こぽり、と音がした。
夢を、見ていた。
暗い、暗い、どこまで続くか分からない闇の中。
ここは、どこだろう。
そう思った瞬間、頭の中に知識が、情報が流れ込んでくる。
広大な宇宙の片隅にある、一つの星……彼らはそこにいた。戦いの果てに元の星から放逐され、不毛の大地が広がるこの星に辿り着いて、一体どれだけの年月を経たのだろう。戦いこそを己の至上の存在意義であり、勝利こそ全てと考える彼らは、数えきれない数の戦いの中でその牙を研いだ。雌伏の時を経て、今。その爪を、牙を、解き放つ。
これは、記憶だ。
わたしはなんとなく、そう思った。
初めて見るはずなのに、何故だか私はこれを見たことがある気がする。
これは、そう。
いつか、どこかにいた、誰かの記憶。
悲しいね。
誰かがそう言った。
或いは、それはわたし自身の声だったのかもしれなかった。
ぽう、といつの間にやら辺りが少し明るくなって、周りの様子が見えるようになった。
そこにいたのは、人間のようで異なる存在だった。多くの者は白い肌をしており、一様に白い髪をしていた。両の瞳は血のように赤く、その歯はギザギザと鋭く尖っていた。
ヒトの様で何処か違う、そんな存在がそこには無数にいた。
その中にあって一人、一段高い場所にいる者が、言葉を紡ぐ。
「ケサソ ウヲ ヤガ スヘ」
暗闇の中、声が響く。
「オテオテノ ウヲ フホヘタエ ワサイッへ,ハヲ サウサウシサ “ムー”ヲ ウケラサア ヌカ サホサ」
初めは静かに。
「オテエヲ ユセノ サクビヌ アゲンギ フヲ スシア,シニクンエヲ シッレヲ エワエ ロムエソ ケサレ ヤヒシサ」
その口調は徐々に熱を帯びたものへと変わっていく。
「サウウピ シミセミカソ ワヒラレ スヘ ハウヘヲ リフサピ,オテオテア イヲ セフエノ マイシレ スヘ.イカ,オテエア ハヲ エスニエヌ アメフソ ケニク ホッヘ!」
拳を振り上げ、声を張り上げ。その存在は宣言する。
「シニクン,エスア スヘ.オテエヲ アヅウエヲ セ,セスミカタヲ ユセア ヤエフテヘ! ウンビウイ ハヲ ハワサ オクリサノ オテエヲ ヌヲエ キメヘフソ……」
一拍置き、息を吸ってから、言葉を放つ。
「オテエ “レムリアン”ア,セスミカタヲ シンウカノ フサシキメ!!」
歓声が、轟く。
ああ、始まってしまう。
ぼんやりとして来た意識の中で思う。
もうすぐ、この夢から覚めてしまう。
でも、この夢の続きを……私は知っていた。
戦いが始まるのだ。
はっきりと思い出した。私は、この夢を見るのが初めてでは無い。
ここから先に起こる未来は、きっと辛く苦しい結末。
少なくとも、ハッピーエンドにはならないのだろう。
私も、彼も、みんなも。
きっと、嘆きながら、死んでいく。
何度見ても、この結末は変わらなかった。
だから、誰か。
この運命を、未来を。
変える力を持った、そんな誰かに向かって、祈る。
助けて。
私たちを、この地球に暮らす生き物を。
どうか、
―――――助けて。
†
昔から、ヒーローという存在が好きだった。自分が傷ついても誰かの為に戦う。それはきっと、言うのは簡単でも実行するのはとても難しいことで。
だからこそ、ヒーローという存在に憧れた。
仮面、ライダー。
彼らは、ヒーローであり、……人間だ。
悪の組織に体を改造された、愛するものを奪われた復讐の為に自ら改造手術を受けた、カードデッキを拾った……始まりは、それぞれ違っても。
自分のような異形の存在を生み出させたくはないから。誰かの笑顔が見たいから。愛する街を守りたいから。
彼らはそれぞれの理由で、誰かの為に、拳を振るう。
そんな彼らが眩しくて。
幼い頃の俺は、自分も仮面ライダーになろうとしていた。
さすがに高校生になった今は……現実を知って少し大人になってしまった今は、もうそんな夢は見れないけれど。
そんな今でも仮面ライダーという存在は、俺の中で変わること無く憧れのヒーローのままだった。
†
それは、夏が近づいたある日のことだった。
「ムー大陸?」
幼なじみの石田蛍に、俺はオウムの様に聞き返した。
「そうそう、知ってる?」
俺の向けている胡散臭いものを見るような視線を華麗に無視しながら、蛍は言う。
「触り程度ならな。海に沈んだ謎の古代文明って奴だろ?」
