薄暗い部屋に汚れた白衣を身に纏い、ビン底のような分厚いメガネを掛けた一人の男が机に向かって狂ったように何かをノートに書いているが、突然ピタリと動きが止まったかと思うと、書いていあったノートを床へと投げ捨て、両手を机に叩き付ける。
「クソッ!! あと少しというところまで来ているというのに、そのあと少しに全く届かない!! このままでは、このままでは人類は永遠にディセプティコンに支配されたままだ!!」
男は目を血走らせて机の上の何度も何度も机を叩き付けたせいで両手の皮膚が傷つき、血で滲んでいくのも気にせず狂ったように叫ぶ。
「それに理論だけじゃない! 道具も材料も魔力も全く足りていないこの状況ではたとえ理論が完成したとしても実現させることは到底不可能だ!!」
そうして叫び続ける男だったが、手を顔に当てて深呼吸をするとまだ呼吸は荒いが男は落ち着きを取り戻す。
「落ち着け、落ち着くんだ。 魔力を持たないや奴らに呪紋回路を施せば魔力の確保は可能だ。 材料は足りないが、これは綬呪紋回路を施した奴らにディセプティコンの奴らから必要な材料を奪わせれば、犠牲は大きいだろうが解決できる」
男は落ち着きは取り戻したものの、その顔から狂気は消えずに犠牲が出ることをすでに計算に入れつつも、自分の理論を実現させるために考えを巡らせていたが、それは突然起こった爆発の音と大きな揺れにより中断される。
「くそっ!!ディセプティコンの奴らにこの場所がバレたのか!!」
揺れは収まったものの、かわりに激しい銃撃と魔法による建物の破壊される音や人々の怒声、戦闘に巻き込まれてしまった戦う力を持たない人々の悲鳴が飛び交っている。
「いや落ち着け! バレたとはいってもこの部屋がバレた訳じゃない。 奴らが上の連中に集中している間に早くここから逃げなくては」
男がいる部屋は建物の地下にあり、入り口は場所を知っている人間以外には見つからないように隠してあり、さらに部屋へと続く通路も人間サイズに設計してあるため、人間より大きな体を持つディセプティコンでは通れないようになっているものの、人間サイズのディセプティコンがいないという訳ではないため、その人間サイズのディセプティコンを使われたらあっさりと部屋に辿り着いてしまうため油断は出来ない。
そして、そのことを十分に理解している男が投げ捨てたノートと引き出しの中の研究所を急いで纏めると、部屋の扉が勢いよく開かれる。
「お父さん大変!! ディセプティコンが!!」
扉を開けて出てきたのは、黒い髪をまとめた二つのシニョンから三つ編みを伸ばしている十歳くらいの女の子だった。
「よかった、無事だったか!!」
いきなり開いた扉に男は身構えるが、それがディセプティコンでないと分かるとすぐに構えをといて準備を続行する。
「急げ! この部屋が見つかるのも時間の問題だ!! 早く逃げるぞ!!」
「だけど、他の人たちは!?」
「他の奴らなんてほっておけ!! どうせ助かりはしない!!」
他の人間のことを心配する少女をよそに、男は冷酷なまでの判断を下す。
「だけど、そんな!!」
「黙れっ! 今はそんなことを言っている場合なんかじゃないんだ!! 生き残ることだけを考え……」
それでもなお、他の人間たちを見捨てることの出来ない少女に男は怒声を上げるが、すぐに何かに気が付いたように話を止める。
「お父さん……?」
「音が聞こえない……」
その言葉に少女も話すのを止めて耳を澄ますと、先程まで聞こえていた銃声や叫び声がしなくなっていた。
「くそっ、まさかもう全員……」
殺されたと言おうとした時、まるで固い物どうしがぶつかったような音がして部屋が大きく揺れたかと思うと、また同じように揺れと音が起きて部屋を揺らす。 そして、それが意味することを男は瞬時に理解した。
「早く逃げるぞ!! 急げ!!」
あまり状況を理解出来ていなかった少女の手を掴み、無理やり引っ張りながら男は少女が入って来た扉から部屋を出ようとするが、二人が部屋から出るよりも先に天井が破壊される。
