂。中学からの同級生だ。

「なんでよ、可愛いじゃん」と美坂は頬を膨らます。

「や、・・・おはよ~」

 昼間におはようは違うだろう。

 このルーズそうな女は石坂いのり。こいつも中学からの同級生だ。

「相変わらずだな、いのりは。お前がいると話のテンポがずれそうだよ」

「・・・・・・なんで?」

 なんでもない、と私は続ける。

「お前たちが本屋にいるなんてな。雪でも降るのか?」

 美坂が、ちょっとそれ失礼じゃない?と言って。

「別に読書感想文目的にここきたんじゃないわよ。カラオケいこうと思ったのに無茶苦茶混んでたの。だから予約して、それまでは暇してるのよ。ここには時間つぶしで来てるだけ」

 そうか、と私。

「いのりは何を読んでるんだ?ここは立ち読み禁止だぞ」

「だって・・・美坂が、買っちゃだめっていうから」

「だからあんたがこの本買うとカラオケできなくなるでしょ?お金ないんだし」

「・・・・・・」

 いのりの読んでいる本。タイトルは『黄泉喰い』。たしかかなり前に実写映画化されたものか。その時はクラスでもかなりおもしろいけど怖かった、と話題になっていたのを覚えている。帯には『黄泉喰いシリーズ総復習!セカンドシーズンへはこの本を読まないと始まらない!』と書かれてある。その横には『黄泉喰いセカンドシーズン』が置かれていた。

「この作品、シリーズ化されていたのか?」

 私が質問する。

「そうよ」と美坂。「元々上・中・下の単行本だったらしいんだけど、この一冊にまとめてあるんだって」

「ほう、お前、中々詳しいじゃないか」

「うん・・・」美坂は何か憔悴しきった様子で

「だってこの前、この子に3作品オールさせられたばっかなのよ?」

「それは楽しそうだな」

「何がよ!」

 すかさず美坂が突っ込む。続けて、

「この子この本読みたいって言って全然動こうとしないのよ」

「・・・だって・・・読みたい・・・」いのりが話す。「それに・・・読書感想文と・・・一石二鳥」

「でもあんたこの本買えないでしょ?」

「・・・・・・そうだった~」

 いのりは泣きながら本を抱く。

 私は提案する。

「黄泉喰いセカンドシーズンを買えばいいんじゃないのか?映画は全て見たのだろう」

「・・・それじゃあ、作者の冒涜・・・」

 美坂が、

「本音いいなさい」

「・・・ただ・・・ファーストシーズン・・・全部、読みたいだけ」

 そうかそうかと私は続け、

「ならば私が買おうか」

 元々自分も読書感想文の本を探しにきていたのだ。ホラー小説は読んだことがなかったので、興味本位で読んでみたいとおもった。それにこいつに恩を売るのも悪くない。

 いのりがこちらを振り向く。

「・・・ほんと?・・・最愛」

「私は読書感想文の本を選びにきたからな。しかしお前が読むのは私が読んでからだぞ」

 いのりは笑顔で

「うん・・・ありがとう」

 と言う。

「あ、ああ、気にするな」

 (こいつがこんなに笑うところをはじめてみた気がする)

「よかったわね・・・あんた」

 と呆れた様子の美坂。

「フフフ」と私が笑い、「そうだな。2日待ってくれ。その頃にはお前に引き渡そう」

「あんた、その分厚い本、2日で読むの?」

 美坂が聞いてくる。 

「ん?このくらいなら半日でも十分だが」

「そ、そうなの」

 というわけで私はセンター対策問題集と『黄泉喰い』を持ってレジに行く。

 店内から出ると、美坂といのりが待ってくれていた。

「最愛・・・明後日、おうち、言って・・・いい?」

「ああ、いいぞ」

「ありがと~・・・」

 いのりが抱きついてくる。

「じゃ、私たち先言ってるから。またねモアちゃん、ほらあんたも行くよ。間に合わなくなるじゃない」と美坂、

 いのりも続けて

「・・・バイバイ」と手をふる。

 だからモアはやめろといってるだろう。

 私は2人を見届ける。

 するといきなり・・・。

 

