STEAM Phantasm   作:ジンネマン

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夢歩き

夢を通じて夢を歩くこと
あり得る場所、あり得ざる場所をも旅すること。
人の夢見る物語を旅すること。
幾万、幾億、幾星霜の世界への旅。


夢歩き 前編

 落ちていく。落ちていく。落ちていく。

 ふんわりと、落ちていく。

 

 目を開けるとあたしは落ちていた。いや、落ちている。

 この感覚には覚えがある。一度体験したことがある。

 重力に引かれるのとは違う墜落感、ニュートン卿の万有引力とは違うモノに引かれる感覚。

 

 まただ、また夢、また夢歩き。

 今度はどんなところに行くのだろうか? 違う、見ると言うのが正しい。でも、やっぱり感覚として行ってくるというのがしっくりくる。

 もしかして危険かもしれないけど、また赫い瞳の、あたしたちすべてを嘲笑っていた残酷な神さまみたいなのがいる所にいくかもしれないけど。

 でも、やはり行ったことのない、見たことのない風景を観るのは少し楽しみ。願わくは、明るく、暖かな所だといいな。

 

 

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 あたしは立っていた。四本の足で、一本の尻尾と、一つの頭の猫で、いつものように(前のように?)仔猫の姿で立っていた。

 周りを見渡すと人がたくさん歩いていた。ヴェラザノみたいに(メタル)になっていたり紙袋を被ったりしていない、クイーンズブリッジのカトリーンと同じ生身の人たち。

 ――それが、こんなにたくさんいる。それに――

 

 あたしは上を見上げる。空を見上げる。晴れた空をみる。

 いつも一両しかない地下鉄から見える空とは違う。遠く、遠く、遠い青空。地下世界の柴影の空とは違う。青空がこんなにも高いなんて初めて知った。

 でも、

 

「ニャ」

 

 ――煙たい。

 

 すぐ近くを通る道路には蒸気自動車(ガーニー)(リリィには史実世界の自動車と自分たちの世界の蒸気自動車の区別はついていない)が排煙を撒き散らしながら疾走している。何台も、何台も。そういった光景事態は初めて見るものだが、それでも煙たいのは嫌だ。

 そして、蒸気自動車駆け抜ける度に、蒸気自動車が切り裂く風が吹き付けてくる。

 

 ――寒い。

 

 あたしは意識しはじめるとだんだんと寒く感じてきた。さらに強い寒い風が吹くのを感じた。

 

 ――寒い!

 

 びゅうー、びゅうー。

 一両しかない地下鉄の風を切る音とは違う、風そのものが笛を吹きながら建物に、植物に、生物に寒気を叩きつける。地下世界でも、地下鉄の中でも感じたことのない感覚。全身がブルブル震えて吐く息が白い。

 

「ニャァ。ニャー」

 

 ――寒い、寒い、寒い!

 あたしは道端でちぢこまり寒さに震えていると誰かがあたしを拾い上げた。暖かい人の温もりに包まれてほっと一息する。

 ――人って、こんなにも暖かったんだな。

 

「おやー。これは、迷子の仔猫さんだー。ねえチカちゃん、チカちゃん! 迷子の仔猫さんだよ! 可愛い仔猫さんだよ!」

 

 あたしを拾い上げた女の子、元のあたしより少し(?)大きいオレンジ色の髪の女の子が、近くにいた緑色の髪を二つに結った女の子に見せびらかす。

 ――なんか、玩具になった気分。

 

「ハイハイ、可愛い仔猫だね……って、なんで迷子なんてわかるのさ?」

 

「えーー。どこをどう見たって迷子の仔猫だよ」

 

「ニャァ。ニャァ」

 

 ――そうだよ。あたしは迷子じゃないよ。あたしは夢を渡っているだけだよ。見ているだけだよ。

 あたしは通じていないとわかっていても抗議の声をあげる。ニャァ、ニャァと鳴き続ける。すると、なにか通じたのかオレンジの子がうんうん。と、頷く。

 

 

「おいひびき、この仔猫なんか訴えているが――」

 

「わかったよチカちゃん。この仔はお腹空かしているんだよ。だって、もうお昼時だしね」

 

「ああ! そうだった、材料切らしたから急ぎの買い出しの最中だった! ひびき行くぞ! 急がないと減給される!」

 

「あーー待ってよチカちゃん」

 

 緑の子が何か言うと大急ぎで走り出し、それを追うようにオレンジの女の子も、あたしを胸に抱えながら走り出した。がくん、がくん、と、あたしを大きく揺らしながら走る。あたしはまるで猫の首輪につけられる鈴のように振られながらその身を任すしかなかった。