破壊され、瓦礫となった天井と共に落ちてきたのは人間の頭部に昆虫の下顎を持った巨大な人型のロボットだが、いくら人型とはいえその大きさは人間と比べるまでもなく巨大で、金属でできている体は脆弱な人間の肉体とは違い銃弾程度では傷一つ付かないであろうと簡単に予測させ、真っ赤な目には溢れんばかりの邪悪さを秘めている。
「いたぞ!! やっぱりここに人間が隠れていやがった!!」
男と少女の姿を確認したディセプティコンは新たな獲物を発見したことに喜びの声を上げながら背中を変形させて開くと、そこから銃を取り出し二人に向ける。
「へへへ、見つかった以上テメェらはもう終わりだが、俺たちは優しいから投降するなら殺しはしねぇぜ。 もっとも生きられたとしても一生奴隷だろうがなぁ!!」
ディセプティコンは二人に銃を向けたままこれからの訪れるであろう二人の将来を想像して、愉快そうに笑っている。
「……お父さん」
「安心しろ。 大丈夫だ、まだ手は残っている。 最後まで絶対に諦めるな」
ディセプティコンに見つかってしまい、心配そうに見つめてくる少女に男はそう言うと、強く手を握る。
「おい、ディセプティコン! 投降すれば殺さないというのは本当だろうな!?」
「ああ、そうだ、奴隷は一匹でも多いほうがいいからな。 まぁ、もっともテメェらみてぇな虫ケラが抵抗したところで何も出来やしねぇから投降するしかねぇがな」
このディセプティコンの言うとおり、金属の体を持つこの種族にはたとえマシンガンを使ったとしてもかすり傷程度のダメージしか与えることは出来ず、そのマシンガンすら持っていない二人では抵抗したところであっさりと殺されてしまうだろう。
「わかった、私たちはこれから投降する。 だからその銃を向けるのはやめてくれ」
「そんな、お父さん!! どうして!?」
「うるさい!! お前は黙っていろ!!」
「きゃあ!!」
諦めるなと言っていたにもかかわらず投降すると言った男に、驚きながらも抗議の声を上げる少女を男は殴って黙らせる。
「まったく、酷いことをするじゃねぇか。 その小娘は投降する気はねぇみてぇだが、どうする? いっそのこと今すぐに楽にしてやるか?」
「そんな……いやぁ!」
二人の様子を見たディセプティコンは愉快とばかりに喜びで顔を歪ませながら、銃口を少女に向ける。 人間程度なら欠片も残さずに吹き飛ばしてしまうであろう銃を向けられて少女は恐怖で腰を抜かしてしまったのかその場にへたり込むが、男は顔色ひとつ変えはしない。
「そんなことはしなくていい。 それよりも投降する証拠としてこれを受け取ってくれ」
そう言って男は懐から何かを取り出すとそれをディセプティコンに向かって投げ渡し、それを片手でキャッチしたディセプティコンはそれを確認するために顔の前へと持っていく。
「ん、なんだこれは……まさか!!」
「目を閉じろ! 早く!!」
ディセプティコンが男から受け取ったのは黒い円筒の物体であり、それが何であるのかディセプティコンが気付くのと男が叫ぶのは同時であり、男が叫んだ直後に円筒の物体から強烈な閃光が放たれる。
「ぐああああああぁっ!! 目がああぁ!!」
強烈な閃光をまともに受けてしまったディセプティコンは目が見えなくなったことで混乱し、銃を手放して目を抑える。
「今だ! 今の内に逃げるぞ!!」
ディセプティコンが目を押さえている間に、男は少女の手を掴んで開いたままとなっている部屋の扉から上の階につながる階段を駆け上がるが、上った先で見た光景に二人は言葉を失う。
階段を上った二人が目にしたのはディセプティコンの攻撃の受け破壊され瓦礫の山と化した建物の内部にそこにいたであろう人たちの死体だったが、圧倒的な威力の攻撃の前に体の一部が残っていればいい方で、ほとんどは肉片となりそれが人間であったのかさえ分からないくらいに破壊されている。
「人間だっ! そっちに人間が2匹逃げたぞ!! 絶対に逃がすな!!」
下の階にいるディセプティコンが怒りの声を上げて建物にいるであろう他のディセプティコンに二人の存在を知らせる。
