こちら第二呉鎮守府執務室   作:UNKNOWN819

2 / 3
プロローグⅡ

「着いた。着いてしまった。ついに」

「何か分からないが、もう観念するでありますよ。『提督』どの」

「くぅ……」

 

 ついにここまで来てしまった。停泊する小型の内火艇や哨戒艇の間をくぐり抜けて簡易なつくりの港を奥まで進み、やがて大発動艇の舷側が桟橋に接触した。

 そしてどこからともなく現れた可愛らしい小人のような存在――ここでは『妖精さん』と呼ぶらしい――に大発動艇を係留するためのロープをあきつ丸さんが投げ渡す。

 

「提督殿、お荷物を」

「はい……………」

 

 ああああ………ついに来てしまった。もうしんどい。

 自分の中で覚悟はできていたはずなんだけど、いざ着いてみると情けない溜息ばかりが出てくるものだ。

 なんでこの仕事が嫌かって?確かに待遇も悪くないし、配属された施設も悪いところじゃない。問題なのは、ここまで来る前―――正確に言えば1週間ほど前に呉鎮守府のボスから頂戴したここの艦隊の編成リスト、その中に見つけた戦艦娘『金剛』、あの娘だ。

 出来ることならこの狭い島国ニッポンで僕が遭遇したくなかったランキング堂々一位。そんな娘が何だって僕の受け持つ艦隊に旗艦クラスでいらっしゃるのかと。

 呉鎮ボス曰くあの娘、僕の事もバッチリ覚えているらしくて………そういや賢い娘だったもんなぁ。

 

「あのころはよかった…………」

「何を現実逃避されているのでありますか。ほら、さっさと降りるのでありますよ」

「わわっ!わ、わかりました。わかりましたから押さないで……」

 

 コンクリート桟橋に跳び移り、パタパタと尻をはたく。しかしここからでもよく見える、第二呉鎮の建物の大きなことよ。見た目は赤レンガ造の瀟洒で大きな病院のようだがその実、深海棲艦から西日本を守備することを旨とした艦娘による『連合艦隊』の本丸である。

 こちらの海側から見て、やや奥まった場所にある第二呉鎮の建物の右サイドには海に向けて伸びる|蒲鉾(かまぼこ)型の建屋と巨大なクレーン。一般の兵装よりも特殊性が高い艦娘の艤装の修理、建造すらもこの鎮守府内で完結するように出来ているため、基地内に建造施設や修理施設も同時に備えられているそうだ。あれはきっとそのための施設なのだろう。

 あとは、のどかな瀬戸内海に浮かぶ中規模の島に似つかわしくない近代的近接防御設備、通信設備、ごく小規模ながら全覆式の射撃場。対空・対水上の各種レーダーサイトは周囲の島々に分散されて設置されていたのが船上から見えていた。

 あと、桟橋を登りきった場所のすぐ脇に手入れがされていなくて藪みたいになった植え込みがあるんだけど、そこにひっそりと隠れるように一台の古い戦車が放置されている。

 

「おお提督どの、もしや戦車に興味がお有りでありますかっ」

「え?………あ、ええまあ。なんていう戦車なんですか?」

「…………もしやご存知ないのでありますか?かの『61式戦車』を!?」

「61式……中国の戦車ですか?」

 

 そうかこの娘陸軍出身だったか。いま戦車の話題になった途端テンションが一気に変わったぞ。

 20キロは確実にあるスーツケースを軽々と引っ張りながらの力説が始まる。

 

「何をおっしゃるか。61式戦車というのは戦後を乗り越え1961年、敗戦とともに多くのノウハウを喪った我が国が総力を結集して作り上げた誉れ高き戦車なのでありますよ。戦後における東側の雄、ソヴィエト連邦から国土を防衛することを旨に――――」

 

 これは長くなりそうだ。

 ここから見て鎮守府の建物の反対側にある正面の入り口を目指して歩きながら、辺りをそれとなく見回してみる。

 

「主砲は日本製鋼製の国産90ミリ52口径ライフル砲!米国のM3砲を近代的に改良し――――」

 

