第14話
買い物を終えた僕らはバイクに乗って拠点まで戻る途中だった、一台しか無い為行きと帰りで交代で運転を行っているので今は僕の運転なのだけど、背中に当たるアルカさんの胸の感触や彼女の体温を妙に意識してしまうので少々後悔している、行きも行きで背後から抱き着く形になっていたのでずっと平常心で居るのが辛かった、年頃の男子諸君は僕の気持ちを分かってくれますよね?
無心でバイクを走らせようにも、暇なアルカさんが色々話し掛けて来るのでその返事をしなくてならず、会話の内容もクルスくんの事ばかりなので曖昧な返事をしたらこのまま腰を折られそうだ。
「–––––おい、聞いているのか?」
「へっ? は、はい、聞いてます聞いてます」
「……前方に土煙りが上がっている、血と硝煙の匂いも微かにする、急いで戻るぞ」
確か今日は新人教育の一環として拠点近くの哨戒任務を隊長が行っていた筈だ、それにクルスくんも参加していた筈だ。
「とばしますよアルカさん、クルスくんが心配でしょうし」
「………クルスも、任務に参加していたのか!?」
驚愕するアルカさん、素で驚いている様なので彼女は知らなかったのだろう、何故副隊長のアルカさんが知らないのだろうかと疑問に思いはしたが、恐らくクルスくんがザカート隊長に頼んで黙って貰う様に頼み込んだのだろう、少しでも強くなる為に。
見るからに動揺しだしたアルカさん、やはり唯一の肉親の安否が気になるのだろう。
バイクの速度を四倍速にして限界まで加速して現場まで直行、後先考えない加速の所為でこのバイクはもう使い物にならないだろうけれど、バイク一台でクルスくんの命が救えるのならば安い物だ。
その甲斐あってか襲撃現場には最速で到着する事が出来た、しかし結果としては間に合わなかった様で、血の海の中に力無く横たわるクルスくんの姿が僕達の目に飛び込んで来た。
「く、くる、す?」
「アルカか、すまん俺が気を抜いたばかりにッ!!」
そう言って土下座をして謝るザカート隊長、しかし彼の謝罪は放心状態のアルカさんの耳には届かず、ふらふらとクルスくんの元に歩み寄り、弱々しくクルスくんの名前の名前を呼ぶ事しか出来ていない。
「クルス、しっかりしろ、頼む、目を開けてくれ……」
「アルカ、もう少しすればメングロウズ先生が到着する、辛いだろうがそれまで耐えてくれ」
確かに、あの人の腕なら何とかなるかもしれない、だがしかしこの深手では彼の到着までクルスくんの命が持つかは分からない、隊長だって気休めでしかない事は理解している筈だ。
アルカさんもその事を理解しているのだろう、その証拠に目元が涙に濡れていた。
「大丈夫ですよ、アルカさん、ザカート隊長、彼の命は僕が繫ぎ止めます」
…………僕はどうにも身内に弱い様で、アルカさんの涙を見たら自然に身体が動いていた。
今まで隠していた能力を使う事を決意し、泣いているアルカさんの肩を叩いてからクルスくんに触れる。
先ず彼の出血速度を停滞させて止血、続いて体の新陳代謝を上げて全身の傷を治療、命の前借りに近い行為なので他人には使いたく無い能力だし、こう言った細かな操作を行うのは疲労の蓄積になり、梔ちゃんが居ない状態では数日の間寝込む事になるのでもれなく僕が役立たず化するのだが、この際しのごの言っていられない、最後に彼の弱った心臓の動きを加速させて命を繋ぎ止める。
血液が残っているならコレで治療完了なのだけど、致死量に近い出血をしているので、常に僕が擬似的な血流操作を続けなくてはならない。
加速と減速、その二つの力を同時にクルスくんの全身の隅々へと行使しながら彼の命を繫ぎ止める事一時間と少し、能力使用による疲労によって僕の意識が限界に近付き始めた頃にメングロウズ先生が到着、輸血や細かな治療などを彼にバトンタッチした僕はそのまま気を失った。
––––––目が覚めるとその出来事から数時間が経過していたらしい。
僕の治療によってメングロウズ先生の手術が間に合ったのか、クルスくんが隣のベットの上で安らかに眠っていた。
彼の隣にはアルカさんが寄り添っており、その手を優しく握りながら胸を撫で下ろしていたのだけど、僕の視線に気が付いたのか、彼女はバツの悪そうな表情をしながら此方に振り向いた。
「起きたか、クロ」
「あ、アルカさん、クルスくんの容態は?」
「…………問題は無い、明日にも目を覚ますそうだ」
「それは良かった、僕も過労でぶっ倒れた甲斐がありますよ」
軽い感じで接してみたが、アルカさんの表情は沈んだままだ、別にクルスくんが助かったんだから悩む事は無いと思うんだけどなぁ。
「…………迷惑を掛けたな」
「何の事ですか?」
「私は、クルスが倒れているのを見て狼狽えるしか出来なかった、お前が居なかったらクルスは死んでいたかも知れない。 …………本当にありがとう」
そう言って、アルカさんは深々と頭を下げた。
起き上がって頭を上げさせようとしたけれど、身体が指一つ動かずに断念、彼女のお礼の言葉を素直に受け取る事にした。
「どう致しまして、別に気にする事でも無いですよ、美人の涙は最優先ですし」
照れくさい謝罪の言葉を受け取った僕は、恥ずかしさから冗談めかしてそんな事を言ってしまったのだけど、アルカさんは少しだけ顔を赤くするだけで流してくれた。
「………………美人か、私はお前から見たら美人なのか?」
「えっ? まあ、はい、五本の指に入る位には美人ですよ?」
「……………そうか」
「????」
何か一人で納得したアルカさんだったけど、心なしその表情は嬉しそうだから問題は無いのだろう。
その直後、僕のお腹が空腹を訴える音が盛大に聞こえ、アルカさんは優しく笑いながら、夜食を持ってくると言い残して退室して行った。
それから五分、いや十分だろうか? アルカさんが来るまで暇なので目を瞑って横になって暫く眠っていると、隊長の話し声が聞こえて来た。
但し、内容は最も知りたかった物であり、同時に最も知りたく無い物だった。
–––––––––先生も考えた物だ、データチップを二つに分け、その内の一方をクルスの脳内に埋め込むとは、コレなら絶対に発見されん。
フラグが立ったよ!! (死亡&恋愛)
原作だとクルスくんの怪我の原因が載ってなかった様な気がするので、クロくん+アルカ不在のこのタイミングで負傷して貰いました。