 

 

 

「ここまでで、聞きたいことはあるか?」

 少女(新井最愛)が佐藤あおいに話しかける。

「まだ全然話の本質に至ってないですよ」

「フフフ・・・」少女は笑い、

「まあ、ここまでは私がここに来る前の話だ。いわゆる後日談ならぬ前日譚というとこだな」

 私は「はあ・・・」とため息をつく。

「どうした?」

 少女が聞く。

「いえ、あの質問いいですか?」

「かまわんよ」

「あなた、友達少ないでしょ」

「どうしてそう思う?」

「なんか他人を見下してる感じがするんですけど」

「そうか。まあ友達は多いほうではないな。さあ、もう聞きたいことはないのか」

 彼女は相変わらずの含み笑いで言う。

「・・・・・・」

「どうした?話を進めるか?」

「じゃあそこにあるのは」

 ソファの前の机。そこには『黄泉喰い』という小説と『センター試験の問題集』があった。ノートが散らかっていることからここでずっと勉強していたのだろうか。

「勉強熱心なんですね、今は親の柵とかはないでしょう」

「まあ、私にとっては日課だからな」

「・・・・・・」

「どうした?もう質問は無いのか?話を続けるか?」

「ええ、話を続けてください」

 

 

 

 

 ここは駅近くの書店。

「・・・・・・どういうことだ?これは」

 新井最愛がクラスメイトの赤坂美坂と石坂いのりと別れた後の出来事。一瞬にして人が消えてしまった。自分でも今何を言っているのかよく分からないが。

「・・・?」

 だがよくみたら私以外にもう1人、男子学生がいる。

「おいお前・・・この状況、説明できるか?」

「・・・・・・」

「呆けるな、戯けもの」

「あ、いや、俺・・・え?」

 男は困惑している様子だ。この状況に仰天しているのだろう。おそらく今のこいつからは何を聞いても意味がなさそうだ。

「まあいい。お前、名前を教えろ」

「ちょ、ちょっと待て。なんで俺はここにいる」

「・・・ん?何を言っている。自分がここにいることよりも自分以外が消えたことに驚くべきじゃないのか」

 男は焦った様子で、

「いや、俺は今、学校にいたのに」

「何を言っているんだ?」

「だから、ついさっきまで、俺は学校にいたんだよ」

 記憶が混濁しているようだ。そもそも私自身人が目の前で消えてしまったという錯覚?に陥ってしまっている。私も記憶に障害があるのかもしれない。

「ふむ・・・そうだな・・・」

私はそのまま駅へ向かうことにした。

「ちょっと待て!お前、どこにいくんだ」

「帰る」

 私は即答する。

 男は私についてきた。

 私は吐き捨てるように、

「なぜついてくるんだ?」

「お前こそどうしてそっちにいく。そっちは駅だろ」

「だから言っただろう。帰ると。家までは電車に乗るほうが早いのでな」

「俺は学校に帰るんだよ。したがって俺も電車にのる必要がある」

「ならば同行することを許そう」

「何様だよ・・・」

 男と駅までの道を歩く。しかし誰1人見かけないな。

 男が私にいう。

「中村歩だ」

「ん?」

「さっきお前、俺の名前聞いただろう?」

「そうか、歩か。私は新井最愛だ」

「さいあい?」

「どうかしたのか?」

「いや、珍しい名前だなと思っただけだ。気ぃ悪くしたんなら誤る」

「気にするな、慣れてる」

「あのさ、俺」

「なんだ?」

 歩が続ける。

「俺、ついさっきまで本当に授業受けてた。お前が俺に話しかける前に」

「それはさっきも聞いた。でも物理的に無理な話だろう」

 歩は黙る。

「だが無理やりにでも話を合わせるのなら、お前の記憶が異常をきたしていると考えることもできるが」

「俺の記憶」

 私は続ける。

「だがどうして人が消えたかについては説明できない」

「消えた?」

「ああ、私の目の前でいきなり人が消えた」それに、と私は続け、「現に周りには誰1人いない。」

「そういえば・・・」

「この分だと、駅に行っても意味がないと考える必要もある」

「そうなると、お前はどうするんだ?」

「親に連絡して迎えに来てもらおう」

