『皆、これから30秒ほど、ひたすら守りに徹しろ!』
その言葉の意図は分からずとも、王の言う事に眷属は従うのみ。彼女らは移動も闘いも中断し、防御の構えを取った--
始まりから約20分。小さな王・ティミッドは怯える身体を女王に抱きしめてもらっていた。
「……皆、動きが、無いけど、大丈夫、だろうか?」
「大丈夫です。皆、それぞれの魔力を使って闘っているはずです」
ティミッドは臆病者だ。正直闘いは好きではない。貴族の嗜みだと言われ、また自分の臆病さを少しでも軽減してくれるようにという裏の願いも受け止め、親からレーティングゲームの参加を薦められたティミッドはそれを受けた……受けて早速後悔している。
ティミッドの眷属は皆、魔力攻撃や幻覚、遠距離攻撃の専門家ばかり。それはティミッドが血みどろの闘いを見るのを嫌っているから、という理由もあるが、ティミッド自身の考えも大きい。
彼のモットーは、『近づかず、近づかせず』。自陣に近づかせる事が無ければ相手はプロモーションもできないし王である自分に近づけないから負けもしない。敵の遠距離攻撃は自分の魔力で全て防ぎ切る事ができる。逆に、遠距離攻撃をすれば近づかずに敵……王を倒す事さえも不可能ではない。
このモットーに従い、ティミッドは眷属達にも隠密能力と命中精度、魔力向上を重点的に鍛えさせた。
だが今、敵であるライザーの眷属は一人も減っていない。それどころか、ティミッドの本陣を守っていた『
そんな中、
「……?」
ティミッドは感じ取った。とてつも無く大きな魔力。
「……これは、僕達の、力じゃ、ない。守りを、固める」
その声に女王は表情を引き締めると、能力補助の魔法をティミッドにかける。そしてティミッドは、半径十数メートル、本陣を半円状に覆う形の防御の魔力壁を作った。
その直後だった。
「……!!?」
防御壁の周り一帯を、炎が埋め尽くした--
〜〜〜〜〜〜〜
防御壁が炎に包まれる約一分前、ライザー=フェニックスはカーラマインとシーリスが闘っているのを、噴水広場にある大きな樹の上から眺めていた。
「よしよし、うまく闘えているな。これで少なくとも一人は、あっちに眼がいってるだろう……」
そう言いながら、ライザーは両手を、手のひらを敵陣に向けるように身体の前に出した。
「『
その言葉と同時に、超巨大な炎球がライザーの手の内に生まれ、次の瞬間にはライザーの手を離れて前方……ティミッドの本陣めがけて突き進んでいた。
炎は木を薙ぎ、森を焼く。そして、森の中で遠距離攻撃を行っていた術師ごと、全てを呑み込んでいく。
「……ふぅ。ざっとこんなもんだな」
大樹の幹に寄りかかり、そのまま太枝に座り込むライザー。その眼前にあるのは、敵本陣周辺十数メートルのみ。
それ以外は全て、炎の海と化していた。ライザーは前方向、フィールドの約八分の一を、一瞬にして燃やし尽くしたのだった。
『……ティミッドさんの『
どうやら、敵陣の近くに敵は固まっていたらしい。残り三人……王と女王、そしてもう一人は、あの一瞬出てきた防御壁の中だろう、とライザーは推測する。
下では、『影が消えた!』『倒した……のか。さすが我らが王だ』などと言われている。何だかこそばゆく感じるライザーであった。
「あとは、俺の誇る『兵士』達に任せようかね」
〜〜〜〜〜〜〜
ティミッドは、今の一瞬の出来事に動揺を隠しきれない。自分自身を守る事には何とか間に合ったが、眷属のほとんどがリタイアしてしまった。残るは今、自分を先程よりも強く抱きしめる女王と、本陣から半径十数メートル内にいて唯一助かった僧侶だけ……と思った時。
「おらああああああ!!」
一人の女性が、その僧侶の顔面に拳を喰い込ませながら自陣に突撃してきた。
「ふぅ、何とかK.O.されずにここまでこれたわね」
そう言う女……
「……」
眷属の善戦に心の中で健闘を称えるティミッド。その眼前に、更に四つの影が姿を見せる。
「あたしいっちばーん!」「あたしの方が早かったし!」
「辿り着いたのにゃ!」「ニィ、ちょっと速いのにゃ……ひぃ、ふぅ……」
ライザー=フェニックスの四人の兵士。彼女らは同時に声を上げる。
「「「「
そう言った瞬間、四人の兵士の力が一気に増大した様にティミッドは感じた。
「5対2は卑怯だ、なんて文句は受け付けないわよ。元々は8対10でこっちが不利だったんだし……まぁ、道場復興の第一の足場になりなさい!!」
雪蘭は他の四人に抜け駆けして王の首を狩りに行く!!そして!!
