『朽ちた剣』は『血塗れの剣』へと変わり、剣の行く先には血の抜けた身体が横たわろう--
--その日は、カーラマインの様子が少しおかしかった。
「シーリス、今日は昼通しで斬り合いしないか!?」
「……どうして?」
「あ……ええっと…そうだな……」
ライザー達悪魔は夜に行動し昼に眠る。夜が活動時間なのだ。昼にいっぱい寝て、早起きして昼明けの月の光を浴びるのが、健康に良いとされているほどだ。逆に昼に起きておくのは身体に良くないとされる。
このフェニックス家の屋敷に来てから、カーラマインもシーリスも、他の眷属もできる限り早寝早起きを徹底していた。そのおかげで彼女らは背が伸びたり胸が大きくなったりしてきている。
だから、シーリスはカーラマインがどうして今日に限って昼に斬り合い、などと言いだすのかが分からなかった。故に、その日は結局いつも通り人間界で言うところの朝の十時くらいの時間には、その身体を休めるのだった。
そして……次の日。
その日、ライザーは特に何もする事がなく、家の中を散歩していた。
「あー、暇だ。父さんも母さんもいないし……イル・ネルとゲームでもして時間を潰すか……」
そして、眷属達の部屋のある廊下に到着し、イルの部屋をノックしようとした時……
ガキッ!と金属同士がぶつかり合う重い音が、シーリスの部屋から聞こえてきた。それも、一度だけではなく、何度もだ。
ライザーはシーリスの部屋をノックして、声をかける。
「どうした〜?転んで剣でもぶつけたのか〜?」
その質問に対し、
「リーダー!?来るな!!」
カーラマインの鬼気迫った声が聞こえた。
ライザーはその声を聞き、何があっているのかとシーリスの部屋に入る。そして……
ニヤァ、と歪んだ笑みを、ライザーは見た。
「な、そっちに飛び……リーダー!?」
目にも止まらぬ速さで急に襲ってきた何者かによって、ライザーは首を斬られた。
襲ってきた者はその返す刀でライザーの右腕を刎ね飛ばし、更にその剣をライザーの胸に突き刺した。
「……?」
そして襲ってきた者は、首をかしげ……
「……吹き飛べ!」
再生したライザーの出した炎によって、壁に叩きつけられた。
「……何をしているんだ、シーリス」
襲ってきた者……シーリスは何も答えず、ただケタケタと笑っている。その表情からは、壁に叩きつけられた痛みなどの感情は微塵も感じられない。
カーラマインがライザーの背後に回りながら、ライザーに話す。
「リーダー、シーリスが持ってる大剣……あれは魔剣でな」
「何?」
「知ってるかな……魔剣フルンティングを」
--フルンティングとは、イングランドに伝わる叙事詩『ベオウルフ』の中で、主人公ベオウルフに使われていた。
その剣は、刀身が血をすするごとに硬く、強固になっていくという特性があった。
その剣は強い力を宿していて、前の持ち主はそれを使って失敗する事はなかったという。しかし……
ベオウルフが宿敵の巨人、カインの末裔の邪龍グレンデルを倒した後、その仇を討ちにきた母親に斬りかかった際、その剣は一切通用しなかった。
結局、グレンデルの母親は洞窟内にあった他の剣によって倒され、これまで沢山の敵を葬ってきたにもかかわらずフルンティングは『役立たずの剣』の烙印をベオウルフから押され、前の持ち主の元に返されたという--
「--で、今シーリスが持ってる大剣が、その魔剣フルンティング。いつもは大人しいんだけど、満月の夜はいつも血を求めて暴走してね……しかもいつものシーリスよりもかなり強いっていうんだから、洒落にならない」
カーラマインは肩をすくめる。
魔界の満月は地球とは違い70日に一度の周期で来る。その満月の日ごとにシーリスは暴走し、辺りを血で染めるらしい。カーラマインはある傭兵時代の出来事を語る。
「--あの日は満月が綺麗でね……急にシーリスが唸りだしたから、私はどうしたのかと思い彼女に近づいた。すると彼女はこっちを見てから急に戦場へと走り出した。そして、その日には私達の勝利で戦いは終わっていた。そういう事が何度かある」
「敵と味方の区別ははっきりしてるのか?」
「一応、そうみたいだ。ただ、今日はこの近くに仲間しかいなかった。だから、フルンティングが仲間を切る対象にしてしまったんだと思うよ」
ライザーはどうしようかな……と考える。いくらフェニックスの涙があるといっても、女の子が怪我しているのを見て良い気はしない。かと言って、怪我をさせずに彼女を無力化する方法は……あるのか?
と、ここでライザーの身体が上と下の真っ二つになった。シーリスは、剣で一閃したままの姿勢だ。
ん?今、もしかして……
「隙だらけ……か?」
そう思った時、すでに手は動いていた。
「ぐ!?」
首の後ろを叩かれ、シーリスは床に倒れ伏す。その頭をライザーは押さえ込んだ。
シーリスはフルンティングを逆手に持ち、ライザーに再び突き刺してくる。しかし、ライザーの身体に剣は突き刺さったものの、そのまま貫通してしまった。勢いよく剣を振ったため、フルンティングはシーリスの手からすっぽ抜けてしまった。
フルンティングをその手から離したシーリスは吠える。しかし、その叫びはだんだんと小さくなっていく。シーリスの手は一心不乱に、押さえつけているライザーの腕ではなく床に触れる。フルンティングを探しているようだが、あいにく剣はシーリスの手の範囲外にあった。
「……カーラマイン、縛ってやってくれ」「了解した、リーダー」
こうして、なんとか部屋の中で問題を片付けたライザーは、他の人が巻き込まれなくて良かったと安心する。一方で、眷属や家族が危険に巻き込まれないよう、この状況に対する安全策を考えないとな、と決めたのだった。
フルンティング…魔剣カテゴリーなのか聖剣カテゴリーなのか未だにわかりません……
最初この魔剣を持たせているのはカーラマインのはずでした。料理と食事と戦いが好きなキャラをシーリス、いつもクールだけどフルンティングのせいで暴走する役がカーラマインの予定だったのです。しかし、カーラマインは短剣を使い捨てていく戦闘スタイルで魔剣に合わない戦い方だなぁと思ったので、いつも大剣持ってるシーリスを魔剣所有者にしました。
次回からはまた眷属集めになる……はずです!
今回も読んでいただき、ありがとうございますm(_ _)m
これからもよろしくお願いします!