イルとネル、双子の姉妹は対峙する。その手にはいつも戦闘時に使うチェーンソーがない。
(?……二回戦はどっちかと当たるだろうからあのチェーンソー捌きを一回ちゃんと観察しようと思ってたのに、二人とも使わない訳?)
二人は同時にぺこりとお辞儀し、ファイティングポーズを取る。ただ、そのファイティングポーズは二人には珍しく、それぞれ別の物だった。
(ネルのは、拳法風……と言うより、イザベラみたいなパンチングスタイルかしら。で、イルのは……なんだろ、あれ?)
雪蘭はイルの構えを見て、雪蘭は眉をしかめる。
姿勢は少し猫背気味、腕は前に出しているが、拳を握ったりはせず手は開いたままだ。脚は大きく横に開いている。あれで素早く動けるのだろうか?
(あれかしら、レスリングスタイル。私はまだ戦った事も見た事もないけど)
雪蘭は初めて見るであろうイルの攻撃スタイルに、期待を覚える。
「いくよ、イルちゃん!」「良いよ、ネル!」
まずネルがイルに向かってダッシュ。そして、イルの3mほど手前で、前に向かってジャンプ!
(え、でもあの距離じゃイルには届かない……!?)
ネルが届いたのはイルの1mほど前、ネルはそこに手を突き……手と腕と翼の力でもう一度飛ぶ!
そこから繰り出されたのは、重力と羽ばたきによる超スピードの両足ドロップキック!
しかしイルはそれを冷静に見る。そしてギリギリでその横を通り抜け、
ネルの襟首を掴み、そのまま彼女の身体を地面に叩きつける!
ネルはゴホッと咳き込むが、身体を強引に回してイルの手を離すと、そのまま背中を使ってその場でスピンし始めた!まるでブレイクダンスの様な動きに、雪蘭は見入ってしまう。ネルの下半身がだんだんと上に昇っていき、倒立姿勢に近づいていく。ついに身体が地面から離れ、掌を地面につけて高速回転するネル。
と、その回転により勢いをつけた脚がイルに向かう!イルは再び済んでのところでそれを避けたが、ネルの回転と攻撃は止まらない!彼女の二の足、三の足がイルへと飛び、それをイルはひたすらに避ける!回転速度に手がついていかなくなったのか、少ししてネルは倒立をやめ、最初の構えに戻る。その一瞬の隙をついて、イルがネルに飛びかかる!
「でりゃああ!!」
そのイルの顎を、ネルの右脚が蹴り抜く!イルは上に吹き飛び、重力に引っ張られて落ちていく。寸前で翼を出し地面と衝突するのは避けたが、彼女は顎を抑えて半泣きになっている。かなり今の技が効いたらしい。
「ネル、イルもう怒っちゃったよ!脚の骨折っても怒らないでね!!」
その言葉と同時に、イルは最大出力でネルに近づく!ネルもここまで速く間合いを詰められるとは思っていなかったのか、少し動揺が走る。
そのネルの胴をイルが抱きしめる様に腕を回して掴み、
「バックドロップ!!」
翼を使っての縦回転で、ネルの頭を地面に叩きつけた!!ネルの口から苦痛の声が上がるが、イルの攻撃は終わっていない。
彼女は胴を掴んだまま、翼で上空へと飛んでいく。数mほど昇ったところで、彼女は翼を引っ込めた。
重力に従い、二人の身体は地面へと落ちていく。が、ネルは捕まっていない脚を使ってイルを攻撃し、上空からの叩きつけから逃げる事に成功した。
空中で火花を散らす二人。しかし、イルが先んじて地面へと降りる。ネルも同じく地面へと降りた。
(?なんで地面に?地面の方が都合が良いのかしら?)
雪蘭は考察する。確かに今までの攻撃のうち、イルの攻撃は全てが相手を地面に叩きつける技だった。地面に相手がいないと不利なのかもしれない。ネルは……今までの攻撃は空中でもできそうだ。しかし地面に降りたという事は、イルに合わせたのだろうか?
今度はネルが間合いを詰め、右上段蹴りでイルの顔面を狙う。先程の顎のダメージで痛みと脅威を練り込まれたのか、イルは後ろに跳んで距離を取る。対してネルは上段回し蹴りの勢いで側転し、イルとの距離を再び縮めた上で、
「突撃ぃ!!」
地面を両足で蹴り、空中で回転してイルに向かって飛び蹴りを放つ。今度はイルもそれをちゃんと見て避け、
それと同時に、ネルの左足がイルの脇腹に入る!
