魔法少年マジカルアスラン 作:仙儒
いよいよヴァレンタインが近づき、学校も町もざわめき始めていた。
クラスの男子も幾つ貰えるかとかを、女子は誰に本命チョコを渡すかをこそこそと話し合っている。
やっぱり、気になるものか…。俺は前世で貰ったことがあるのは妹と母親だけだったので何のイベントもない普通の日だと言い聞かせている。
まぁ、それは半分本当で、残りの半分は嘘なのだが。
知っての通り、アスランの母親はこの日に殺された。
そこからアスランの人生は狂ってしまったのだ。くしくも今生の母親も核によるテロにて死んでいる。
だから、どうしても能天気にヴァレンタインでチョコ何個貰えるかな? 何て気分には慣れないのだ。
C.E.でもこのリリカルなのはの世界でもこれがきっかけで戦争になり、多くの命が奪われた。その指導者までもが同じく父親であり、士郎さんに大怪我を負わせ、なのはを孤独に追いやったのだから。
気が付いてしまったのだ。生まれ変わりで、神様に特典をもらい、この世界に来たが、この世界に生まれ落ちたからには、この世界も現実なのだと。
自分の思い通りに世界が回っている訳でもなく、理不尽な事もあるのだと。
踏み台転生者とかが一番気が付かない部分だ。この世界ももう一つの現実だと。
だから、人を、邪魔になりそうな奴を平気で殺そうとする。
まぁ、そこらへんは俺も変わらないが、贖罪意識だけは持っている。気に食う、気に食わないで殺しはしない。それだけはと心に誓ったのだ。
それが、幾らこの世界に転生した時の設定上のことでも、もう事件は起こり、殺し、人々を泣かせて来たのだから。
っとまぁ、悲劇の主人公ぶっている訳さ。主人公と言葉の綾で使ったが本当に主人公だと思っているわけでは無い。
今も進行形で苦しみ、悲しみ、涙を流して死んで逝ってる人なんて五万と居るだろうさ。日本は安全で良かったね。そのことに感謝した。
最近アスラン君がぼーっとすることが多くなった気がするの。すずかちゃんもアリサちゃんも気が付いて居た。
アリサちゃん何て、悩みがあるんなら言いなさいよバカ!と愚痴っていた。
ちょうどヴァレンタインもあるし、チョコを渡すついでに翠屋でプチパーティーを開くことを三人で企画していた。
チョコも渡せてアスラン君も元気にさせる。正に一石二鳥なの。
そして当日、何時ものようにアスラン君を待っていた。元気を出して貰うように、お母さんに頼んでアスラン君の好きなロールキャベツを作って貰ったの。私も少し作るお手伝いをした。アスラン君きっと喜んでくれるの。
それと大事に包装したチョコを忍ばせた鞄をちらりと見てニヤニヤする顔が止まらないの。
だけど、バスが来てもアスラン君は来なかった。こんなのは初めてだ。
発射するバスに乗り込み何時もの席へと向かう。
「おはよう、なのはちゃん。あれ?アスラン君は」
すずかちゃん言葉にわからないと首を左右に振る。
「あいつにしては珍しいわね、寝坊かしら?」
何て言う事を口にしていた。
学校に着いたら、アスラン君のロッカーが少し開いていて、私達よりも早く学校に来ていたのかと思ったけど、アリサちゃんが、
「これは何かあるわね…」
と言ってアスラン君のロッカーを勝手に開けてしまった。
バサバサッ!
アリサちゃんの行動にも驚いたけど、もっと驚いたのはアスラン君のロッカーからあふれ出した手紙の数だ。
思わずに三人そろって声をあげてしまった。
「こ、これってラブレター?」
「しかも、これだけの数…」
すずかちゃんと私は信じられないものを見たように呆然としてしまった。
そんな中、アリサちゃんが声をあげる。
「なのは、すずか、ちょっと急ぐわよ!」
そう言って私達の手を掴んで、教室へ向かい走り出す。
「ちょ、アリサちゃん!」
「に、にゃー!」
アリサちゃんは教室の扉をそのまま足で開けた。
あ、アリサちゃん、流石にそれは…。
そう言おうとしたらまた愕然とした。
アスラン君の机の上にはチョコの山ができていた。
流石にこれには危機感を覚えたの。
それは、走って来た、私達三人の全員の心境だった。
しかし、肝心なアスラン君が居なかった。
もしかしてもう誰か知らない人から告白を?
そんな嫌な予感が走った直後、探しに行こうとしたら、先生が来てしまったのでしょうがなく席に座る。
「高町さん、月村さん、バニングスさん。ザラ君の事何か知らないかしら?連絡がないのよ」
HR終わりに先生に言われた。
「え?先生も知らないんですか?」
思わず聞き返してしまう。
「ええ、そうなのよ。普段真面目な子だから何かあったんじゃないかって、心配で…ってごめんなさい。貴方たちにする話じゃなかったわよね」
そう言うと去ろうとした先生だったが、戻って来て、
「ごめんなさい、これ運ぶの手伝ってくれませんか?」
そう言ってアスラン君の机の上のチョコを指さす。
私達は顔が引きつっていた。
家の庭の湖の墓標に向かい合っている。
最初こそ涙が出そうだったが、時間が経つにつれて涙は引っ込んでいた。
いつもはイージスが何か言ってくるが今日に限ってはシュミレーションも学校の事も一切言ってこなかった。
イージスもこの日が何なのかを理解しているらしい。
やけに…やけに静かだ。
別に普段うるさいわけでもないが。
切なさがただただ溢れてきて、こう…駄目だ。言葉にできないや。
…花でも買いに行こう。
此処にいたらずーっとこのままだと思ったから。
そう言えば朝食も食べてない。せっかく町に出るのだからコンビニでは無く、ファミレスなりカフェなりで食べようと思い歩いて移動する。
しばらく歩いて時計を見ると一時を周っていた。そう言えば今日は珍しく起きるのも遅かったっけ?