現在の大陸に別れる前の、言うなれば大陸の集合体だったって説も聞いたことがあるが、果たして。どちらにせよ遥か昔に起こった事であり、現代を生きる俺たちがその真相を知ることは出来ないのだろうが。
「そうそう、そんな感じのやつ! でねでね、博物館で今ムー大陸展やってて、そのムー大陸とかの海中遺跡で発掘された色んな物が博物館に展示されてるんだよ!」
拳を握り、鼻息荒く蛍が言う。石田蛍という少女は幼なじみの贔屓目を抜きにしても中々可愛らしい顔立ちをしているのだが、これではその可愛らしさが台無しだった。
それはそうとして、そういえば確かニュースでそんな事を言っていた気がする。太平洋の海底から発掘された、謎の文明のものと思われる出土品。ニュースじゃ伝説のムー大陸の存在を裏付ける証拠になるかもしれない、とか何とか。
ああ、そういえばそのニュースを見た時「蛍が食いつきそう」とも思ったな、確か。
その予感が、見事に的中したわけだ。
「…………で? それを俺に言った理由は?」
すでにこの先の展開が読めてしまったが、せめてもの抵抗として敢えて聞いてみることにした。
そして蛍は、
「こーすけ、一緒に行こう!」
きれいな笑顔で、そう言ったのだった。
石田蛍。顔立ちが整っていて性格もよく、勉強もスポーツも人並みに……物によっては人並み以上にこなしてみせる。そんな彼女の唯一にして最大の欠点は、重度のオカルトマニアである事だった。
そんな会話があった日から数日後の日曜日。俺と蛍は件の博物館の前にいた。あれから蛍の熱意に負けて……といった体で俺は蛍と博物館に行くことになった。そういう体というのは、実際の所俺も蛍と遊びに出掛ける事自体は嫌いではないからなのだが、それを蛍に伝えると間違いなく蛍が調子に乗る故の高度な政治的判断の結果である。そういう事にしておいてほしい。
「じゃあバイク置いてくるから、ちょっとここで待っててくれ」
「はいはーい」
通学などにも使っている愛機を手で押しながら、蛍に声をかけた。俺達の通う高校はバイク通学が認められているため、バイクを運転している生徒はそこそこ多い。そういった生徒の一人が俺だった。
余談だが、俺のバイクの後部シートは主に蛍が乗っている。
「お待たせ、蛍」
バイクを駐車場に置いてから、蛍のもとに戻る。
「おかえり~。それじゃ早速行こっか!」
バイクの後ろに乗せてた時も思ったが、普段以上にテンションが高い。随分と楽しみにしてたらしい。
「分かった分かった……はしゃぎすぎて転ぶなよ?」
スキップ気味にチケット売り場に向かう蛍に、冗談混じりに言う。普段の彼女を考えるなら、駆け出さないだけまだ今日は自制が効いていると言えるかも知れなかった。
「大丈夫だって! 私がそんなおっちょこちょいだとでも……あっ」
あっ。
言ったそばから、蛍が段差に足を引っ掻けて姿勢を崩した。
いくらなんでもフラグ回収までが早すぎやしないか。
慌てて蛍の手首を掴んで引き寄せながら、大事なことを言わせてもらう。
「断言するが、お前はかなり迂闊でおっちょこちょいだ」
「えー!?」
ひどーい! と怒りながら蛍は抗議してくるが、こちらも引く気はない。真面目に何かやってる時などは素晴らしい集中力を発揮するし、気合いが入っている時は本当に頼りになるのだが、気が抜けている時はそのポンコツっぷりを遺憾無く発揮するのが彼女の特徴だった。
幼なじみという立場上、俺は昔からそんな蛍のフォローに回ることが多かった。もっとも、フォローの役目を押し付けられていたのか、或いは自分から買って出ていたのか……果たして、昔の俺はどちらだったのか。
気恥ずかしいし彼女に調子に乗られても困るので決して言うつもりはないが、そんな抜けている辺りもまた彼女の魅力ではあるのも事実だった。
完璧すぎない辺りに愛嬌があるというか何というか。
それから。チケット売り場で二人分の入場券を買って、世界でも初公開だという海底遺跡から見つかったらしい様々な物を二人であーだこーだと感想を交わしながら見て回って。
あれ、これって普通にデートみたいだな、なんて少し緩みかけた口元を、蛍に気付かれないようにと内心慌てながら締め直したり。
そんな、いつまでも続けと思うような幸せな時間は、果たして。
長くは、続かなかったのだった。