「コード■■■■、呪紋回路解放、封印解除」
男がその言葉を口にすると男の全身に模様が浮かび上がり魔力が生み出され、無理やりに魔力を生み出したことにより発生する痛みで男は顔を歪めるが、その魔力を使い男は全身を強化して建物から走り出す。
「おい、いたぞ! 人間だ!!」
「止まれ人間! 逃げられやしねぇぞ!!」
声を聞いて集まった他のディセプティコンたちは二人に向けて容赦無く銃を乱射するが、的となる二人がディセプティコンに比べて小さすぎることと、魔力で強化したことで普通の人間よりも早いスピードで動き回るせいで銃弾を男に当てることが出来ないでいる。
「目を閉じて奴らにこれを投げつけろ! 最後の一つだ絶対にしくじるなよ!!」
「わかった! えい!!」
男は走りながら懐から閃光弾を取り出すと少女に手渡し、少女がそれを二人を追ってくるディセプティコンに投げつけ、投げつけられた閃光弾から強烈な閃光が発せられる。
「クソッ! 閃光弾か!!」
「チクショウ! 目が見えねぇ!!」
二人を追っていたディセプティコンは銃で攻撃していたことで目を閃光から守ることが出来ず、強烈な閃光により一時的に視力を失い、その隙に男は己の魔力を振り絞り限界以上のスピードを出してディセプティコンとの距離を一気に離すと建物の中に身を隠す。
建物に入ると男は抱えていた少女を床に下ろすと、男は魔力を使いすぎたせいで荒い呼吸をしながら建物の壁にもたれ掛る。
「お父さん、大丈夫!?」
「大丈夫だ……心配するな、それよりもお前に渡したい物がある」
ディセプティコンから逃げるために一気に魔力を使いすぎ苦しそうにしている男に少女は心配そうに訊ねるが、男は懐から一冊のノートを取り出すとそれを少女に渡す。
「私がディセプティコンの注意を引き付ける。 お前はそれを持って逃げるんだ」
「だけど……それじゃあお父さんが!!」
いくら魔法が使えようとディセプティコンを相手をするのは決して簡単なことでは無い。 その目的がたとえディセプティコンの破壊では無く注意を引き付けることだけだったとしてもそれで命を失う確率は生き残る確率よりもずっと高い。
「私のことはどうでもいいからお前は絶対に生き延びろ!! 私では実現させることは無理だったが、理論は決して間違ってはいないはずだ!!」
「いやだ! お父さんも一緒に逃げようよ!!」
「お前だって分かっているはずだ! どちらかがおとりにならなければ二人とも死ぬ!! それだけは絶対にあってはならないんだ!!」
男はそう言って嫌がる少女に無理やりノートを持たせると少女を強く抱きしめる。
「すまない。 だが、ここで二人とも死んでしまうことだけは避けなくてはいけない。 絶対に希望は守らなければならない」
男は抱きしめていた少女を離す。 建物の外では二人を探すディセプティコンたちが他の建物などを破壊する音が響いており、それは少しずつ二人のいる建物へと近づいて来る。
「ここが見つかるのも時間の問題だ。 私がここを飛び出して奴らの注意を引き付けている間にお前は逃げるんだ。 いいな?」
「……うん」
建物が破壊される音が二人のいる建物へと迫ってくる。
「そのノートはもう一冊しかないから絶対に無くしたりするなよ。 それにノートを見せるのも信用出来ない奴には絶対に見せたりするな、悪用しようとする奴が現れるかもしれないからな」
「……うん、分かった。 信用出来る人にしか見せたりしない」
小さかったディセプティコンの足音が少しずつ大きくなり、聞こえる距離にまで近づく。
「絶対に死んだりするな。 辛いことは多いと思うが、何があっても必ず生きるんだ」
ディセプティコンの足音が二人を隔てた壁の後ろで止まる。
「走れ!! 絶対に生きろ!!」
男が少女に叫ぶのを合図にするように、二人のいる建物の天井がディセプティコンによって吹き飛ぶ。
「見つけたぞ虫ケラが!!」