そんな感じでよく見ずに近くの店に入る。
いらしゃいませーと言う言葉と同時にカウンターへと通された。
そこでパスタを注文したら嫌な予感がした。
そう言う予感はよく当たるものだ。
笑顔でパスタを持ってくる桃子さん。
ここ翠屋だったのか! まずいまずいまずい。目が笑ってない。
冷や汗が流れる。
「何で此処にいるのかしら? アスラン君?」
どう言い訳しても駄目なパターンだこれ。
しかし、神は俺を見捨てなかった。
「あれ?ザラ君じゃないか。いらっしゃい。今日は休みかい?」
言い方に引っかかるがすぐにそういう事かと気が付く。
こんな優しい顔してるけど父上を殺してるんだよな。要人暗殺の上で情報を集めない筈がない。母上の命日であることを知っているのだ。士郎さんは。
「…ええ」
一言、たった一言なのに言い出すのに時間がかかってしまった。
「…そうか、今日は僕のおごりだ。好きなだけ食べていきなさい」
「いえ、流石にそれは」
商売なのだ、流石にそれは不味いだろうと思って言い返したら、
「年上の人が良いと言ったんだ。断るのは失礼だぞ」
そう言ってウインクしてくる。
「ちょっと士郎さん!」
桃子さんが士郎さんの対応に口を挟むが、まぁまぁ、と言いながら
「男にはそういう日があるものさ」
の意味ありげな発言から何かを察したのか何も言わずに厨房へと戻っていった。
「シェロさん」
と呼んだら「くどいぞ」と返ってきたので苦笑いしながら、
「いえ、ブラック珈琲と持ち帰りでシュークリームを二つお願いします。此処はシュークリームが絶品だとなのはが自慢していたので」
「そういう事なら了解だ」
そう言ってケースがある方へと向かって行った。
パスタを食べていると箱と珈琲カップを持った士郎さんが戻ってきた。
「はい、シュークリームと珈琲」
それに礼を言いつつ珈琲カップを受け取ると冷たかった。
「シェロさん、珈琲カップは温めてから珈琲を入れないと風味が死んでしまいますよ」
確かそうだったはずだ。
「その年で珈琲のブラックを頼むと思ったからもしやと思ったけどつうなんだね。勉強になるよ。今度からはそうさせてもらうね」
そう言いながらメモを取っている。素人の浅知恵なんだけどね。
そう思いつつ珈琲を飲む。カップを温めなくても十分絶品だった。
「すいません、ご馳走様でした」
文字通りね。
「お粗末様。またいらっしゃい、なのはが喜ぶ」
ええ、と返事をして店を後にする。
歩いていると曇天だった空から雨が降ってきた。コーディネーターは風邪をひかないのでそのまま、歩いて花屋に向かう。ちょうど雨に当たりたかったところだ。
翠屋では士郎さんが気にかけて話しかけてくれてたので大丈夫だったが、一人になるとやはり心に来るものがある。
雨はちょうどいい。俺の目から溢れる物を隠してくれるから…。
花束を買って帰ろうとした時に路地裏にたまたま大怪我をした猫を見つけた。急いで駆けつけたが、雨に濡れて、冷たくなっているうえにこの出血量じゃ助からない。
そう思ったらイージスから言葉が発せられる。
(マスター、微かにですが魔力を感じます。使い魔です。状況判断から捨てられたものと判断します)
如何しますか?と聞いてきた。そう言えば生きて居れば死ぬ直前までなら契約を結べば助かるんだっけ?
「契約できるか?イージス?」
すると強く、
(できるかではなく、するか、しないかです。言ったはずです。マスターの願いを叶えるのが私の役目だと)
できると言う事だな。
「急いで家に転移して契約を」
(YESマスター)
そうして家に転移する。家の使ってない一室を使いベッドに寝かせる。
「イージス、早く契約を!」
このままでは死んでしまう。息をしているのが奇跡の状態だ。
(契約は完了しております、怪我が酷すぎたための目覚めへのタイムラグかと。一応回復魔法も勝手ながら使わせていただきました)
いつも通りのハイスペックな対応にふう、と息をついてしまった。イージスが言うのだから大丈夫だろう。安堵の溜息という奴だ。
雨に濡れたこともあって体力をかなり持って行かれたのか少しだるい。が、せっかく買ってきた花束を母上の墓標に置かない訳にはいかない。
また雨の外に出て母上の墓標の前に供える。
そのまま、家に入り、シャワーを浴びて布団に入った。
次の日何食わぬ顔で行ったら三人とも一言もしゃべってくれないどころか、ピリピリした態度だった。
そのまま、学校に付いたら職員室に呼ばれ、ポリ袋一杯のチョコの山を渡され、ラブレターの山を渡された。
そう言えばC.E.の世界の幼少期にキラと一緒に山ほどのチョコレートを毎年もらっていたのを思い出す。
昼休みになり、何時もの三人に呼び出されて何時もの場所へ行く。
相変わらずピリピリしていた。
「アスラン君、あのラブレターどうするの?」
なのはから低いトーンで言い出される。
「ああ、全部断るつもりだ」
「ふーん、全部ことわ、断るの!」
なのはから大声が発せられる。
「ああ、好きだって言ってくれるのは嬉しいが、俺は相手を知らない、相手も俺を知らない。そんな状態で付き合っても楽しくないだろう」
そう告げると三人が安堵のため息をつき、いつも通りの昼食となった。
因みに三人からチョコを貰った。
職員室のチョコを持って帰らないといけないし、しばらくは、お菓子はチョコだな。