麻帆良学園は小等部から高等部、はては大学までが集まったいわゆる学園都市であり、そこでの教育や部活動、およびイベントなどのレベルは高く全国からここに入学を希望する人間が集まってくるのでこの麻帆良の警備も当然他よりも厳しいものとなる。 また、日本の魔法使いたちの本拠地ともいえるこお場所は麻帆良学園全体を包み込むように強力な結界が張っており、正規の入り口以外からの侵入者は小さなオコジョであろうと簡単に感知してしまう。
だがいくら警備が厳重であろうと、抜け穴というのは必ずといっていい程どこかに存在するものである。
麻帆良は学園都市ではあるものの中にはコンビニや外食チェーン、学生が経営する超包子という中華料理店といった様々な店が軒を連ねており、店があるなら当然その店に必要な品を外部から取り寄せる必要がある。 外部から品を持ってくる業者は麻帆良からの許可証を持ってはいるものの、それでも厳しい検査を受けることになり、現在も早朝にもかかわらず外部から収穫したばかりの無農薬野菜を運び込んできた業者の運転手が警備員から身体検査と荷物のチェックを受けて、ようやく麻帆良に入ったところである。
厳しい検査を受け終えた運転手は車に乗り込むとエンジンをかけて車を進め、一軒の料理店の前で車を止める。 すると店から店長と思われる男が出てきて受取証にサインし、運転手と他愛もない世間話をしながら運転手と共に野菜を店の中へと運び込む。
そして、二人が店の中に入ると、フレンジーは車体の下から顔を出して辺りに誰もいないことを確認すると、車体の下から出て素早く物陰に身を隠し、店と車を何度か往復してすべての野菜を運び終えた業者が車に乗り込み次の店へと車を走らせ、それを見送った店長が店に入り誰もいなくなるとフレンジーは店の壁をよじ登り屋根へと上がり、屋根から屋根へと飛び移りながら麻帆良大学工学部のある校舎へと進む。
早朝という人通りのない時間帯であり、さらに人に見つかりにくいルートを通ったフレンジーは難なく大学の工学部のある校舎へとたどり着き、校舎の通気孔を破壊して中へと入りこむと、通気ダクトの中を通って学園のコンピューターにハッキングを行うことの出来る機械をある場所を探しはじめる。 ほどなくしてスーパーコンピューターのような機械がある場所を発見したが、早朝にもかかわらずそこには何人かの人間がいて忙しそうに何かの作業にあたっており、それをみたフレンジーは面倒くさそうに舌打ちのようにも聞こえる音を上げた。
フレンジーからすれば武器も持っていない数人の人間などあっさりと殺せる自信はあるが、ここは魔法使いというイレギュラーな存在の本拠地であり何が起こるか分からない。 なので面倒ではあるが、リスクを最小限に抑えるためにこの部屋に誰もいなくなるのを辛抱強く待つことに決めたフレンジーだったが、そう決めてから数分も経たない内に次々に人間が部屋へと集まって来たため、はじめにいた人間たちを殺したとしてもすぐに別の人間に発見されて満足にハッキングを行うことは出来なかっただろうが、集まった人間たちがそんなことに気づくことは微塵もなく、彼らは遥か昔に絶滅したといわれるティラノサウルスの形をした最新鋭のロボット(フレンジーから見ればガラクタも同然)の物を作っていた。
そしてフレンジーが潜入してから何時間も経ち、日も沈んで辺りが大分暗くなったころ作業がひと段落ついたのか、彼らは部屋の明かりを消して部屋から出てしばらくすると、フレンジーは通気孔を破壊して部屋の中へと侵入すると、部屋のコンピューターの前まで移動し、そこで人間では解析はおろか探知すら出来ない程の高度な信号でブラックアウトに通信を行う。
《遅かったなフレンジー、魔法使いの連中に見つかりでもしたのか》
《そんな訳ヘマするかよブラックアウト。 たしかに警備は厳重で入り口以外には結界が張られてたが、一度中に入っちまえば楽勝だ。 こんな時間になったのは邪魔な人間どもがいなくなる待ってただけだ》
《そうか、そいつは悪かったなフレンジー。 それで、コンピューターへの侵入は行えるか?》
軽い口調で行なわれていた通信だったが、ブラックアウトの言葉で雰囲気がガラリと変わる。
《ああ、俺の方はいつでもコンピューターへの侵入は可能だぜ》
《そうか、なら次はようやく俺の出番か》
《任せたぜ、ブラックアウト。 好きなだけ暴れて奴らの注意を引き付けろ》
そうして通信が終了し、中東のカタールのアメリカ空軍基地からMH―53 ペイブロウが一機、日本に向けて飛び立った。
†