 

 

 

「ランサーさん遅くなりました!」「遅くなりました」

 

 二人は息を荒げながら一つのお店に入った。そのお店は照明器具を極力排し、薄暗いながらも大通りに面した窓から指す陽光が店内を明るくして、不思議と暖く落ち着いた雰囲気にしてくれている。

 ――とっても素敵なお店。

 

「遅いぞ二人とも。 こっちはてんてこ舞いなのにどこで道草食っていやがった。

 まあいい、二人とも接客は任したぞ、俺は厨房に入るから」

 

 入ってそうそう二人を怒鳴るとは言わないまでも、少々ケンのある声で叱る男の人がいた。ランサーと呼ばれた青い男は料理や飲み物の配膳をこなしつつ、厨房に入っては調理をこなすという多忙を極めていた。

 そんな最中(さなか)、頼んでいた買い出しを遅れてくるものだから文句の一つも言いたくなるだろう。しかし、必要以上に追及や叱責をせず彼は二人に接客の仕事を任せて自分は厨房に入っていった。

 

「じゃあ仔猫ちゃんはあっちでじっとしていてね」

 

 

 オレンジの子があたしを店の隅に置くと、そのまま接客をしながら時折厨房にはいったりもした。緑の子も忙しそうに動き回っていた。ただ、緑の子が厨房に入ろうとするとするとオレンジの子が全力で止めに入っていたのは不思議だった。

 そんなこんなで忙しい昼食時を終えて、静かになった店内で三人の従業員は店の端席で遅めの昼食の準備をしていた。

 

「っで、二人ともなんで買い出しが遅かったんだ?」

 

「え? もういいんじゃないんですか?」

 

 青い男は昼食の配膳をしながら二人に遅刻の理由を問う。

 

 

「いや、俺はいいんだが一応店長に報告義務があるからな」

 

 青い男は手を顎に添えて苦い顔をしながら答える。彼自身は遅刻の理由を特に聞こうとは思っていないようだが、彼も彼で雇われの身、上司への報告と従業員への勤務態度に注意を光らせる必要がある。

 そして、店内が落ち着いた今なら聞くにはちょうどいいと判断した。

 

「あのねランサーさん、私たち、買い出しの途中で寒さに凍える迷子の仔猫を発見しまして」

 

「ほうほう。それで」

 

 青い男はオレンジの子の話に耳を傾ける。ちなみに緑の子は青い男の判断に固唾を飲んでいる。

 

 

「拾って来たら少し遅くなりました」

 

「よし、店長に報告しとくわ」

 

「なんでですか!?」「やっぱりな――」

 

 オレンジの子は驚愕し、緑の子はあらかじめした予想通りだったようで落胆している。

 

「だってよ。仔猫をかまっていたら遅れたんだろ? なら報告だろ?」

 

 青い男は至極、真っ当なことを言っているのでオレンジの子反論できないのか『ぐぬぬ』っと唸っている。でも、せっかくあたしを拾って、暖房機関のきいたここまで連れてきてくれたのに困らせるのは申し訳ない。あたしは青い男の近くに行き抗議の声を上げる。

 ――もしもの時はこの血も涙もない男に目にモノ見せてやる。

 そう、意志を込めた目で睨み付ける。

 

「ニャア! ニャア!」

 

「そんな目で睨むな。鳴くな」

 

 青い男はため息を吐いて片手で頭を掻きながら、もう片方の手であたしを抱き上げ頭を撫でる。

 ――うん。うん? なんだろ、あたしの声が届いたのかな?

 

「あのな猫とオレンジの。なにも俺は店長に悪いことを言うわけじゃない」

 

「じゃあ、何を報告するんですか?」

 

「あん。そんなの決まっているだろう。『二人はかわいそうな仔猫が放っておけず、そのために買い出しがおくれました』ってな」

 

 

 青い男はあたしを撫でながら小粋に二人にウインクする。

 

「ランサーさん――」

 

「ほら、こいつの分の飲み物と焼き魚でも用意してやれよ――『♪♬ 』」

 

 突然店の奥から電信通信機(エンジン・フォン )(電話)の呼び鈴が鳴る。

 

「たっく、なんだよ。もうすぐ飯だってのに――おい二人は先に食べてな。俺は電話に出てくるから」

 

 そう、言い残して青い男は奥に引っ込んだ。

 

「じゃあ、先に食べようかチカちゃん。仔猫ちゃん」

 