ムー大陸展はそこそこ大きいこの博物館の何区画かに別れて展示されていたが、いよいよ残すところも一区画になった。
発掘された様々な物を見ながら、言う。
「しかしアレだよな、何で滅んだんだろうな、ムー大陸の文明って」
古代の遺産にしては、ちらほらとおかしいようなものが見受けられる。
「何だろうね……ポンペイみたいに大きな火山でも爆発したのかな?」
「でも大陸一つ無くなってるんだぜ? 火山の噴火一つで大陸が沈むかね?」
「巨大隕石が落ちてきたのかもね、恐竜の時みたいに……ああでもそれじゃあクレーターが出来て終わりかな?」
「気候変動で水没って流れかもな、隕石が原因かは兎も角」
蛍との会話は、楽しい。それが雑談でも、割りと真面目な内容でも。付き合いの長さのお陰でお互いの考え方などのクセは把握してるし、幼なじみという距離感も遠慮がいらない会話が出来る理由の一つだ。それに加えて蛍の頭の回転が速い上に、彼女はあちらこちらと様々な方向の知識を溜め込んでいるので、話していて楽しいのだ。
本当、何かに (多くの場合それはオカルト関連なのだが) 集中しすぎなければ非の打ち所の無いような存在なのである。
「それじゃあそろそろ、最後のエリアを見に行こうか」
と蛍に声をかけたその時、
バン! と、大きな爆発音が聞こえた。
「っ!?」
「えっ何!?」
同時に、何か重たいものが崩れる音も。
誰のものとも知れない悲鳴があちこちで上がる。
そして一回目の爆発から数秒の後、二回目の爆発音。さっきより近い……これはちょっと不味いかもしれない。
「何だか分からないけどヤバそうだ! 蛍、俺たちもとっとと逃げるぞ!」
「う、うん!」
床にへたりと座り込んだ蛍の手を引いて立ち上がらせると、そのまま手を引いて出口へ走りだした。
人の波に押し流されて離れないように、しっかりと蛍の手を握り締めながら。
しかし。
「ビウタ サウカエ サカヲギロ」
前方でがしゃんと音を立てて、蛇のような意匠を象った機械然とした鎧を纏った何者かが行く手を塞いだ。
人の波が一瞬にして乱れる。
「カンガ オメフッヘホ,シンピ ヌエワカ!」
何かを言っているようだが、あいにくと聞き取れなかった。聞き取れはしなかったものの、少なくとも友好的じゃ無さそうだというのだけは伝わってくる。…だってほら、本物みたいな剣を抜いて、
ずしゃり。
妙に耳に残る、音が聞こえた。
赤い。
紅い。
真っ赤な噴水が、吹き上がる。
誰かの悲鳴が、遠くに聞こえる。
目の前の赤に縫い止められたかのように、目が離せない。
悲鳴が、まだ聞こえるんだ。
誰のだろうか?
分からない。
どうだっていい。
うるさいな、とぼんやり思ったところで耳の痛みに意識が強引に引き戻される。
見ると、蛍がぎゅうっと俺の耳を引っ張っていた。
「こーすけ、しっかりして! 逃げるんでしょ!?」
呆けていた頭が、急速に覚醒する。
蛍はというと、高いとは言えないその身長のおかげでアレを直視せずに済んだようだった。せめてもの幸い、といったところか。些か以上に刺激が強い光景だ、見ずに済むならその方が良い。
よし、頭はまだ回るな? 足もまだ動くな?
なら大丈夫だ。
諦めるには、きっとまだ早い。
活路を探せ。
逃げ道を見つけ出せ。
生き残るために。
取り敢えず逃げるために蛍と走りながら、考える。信じがたいことではあるが、恐らくあの蛇のような奴に捕まったら殺される。名前も知らないさっきの人のように。
だからこそ逃げなけりゃならないわけだが、何より不味いのは、蛇のような奴の後ろにあった筈の出入口……先程入ってきたエントランスホールの大きな自動ドアが壊されてて、瓦礫の山に飲まれてることだろう。これでは、出入り口から逃げるという手は使えない。
この瓦礫の山がどこから来たのかと見渡したが、何とエントランスホールの天井に大穴が開いていた。つくづくとんでもない。
後ろを気にしつつ走るついでに、周りの状況をできるだけ観察しておく。あちこちがボロボロになっていた。何があったのか気になるところだが。
どうすりゃいい。ドッキリであってほしいが、原因不明の爆発音と、今も目に焼き付いているあの光景が夢じゃあない以上、ヤバい事態であるのは多分間違いの無い事だと思う。
逃げなければいけないのは理解出来てるが、どこに? どこに逃げれば良い?
