時刻はとっくに深夜を過ぎているにもかかわらず、世界樹前広場はライトで照らされ未確認機を迎えるべく魔法使いのレベルの高い麻帆良においてもかなりの実力を持つ者たちが集められていた。
「しかし、麻帆良に侵入者が来るのはいつものことだが、こんなに堂々と来られるのは初めてだな」
「そうですね。 ですが、相手の未確認機は一機だけですし、こちらにはこれだけの人数がいるのですから大丈夫なのでは?」
集められた一人、サングラスをかけて髪をオールバックにしたマフィアのような格好の魔法使いの神多羅木がそう口にすると、麻帆良にある教会のシスターであり魔法使いでもあるシャークティがそう言う。
「たしかに普通ならシスターシャークティの言う通りですが、相手が何の策も無しに我々を相手にするとは思いずらいですから、油断だけはしないようにしてください」
「大丈夫やって、侵入者なんか俺が全員ぶっ潰してやるから心配あらへん!」
「小太郎……あなた少しは緊張感を持ちなさい」
魔法使いではないものの、神鳴流の剣士である葛葉刀子が気の緩みかけているシャークティにそう注意を促すものの、犬の耳と尻尾が生えている人と「狗族」のハーフの少年である犬上小太郎は自信満々にそう言ってのけ、刀子を呆れさせる。
「今回の襲撃をヱヴァはどう思う?」
そんな様子の彼らをよそにタカミチ・T・高畑は隣にいるヱヴァンジェリン・A・K・マグダウェルに声をかける。
「どうだろうな、注意を引き付けるためのだけのただの捨て駒か自分たちの実力に余程の自信があるのか、せれとも自分たちの実力も把握できていないような馬鹿のどれかだろうな」
「僕としては実力を把握出来ていない相手がいいけど、その確率は低いだろうね。 だけど、僕らの注意を引き付けているのが目的だったとしても、僕ら以外の魔法使いの人たちが警戒をしているからあまり心配は無い、そして相手がかなりの実力を持っていた場合でも、ここに集められたみんなは麻帆良でもかなりの実力者だし、それに龍宮君が遠くで狙撃の体勢にはいっているからそう簡単に遅れを取ったりはしないはずだ」
そこまで言うとタカミチは深いため息をつきながらメガネを掛け直す。
「それなのに何故かは分からないけど、さっきから胸騒ぎが止まらないんだ」
それは長年魔法使いとして多くの戦場を潜り抜けて来た経験なのか、タカミチは先程からしている嫌な予感を振り払えないでいた。
「胸騒ぎがするのはいいがタカミチ、それに気を取られてヘマをしたりするなよ。 お前がピンチになったとしても助けたりはしないからな」
「手厳しいなヱヴァは、でもありがとう。 おかげで少し気が楽になったよ」
「ふん、別にそんなつもりはない」
薄情な言い方ではあるが、ヱヴァとの付き合いが長いタカミチはそれがあまり素直ではない彼女なりの励ましだということを知っており、少し嬉しそうに感謝を述べるとヱヴァは少し顔を赤くしながらそっぽを向く。
そんなヱヴァを微笑ましく見ながら、それでも警戒を行っていたロボットでありヱヴァの従者である絡繰茶々丸のセンサーがこちらに向かって来る未確認機を捉えた。
「皆さん、未確認機がこちらに近づいて来ています」
茶々丸のその言葉に、ここにいた全員の少し和やかだった雰囲気が緊張感のあるものへと瞬時に変化し、遠くの空から未確認機であるヘリコプターが向かって来くるのが確認出来た。
そして、未確認機を自分たちの目で確認すると、神多羅木がサングラスを掛け直し、刀子が持っている太刀を瞬時に抜けるように構え、小太郎が楽しそうな笑みを浮かべながら手の平と拳を打ち合わせる。 そして、シャークティが十字架を、ヱヴァが魔法の触媒の入った試験管を取り出すと、茶々丸はそのままの体勢でじっとしておりタカミチはズボンのポケットに両手を入れる。
「茶々丸、あのヘリには何人乗っている?」
「それなのですが……マスター。 あのヘリコプターには誰も乗っていません」