建物の屋根を破壊して二人を見つけたディセプティコンが二人に向かって手を伸ばすが、男は魔力で全身をすると自分たちを捕らえようと伸ばされる腕を躱してディセプティコンの顔にしがみつく。
「クソッ! 邪魔だぞ虫ケラめ!!」
「黙れ! お前はこれでも喰っていろ!!」
ディセプティコンの顔に掴まった男は懐から小型の爆弾を出してそれをディセプティコンの口の中へと入れると、ディセプティコンの顔を勢いよく蹴って距離を取る。
「何をしても無駄だぞ虫ケラめ!! お前ら二人とも殺してや……」
ディセプティコンが二人を殺そうと銃の引き金を引く前に、口に入れられた爆弾が爆発してディセプティコンの頭部を吹き飛ばし、頭部を失った体はその場に力無く倒れ込む。
「早く行け!! 絶対に止まったりするな!!」
男の叫びを受けて少女は託されたノートを持って走り出し、走り出してすぐにディセプティコンの銃撃と男の放つ魔法による破壊の音が周囲に響くなか、それでも少女は足を止めることなく走り続けるが、走っている途中で破壊の音がピタリと止まる。
「そんな……お父さん」
音が止んだことで自分の父親が死んだと理解した少女は思わず足を止めて後ろを振り返ってしまうが、少女が振り返った瞬間に建物の壁が破壊されて少女の目の前にディセプティコンが現れる。
「ようやく追いついたぞこの小娘が!」
「そんな、嘘だ!!」
それは少女と男を一番最初に見つけたディセプティコンであり、追いつかれてしまった少女はそのディセプティコンから逃げるためにノートを持つ手に力を込めると無駄とは分かってはいるが、ディセプティコンから逃げるために走り出す。
「まだ逃げようとするなんざ虫けらの分際で随分と頑張るじゃねぇか! いいぜ、もっと逃げろ!! じゃないとすぐに捕まっちまうぞ!!」
ディセプティコンは自分から逃げたという恨みを晴らすように、必死になって逃げる少女を捕らえずに追いかけ続け、少女は追われ続ける恐怖と何もすることが出来ずに逃げるしかない悔しさから目の前が滲むが、それでも僅かな可能性にかけて逃げるしかなかった。
だが人間という弱い種族であり、さらに子供というさらに弱い存在である少女がいつまでも逃げ続けることが出来るはずもなかった。
「きゃあ!!」
走り続けたことによる肉体的疲労と、勝ち目のない相手に追われ続けるという恐怖から少女の身体は限界を迎え、足を絡ませて転んでしまう。
「ここまでよく頑張ったな! 頑張ったテメェは死ぬまで奴隷にしてやるぜ!!」
「そんなの嫌だ! 誰か助けて!!」
「助けなんざあるわけねぇだろ! 諦めて大人しく捕まりやがれ!」
ディセプティコンが少女を捕らえようと手を伸ばすが、その瞬間にどこからか放たれた魔法がディセプティコンに直撃し、僅かに出来たその隙をついて建物の影から一人の少年が飛び出して少女を抱えて走り出す。
「クソッ!! まだ生き残りがいやがったのか!?」
魔法の直撃を受けたが全くダメージを受けた様子のないディセプティコンは、すぐさま逃げる二人を捕らえようと走り出す。
「あなた誰!? どうして助けてくれるの!?」
「そんなのはいいから、それよりもしっかり掴まってて!!」
少女はディセプティコンに追われながらも自分を助けてくれた少年が何者なのか尋ねるが、少年はディセプティコンから逃げるのに必死で少女の問いかけに答えずに叫びながら逃げ続ける。
「クソっ、もうメンドクセェ! これでも喰らってろ!!」
いつまでも逃げ続ける二人に痺れを切らしたのかディセプティコンは武器を取り出し二人に向かって銃弾を放つ。
「きゃああああああ!!」
「うわぁあああああ!!」
放たれた銃弾は二人には当たらずに二人の少し手前に着弾するが、その衝撃で二人は大きく吹き飛ばされる。
「ああ、もう!! 君、大丈夫!?」
「う、うん。 それよりも早く逃げないと……」
「おっと、追いかけっこはもうお終いだ」
吹き飛ばされたせいで二人は地面に体をぶつけてしまい激痛が二人を襲うが、その痛みに耐えて逃げ続けようとようと体を起こした時、ディセプティコンが武器を二人に武器を突きつける。