「蛍、どこかいい逃げ道に心当りは?」
「生憎とそんな便利なものはないよ?」
「だよなぁ…。取り敢えず一旦そこの物陰に隠れよう」
大きな瓦礫の影に隠れるように、2人で座り込む。
「手詰まり、ってとこだな……。蛍、後は神様にでも祈るしかなさそうだぜ」
敢えて軽い調子で言ってみる。そうでもしなければ、胸の内に燻ってる得体の知れないモヤモヤとした感情が爆発して叫びだしてしまいそうだった。
こうもどうしようもないと、もう乾いた笑いか溜め息しか出てこない。一発逆転の奇策など何をか言わんや、である。現実は冒険小説やアクション映画のように、痛快には出来ていないらしい。
「いるかどうか分からないカミサマに都合の悪いときだけ頼る、って言うのは趣味じゃないんだよね〜……」
ぽっかりと大きな穴が開いた天井を見上げながら、蛍がぼやいた。
「奇遇だな、俺もだ」
答えつつ、釣られて上を見る。ぽっかり開いた天井の穴から見上げた空の色は、どんよりとした鉛色だった。見なきゃ良かったと思ったが後の祭りである。
「…さて、そんじゃあどうするか……なんか良い意見はないかい?」
祈らないなら、本格的にする事が無くなる。せめて頭ぐらいは動かしていたいところだが。
「そう言うこーすけは無いの?」
蛍の問いに、肩を竦めて両手を上げるジェスチャーで応える。
「さっき言ったろ、祈るぐらいしか無さそうだって。アイデアとやらはもう品切れ状態だ、もう逆さに振っても何も出ないぜ」
情けない話ではあるが、どうしようもないものはどうしようもない。
「ん〜……」
顎に手を当てて悩み出す蛍。
「うん、取り敢えず順番に状況を確認して行こっか。まず救助を待つってのはどうかな?」
蛍の言葉に、返す。
「救助されるまで俺たちが生きてられるか分からないって問題があるし、あのバケモン相手に救助隊が無事に来れる保証も、更に合流出来たとして無事に脱出できるって保証も無いんだよな」
「待ってたらアイツが帰ってくれるって可能性は?」
「アイツが何を目的として来てるのか分かんねぇからな、あんまそっちも期待出来なそうだ」
「だね。まあ私も待つのはあまり趣味じゃないし。次、脱出するとして出来そうなところは?」
「……無かったよな?」
なるべく音をたてないようにして、この博物館のマップを広げる。
「……そうね」
2人揃って溜め息をついた。
「再確認と行こうか……まず出入口は」
「瓦礫の山だったね…」
「……おう。他に行けそうなところは?」
「上に行く階段のうち、南のほうがおっきな蜘蛛の巣張ってたよね」
この建物の構造を思い出しながら頷く。南北に一ヶ所ずつ、大きな階段があったはずだ。
「あー、うん。そうだな、そんでもってもう片方の北側の階段は…崩れかけてたんだっけか」
南の階段の蜘蛛の巣、というのは階段の入り口全てを覆うサイズの巨大な蜘蛛の巣だ。中々馬鹿げた光景だったが、やっぱり夢ではないようだった。爆発音が二つあったことも考えると、敵は複数いる可能性がある。蛇が蜘蛛の巣を張るとも思えないので、蜘蛛型の怪人でもいるのかもしれない。
怪人か。そうか、怪人、か……仮面ライダーとかが助けてくれないだろうか、と。空転を始めた思考の片隅で、そんな他愛もない想像が過ぎる。
無論、空想妄想の域を出ないものであるのだが。
「上が駄目なら下はどうだ? この建物、地下にもブロックあったよな?」
「あったね、確か。関係者以外立ち入り禁止だった気がするけど?」
「この際だ、気にしてる場合じゃねえだろ……悪いが使わせてもらおうぜ」
「地下に行ったとして脱出できると思う? もし地上への入り口が一か所しかなかったら袋の鼠だよ?」
「さすがに一か所だけって事は無いだろ……無いよな?」
「私も無いとは思うけど、…んー……」
リスクがどのぐらいなのか。蛍が考えていることは多分その辺りなのだろう。でも、
「リスクはデカいかもしれないが、このままここにいてもジリ貧だと思うぜ、蛍」
さて、蛍はリスクとリターンのどちらを取るのか。経験上こういう時の……つまり頭がフル回転している時の蛍はアテになる。だからきっと。決定権は蛍に投げる方がうまく行くだろう。
「うん、分かった。こーすけの案でいこう。何となくそっちの方がアタリみたいかも」
