「『こちふかば 匂ひおこせよ 梅の花 あるじなしとて 春な忘れそ』これはかの大和呪術の起草者としても知られる菅原道真公が、大和の端、修羅の国は太宰府に左遷される前に京の実家の庭の梅の木に残した歌で、菅原道真公の死後、この梅の花が咲き誇った春の季節に朝廷の重鎮が大勢死んだ事から、宿魂と呪術を融合させる初の試みであると「すぴー……」……」
とある和風の屋敷、中庭の池が見える一室で、とある女悪魔がもう片方の女悪魔の頭を持っている扇子で思いっきり叩いた。
「てっ!?……何しますの!せっかく良い夢を見ていたのに、形無しですわ!」
「姫様、それを言うなら台無しですよ」
「話を煙に巻かないのですわ!お通さん、あなた華奢な見た目の割に暴力的でしてよ!」
「姫様が話をお聞きになられないからでしょう?」
「だって、庭にこんな綺麗な梅の花が咲いているのに、梅の呪術の話なんて聞きたくありませんもの。それに、せっかく空が晴れているのですし、こんな日に月光に照らされると、眠くなって当然と言うものですわ」
「姫様は曇りの日も雨の日も、十中八九眠っているではありませんか!」
「……だって和歌なんてつまらないんですもの。わらわは蹴鞠がしたいの。あ、近頃流行っていると言う南蛮蹴鞠でも良くってよ」
「姫様はいつもそうやって蹴鞠蹴鞠と。はぁ、和歌も唄えばお上手ですのに……」
「得手不得手ではなく、好き嫌いの問題ですわ。私は、ものを読むと眠くなるの。あ、絵は別ですわよ。一度見せていただいた『怒羅愚・蘇棒流』なる書物は、とてもわかりやすくて面白かったですわ」
「あれはマンガですっ!娯楽品!面白くて当然ですし、そもそもあれは学問ではありません!」
その後三分ほどお小言を受けた後、また和歌の授業が開始される。
「はぁ……退屈ですわ、こんな日常。ただ起きて和歌を詠んでお話しして食事して勉強して眠るだけ。つまらないですわ」
「……しょうがないではないですか、姫様。あなたは中流貴族として、そして我が家の唯一の女子として、立派な殿方に嫁ぐ為の知識が必要とされるのですから」
そう言われて、姫様と呼ばれる女悪魔ははぁ、と息を漏らす。
「異国のおとぎ話で見た様な、私を連れ去ってくれる白馬の侍はいないものでしょうかね…」
その小さな独り言は、指導役にに聞かれる前に、庭のししおどしの音に消されたのだった--
--グレモリー領、和の国。ここは現代グレモリー卿の趣味により、日本の平安や戦国、江戸時代の文化がかなり精密に取り込まれた、いわゆる日本街である。
そこにライザーは、友人と二人で温泉に入りに来ていた。
「いやぁ、やはり温泉は良いもんだなぁ。一度入ってから気に入ってしまって、家にも風呂をつけたくらいだ。お前はどうだった?」
甚兵衛姿に下駄と言う和風な出で立ちのライザーが尋ねると、もう一人ものんびりとした口調で返す。
「確かに温泉とは、良いものだ。疲れが全て、無くなったような、錯覚を覚えた。確かに、家に取り付けたい、気持ちもわかる」
もう一人……ライザーの初のレーティングゲーム相手でもある、ティミッド=オセはそう言うと、小さな手で小さな肩を優しく揉んだ。
「それにしても……どうだ?TV局の方は?」「もう、あまり、来なくなったさ。まぁ、初戦で、敗退した、だけの王が、引退したところで、特に、話題性も、無いだろうしね」
ティミッドはライザーとのレーティングゲームの一戦の後日、レーティングゲームの引退を発表した。一戦だけながら上級悪魔のルーキー同士の熱い戦いという注目性のある試合の後の引退だった為、世間に少し影響を与えたのだった。
『これで、いいんだ。僕は、戦いは、好きじゃ無いし。眷属が、傷つくのも、見たくは無いしね』
引退の直後、自分に責任があると感じて謝罪に行ったライザーに、ティミッドはそう言った。
『でも、なんか責任を感じちゃうな……俺の戦いがトラウマとかになって無いか?』『トラウマ?僕は、戦いは、好きじゃ無いけど、あの戦いは、とても熱い、良い試合だと、思ってる。君との、戦いは、嫌いじゃ、無かったよ』
そんな話から仲良くなり、レーティングゲームから二週間で一緒に温泉に行くほどの仲になったライザーとティミッドだった。
「……?ちょっと、失礼、信号が、来てる」
ティミッドはそう言うと少し離れて、手を耳に当てる。どうやら通信魔術が送られて来たようだ。何回か頷くと、ティミッドは少し残念そうな顔をしてライザーへと近づいてくる。
「ちょっと、家の用事が、入っちゃった。今日は、もう、帰らなきゃ、いけない」