ヱヴァはロボットである茶々丸にヘリをスキャンさせて敵が何人いるか確認しようとしたのだが、返って来た誰もいないという言葉にヱヴァだけでなく、ここにいる全員が首を傾げる。
「誰もいないだと? それは本当なのか?」
「はい、間違いありません。 あらゆる方法であの機体を調べてみましたが、機体全体から熱反応と放射線反応が見られるだけで生命反応はありません」
「生命反応がないって、生き物はおらへんってことやろ? でも、ヘリの操縦席に人がおるやん」
小太郎の言った通り、ヘリの操縦席にはパイロットらしき白人男性が乗っているため、生命反応がないなんてことはありえないはずなのだ。
「調べたところあれはホログラムで出来た映像です……人間ではありません」
未確認機であるMH―53ペイブロウは誰も乗っていないにもかかわらず、操縦を誤ることなく広場の真ん中へと着陸する。
「誰もいないのにどうやってここまで来たのかや、なぜ放射線反応があるのか気になることはあるけど、まずはあれをどうにかしよう」
タカミチの言葉に全員がそれぞれの獲物を構えると同時に、ローターの回転が停止して上へと上がりプロペラが折り畳まれる。
そして、ヘリから異質な駆動音が聞こえたかと思うと、ヘリ全体が細かなパーツへと分裂する。 コックピットが左右に分かれてその中から昆虫のような凶悪な顔が現れ、ローターの部分が競り上がる。 機体の前部が腕と胴体に変形し、機体後部が二つに分かれて足へと変形し高さが10mはあろうかというロボット――――ブラックアウトへと変形する。
「なんだこれは……」
先程まであったヘリコプターがいきなり巨大なロボットに変形するというの事態に全員が茫然となるものの、こちらを向いたブラックアウトの右手の機銃を見た瞬間に全員が魔力や気で身体を強化してその場から飛び退き、先程まで彼らがいた場所をいくつもの銃弾が吹き飛ばす。
「なんやねんこいつは!?」
「何でもいいからとりあえずあいつを倒すぞ!!」
「その通りですっ! あれを決して町に入れてはいけません!!」
叫ぶ小太郎に神多羅木とシャークティはそう言うと、神多羅木がフィンガースナップを用いた無詠唱呪文で起こした鎌鼬をシャークティが十字架と魔法の射手をブラックアウトに向けて放つ。 それらの攻撃をブラックアウトは躱すこと無く真正面から受けるがブラックアウトの体にはほんの少しの傷が付いただけにとどまり、ブラックアウト左手の砲口を向けてプラズマキャノンを放つ。 放たれたプラズマは地面に当たると放射状に広がり、地面を焼き尽くしながら神多羅木たちへと迫る。
「くそっ! 半端な攻撃じゃビクともしないのか!」
プラズマを躱した神多羅木がそう言いながらそれでも鎌鼬を放ち続けるが、ブラックアウトはそれを少しも気にすることなく、機銃を放ちながら両手のプラズマキャノンで広場やその周囲を破壊していく。
「魔法がダメなら打撃ならどうや!!」
小太郎はブラックアウトの放つ機銃やプラズマキャノンを躱しながら強化した拳でブラックアウトの胸部を殴る。 しかし、ブラックアウトはビクともせずに胸部に格納されたキャノン砲を展開して小太郎に放つ。
「あぶなっ! なんやコイツこんな所にも武器隠してんのかい!?」
不意を打たれた小太郎だったが、ブラックアウトの胸部を足場にして跳躍することで、なんとかキャノン砲を回避する。
キャノン砲を躱されたブラックアウトは、相手に攻撃の隙を与えないために、右手の機銃に両手のプラズマキャノン、さらに胸部のキャノン砲を打ち続ける。
「あまり調子に乗るなよこのデカブツが、リク・ラク・ラ・ラック・ライラック――――」
ブラックアウトの激しい攻撃が続くなか、ヱヴァは始動キーを唱えながら触媒の入った試験管をブラックアウトの顔面目掛けて投げつける。
「――――来たれ氷精 爆ぜよ風精 弾けよ凍れる息吹 氷爆!!」
ヱヴァがそう唱えた瞬間、試験管が爆発して凍気と爆風がブラックアウトを襲うが、ブラックアウトは突如として起こった吹雪に多少怯みはするものの、少しのダメージも受けていない。
「今だ茶々丸!!