「待って、ちょっと待ってよ! 君に攻撃をしたのは悪かったと思ってるし、君が腹を立てるのも当然だとおもうよ本当にごめん!! だけどもう僕らは抵抗したりしないから、その手に持っている武器はしまってよ!!」
「いいや、ダメだ。 お前ら二人だけを捕らえたところでなん役にも立ちやしねぇ」
少年は少女を自分の背に下がらせて自分たちに武器を向けるディセプティコンを必死になって説得するが、武器をしまうどころか殺そうとしてくるディセプティコンに、少しずつ後ろに下がってしまう。
「たしかに僕らは二人だけだけど、僕らはまだ若いしおまけに僕は魔法が使えるから普通の人よりずっと働ける!! だから殺したりするのはやめて!!」
「魔法が使えるからどうしたってんだ、そんなのは関係ねぇ! お前たちは殺す!!」
少年は諦めずに説得を続けるが、それでもディセプティコンは殺すことを止めようとはせず後ろに下がり続けていた二人は建物の壁に阻まれ、ついに下がることが出来なくなってしまう。
「本当に僕たちを殺すの!? 本当に!?」
「しつこいぞ虫けらが! さっさと諦めて死にやがれ!!」
いつまでも命乞いを続ける少年にディセプティコンは面倒になったのか殺そうと引き金に指を掛ける。
「そうかよ、そっちがその気ならこっちだってやってやる! バンブルビィーーーーーー!!」
「ハァアアアアアアーーーーーー」
少年がそう叫ぶと、少年と少女が背にしていた建物の屋上から黄色のロボットが飛び降りて二人を殺そうとしていたディセプティコンを蹴り飛ばす。
「オートボットめ!! 殺してやる!!」
「『かかって来な!』『返り討ちにしてやるぜ!!』」
蹴りを喰らったディセプティコンは武器を放してしまうが、すぐに体勢を立て直すとすぐに自分を蹴り飛ばした少年にバンブルビーと呼ばれたロボットに飛びかかり、バンブルビーはラジオを自分の声のように使ってディセプティコンを挑発しながらそれを迎え撃つ。
ディセプティコンがバンブルビーの顔面を狙って右のフックを放つが、バンブルビーはそれを体勢を低くすることで躱し、さらに低くした体勢から体を起こす勢いを利用して強烈なアッパーをディセプティコンへと喰らわせる。
「『どうだ? 今のは効いただろ!』」
「クソッ! なめるなよオートボットめ!!」
バンブルビーの更なる挑発を受けてディセプティコンは怒りながらもバンブルビーを攻撃しようと腕を振るうが、挑発により冷静さを失ったうえにアッパーを喰らったことで頭部の指令系統が混乱を起こし、振るった腕は空をきる。
「『さあ、こいつでとどめだ!!』」
バンブルビーのその言葉と共にバンブルビーの右手がキャノン砲へと変形し、バンブルビーはその手でがら空きとなっているディセプティコンのボディに強烈なストレートを叩き込み、そこから密着させたままの状態で右手のキャノン砲を放つ。
「グァアアアアアアーーーー!!」
密着された状態でキャノン砲を喰らったディセプティコンの体は上半身と下半身が千切れ、下半身を失ったことでディセプティコンは叫び声を上げながら重力に従って地面に叩き付けられる。
「クソッ! 絶対に許さねぇ! せめてテメェらだけでも殺してやる!!」
「そんな! まだ生きてるの!!」
上半身だけになりながらもディセプティコンは生きており、少年と少女を殺そうとその腕を勢いよく伸ばす。
「『おっと』『そんなことはさせん!!』」
だが、ディセプティコンの手が二人に届く前にバンブルビーが右手のキャノン砲を放ち、キャノン砲で体ごと
「こいつ……今度こそ死んだよね?」
「『大丈夫!』『とどめはさした』『それに』『まだ生きていたとしても』『僕が守るよ!』」
「ああ、そうだね。 ビーがいるなら大丈夫だね」
最後まで自分たちを殺そうとしてきたディセプティコンが本当に死んだかどうか不安そうに少年は確かめるが、ラジオを使って守ると伝えるバンブルビーに少年は安心したように笑うものの、少女はいまだにバンブルビーが信じられないのか怯えた様子で少年の後ろに身を隠す。