小さな声で申し訳なさそうに言うティミッド。それに対しライザーは、「……そうか。わかった、じゃあまた今度会える時に遊ぼうぜ!」と返事をする。
「うん、また」
ティミッドはそう言ってニコッと会釈した後、人混みの中に紛れて言った。
そして、一人になったライザー。
(さて、暇になっちゃったぞ。本来ならこのまま江戸の町から戦国の町に行くつもりだったけど、ティミッドがいない状況で一人で行くのもな……)
急に無くなった予定の代わりになる物を探そうとするライザー。そこで一枚のチラシが家の柵に貼られているのに気がついた。
「『百人一首カルタ大会』?何だこれ、面白そうだな。行ってみるかな」
カルタ大会のチラシを見て興味を持ったライザーは、その会場である平安の町の、とある貴族の家に向かう。家の庭では、30人ほどの男女がワイワイと騒いでいた。更に入り口の門から、甲高い女の子の声が飛ぶ。
「残り参加者は後三人ですわよ!さぁさぁ皆さん寄ってらっしゃい!豪華景品のある百人一首カルタ大会、もうすぐ定員ですわ!」
ライザーはその女の子に近づくと、参加の意を表明した。ライザーは奥に通され、他の男女と同じく庭へと連れて来られた。その後、更に二人の男が庭にやって来たところで、家主らしい髭を生やした男が現れて言った。
「これはこれは、皆様気合い十分なご様子で。では、定員が揃った事でありますし、ただいまより百人一首カルタ大会を開催しますぞ」
その言葉に周りも盛り上がる。ライザーも一緒になって盛り上がった。
「まずはくじ引きで相手を決めてくだされ。それから第一回戦ですぞ」
言われた通りくじを引く。ライザーが引いたのは三番。三の席に着くと四の席には相手らしい女がすでに座っていた。
(……げっ!?)
ライザーはそこで気づいた。このカルタが、正座で行われる事に。
(俺は正座は嫌いなんだが……足が痺れるし……)
そうは思いながらも座らないと話が進まないので、仕方なく正座するライザー。それから数十秒後、試合が開始された。
『すみのえの〜』「はいっ!」「えっ?」
『こひすてふ〜』「はいっ!」「は?」
『む「はいっ!」 「(゚Д゚)??」
そして50枚が詠まれた時、
「やった!勝った!」
ライザー達の勝負が決した。結果は50対0。ライザーが圧倒的だった。
圧倒的に、弱かった。
「出口は入り口と同じ場所ですのでな」「あ、はい」
ライザーは言われるままに門に向かう。
「何だあのカルタ。絵も何も無く取り札も文字だけだったぞ?しかも悪魔文字では無いし。なぜ敵は取れたんだ?わからん」
頭に疑問符を浮かべながら、ライザーは門の付近までたどり着く。そこで、先程の受付の女の子の声が聞こえた。
「あーあ、このまま外に飛び出せれば良いのに。私はまるで籠の中の雛。成長して飛び立つ事の無い、永遠の雛鳥の様……
せのはねよ とべよとべよと なきながら とぶこころねは なきにひとしき」
「すいません、外に出たいんだが」「ぴっ!?」
ライザーが声をかけると、遠くの方を見ていた女の子は肩をびくりと揺らす。
「あ、あれ?まだ一回戦も半分が終わったくらいですけれど?急用でもお有りでして?」「いや、負けたから帰るだけだけど…」「そうですか……」
2人の間を、どこか心地の悪い空気が流れる。
「外、出たいのか?」
ライザーが何気無くそう言うと、女の子は再び外に目を向けながら言う。
「確かに、外への憧れは尽きて止むことがありません。でも、私はこの屋敷から出る事は出来ません」
「魔法でもかけられてんの?」
「そういう訳では無いのですけれど……」
女の子はため息を吐きながら小声で言う。
「誰か私を連れ去ってくれる者はいないのかしら……」
「俺が連れ去ってやろうか?」「え?」
オマケ
「はぁ〜、温泉とはやはり良い物ですね。日々の疲れが癒されます」
はっぴのような服を羽織った女の子は、風呂桶の中の手ぬぐいをいじりながら温泉の外に出る。外でコーヒー牛乳のビンを一つ買うと、栓を開けて片手を腰に当て、ぐいっと一気飲みする。
「プハァ〜!この一杯の為に生きてる!……なんちゃって」
入り口の前でそんな事をしている女の子の横を、二人の男が避けるように通る。その二人の男に、女の子は見覚えがある気がした。
「あれ、もしかしてあの二人この前のレーティングゲームの!!……ってあれ!?消えた!?人混みに紛れた!?もー!!」
一人芝居やってる場合じゃなかった!と、女の子は一人地団駄を踏んだ--
今回も読んでいただき、ありがとうございますm(_ _)m
これからもよろしくお願いします!