「かしこまりました、マスター」
無論、ヱヴァもこの程度でブラックアウトを倒せるとは思っておらず、今の氷爆も目眩ましが目的であり、ジェットで勢いをつけた茶々丸が腕関節部の噴射機構でさらに勢いの増したパンチをブラックアウトの頭部に放つ。 ブラックアウトもかなりの勢いで向かって来る茶々丸を危険と感じたのか、攻撃を止めて右手で茶々丸のパンチを防ぐものの、茶々丸のパンチを受けた右手の機銃は激しく折れ曲がっており、これを頭部に受けていたらいくらブラックアウトとはいえ無事では済まなかっただろう。
だが、ブラックアウトは右手を殴り動きの止まった茶々丸を左手で掴む。
「茶々丸!」
「申し訳ありませんマスター。 抜け出すことが出来ません」
茶々丸がブラックアウトの拘束から抜け出そうともがくが、ブラックアウトの圧倒的な大きさと力により全く抜け出すことが出来ず、さらにブラックアウトの込める力によって茶々丸の体が少しずつ破壊されていく。
そして、ブラックアウトが茶々丸を破壊しようと一気に力を込めようとした瞬間、遠くから飛んで来た銃弾によってブラックアウトの右目が打ち抜かれ、突如として目を打ち抜かれたブラックアウトは痛みと混乱により力が緩み、茶々丸はまだかろうじて動くジェットでブラックアウトの拘束を抜け出すことに成功した。
「いくら頑丈とはいえ、相手は機械――――ならば!」
狙撃されたことにより出来た隙を衝き、刀子は持っている太刀に気を込めながらブラックアウトへ向かう。 気を込められた太刀は電気を帯び、刀子はその太刀をようやく混乱から立ち直ったブラックアウトの頭部へと振り下ろす。
「喰らえ――――雷鳴剣!!」
太刀がブラックアウトの頭部に触れた瞬間、太刀に込められた電気エネルギーが一気にブラックアウトへと襲い掛かる。 センサー類が集中している頭部に電気エネルギーを受けたことにより、ブラックアウトは苦痛の叫びを上げる。
「苦しんでいるところ悪いけど、これで片をつけさせて貰うよ」
タカミチは左手に「魔力」、右手に「気」を溜めてそれを融合させることで強大な力を身に纏う。
「豪殺――――居合拳!!」
咸卦法により強化されたタカミチから大砲のような拳圧が放たれ、それをうけたブラックアウトが大きく体勢を崩して倒れる。
「やったか?」
倒れたブラックアウトに神多羅木が祈るようにそう口にするが、そんな神多羅木の思いとは裏腹にブラックアウトはかなりのダメージを受けたもののまだ生きていた。
「まだ生きてんのかいアイツ!?」
「驚くのは後だ、早く奴を仕留めよう」
驚きの声を上げる小太郎をよそにタカミチが再び豪殺居合拳を放とうとするが、それよりも早くブラックアウトがプラズマキャノンを地面に向けて放つ。 そして地面に放たれたプラズマキャノンは一気に爆発を起こして360°全ての方向へ広がると、豪殺居合拳の威力を弱めると同時にタカミチたちを襲う。
ブラックアウトの急な攻撃にもかかわらず何とか魔法障壁を張り、攻撃に耐えたもののブラックアウトはすでに立ち上がり体勢を立て直していた。
「くそっ! 間に合え!!」
タカミチが豪殺居合拳を放つが、ブラックアウトはヘリに変形すると一気に空へと飛び上がり豪殺居合拳を躱す。
「なっ!!」
豪殺居合拳を躱されたことと、ヘリに変形したブラックアウトに全員が身構えるがブラックアウトは攻撃を行うことは無く、そのまま遥か上空へと飛んで行った。
「逃げた……んか?」
小太郎がそう疑問に思うのは確かで、あの時ブラックアウトはプラズマキャノンを放てる状態にもかかわらずに飛んで行ったため、小太郎だけでなく他の全員がま戦闘態勢を崩せずにいており、数分がたち何も起こらないと分かると、ようやく彼らは戦闘態勢を解くことが出来た。
「それにしても何だったんだアイツは?」
ブラックアウトとの戦闘が終わり緊張を解いた神多羅木が口を開くが、それは神多羅木だけでなくここにいる全員がその疑問を抱いていた。
「あれが何であれとりあえずは帰って学園長にこのことを報告しよう」
タカミチの言葉に全員が頷き、世界樹前広場を後にしてようやく長かった戦闘は終わりを告げた。