 山中の道路脇に投棄された粗大ごみのように、脇道の藪の中に錆の浮いた旧世代の装備がいくつも放置されている。

 さすがに小火器や弾薬のたぐいは無いものの、比較的大型の兵装………大口径の迫撃砲やら、おおきな歯車のような戦車の駆動輪、履帯、部品を抜き取られて殆どフレームだけになったジープ………などなど。

 

「若干ながら均質圧延装甲を薄くすることで軽量化し、更に車幅を狭くすることで我が国のインフラにも対応しているのであります。そしてエンジンは三菱の――――」

 

 鎮守府の建物にすぐ脇の藪が迫っているため、ここは日陰になっていて僅かに湿っぽい。今の季節は冬だから寒いだけだけど、夏はひんやりとして涼しそうだ。伝わりやすいように例えるとすれば、体育館裏の狭くてひんやりとしたあの空間、それに一番近い感じか。

 

「極めつけは何と言っても日本独自の技術が注ぎ込まれているトランスミッション!大戦中のチト車を参考に作られたトランスミッションはもはや日本の技術者、職人の魂そのものが昇華したパーツと言っても過言ではなく――――」

 

 ぐるりと鎮守府の建物を裏手から正面に回り込むと、運動場のような広大な広場とその向こうに見える軍艦用の港が見えた。

 巨大な防波堤に取り囲まれた人工の港の中に巨大な軍艦が何隻も同時に停泊できるスペースが確保されており、現在は巨大な船体に航空機の発着用に全通甲板を備えた陸軍の特殊輸送船『あきつ丸』が停泊しているのみだが、出撃する前などは出港の準備をすすめる軍艦で一杯になるのだろう。

 

「ちなみに先ほどの車両は北海道の北部方面隊第7師団、第7戦車大隊に所属していた個体でありまして、砲塔には黄色地に“鉄牛と北海道”の隊章が…………提督殿、聞いているでありますか?」

「ええ。聞いてますよ」

「そうでありますか。―――で、その北部方面隊なのですが……」

 

 陸軍のやつらの戦車愛は凄まじいというのはよく聞く話なんだけど、あきつ丸さんのソレは一般的な陸軍将校のそれを丸々2乗したような、そんな感じなのかもしれない。戦車や火砲の具体的で詳細な話が次々出てくる。

 ……で、話に夢中な彼女はまだ正面玄関に着いた事に気がついていない訳だ。

 

「あきつ丸さん」

「しかしながら戦後世代のソヴィエト戦車の発展ぶりは目覚ましく―――何でありますか?」

「着きましたよ。たぶんね」

「…………ああ!申し訳ない!」

 

 まず驚いて、それからぱっと顔を赤らめる。

 軍属といえどやはり年頃の少女である。まぁ可愛いもんだなぁ。

 

「いえいえ。実は僕も銃が好きでしてね、昔は同僚に熱弁しちゃあ呆れられたもんですよ」

「ははは、いやはや……では提督殿、こちらへどうぞ」

 

 照れ笑いを浮かべながら重厚な玄関の戸を開け、中へ導かれる。

 緊張する。いよいよ後に引けないとこまで来た。戸の隙間から漏れる僅かな人くささというか、人のいる建物特有の匂いというか、そういう空気を感じながら、僕は鎮守府の建物に立ち入るのだった。

 

 

 

 背後の頭一つぶん高い場所から聞こえる独り言を聞きながら、あきつ丸は廊下を進む。

 微かな独り言の主は勿論、先ほど鎮守府の外周を歩いていた時とは少し違う雰囲気を漂わせている提督、つまり灯山少佐である。何だか一人で思案しているようなので設備の案内はそこそこで済ませ、手空きになったあきつ丸は徒然なるままにその雰囲気について静かに分析していた。

 

(剣呑であるとか拒絶とか、そういう感じではないでありますなぁ)

 

 要は緊張しているらしい。もうすぐ30歳になろうかという大の男、しかも少佐にもなった軍人が。

 

(これではまるで新居に引っ越してきた飼い猫でありますな)

 

