「……あなたじゃ私に勝てないわ、今の私には」
「何をー!」
言われたイルは、その言葉に反論するように雪蘭に向かっていく。雪蘭との衝突、その寸前でイルは体制を落とし、足へのタックルに移行した!
「おりゃあ「フッ!」アバッ!?」
イルのタックルはしかし、顔面への蹴りによって中断された。イルは鼻血を吹き出しながら、地面を転がる。その目がハッと開かれた。
「そうだった!サンボに大切なのは『待つ』こと!相手が懐に入ってくるのを待つことが、サンボの必須条件!」
イルは服の袖で鼻血を拭うと、構えの姿勢に移った。イルはその状態から動かなくなる。
それを見た雪蘭は、今度は逆にイルの懐に突っ込む!
雪蘭の左拳がイルの腹に向かって飛ぶ……それを見てイルは嗤う。相手の攻撃を捉えてカウンター、という流れをずっと考えてきたイルには、打ってくる拳の動きがむしろスローに見えた。
(もらった!)
イルはその手を掴んだ!脚を絡ませ、腕ひしぎの要領で折りにかかろうとする!
……しかしその前に、雪蘭の右の拳がイルの顎先をしっかりと捉えた。
突然の衝撃。イルの視界がぶれる。力が入らない。
イル自身は知る由もないが、この時彼女は脳を頭骨内部に激突させ揺らし、脳震盪を起こしていた。
さらには既に意識を分散されたイルの下顎に、強烈な回し蹴り。その衝撃はイルの意識を完全に飛ばし、同時に軽い体重の彼女を文字通り宙に浮かせるには十分な威力だった。
白目を剥いて落ちてくるイルの身体に雪蘭の長い脚が絡まる。そのままパイルドライバーの要領で、雪蘭はイルの脳天を地面に叩きつけた!!!
数秒して、雪蘭はパイルドライバーの構えを解いた。倒立をしているイルの体制はそれにより崩れ、地面に倒れる。
十数秒経っても、イルは起き上がってこない。それどころか、身動き一つ取らなかった。
それを見てライザーは高らかに告げる。
『勝負あり!!』
雪蘭はもはやイルを見ていなかった。彼女の視線は既に、観客席にいる悪魔に向けられていた。
「ニィ!!このままかかってきなさい!!私は一刻も早く優勝しなきゃならない。休憩する必要もない。さっさとアンタを倒すわ!!」
その言葉に、観客用に出された室外用のイスでくつろぎながらも試合を観察していたニィは焦る。
(れ……レベルが違いすぎる!!私がかなうわけ……)
不意にポン、と肩に手を置かれる。ニィは振り向いた。
そこには、かつて戦った二人の強敵がいた。
「心配するな、そして恐怖するな。お前は格上相手でも十分にやっていける。イザベラとの戦い、そして私との戦い。お前はどちらにも苦戦しながら、しかし知恵と能力を駆使して勝ち上がってきただろう?」
「大丈夫だ、ニィ。お前ならきっといい戦いができるさ」
「二人とも……わかったにゃ」
うつむいていたニィは頰を一度、強く叩く。怯えや焦りによって混濁していた思考がはっきりする。尻尾をピン、と立ててニィは告げる。
「行ってくる!!」
ニィは背中を押されながら、バトルフィールドに飛び出した!
〜オマケ〜
「あれ、あそこは私が声をかける場面のはず……」
某暴走メイドはそう言いながら、イルの脚をゆっくり持つ。肩の方はネルが抱くように持ち上げている。
「まぁいいにゃ。変なこと言って姉の威厳を下げるより、こっちで雑用こなしてる方がマシなのにゃー」
ニィはそう言うと、ゆっくりとイルをフィールド外に運び出して簡易ベッドに寝かせた。
「……ハッ!」
数分してイルは起き上がる。顎の痛みに顔をしかめながら、横になっている今の状況を確認し、嘆息する。
「負けちゃったかー、ざーんねん」
看護の者に肩を貸してもらい、起き上がるイル。彼女の視界の中では、今にも試合が始まろうとしていた--
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