「そうだな。さっさと食べるか。

 ほら、お前も来いよ。さてミルクは 「おやーーこれは可愛い迷子の仔猫ですね。それでねひびきさん。ミルクーーならミドリに出してもらいましょ。ほら、そのミドリの貧相な胸からぼ」ブエノス・ノーチェス!!」

 

「ブエナス・ディアス!?」

 

 緑の子がいきなり、何もないところから湧いて出て来た、変なことを口(あるかどうかはわからない)走っていた青い電信通信機を、奇妙な電信通信機を何の躊躇なくへし折った。しかも折っただけでは物足りないのか、最後は植木鉢の影に隠してあった鈍器で砕いている。

 ――この緑の子、怖い。

 

「ふーー。ふーー。開口一番なに言っているんだ! この変態携帯は!」

 

「まあまあ落ち着いてチカちゃん。ほら、仔猫ちゃんも怯えているよ。

 あ、携帯さんこんにちは」

 

 オレンジの子は緑の子を宥めつつ、砕かれた電信通信機に挨拶をしている。その光景は余りに異常で、頭のよくないあたしにさえ常軌を逸しているのはわかる。地下世界にだって不思議なことが溢れていたが、正直ここといい勝負ではないかと思ってきた。しかし、あたしの驚愕はまだ終わらない。

 

「いたーーーーーーーいじゃないですかこの緑は! この青汁は! このミドリム」

 

 緑の子はまた何処からともなく湧いた青の電信通信機を、その左手で握りしめた。まるで、これが日常茶飯事で、繰り返し繰り返し行われてきたことのように、生活の一部のように条件反射で握りしめていた。彼女の握力で青い電信通信機はミシミシ、ミシミシと軋みを上げる。

 ――いま、自分はとんでもない物語にいるのではないか?

 

「おいひびき、厨房からこの間あの……えーーと、あーー、あの白い男から貰ったあの調理器具持って来い。ほらあの――」

 

「白い男――ああ、この間テスラさんが調理に役立ててくれってくれた《どんなモノでも粉微塵! たとえ相手がふるきものであろうとも粉砕可能なプロセッサー型テスラマシン一号》のこと?」

 

「ハイハーーイ。ちょっと待っててね」

 

 オレンジの子は緑の子がオレンジの子に何かを持ってくるように言うと、小走りで厨房に向かって行った。その間青い電信通信機はその細長い体を捩り、なんとか抗議の声を上げる。

 

「おい緑! 貴様なに企んでいる!? 痛い! ごめんなさい緑さん、離してください。むしろ離せミトコンドリア!」

 

 緑の子は青い電信通信機の抗議を無視してオレンジの子の持ってきた機械に青い電信通信機を入れるとスイッチを入れた。

 

 ――――動き出す機械(テスラマシン)――――

 

 ――――雷電を纏いし刃が――――

 

 ――――音速の壁を突き破る高速の刃が――――

 

 ――――すべてを、粉砕する――――

 

 

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 その後、あたしたちは用事を終えてきた青い男と何事もなかったように(もう色々を気にするのをやめた)一緒に遅めの昼食をとり、静かなひと時を過ごしていた。窓際で暖かな日差しを浴び、店内に流れるゆったりした音楽に耳を傾け、木独特の優しい感触を楽しんでいた。

 ――案外、あの青い電信通信機さえなければいいとこかも。もしかしたら、アレがAの言っていた機関精霊なのか?

 

 だが、そんなあたしの安寧も長くは続かなかった。

 

 さあ、耳を澄ませ、目を配れ、心せよ。TYPEMOONの混沌はすぐそこまで来ている――

 

 聞こえる。聴こえる。キコエル。

 近くから擬音化できない奇妙な音が這いよって来る。

 TYPEMOONの闇から生まれ落ちた混沌が、

 

 ルールブレイカーにして、

 掟破りの存在、

 菌糸類が生み出した最終兵器。

 

「コニャニャチワ――――」

 

 ――……えーーー! なんであの猫型クリッターがここにいるの!?

 そう、あの猫型クリッターは以前にあたしやウォール・ストリートにいる猫人たちを攫おうとしてAに追い返されたヤツだ。そのクリッターが今目の前に突如として現れて二人に挨拶までしている。それほどまでにこのクリッターは日常的にこの店に来るのだろうか。そして、聞く者の脳にこびりつて離れない独特のこのクリッターを前にして平然としている二人、あたしはそのことに驚きを隠せない。

 ――もしかしてここは地下世界よりも物騒なところなのかな? そう考えるとさっきの青い電信通信機も新手のクリッター!?

