第6話 覗き魔事件
目を覚ますと梔さんの膝の上だった。
如何やら以前の様に僕の疲労を回復する香りを使用していてくれたらしい。
寝る前に感じていた身体の疲労感も取れていて身体も軽い、何時までも彼女の世話になるのは申し訳ないので取り敢えず起き上がり、お礼を言う。
「ありがとう梔ちゃん」
『最近私がクロの専属になってる様な気がするのだけど……』
「あ、あはは、本当に何時もありがとうね?」
『今度それ相応の御礼をして貰おうか』
「ぼ、僕に出来る範囲の事なら」
『約束だぞ?』
梔ちゃんはそう言って笑顔で去って行った、時計を見ると授業後の休み時間、あの後授業の間丸々眠ってたみたいだ、幸いな事に今日の雑務は粗方終わっているので問題は無いのだけど……。
気が付けば僕は女の子達に囲まれていた、と言うか寝て居る間ずっと見られていたらしい、どうして?
「はいはーい!! クロさん、質問良いですかー?」
そう言って人垣を分けながら眼鏡を掛けたロングヘアーの少女がペンとメモ帳片手に僕の前に現れた。
「し、質問? えっと、君は……」
「私は新聞部の凛でーす♪ 実は左天様と互角の勝負を繰り広げたクロさんの事をもっと良く知りたいなーって思ったんですよ、取材良いですか?」
「今はやる事もあんまり無いし、大丈夫だよ」
そう言って僕は軽い気持ちで凛ちゃんの取材に応じたのだけど流石女子校、根掘り葉掘り身長から体重から何から何まで聞かれてしまった。
どの娘が好みですかとか、私の事はクロさんの守備範囲に入ってますかとか、色恋沙汰を重点的に聞かれたのは仕方がないにしろ、距離が近かったのは何故だろうか。
凛ちゃんによる質問攻めから解放された僕はへろへろになりながら部屋へと向かう、その途中でも色んな娘の視線が何時も以上に突き刺さるので凄く居心地が悪かった。
––––––後になって刹那ちゃんと七海ちゃんから聞いた話によると、僕のあの戦いを全校生徒が見ており、普段の性格からは考えられ無い強さと鋭い顔付きのギャップで生徒達に人気が出始めたとか。
『暫くの間は客寄せパンダ状態は確定でしょうね』とは刹那ちゃんの談、七海ちゃんからは『それに顔も性格も悪くないし、元々密かに人気だったのよ? クロ』と言われ、反応に困ってしまった。
今は掃除当番の美咲ちゃんと一緒にお風呂掃除して居る、何気に付き合いみんなとは良く雑談やうわさ話を話すのが僕の日課なのだけど、その中で一つ気になる話を聞いた。
「そう言えば、最近私達がお風呂に入っていると窓の方から視線を感じるのですが…………クロじゃ無いですわよね?」
「へっ? 覗き? 僕が?」
「クロの能力ならバレる前に逃げる事も可能でしょう? それにこの学園唯一の男性ですし……」
そう言って僕の事をジト目で睨む美咲ちゃん、言われの無い濡れ衣をどうやって晴らそうかと思案していたのだけど、冷や汗を流しながら狼狽える僕を見て、彼女は笑い声を一つ溢す。
「ふふっ、冗談ですわ。 第一クロがその様な殿方でしたら既に梔に手を出しているでしょうし、私と二人きりになってるのですから野獣の様に襲い掛かるでしょう?」
「君は男性に対して少し偏見があるんじゃないかなぁ……」
「そうですか? 覗きをする殿方は皆その様な方だと思いますが」
「否定は出来ないけどさぁ……」
「まあ、私の気の所為と言われればそれまでの話なのですが……」
そう言って悩ましげな仕草をする美咲ちゃん、ニードレスとは言え彼女もまた一人の少女、気が強くて刹那ちゃん達に突っ掛かるけれど、やっぱり覗きは怖いようだ、一瞬梔ちゃんが犯人かと思ったのだけど、あの娘は覗く必要は無いし、見たければ堂々と入るからね。
となると外部の者の仕業、この学園に僕以外の男性は居ないのでその線は間違っていないだろうが、そうなると問題が一つ浮かび上がる。
それはこの学園への侵入経路、長大な塀に囲われたこの学園は崖の上から飛び降りるくらいしか侵入する事は出来ない、となると相手はニードレスか?
