かつての盛りが見る影もない程に、戦火に焼かれた宮殿。その地下で一組の親子が頷き合う。
「では始める。構えよ」
そう言って父親は、横目で娘を見ながら持っていた笛を咥えた。
奏でられた笛の音は甘美に響き、その音に合わせるように娘は踊る。腰を振り、腕を回し、踊りながら移動する。床に絵を描くように、決まった場所を踊り歩く。
そして数分後。笛が鳴り終わると同時に、娘は自らが描いた円の外に出た。
「ご苦労だった。では、今より始める。
古より出でし悪魔よ!人ならざる者よ!
我は汝の同胞にして、汝の盟友である!
汝、我と契約せよ!汝、我と抱擁せよ!
その力を持ってして、我が願いを叶えたまえ!
顕現せよ、『フェニックス』!!」
言い終わると共に現れたのは、巨大な火柱。娘は思わず眼前に手を翳す。その手を離した時、一人の男がそこに立っていた。
全身を紅い衣で包んだ、長身の男。親子のような褐色肌ではなく、透き通るような白い肌に、金色の髪を持っている。そしてその背には、立派で巨大な黒羽が一対。
男は整った顔を歪めつつ、言う。
「フェニックス家が三男、ライザー=フェニックス。契約に則り参上した。問おう。お前が俺の契約者か?」
「そうだ」
「結構、ならば契約と行こう。何が望みだ?」
「フェニックスよ、不死の盟友よ。汝が先祖をそうしたように、我らを守りたまえ。我らの命を救いたまえ」
「結構。契約が終わったあかつきには、お前達の命を貰うとしよう」
「我らには何十何百の敵有り。汝、その命を代わりに持っていくべし」
「結構。それでは契約だ」
ライザーは懐から一枚の紙を取り出した。父親は同じように懐から、小さなナイフを取り出す。
そのナイフで人差し指の先を切ると、血が溢れる。溢れた血は紙に吸われるように落ち、落ちた血は紙に文字を浮かび上がらせる。
「結構。契約は完了した。これより我は汝の盟友となり、同胞とならん」
契約
「という訳で、こんばんは。ライザー=フェニックスだ」
「どうもよろしく。盟主変わった?」
「変わってねーよ。子供が増えて末席の俺が出てきただけだ」
「そーかそーか。前来た時はいつだったかの」
「800年前に来たでしょ、おじいちゃん」
「ほーかほーかって誰がおじいちゃんだ、俺はまだ42だぞてめぇ!」
「うるせぇこの若造が!」「お前こそ偉そうに出てきたけど、俺より若ぇだろ!俺に誤魔化しは効かんぞ!」
娘は目をパチクリと開き、二回瞬き。急に親しい間柄のように馴れ馴れしくなった父と悪魔に、何がなんだかわからない様子だ。
そんな娘の姿を見て笑う父親。彼は指先から出した青い火を振りながら、言う。
「我が家はフェニックス家の契約先のお得意様。フェニックス家とは主従の絆を何度も交わした」
橙色の火を灯しながら、ライザーが話を引き継ぐ。
「俺の兄貴も800年前に契約をし、俺の父親も数千年前に契約を結んだ」
指先の火を掴むようにライザーの手を握る父親。次の瞬間、二人の手が白炎に包まれる。ライザーが手を離した後も、父親の手の中で大きくなった火は燃え続ける。火はゆっくりと腐っていくように黒色に変わり、やがて闇が炎を支配した。
「血筋は薄く薄くなったが、細々と続く我が家を、度々幾度も助けてくれた。もはや我らは主従ではない」
真っ黒の炎を背後に放り投げ、父親は前にいる娘に向かって宣言する!
「我らは数千の時を共に生きた、
ビシッ!と決めポーズを決める父親とライザー。投げられた炎は空中で破裂し、どういう原理か鮮やかな七色に分かれて弾け飛ぶ。綺麗に派手に、格好良く見せているが、即興のせいでライザーの顔と父親の腕が被っていることに娘は突っ込まない。
アクションがないまま十数秒、ついに観念したのか娘が手を叩くと、ライザーと父親は満足そうに頷き元の場所に戻った。
「……で、今日俺を呼んだのはどういった用件だ?」
その言葉に父親は目を瞑り、上を向いて言う。
「ちょっといろいろあってな……大臣に裏切られた。首都でクーデターだ。追われてる。家が燃やされ、過激派が迫ってきてる」
「……何やったんだ?」
問いに首を振る父親。彼は未だに手の中に少し残る黒火を強くしたり弱くしたりと遊びながら言う。
「ヤクの厳重規制。近頃はこの国にやる奴が増えた。昼間っからしゃぶってるやつもいる。田舎に行けば、道端で舌出して倒れてる奴なんて腐る程いる。最近は外からも入ってきてるらしい。俺はそれを止めるべく、法律を作った。厳しいなんて言われちゃいるが、普通のやつはやらねぇ事をやるんだから、厳しいのは当たり前だろ?」
「しかし、それを受け入れない奴が大勢いた、か。大臣は何の関係が?」
「奴がこの
バンッ!イラつきを抑えるためか壁をなぐりつける父親。手の炎は火の粉となり空中に散っていく。その肩を叩きながらライザーは冗談めかして言う。
「王ってのは大変なもんだ。敵も多い、仕事も多い。恨まれ憎まれ蔑まれ馬鹿にされて、それでもそんな奴らの上に立たなきゃならねぇ。引っ張らなきゃいけねぇ」
「梯子外されて背中を刺されるまでがワンセットだ」
「そりゃお前だけだろ」「てめぇ言ってはいけないことを!」
二人は一瞬睨みあった後カラカラと笑うと、今度は素手で握手を交わした。
「稀代の魔術師にして世紀の愚王、シュトレイゼン=アル=カサンドレだ。生き延びる為にお前さんを
「末席の不死鳥にして最強の愚王、ライザー=フェニックスだ。せいぜい俺を楽しませてみせろよ」
傾国編、スタートです!今度の眷属候補は誰なのか!?
今回も読んでいただき、ありがとうございますm(_ _)m
これからもよろしくお願いします!