「……」
(い、今起こっていることをありのままにして思うぜ!猫が女の子になった夢を見たと思ったら夢じゃなくて女の子が俺の隣で正座させられてる!な、何を言ってるかなんとなくわかると思うが、俺はなんでこうなったかはわからねぇ!催眠術とかそんなんじゃない何かの片鱗を味わった気がするがそれもよくわからねぇ!)
ライザーの目の前にはユーベルーナが立っている。ただ立っているのではなく、仁王立ちをして、正座しているこちらを見下ろしている。背後に効果音をつけるとしたら、ごごごごだろうか?などとライザーは余計なことを考えて現実から目を背ける。
「……で?」
が、ユーベルーナはそれを許してはくれない。
「あなたはどこの誰です?一体どこから、何の目的でライ君に近づいたんです?」
その迫力に、隣の女の子は涙目だ。それでも何とか声を出そうとする女の子を一度静止して、ユーベルーナは再び告げる。
「まぁ、それはこの部屋で話す事ではありませんね……第三応接間に向かいます。ついてきなさい」
そう言うとユーベルーナは振り返って歩き出す。ライザー達もとぼとぼと後をついていく。
ユーベルーナが一人で応接間の中に入っていき、ライザー達は部屋の前で数分待たされる。その間にライザーは女の子に問う。
「えっと……お前は、誰だ?」
その言葉に女の子……リィは肩をビクッと震わせるが、
「私には黙秘する権利があるのにゃ」
と言ったきり、口を真一文字に結んで、何も言おうとはしなかった。
「どうぞ」
部屋の中からユーベルーナの声--いつもより少し……いや、かなり低い声が聞こえる。
ライザーが扉を開け部屋に入ると、部屋の中はいつもの応接間と見た目が変わっていた。
入った扉からまっすぐ進んだ部屋の中央に、小さな机が一つ。そしてその上を空白にした形で、宙にドーナツ型のテーブルと十数個の椅子が浮いていた。その椅子には現在、数名が座っている。
「あ、お兄ちゃんだー!」「お兄ちゃーん!」「やっほー!」
右上にはイル・ネル・レイヴェル。
「いやぁ、さすがリーダー。こんな若いうちから女に手を出すとは……英雄色を好むとはホントだな」「色を好む、とは言っても趣味は良さそうだね」「ZZZ…」
左上にはシーリス、カーラマイン、イザベラ。
そして、真正面にある三つの席、そこにいるのは二人。
「いやはや、まさかこんな事になろうとは……三男殿は鈍感系だとばかり思っていたのですが……10点ですね」
右側の席に座っているのは、フェニックス家の女性使用人を束ねるメイド歴200年のメイド長、ディマリア。
そして、三つの席の中央に座るのは、
「では、今から裁判を始めます!」
裁判長・ユーベルーナだ。
「今回の彼女の罪は、不法侵入、襲撃、暴行!紛れもなくギルティ!よって死刑!」
「……落ち着いてください、ユーベルーナ。もはや裁判にすらなっていませんよ。それではただイライラをぶつけているだけです。3点です」
ディマリアはそうユーベルーナを諌めると、こちらを見た。
「さて、そこのあなた、お名前は?」「……リィだにゃ」
ディマリアの最初の問いに、少々ためらいながらも女の子……リィは返事をする。
「リィさんですか……リィさん、これから私達はあなたにいくつか質問をしていきます。あなたはそれに答えてください。ただ、あなたには黙秘する権利もあります。答えたくなければ黙っていても構いません。よろしいですか?」
「黙っているなんて許しませんが……」
リィは首をブンブンと縦に振る。ユーベルーナのつぶやきが怖かったのか、涙目だ。今日のユーベルーナは滅茶苦茶怖い。目のトーンが消えていて、全体的に暗いオーラを纏っている。
そのユーベルーナを横目で見ながら、ディマリアはリィに質問を開始する。
「年齢はいくつ?」「……もうすぐ10歳だにゃ」
その言葉にライザーは驚く。出るところは出て、引き締まるところはきちんと引き締まった大人体型の彼女が、イル・ネル・レイヴェルのちびっ子チームと歳が殆ど変わらなかったからだ。
「その耳は?」
次にディマリアはリィの頭に付いているネコミミに付いて尋ねる。リィは数秒黙ったあと、静かに話し始めた。
「……私は、悪魔と猫又の間に産まれた子なのにゃ」
妖怪の中には猫又という種族がいる。猫が途轍もなく長い時を生きると、猫又に転じるのだ。ねこしょう、とか何とか言う強い猫又も存在するらしいが、少なくとも猫又である彼女の母親はその域まで達していなかったようだ。
「母と父はとても仲良く、私は妹と四匹で暮らしていたのにゃ。でもある日、私達が住んでいたところに、反乱軍がやってきたのにゃ。父母は殺害され、私と妹は命からがら逃げた。だけど、追っ手が私達のところまで迫ってきてたのにゃ。
……だけどその時! 一人の男が颯爽とやってきて、私達姉妹を助けたのにゃ!」
そう言うとリィはライザーの方を向く。ライザーの肩を掴んで彼女は声を張り上げ言う。
「それが彼なのにゃ!」
(……そんなことしたかな……??)