風呂掃除を終えた僕は日の暮れない内に学校の裏手に回る、此処はニードレスクラスの生徒達が巡回警備を行うルートにも組み込まれている為、侵入し辛い筈だ。
高さも問題だ、ざっと見る限り10mは確実にある、この高さから飛び降りるとなると並みの能力では無理だ、梔ちゃんの能力の様な力でもここを降りる事は出来ない。
と言う事はだ、僕の様に自分に起きる現象を操作出来る能力、例えば風や重力を操作して落下速度を緩和できる能力者や美咲ちゃんや七海ちゃんの様な水や岩などを操作して足場を作る能力者、後は刹那ちゃんや未央ちゃんの様な身体能力を上げる能力者か。
…………自分で言ってなんだけど、候補が多過ぎる。
覗き魔の侵入方法を考えると日が暮れそうな為、誰かが入浴する前に浴場の窓まで移動する。
浴場の裏手、何か痕跡を残しては居ないかと調べては見たのだけど、足跡や抜け毛の一つも発見出来なかった。
腕時計を見るとそろそろ一番風呂に誰かが入る時間帯、これ以上の調査は日を改めるべきだと判断した僕はその場を去ろうと立ち上がった時だった。
ガラリと浴場の窓が開き、見知った少女とバッチリと目が合った。
『遂に性欲に負けたの? クロ』
「…………今日は10分以上早くない? 梔ちゃん」
『美咲から覗きの話を聞いたからな、早い内に入って警備に回ろうかと思っていたんだ』
「成る程、事情は分かっ–––––」
その時、梔ちゃんの背後から水の入った風呂桶が突然彼女の後頭部目掛けて音も無く飛来した。
「–––––ッ!!」
咄嗟に能力を使用して桶を減速させようとしたのだけど、今度は崖の上から僕の上に拳大の石が雨の様に降り注ぐ。
僕の能力は制限も緩く、応用性も高い、だがしかし唯一欠点があるとすれば、効果範囲が
だからこの状況では何方か一方にしか能力を使用出来ない、自分か梔ちゃんか。
僕が降り注ぐ石に気が付いたのは梔ちゃんの表情、先程の欠点がある為二つ同時に減速させる事は不可能、やりたくは無かったけれど開いた窓から浴場の中に倍速で突入、それと同時に梔ちゃんを抱き抱えて飛来する桶の元から救出する。
今の攻撃は明らかに僕と梔ちゃんを狙った物、今の梔ちゃんは裸なので武器も持っていない、遠隔攻撃が可能な相手には無力と言っても過言では無い状態。
服の下のナイフを取り出し、視界に映る全ての物の動きを停滞させる、その際に浴室の鏡を視界に収めて僕の背後のカバーも忘れない。
今の僕らは見えない敵からの襲撃を受けている状態、相手の能力は愚か顔すら判明していない状態での戦闘、しかも今回は梔ちゃんを護らなくてはならない為、中々ハードな戦闘になるに違いない。
「大丈夫、君は僕が守り通すよ梔ちゃん、必ず指一つ触れさせない」
何時に無く強気な発言をした僕に呆気に取られている梔ちゃん、僕はそんな彼女にナイフを外した上着を着せて肌を隠させ、相手の次の行動を待つのだった。
覗き魔はオリキャラではありません、時系列はゼロツー、ターゲットは梔、分かる人は分かるよね(白目)