 特に周囲を忙しなく見回して、様々な設備や建物の構造を覚え込もうと努力している辺りが瓜二つである。あえて違う所を挙げるとするならば、我が物顔で新居を探検する猫と違ってこの提督は全然堂々としていないところか。

 おっかなびっくり、前に名の出た金剛型の長女に遭遇しないか警戒しながら歩いているらしく、時々その情けない独り言の中に金剛というワードが聞こえてくるのが、また何とも言えない感じである。

 横目で観察していると、周囲を警戒したままの提督がふいに声を発した。

 

「あのー、あきつ丸さん」

「何でありますか?」

「ええと……その、やけに静かですね。もう少しワイワイした感じかと思ってたんですが」

「ああ、そういう事でありましたか。恐らく皆遠征に出掛けているか訓練中であるからでありますな。普段はもっと手の着けられない騒がしさでありますから」

「そうなんですか!……あ、いや、ご苦労様です」

 

 早々に金剛さんと出会わなくてラッキー、でもみんな真面目にやってんだから笑っちゃだめだ堪えろ自分やったぁ気苦労が減ったぞ。

 まっこと複雑な表情を浮かべた顔にはそう書いてあった。

 しかし話してみるにこの提督、厳ついレンズ付き眼帯と腰に下げた大砲さえ無ければ何処にでもいそうな普通の青年である。

 逆に言えば、『軍人らしくない』。軍人らしさというのは選民主義的な意味合いではなく、長きに渡って過酷な訓練を積み重ねてきた者独特の気迫というか雰囲気というか、そういうモノの有り無しの事である。人によって加減はあるが、少なくともあきつ丸からしてみれば、この提督は『ない』人間であった。

 

(そして、そういう将校に限ってコネやらカネやらで就いた者が多いのであるからして……)

 

 まあ、あまり期待はしすぎない方がいいだろう。それにどうせ指揮官としての能力なんてのは出撃やら演習やらをこなすうちに、大体すぐに分かってくるものなのだ。

 なに、陸軍なら金コネその他で幹部になれるともっぱらの噂?はて、知らないでありますな。なんの話だかわからないであります。

 

「さて、こちらが執務室であります。要は提督殿の主な仕事場でありますな」

「案外近かったですね」

「2階に上がってすぐでありますから、勝手は良いはずであります。…………大淀どの!入るでありますよー!」

「ちょっ………ノックくらいしてください!」

 

 おっと、しかし荷物で手が塞がっていたから仕方ない。

 慌てて剥きかけたミカンを隠そうと試みている軽巡洋艦娘の『大淀』どのを笑いながら、提督殿を執務室へと招き入れる。

 

「では提督殿。部屋まで荷物をお持ち致しますゆえ、これにて失礼させて頂くであります」

「あ、すみません。何から何まで」

「礼には及ばないでありますよ。では後のことはそこの大淀殿に……ミカンでも分けて頂きながら「あきつ丸さん!」ははは!冗談でありますよ。では失礼するであります」

 

 ササッと執務室から退出し、荷物を持ってトットと逃げてしまう。いつも真面目な優等生らしく注意をしてくる大淀どのへのちょっとした仕返しだ。海軍はどうもああいうのが多くて息が詰まるであります。

 

(さあて、では早い所この荷物を届けてゲームでもするのであります!)

 

 世界中の特殊部隊員を操作して攻防するゲームだったが、なかなかどうして、軍人としての意識がくすぐられるというか、戦略の立て方で勝敗が決まる現実味が堪らないというか。まあ詰まるところハマってしまったのだ。

 最初は夕張殿の部屋に失礼して遊んでいたものの、ハマってからは自室でも出来るように自前でソフトとゲームハードを一式買ってしまった。同室のまるゆには呆れられたが、自分はこれでよかったと思っている。

 一日の最後、仕事終わりに一杯やりながら虹6!……ああ、最高なのであります。

 

(まだ夜では無いでありますが、どうせ今日は仕事も無いのでゲーム三昧なのであります)

 

 そうと決まれば話は早い。

 

「万朶の桜か襟の色〜♪」

 

 

 あきつ丸、出撃であります!

 

 




陸軍の娘はレインボーシックス好きそう(小並感)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。