装飾の施された窓枠にシンプルながら職人が手掛けたことが分かるような立派な仕事机、そして大企業の社長が座っていそうな黒い革のイスに腰かけている老人こそが麻帆良学園理事長であり麻帆良学園女子中等部の学園長でもある近衛近右衛門であり、後頭部が異常に発達したまるで妖怪のぬらりひょんのような姿お老人ではあるが、学園最強の魔法使いであるうえに関東魔法協会の理事も務める程の実力者なのである。 そんな彼は仙人のように長い髭を撫でながら深いため息をついた。
「まほネットにハッキングとは……まずい事態になったのう」
この麻帆良の地には内部に強力な魔力を秘めている世界樹や世界中から様々な貴重な本が集められた図書館島など、魔法使いから見れば宝の山のような土地であるためここを狙う侵入者は後を絶たず、おまけに「千の呪文の男(サウザンド・マスター)」と呼ばれる魔法世界の英雄であるナギ・スプリングフィードの息子のネギ・スプリングフィールドや現在その賞金は取り外されたものの、かつては600万ドルの賞金首であったヱヴァジェリン・A・K・マグダウェルという吸血鬼の真祖までいる。 故に昨日起こったまほネットのクラッキングに麻帆良にいる魔法関係者は動揺を隠せずにいており、今朝になって学園長自らが魔法関係者を集めて普段の生活に支障をきたさないように落ち着くことと警戒を怠らぬようにと注意を促し、気休めかもしれないがすぐに麻帆良のコンピューターのセキュリティを強化したばかりである。
「おまけにハッキングを行った者すら特定できておらんとは……本当に困ったわい」
情報が奪われたことが判明し警戒もセキュリティも強化したものの、どこの組織で誰が行ったのかすら分からない以上、下手に行動を起こすことが出来ないのでこちらは後手に回るしかない。 だが、それでも何か対策を出来ないかと頭を悩ませていたのだが、扉ごしからでも聞こえる位に慌しい足音が聞こえてきたかと思うとノックも無しに勢いよく扉が開かれ、魔法関係者であり自らも魔法使いである弐集院がよほど急いで来たのか息を荒げながら入ってくる。
「大変です学園長先生! 未確認機がこっちに!!」
「まぁ、少し落ち着いたらどうじゃ弐集院君。 その調子では報告もしずらいじゃろう」
学園長の指摘に弐集院は深呼吸をして呼吸を整える。
「どうやら少しは落ち着いたようじゃの弐集院君」
「も、申し訳ありません学園長先生。 少し取り乱していました」
「気にすることはないわい、それで未確認機というのは?」
「そ、そのことなんですが、先ほどから所属不明の未確認機がこちらに接近しており、こちらからの呼びかけにも応じる気配がありません!」
「ふむ……未確認機がのう」
瀬流彦の報告を聞いた学園長は少なからず動揺したものの、それを少しも表に出すことなくどうするべきか考えを巡らせる。 まほネットから情報が奪われたと聞いた時は高い確率で麻帆良が標的になると踏んでいたが、まさかハッキングを行った次の日にこんなにどうどうと来るとは思っていなかった。
人員不足に悩んではいるものの、麻帆良には関東魔法協会の理事である自分にナギ・スプリングフィールドがいた「紅い翼」に所属しており、学園でも自分に次ぐ実力者であるタカミチ・T・高畑、力を封印されてはいるもののかつて「闇の福音」と恐れられたエヴァンジェリン・A・K・マグダウェルなど、他にも実力者は大勢いる。 なので、侵入者が来るとしても用意周到に準備などを行い誰にもバレないようにひっそりと侵入して来るものだとばかり思っていたので、今回の未確認機は予想外であった。 もちろん、この未確認機がまほネットのハッキングとは無関係である可能性もあるが、長年の経験からこれは間違いなくまほネットにハッキングを行った者たちとの関係があると学園長は睨んでいる。
「ふむ、それでは未確認機を世界樹前広場へと誘導しタカミチと他の魔法使い数名で対応させて、他の者はこの騒ぎに乗じてさらに侵入者が来ないように警戒させておいてくれんか」
「わかりました。 ですがよろしいのですか……未確認機を麻帆良にいれてしまっても」
「確かに危険かもしれんが、受け入れずに下手に暴れられては逆に被害は大きくなろうて。 それならばこちらから招いて被害を最小限に抑えた方が得策じゃろうて」
「それもそうですね、勝手な発言をしてしまい申し訳ありません」
「よいよい、これも麻帆良やここにいる人たちを思っての発言じゃろう? ならば責めることは出来ぬよ」
「ありがとうございます。 それではみんなにそのように伝えてきます」
そう言って弐集院は学園長室から飛び出していく。 その様子を少しだけ嬉しそうに見ていた学園長だったが、その顔はすぐに関東魔法協会理事長に相応しいものへと変わる。
「どこの誰で何が目的かも分からんが、そう簡単にはいかせはせぬぞ」
学園最強の魔法使い近衛近右衛門は射殺さんばかりの視線で、夜の闇を睨みつけた。