「えっ!?」
イルの意識が脇腹に向かう。それを狙って今度は右脚をかかと落としの様に落とす。それは頭に当たり、イルは反射的に頭に手を当て悶える。
「イルちゃん!まだまだ終わらないよ!」
ネルが次に繰り出したのは足掛け。イルの脚がもつれる。そしてガラ空きになった腹を見て、再びネルは手を地面につくと、
「大回転!!」
その身体を再び踊る様に回す。脚がプロペラの刃の様に次々とイルの身体に叩き込まれていく!連撃がモロに入り、イルの身体が後ろに吹っ飛んだ。人一人分離れたところで、イルは倒れる。
「まだ終わってないよね!」
ネルは手をバネの様に曲げ、反動で飛び上がる!空中でクルクルと横回転を繰り返し、
「喰らえ、ネルの必殺技!!『フェニックススクリュードライバー』!!」
ドリルの様に回りながら、全力で突撃する!!空気を切る音がだんだんと大きくなっていき、それと比例する様にだんだんと突撃スピードも上がっていく!そしてその脚がイルの身体に届く、その寸前で、
「まだ終わってないよ!」
イルが立ち上がる!彼女は地面から脚を離し、ネルの身体を受け止めようとするが、あまりの回転に腕が弾かれてしまう。
「甘いよ、イルちゃん!ネルの必殺技が掴める訳ないもん!」
そして、イルの腹にネルのつま先が食い込んでいく!ネルの身体は回転と勢いを殺しながらも、ゆっくりと脚をイルに押し込んでいく。
「イルちゃん、これで終わりだよ!!」
ネルは右脚を腹から抜き、再び顎に向かって放つ!イルが反撃する事ができない、それほど弱っているのを見越しての事だったが、
ガシィ!と、イルの両手がその右脚を掴む。
「えっ!?」
今度はネルが、疑問の声を上げる。
「イルちゃん、もう動けないんじゃ……」
その言葉に、イルはニコッと笑うと。
身体から残ったネルの脚を抜く様に彼女の身体を引っ張る!ネルはその勢いのまま、上空へと放り上げられる。技に移行したり防御体制に入ったりする前に、ネルの両脚がイルに掴まれた。
「……イルちゃん、離して?」「やだ☆」
数秒後、ネルの身体がパイルドライバーで地面に叩きつけられた。
「……勝った!!」
キュー、と目を回すネルを見て、イルは両腕を上げる。それを見て雪蘭は思った。
(……相性はそんなに悪くはなさそうね……)
〜オマケ〜
いったん部屋に戻り、健闘した二人の身体を『フェニックスの涙』を染み込ませたタオルで拭いてやるライザー。彼女らはお互いの攻撃を受けたところに立派な青痣や腫れを作っていたが、『フェニックスの涙』によってスウッとそれらも引いていく。
「「ありがとう、お兄ちゃん!」」
頭を下げる二人の頭を、ライザーは強く撫でてやる。
「お前達二人もよく頑張ったぞ!ちゃんと課題通り強くなってたしな!」
それを部屋の外でコッソリと聞いていた雪蘭は、『課題』という言葉に反応する。
(やっぱり、ライザーは二人に何か教えてたんだわ。それも、私達の拳法以外の何かを!)
悔しさと怒りがだんだんと湧いてくる雪蘭。その課題の詳細を聞くためにドアに再び張り付く。
「でも、TVで見た格闘技を真似るって、意外と大変だったねー」「うん、なかなか動きとか技とか覚えるの、難しかったー」
その言葉を聞いて雪蘭はずっ転けた。
(て……テレビ?テレビの技の模写?ああいうのって達人とかがやる『魅せる』もので、闘う人がやるもんじゃないでしょ……)
雪蘭は思う。今の彼女達は、その『魅せる』攻撃を実戦レベルにまで昇華し、雪蘭も見事と思う様な勝負をしてみせた。
イルとネル、二人の才能を肌で体感する雪蘭。
(これは……将来、とんでもないバケモノになるかも。いや、なる。もしかしたら、私もおいおい抜かされるかも……)
不安になる頭をブンブンと振って、雪蘭は気持ちを改めた。
(そうよ!あの子達が強くなるっていうなら、私はもっと強くなれば良い!今のところはまだ私の方が強いはず。そこから同じだけ成長していけば、追いつかれる事はない!)
その為に、何としても今回勝たねば、と心に決める雪蘭。と、その耳に更に三人の声が聞こえてくる。
「えっと……お前達は何を見たんだっけ?」
「イルはねぇ、プロレスとサンボ!」「ネルは、カポエイラ!!」
(え、何?何それ?プロレスはわかるけど、後の二つ!私そんな格闘技聞いた事も無いわよ!?)
雪蘭は思う。まだまだ世界は広い。
今回も読んでいただき、ありがとうございますm(_ _)m
これからもよろしくお願いします!