正直ライザーは、その事を覚えていなかった。まぁ、当たり前ではあるのだが……
「それはなかなか大変な魔生でしたね。では、あなたは三男殿と接点があったと言うんですね」
「彼は忘れてるかもしれないけど、私は彼に救われたのにゃ」
「では、そんな恩人のところに何をしに行ったんですか」
その問いにリィは言う。
「決まってるにゃ。猫の恩返し、に来たのにゃ」
「ほう?」
「助けられたからにはお礼をしなければならないのにゃ。そこで私は一生懸命に彼を探した。そしてつい先日、私は彼を見つけたのにゃ。だからこうして恩返しに来たのにゃ」
そこで、最初のつぶやき以来黙っていたユーベルーナが口を開く。
「恩返し……?ライ君と一緒に寝るのが恩返しとでも言うんですか!?そんなのただのご褒美です!恩返しでも何でもない!……なんでこんなポッと出の女の子にライ君を奪われるんですか!?絶対に許さない許さないユルサナイ……」
「待て待て、ユーベルーナ。もう少し冷静になれ」
暗いオーラを大きくして血涙を流し怒るユーベルーナをディマリアが抑える。しかし、ユーベルーナは止まらない。
「なぜこんな子にライ君の初めてを奪われるんですか!?何で私じゃないんですか!?私は彼女に何が劣っているんですか!?」
そこでリィが恐る恐る口を開く。
「あのー、私は彼と一緒に眠っただけで、特に何もやましい事はしてないんにゃけど……」
その言葉を聞いてユーベルーナは彼女をキッと睨みつけ、
「裸で抱き合っておいて何を今さら!」
「えっ……裸で抱き合ったりしてない……けど……」
ライザーが決まりの悪そうに告げる。その言葉に、ユーベルーナは止まる。
「……それでは朝のあれは?」
「変身が解ける時に持ち上げてたから俺の方に落ちてきただけだよ」
「変身とは?」
「いや、この子は猫に変身できるみたいでさ。俺が起きた時もこの子は猫だったし。多分ずっと猫だったんじゃないか?人の姿で俺の部屋に入れないだろうし」
「……では、彼女とは?」「特に何もないけど?」
その言葉にユーベルーナの纏うオーラがだんだんと薄くなり、遂には消えた。その代わり、ユーベルーナの顔がだんだんと赤くなっていく。
「わ……私は……私は何を考え…………も、もう仕事をしなければいけない時間なので、帰りまきゃあ!」
ユーベルーナは忘れていた。自分が空中にある席に座っている事を。
彼女がイスを下り、歩き出そうとしたところで重力を受ける。ユーベルーナは気が動転していて、翼を出せる事にも気づいていない。そのまま地上10メートル程の高さを落ちていく!
「危ない、ユーベルーナ!」
その時には、ライザーは動いていた。
ライザーは彼女の落下地点を予測し、そこに動く。そしてその直後、彼女はライザーの頭上へと落ちてきた。
「……?何か違和感がある様な「ふごがぁ」はぁん!?」
ライザーの顔面に騎乗する形で。
「ふごごごご」「ひぃ!ら、ライ君、やめてください!喋らないで!」
「ぶむむむむ」「動くのもやめ……あひ!ダメです、ダメ!そんなところ!」
「がああああああ!」「あ、やめ……もうダメです……ダメぇえええええ」
ユーベルーナは数回震えると、ぐったりとした様にライザーの上へと崩れ落ちる。
リィは、その光景にどことなく既視感を覚えるのだった--
〜〜〜祝・UA30000突破!〜〜〜
皆さん、どうもありがとうございます!ここまで続いているのは読者の皆さんのおかげです。これからも『ライザー=フェニックスの日常』をどうかよろしくお願いします。よかったら感想くれると嬉しいです!
今回も読んでいただき、ありがとうございますm(_ _)m
これからもよろしくお願いします!