 私は携帯電話を出す。しかし圏外だった。

「どうした?」

 歩が私に聞いてくる。

「・・・・・・」

 私は返事をせず、

「歩、携帯をみせろ」

「ん?ああ、ほいこれ」

 歩は私に携帯を渡す。

 歩の携帯も圏外だ。

「なんでだ?」

「俺の携帯がどうした?」

 私は歩に携帯を放り投げる。

「うわっ、とっ、投げんな!」

「画面を見ろ」

 歩は画面を見る

「圏外だな」

「そうだ」

「だからどうしたんだ?」

「お前も少しは不思議がれ、ここは日本の市街地だぞ。近くに電波を障害するものが無い限り、圏外になるのはありえん」

「つまり、どういうことだ?」

「私もわからん」

 私と歩は駅まで続く商店街を進む。ここも昼間なら人通りが激しいのだが、今は全く人の気配がしない。

 歩が言う。

「ほんとに誰もいないな」

「そうね。そろそろ駅までつく頃だけど、この分だと歩いて帰ることも視野にいれなくてわな」

「お前ん家、何駅くらいだ?」

「8駅ほどだな」

「日付またいだ頃には帰れそうだな」

 

 私と歩は改札の入り口まで来ていた。

 私は呟く。

「やはり人の気配なしか」

 しかしここまで人の気配がないとなると、この市内、いや県内さえも誰もいないことを考慮しなければならないかもしれない。そういえば歩が、さっきの書店で、「ついさっき学校にいた」と言っていたが。

 私は歩に命令する。

「歩、戻るぞ」

 歩は訝しげそうな顔で、

「はあ?さっきは何で私についてくるって俺に聞いてなかったか?」

「お前もここに留まる気はないのだろう」

「そうだけどお前、戻るのか?帰るんじゃないのか?」

「帰る手段がない。いいから早く行くぞ」

「はあ、分かりましたよ」

 歩は何も言わずに私に付いてくる。

 

 

 私と歩は先ほどの書店へ戻っていた。

 私は、

「お前がさっきここで体験したことを話せ」

 歩むが答える。

「はあ?それを聞くためにここまできたのか?じゃあ別に移動しながらでも聞けばよかったんじゃねえか?」

「実際に現場で証言を取ったほうが、より信憑性のある情報が手に入る」

「まるで尋問されてる気分だぜ」

「尋問しているんだよ」

 私は歩に早く言うよう急かす。歩は嫌々そうな顔で語りだした。

「まあ、何言っても信じないとは思うが、俺はさっきまで学校にいた。弁当食べてる間にいきなりここに来たんだよ」

「弁当を食べていたということは、昼休みか?」

「そうだ。正確には12時半頃だった気がする」

 12時半、私がこの状況に陥った時間と同じ。

 今は13時20分、先ほどの書店から駅までの往復時間はおよそ50分ほどか。

 つまり、

「お前の言っていることが事実なら、記憶障害と言う線は消えたことになるな」

 ここからだとこいつの学校までは電車を使わなければならないほどの距離があるらしい。ならば12時半頃の記憶があり、その数秒後ここに来たというのは矛盾が生じる。

 歩は吐き捨てるように、

「だから、いきなりここに来たんだよ。テレポートしたようにな」

 テレポートか。私の場合は、自分以外の人間がテレポートしたように消えた。

「全く訳が分からんな」

「そりゃ、この状況を説明できる奴がいたらキスしたいよ」

「つまらんジョークはよせよ」

 はあ、と私がため息をつく。

「とりあえず疲れた。休むか」

 近くにはファミリーレストランがあった。

 誰もいない店に入ると、歩が

「おい、従業員がいないのに勝手に入っていいのか?」

「開業中と書いてあっただろう」

「そりゃそうだが」

 店の中には食べかけのステーキ、ハンバーグなどがあった。

「とりあえずドリンクバーだけいただこうか。私はアイスコーヒーがほしい。もちろんブラックだ」

「俺にいったのか?」

「お前以外に誰がいる」

「はあ・・・わかりましたよ」

 歩はドリンクバーに向かう。

 私は先ほど買った『黄泉喰い』を読む。

(誰もいない街で読むホラー小説か。なんとも言いがたいものを感じるな)