「そんなに怖がらなくて大丈夫だよ。 コイツはバンビルビーって言って、ディセプティコンじゃなくてオートボットだから君を傷つけたりしないよ」
「『そうさ!!』『だから大丈夫!!』」
「オートボットって……何?」
「「『……え?』」」
少年とバンブルビーは少し得意げに少女にバンブルビーがオートボットであることを伝えるが、オートボットが何であるか知らなかったらしい少女の言葉に動きが止まる。
「あのさ、もう一度聞くんだけど……本当にオートボットって何なのか知らないの?」
「う、うん。 オートボットって言葉自体初めて聞いたから」
「『ああ……そんな』『そんなのあんまりだ!!』」
「あの、その……知らなくてごめんなさい」
少年は少女に確認するが、やはり知らないらしい少女に悲しそうな声を上げながら目を押さえてウォッシャーの洗浄液を涙のように流して泣くバンブルビーを見た少女は少し怯えながらも泣いているバンブルビーに謝る。
「ああ、大丈夫。 コイツ少し大袈裟にしてるだけだから気にしないで。 おいビー、この子が気にしてるから泣くマネはもう止めろよ」
「『わかったよ』サム『ごめんよ』『お嬢ちゃん』『そんなつもりはなかったんだ』」
謝る少女見た少年はバンブルビーに鳴くふりを止めるように言うと、バンブルビーはあっさりと泣くマネを止めて今度は逆にバンブルビーが申し訳なさそうに少女に謝る。
「だ、だけど私が知らなかったのがいけないんだし……」
「『いや……だけど』」
「ああもう、二人ともそこまで! 謝るのはもうやめてとりあえずはここから安全な場所に移動し……」
謝り続けようとする二人を少年が止め、場所を移すことを提案しようとした時、三人のいる場所から少し離れた所で爆発が起きる。
「見てあれ!! ディセプティコンが!!」
「クソッ! 早く逃げなきゃ! バンブルビー!!」
「『任せてくれ!!』」
いきなりの爆発にも混乱すること無く辺りを見回すと、5体のディセプティコンが武器で攻撃をしながら三人の元へ迫っており、それを見た少年がバンブルビーに呼びかけると、バンブルビーの体が細かなパーツへと分裂してあっという間にロボットから黄色で黒いストライプの車へと変形して、運転席と助手席のドアが開く。
「『さぁ、早く乗って!』」
「え……でも」
「心配しないで、コイツ最高の運転手だから!」
「う、うん。 分かった!!」
少女はバンブルビーの変形した車に乗ることに少しだけ躊躇するが、バンブルビーを信頼している少年を見て少女も覚悟を決めてバンブルビーに乗り込む。
「走ってバンブルビー!!」
「『任せな相棒!!』『全力で行くぜ!!』」
二人が乗り込んだのを確認するとバンブルビーはアクセルを全開にしてトップスピードで走り出し、ディセプティコンたちもそれぞれが車に変形してこちらも最初から全速力でバンブルビーを追いかける。
「ちょっと、もっと早く走れないの!?」
「『すまない!!』『これが全力だ!!』」
「待って!! 前からもディセプティコンが来てる!!」
後ろを見ながら一向に離れることのないディセプティコンに少年は焦った様子でバンブルビーに問い掛けるが、すでに全力で走っていたバンブルビーが少年に答えるのと同時に、少女が悲鳴を上げる。 その悲鳴を聞いた少年が前を見ると、前からは4台の車が向かって来ていたが、少年はそれらを見て恐怖するどころか安心したように笑みを浮かべる。
「どうしたの!? このままじゃ挟み撃ちにあっちゃう!!」
「大丈夫だよ! 彼らは敵じゃない!!」
「え!?」
前から敵が来ているにも関わらず、何もしようとしない少年とバンブルビーに少女は声を上げるが、少年の敵では無いという言葉に信じられない様子で少年を見る。
「彼らはオートボット。 僕たちの仲間だ!!」
少年の言葉を聞いたかのように前から来ていた4台の車の間が開き、その間を二人を乗せたバンブルビーが通り抜けると、走っていた4台の内のシルバーの車がロボットへと変形する。
「俺に任せろ! ディセプティコンめこれでも喰らいやがれ!!」
