「―――あっ、『歩兵の本領』」
「え?」
「あ、すみません。こっちの話です」
めちゃめちゃ気まずい雰囲気出てるねこの執務室。
大淀さんってなんだか真面目そうな娘だし、ちょっとサボってたのを見られたのが余程恥ずかしかったのだろうか。とりあえずどうにかして打ち解けたい。
「ええと、じゃあまず自己紹介させて下さい。僕の名前は灯山……灯山基晴といいます。まあ好きに呼んでください。………えーっと、色々あってこちらの基地を預からせて頂く事になりました。どうぞよろしく、大淀さん」
略帽を脱いで軽く頭を下げる。
すると目の前の大淀さんはまた更に申し訳なさそうな顔になって、
「も、申し訳ありません!私、軽巡洋艦大淀です。灯山少佐に発令された任務を補佐するよう前任の者から言付かっております。何かご不明な点があれば何なりとお申し付け下さって結構です」
わぁお。ご丁寧なこと…………あんまり畏まられるのもちょっと苦手だなぁ。
まあ、変な壁は追々取り払えるように頑張っていきますか。
とりあえず目の前の長椅子に掛けて、大淀さんもテーブルを挟んだ向かいに座るように薦めた。
「僕ね、地元が広島なんですよ。菓子はなくてもミカンはあるもんだからよく食べたもんでねぇ」
「……………すみません………」
「う、いや違うんです。嫌味じゃなくって。別に気にしなくて結構ですよ」
一つミカンを手に取り、皮をむく。
「で、話は変わるんですが―――艦隊の殆どは出払っているそうですね。とても静かだ」
「はい。当面の間は前任の者が運用計画を立てているので、それに従って艦隊を動かして欲しいと言いつかっております」
「ふうん。前任ね」
まあ知り合いだ。相当古くからの。
奴の手の内なら大方わかるから、何となくこういうお節介は予想していた。ま、今回のお節介は素直にありがたいや。
剥けたミカンを口に入れる。
「んー、甘いですねぇ」
「駆逐艦の子たちが頂いてきたんです。農家の方をお手伝いさせて頂いたみたいで」
「へぇ」
そういう仕事もあるのか。そういえば何度か艦娘を基地の外で見たことがあったなぁ。これはそういうことだったのか。
「ところで……灯山提督」
あ、そうか。少佐なのに提督なんだよなぁ。時代も変わったもんだ。
「早速ですが、こちらの書類をお読みください」
「ん?これは誰が……ああ前任ね。はいどうも」
万年筆で書かれたらしい、丁寧な筆跡で表書きがされた封筒だ。やけに薄いが中身はなんじゃろな。
封筒の中にただ一枚入っていたコピー用紙に書かれた文に目を通す。
「ほー。ふーん。へぇー」
曰く、最初にやるべき仕事は大方やってやったから、艦娘とまずは親交を深めてこいと。なるほどね。
「うん、しばらく基地を散策しろと。曰く『任務』だそうです」
「そうですか……あの方らしいですね」
「本当まったくその通り」
昔も今も変わり者なのだ。良くも悪くも。
「じゃあ早速行ってこようかな。基地内の見取り図はありますか?」
「え?は、はい。こちらです。灯山提督の私室はこちらのマークされた部屋になります。よろしければ今から私がご案内を―――」
「あ、いいですよ、案内は。面白そうだし自分で見つけてみたい」
僕がそう言うと、立ち上がりかけていた大淀さんは眼鏡越しに一瞬得体の知れない何かを見る目で僕を見て、
「そうですか。……では、こちらが見取り図とお部屋の鍵です。内線用のPHSはお持ちですか?」
「これね。バッチリです」
「ありがとうございます。何かご不明な点があれば遠慮なくお申し付け下さい」
「はーい」
PHSを仕舞って席を立つ。
ではいざ行かん、鎮守府探検!