「…かもって」
「女の勘、ってやつじゃない? 私のはよく当たるんだよ。ま、それだけが理由じゃないけど」
……ちょっと不安になってきた。
何とか無事に地下へと続く階段に辿り着いた。
「さて、脱出路はどこにあるやら……」
「なるべく焦らず迅速に、頑張ろうね」
俺の逸る気持ちを察したのか、宥めるように言われてしまった。
「ああ、分かってるさ…そのつもり、なんだけどなぁ……」
面目ない。
ため息を1つこぼして、意識を切り替える。反省は必要だけど、取り敢えず今はこの状況を何とかすることが優先だ。そしてあいにくと俺は、他の事を考えながら別の事をこなせるほど器用じゃあないのだった。
さて。
まず探すべきなのは……やはり見取り図か。
果たしてどこにあるのやら……意外と普通に、どこかの壁にありそうな気もするが。どうやら片っ端から調べていくしか無さそうだった。
カツーン、カツーン、と微かに音がする。
「……蛍、ストップだ」
後ろを振り返らずに手のひらを蛍に向けながら、囁くように言う。
どうしたの? と眼で訊いてくる蛍に、誰かの足音がすると伝えて周りを見渡す。
どこだ?
「……あっちかな?」
蛍が指差したのは、斜め前。15メートルほど先にある曲がり角、その向こう側だった。
「それじゃあ反対方向に逃げようかね?」
「そうするしかないよね……」
そうして振り向いた時だった。
ピリリリリ、という音が鳴った。
一瞬の沈黙の後に、慌ててスマホの電源を消した。なんて初歩的な、しかも致命的なミス……!
マズい、マズいマズい…………!!
「取り敢えず逃げるぞ!」
「うん!!」
死ぬほど後悔してるけど、後悔するのは一先ず後回しだ。
今は、逃げる事だけを考えないと。
やはり先ほどの着信音でこちらの存在に気が付いたのか、足音は近づいてきている。
「こーすけ、こっち!」
蛍はそう言って俺を近くの一室へと引っ張り込んだ。
「ここは?」
「さあ? でも鍵が開いててラッキーだったね?」
「違いないね」
もっとも、未だ危機を脱したわけではないので油断出来やしないのだが。
「ごめん、蛍。ドジ踏んだ」
「大丈夫だよ、予想外の出来事だったけどまだ何とかなる。私たちの存在がここでバレちゃったのはちょっと痛いけど、でもまだ大丈夫のはずだよ」
慰めてくれているのか、本当にそうなのか。どちらなのか俺には分からなかったが、どちらにせよ蛍の言葉を信じるしか俺の取れる選択肢はなかった。
「この部屋、奥に続いてるみたい。入ってみる?」
俺たちの入ってきたドアと反対側にあるドアを指さしながら、蛍が言った。
「……そうだな、入ってみようか」
こんなドアの近くにいたら、もしドアを開けられた時に一発で見つかってしまう。奥の方まで行けば、どこか隠れられる場所が見つかるかもしれない。
そう思って入った部屋はどうやら研究施設だったようで、様々なバインダーが詰め込まれた棚や幾つものコンピューター、その他にも様々な名称の分からない機械が置かれていたが、俺の…いや俺たちの目を引いたのは部屋の中央に置かれたケースに入れられた、一つのネックレスだった。
銀色のチェーンに、同じ色をした十字架のペンダントトップ。
何故こんなものがここにあるのだろうか?
そう思っていると、隣で俺と同じくペンダントを眺めていた蛍がペンダントへと手を伸ばしていた。そして、その指先がペンダントトップに触れた瞬間、
凛、と。
この場にそぐわない、涼しげな鈴の鳴るような音が響いたのだった。
一万字を超えそうなので区切りの良いところで切ったら、変身まで行きませんでした。なんてこったい。
恐らくはじめまして、斎藤一樹と言います。筆が遅いので週一投稿とは行かないでしょうが、なるべく早く続きをお届けできるよう頑張ります。
本作品は仮面ライダーの二次創作という位置づけですが、特定の仮面ライダーの二次創作というわけではなく「仮面ライダー」というものをテーマの一つとしたオリジナル作品です(ストーリーの途中で他作品の仮面ライダーがゲストとして登場する事はたまにあります)。宜しければお付き合い願います。
感想・質問並びに誤字報告等ございましたら感想にてお願いします。