シルバーのオートボットは両足のホイールで走りながら手にした銃を放つと、放たれた銃弾が向かって来るディセプティコンたちの前に着弾し、それによりおきた砂煙でディセプティコンたちの視界を覆う。
「おのれオートボットめ! 小賢しい!!」
「構うもんか! 皆殺しにしてやる!!」
砂煙によって視界を塞がれたディセプティコンたちだったが、ディセプティコンたちは視界を塞がれたことを全く気にせずにロボットに変形して砂煙から出ると、手にした武器でオートボットたちに攻撃を始める。
飛んでくる銃弾やミサイルを動きながら躱し続け、走っていた4台の内の1台である黒い車が他の3台よりも前に出る。
「なんだ!? 1体だけ前に出やがったぞ!?」
「かまわねぇ! まずはあいつからスクラップにしてやれ!!」
1台だけ前に出たことでディセプティコンの格好の的になってしまい5体すべてのディセプティコンの攻撃が黒い車に集中するが、ディセプティコンの放った攻撃が直撃する前に黒い車がロボットに変形すると、黒いオートボットは両腕で地面を押すことで自分の体を宙に飛ばし、喰らうはずだった銃弾やミサイルの上を飛んで無傷で着地する。 そして、時間差で訪れるディセプティコンの攻撃の第2波をジャンプして体を捻ることでそれらを体すれすれのところで躱し、さらに躱しながら両腕のキャノン砲を放つことで相手の攻撃を躱すと同時に攻撃を行う。
黒いオートボットが放ったミサイルは5体の内のちょうど真ん中にいたディセプティコンに命中し、さらにその爆風で他のディセプティコンたちの体勢を崩す。
「ディセプティコンめ! 血祭りにしてやるぜ!!」
後ろを走っていた赤い車がスピードを上げてロボットに変形しながら勢いよくジャンプすると、両腕のブレードを一番端にいるディセプティコンに投げつける。 投げつけられたブレードはディセプティコンに突き刺さり、赤いオートボットはブレードから伸びているワイヤーを巻き取ることで自分の体をディセプティコンへと引き寄せ、さらにその勢いを利用して強烈なドロップキックをディセプティコンへと喰らわせる。
「さぁ、終わりだ!! おねんねしてろ!!」
倒れたディセプティコンの上に馬乗りになると突き刺さったブレードを引き抜くと、さらにその引き抜いたブレードをディセプティコンの頭部に突き刺して完全に息の根を止める。
「図に乗るなよオートボット!!」
「ハッ、図に乗ってるのはどっちだ!!」
しかし、一人突出したことで隣にいたディセプティコンに武器を向けられてしまうが、ディセプティコンが引き金を引く瞬間に赤いオートボットの物とは別のブレードがディセプティコンの肩へと突き刺さる。
「おい、ディセプティコン!! 俺のことを忘れてんじゃねぇよ!!」
そのブレードはシルバーのオートボットが放った物であり、そのオートボットはジャンプして回転しながら腕を伸ばしてディセプティコンに突き刺さったままのブレードを腕に装着すると、ディセプティコンの腕を華麗に切断する。 そして、着地をするとその勢いのまま回転しながら装着したブレードを振るってディセプティコンの首を切断し、切断されたことで頭部が宙を舞い、頭部を失った体は引き金を引いたまま銃を乱射しながら地面に倒れ込む。
「チクショウ!! オートボットごときが!!」
「もう他の奴らはもうどうでもいい!! せめてオプティマスだけでも殺してやる!!」
体勢を崩しただけで未だに無傷である2体のディセプティコンは自分たちに勝ち目が無いことを理解したのかほかの3体のオートボットを無視して、オプティマスと呼んだファイヤーペイントの施されたトレーラーに向けて攻撃を集中させる。 だが、ディセプティコンたちの銃弾は確かにオプティマスというとトレーラーに命中はするものの、銃弾はボディの表面で弾かれオプティマスは速度を落とすことなく走り続け、そしてオプティマスはトレーラーからロボットへと変形する。