 歩が私の机までやってくる。

「はい、アイスコーヒーブラック、と」

「すまんな」

 歩は自分の飲み物を机に置くと、私の前に座った。

 私は小説を読みながらコーヒーを飲む。

「む、まずい」

「で、これからどうするんだ?」

「そうだな。私は今日から夏休みだから別に明日までに帰らなければならないという話でもないが・・・」

「俺は明日学校ですよ」

「じゃあお前はもう帰るのか?」

「いや、この状況だ。1人になるのは危険だとおもうぞ」

「確かに、ここから1人で帰るのは危ないかも知れんな。この状況だ、何が起こるかわからんからな」

「ちげえよ」

「んん?」と私は首をかしげる。

「こんなわけわかんねえ状況で、女を1人にさせられるかよ」

 私はほくそ笑む。

 歩が

「なんだよ」

「いや、結構気が利くと思ってな、私に惚れたか?」

「そ、そんなわけねえだろ」

 私はもう一度本へ目を向け、

「お前は回りに人がいないか探せ」

「何で俺がそんなこと」

「お前を頼ってるんだよ」

「ちっ、すぐ戻るからな」

「駅より向こうには行かなくていい」

「当たり前だ・・・」

 歩は店から出る。

(あいつ、案外操りやすいタイプだな。フフフ・・・。)

 しかしこの小説、謎が謎を呼ぶような物語構成、まだ序盤だがかなり期待できる。

 

 

 

 数時間後・・・。

 小説は第一章まで読み進んだ。単行本なら上・中・下の上までだろうか。大まかな内容を言うと、

 主人公、葉月の通っている睦月高校にはある噂があった。それは十数年前に亡くなった長月さんという霊がでるという噂。葉月とその友達の美樹は、その噂の真相を確かめるため、長月さんが現れるという『森縁駅の商店街』へ向かう。そこは廃れた商店街であった。しかしそこには長月さんという霊はいなかった。変わりにそこにいたのは会ったこともないおじさん、おばさん、お姉さん、お兄さん、男の子、女の子。しかし様子がおかしい、どこか半透明な、それでいて輪郭はくっきりとしている曖昧な存在。葉月と美樹はそこから離れようと思うが、体が動かない。しかしそこに、僧侶の姿をした男が来た。少女たちを守ろうとするも、その場で半透明の人々と消えてしまった。後日睦月高校に通う2人。学校に着くと、何か騒がしいことに気づく。そこには僧侶の姿をした男の死体があった。

 こんな感じの作品だ。 

 しかしこの作品、なかなかおもしろい。生者目線のホラー作品が多い中、この本では襲う幽霊目線の物語も展開されている。オカルト意外でも人間の醜い一面や心の底の黒い部分も滲みでている。序盤のプロローグには、「これは作者自身の体験を元にした、新世代ホラー小説である」ということだが、作者自身の感じた人間の醜いものを書いているのだろうか。

「まあ、今の状況で読むべき本ではなさそうだな」

 すると、店内のドアが開く音がする。

「ハア、ハア、ハア・・・」

 歩が息を切らしながら店内に入ってきた。

「遅かったな」

「ここ一帯、どんだけ、広いと、思ってるんだ」

「それはご苦労。して成果は?」

「ああ?別に何も、誰もいなかったよ」

「そうか。ならばいこうか」

「どこにだよ?」

「建宮小学校だ。私の母校なのでな」

「近いのか?」

「ああ、ここからだと40分も歩けば付くだろう。会計はここに金をおいておけばいいだろう」

「ああ」

 現在は16時21分。 

 

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