「がぁ!?」
空中に数十メートルは吹き飛ばされ、そのまま光へと変わった。
『ライザーさんの『
一瞬、何が起きたか分からなかった兵士四人は、改めて敵の王を見る。
その姿は先程までの小柄な姿から、超巨大な筋骨隆々の体躯へと変化し、並ならぬオーラが全身から溢れ出ていた。
無表情で目を閉じる王の隣で、ティミッドの女王が細々とした声で告げる。
「『肉体強化』×35、『パワー増幅』×46、『俊敏増加』×18、『鉄壁』×20、『限界突破』×77、『順応能力』×100……それに追加し、先程の『魔力付与』×7、そして……これで最後……」
女王はティミッドの大きくなった背中に大きな魔法陣をくっつけると、脱力し倒れ伏す。その身体は脚からキラキラと光り、粒になって消えていく。
「……『狂暴性』×44。これで我が主は、最強の戦士となりました……」
その言葉を最後に、女王はフィールドから姿を消す。
『……』
ティミッドは閉じていた目をゆっくりと見開く。その眼前には、四人の姿はどこにもなかった。
『逃がさん……』
ティミッドはクラウチングスタートの構えを取り、
『逃がさん!!』
前方の樹々を薙ぎ倒しながら、まっすぐ中央を目指し走る!!第一の標的は……
「!何で四人で分かれたのに私のところに向かってくるのにゃ!?」
まっすぐ森を抜け、噴水広場に入ろうとしている赤髪の少女。ティミッドの拳はその顔面を捉え--
「そうはさせない!!」
--る直前、上から何かが腕に落下してきた事により、ティミッドの拳はリィから大きく逸れ、地を割った。
『……』
ティミッドは先程殴りかかろうとした右手と逆の腕で、上に乗っている何かを吹き飛ばそうとしたが、それは成らなかった。
その何かを、ティミッドの拳が貫通したのだ。
狂暴になっているティミッドも、さすがにこれには驚いた。それと同時に、その腕に強い熱を覚える。
ティミッドは腕の上のものをきちんと眺める。それは、
「腹を貫通とか……俺がフェニックスじゃなかったら死んでたんじゃ……いやまぁ、俺の身体が脆いだけなんだろうけど……」
王、ライザー=フェニックスであった。
オマケ
カーラマインとシーリスは、赤々と燃える森の中から飛び出してきたリィに声を掛けようとし、その後出てきた大男の姿を見て、そのオーラに圧倒され身体が竦み、固まった。
その拳がリィに振り下ろされる直前、何とか身体を金縛り状態から戻す事には成功したが、しかしもう救出は間に合わない!と悟りリィを助けるのを諦め、殴った後の隙を突くため、攻撃の構えを取る。
敵の拳がリィの顔面を捉えようとするその瞬間、思わず二人は目を逸らす……しかし、いつまで経っても、『兵士』リタイアのアナウンスは聞こえてこない。
二人が再びそちらに目を向けると、そこにいたのはリィと敵の間に立ちはだかる、二人が信頼する王であった。
「リーダーが闘うつもりのようだ、私達は退こう」「ああ、リィを救出しないと」
二人は騎士のスピードで、ライザーの後ろで白眼を剥き失禁して気絶しているリィを回収し、自軍の本陣に向かって全力で走った--
次回、初めてのレーティングゲーム、果たして勝利となるのか?
今回も読んでいただき、ありがとうございますm(_ _)m
これからもよろしくお願いします!