トレーラーからロボットへと変形したオプティマスは右腕にしまっていた真っ赤になるほど熱されたブレードを出して掴むと、それをディセプティコンの胸に突き刺してその
「みんな無事か」
「安心しろオプティマス、こっちは全員無事だ」
「さて、サム。 私の言いたいことは分かっているな?」
オプティマスはフェイスガードを解くと、少年をサムと呼びに腕を組んでまるで教師のような少し厳しい口調で話しかける。
「あの……いや、君の言いたいことは分かっているよオプティマス。 止められていたのに勝手に出てきたことは悪いと思っているけど、だけどディセプティコンに襲われている人たちを見捨てることは出来なかったんだ。 そうだ、それよりこの子を紹介しなくちゃ! ディセプティコンに襲われているところを助けたんだ! 名前はえっと……」
サムと呼ばれた少年はオプティマスの言いたいことが分かっているのか申し訳なさそうに喋っていたが、少女の存在を思い出し、自分の後ろに隠れていた少女をオプティマスたちに紹介しようとするが、名前を聞くのを忘れていたために困ったように少女を見る。
「あのさ……彼らに君のことを紹介したいんだけど、名前を聞いてもいいかい?」
「私の……名前を?」
「そう、大丈夫。 見てたから分かると思うけど、彼らはディセプティコンから僕ら人間を守ってくれているから君を傷つけたりしないから大丈夫だよ」
サムは自分の目線を少女の目線と同じ高さに合わせると名前を合わせ、自分の名前を教えることに躊躇している様子の少女に安心するように伝える。
「私の名前は
「僕の名前? そっか、そういえば僕もまだ自己紹介がまだだったね。 僕は名前はサム。 サム・ウィトウィッキーだよ、よろしくね」
†
「夢……か」
今自分がいるのが麻帆良大学工学部にある自分の部屋だと理解するのに、寝起きとはいえ少し時間がかかってしまったのは、あれが夢にしてはだいぶはっきりとした夢のせいだろう。
「それにしても、ずいぶんと懐かしい思い出だ。 未来のことなんて、こっちに来てからあまり思い出さないようにしていたのに」
私にとって未来は辛いことばかりだった。 いつもディセプティコンに見つからないかどうか怯えてばかりで、見つかったら自分が生き延びるために他の人たちを見捨てていた。 だから私はそんな未来のことはあまり思い出さないようにしていた。
「忘れるなってことなのかな……これは」
何かは分からないけど、その何かが忘れるなと言っているんだろう。 だけど、それは余計なお世話という奴だ。
「大丈夫、忘れたことなんて一度もないから」
ああ、そうだ。 忘れたことなんて一度だってありはしない。 思い出さないようにはしていたけれど、ああの恐怖、あの悔しさ、あの悲しみ、そしてあの喜びを一度だって忘れたことはないし、覚えているからこそ、いつディセプティコンが来るかもわからない恐怖を耐えることが出来た。
「だけど、それももう終わりにしてやる」
そう、ディセプティコンが来るであろう日にちはおおよそ分かったし、共に戦ってくれる仲間もいる。
「……変えてやる」
変える。 あんな恐怖してばかりの未来を。
「変えてやる」
変える。 あんな後悔してばかりの未来を。
「変えてやる!!」
変える。 あんな悲しみばかりの未来を。
「変えてやる!! あんな未来なんて、絶対に変えてやる!!」
そう仲間たちと誓ったんだ!! 私をこの時代に送るために犠牲になったみんなにそう誓った!!
「見ててみんな。 私、絶対に変えてみせるから」
今日から麻帆良祭りが始まり、この麻帆良に大勢の人たちが集まってくる。 だからこそ、奴らは攻めて来る。 人間を虫けらとしか思っちゃいないあいつらは人たちの恐怖や絶望の悲鳴を聞いて笑うつもりなんだろうけど、そうはさせない。
「覚悟しろよディセプティコンども。 お前たちの支配する未来なんてぶち壊してやる」
青い空の下に大勢の人が集まって来て、何も知らない人たちにとっては祭りの始まりを告げるアナウンスであり、すべてを知る人たちにとっては戦いの始まりを告げるアナウンスが麻帆良に響き渡った。