 

 あたしは猫型クリッターを警戒しつつ何処かに出口はないか探す、ここにはAはいないから自分の身は自分でどうにかするしかない。

 

「あ、ネコアルクさんこんにちは」

 

「げ! ナマモノ」

 

「相変わらずミドリはあちしに冷たいね。あ、ひびきさんお茶貰える? ちなみに温度はぬ る め で あちし猫だから猫舌なの――?」

 

 ――気づかれた!?

 

「はて? そこの仔猫よ。あちしたち何処かであったことない? いや、ちみみたいな可愛い猫をそうそう忘れるはずはない。むしろ、猫なのに――猫なのに――――あちしはこう言いたい………………お前猫耳になーーーーーーーーれーーーーーーーーーーーーーーーーーー」

 

「ニャ――――! (いやーーーーーー)」

 

 あたしは突撃してくる猫型クリッターを避ける、猫型クリッターは扉に激突して目を回している。あたしは猫型クリッターが激突してできた隙間から外に全力疾走で逃げ出す。背後から二人が何か言っていたが、よく聞こえなかった。むしろ、そんな余裕はなかった。いつ、あの猫型クリッターが襲ってくるかわからないから、今のうちにできるだけ距離を空けておかないとどうなるかわからないから。

 

 

 

 あたしはそれから、どのくらい走ったかわからないが、少なくともあの猫型クリッターを撒くの成功した。でも、あたしはいま、見知らぬ廃屋に来ていた。辺りは昼間なのに薄暗く、外はあんなに乾燥していたのにここはじけじけと湿っぽい。こんなところに長くは痛くないけど今からあのお店に引き返そうにも必死に、あちこち走り回ったから道がわからない。

 ふっと、あたしを誰かが拾い上げた。

 

「おやおや、いったい誰が来たかと思えば、こんな可愛らし仔猫ちゃんだったおとは」

 

 あたしを拾い上げた人は妖しい(・・・)雰囲気の人だった。黒くってパリッとした服、Aの車掌服とよく似たモノを着た人がしげしげと物珍しそうにあたしを見る。

 

「ふん。ここにはご主人様の結界で普通の生き物は出入り出来ない筈なんだがね。まあいい、少なくとも久しぶりの来客だ。丁重にもてなさないと」

 

 そう言うと彼はあたしを連れて歩き出す、しばらくして着いたのは机と椅子、他には簡素なベットとシンクと最低限の家具があるだけの空間、雨露をしのげるだけの場所。そんなところにわたしは連れてこられた。

 そして、彼は椅子に座るとあたしを膝に乗せ優しく抱える。

 

「さて、まずは」

 

 彼はいきなりあたしの顎と頭を撫でてくる。それはAには無い柔らかな、少々こそばゆい撫で方だ。

 

「ニャァ」

 

 声が自然と漏れる。意識をしたわけでもないのに、無意識に出てしまう。

 彼はその声が気に入ったのか、先より、念入りに撫でてくる。

 

「ふふ、さて」

 

 でも、雰囲気が急に変わった。先まで顎と頭を撫でていた手を、尻尾の付け根へと移す。さっきまでの柔らかな、こそばゆい撫で方ではなく、とても、とても(・・・)

 

「ニャニャァ。ニャ~」

 

 声が自然と漏れる。意識をしたわけでもないのに、無意識に出てしまう。

 でも、さっきとは違う声だ。声に湿っぽい。

 それに、妙に既知感がある。

 これは、あの時のルシャと同じ声だ。

 

 ――え? ルシャと同じ声……つまり、あたしっていま――

 

「おやおや、この仔猫は今、欲情しているのかな?」

 

 彼、否、男は更に、執拗に尻尾の付け根を撫で回す。まるで、今までは遠慮していたと言わんばかりに、これからが本番と宣言するように。

 

「ニャァァァ~~(だ、ダメ~~~)」

 

「ふふ、ここが気に入ったようですね。お客様」

 

 撫でる、撫でる。今度は尻尾のほうだけでなく首、頭、肉球、体中色々な場所を撫でてくる。その間思い出したかのように、また尻尾のほうを撫でる。撫で方も緩急をつける。

 

「ニャ、ニャ、ニャ、ニャャャャ(ひゃ、ひぃ、や、あぁぁぁぁ)」

 

 時に優しく、時に引っ掻くように、でも最後は労わるように柔らかく撫でる。その絶妙な塩梅が、その計算されつくされた撫で方が、私の思考をかき乱す。

 

「ニャ―――――ニャ、ャャャャャャャャ(は――――は、ぁぁぁぁぁぁぁっぁ)」

 

 こんな声はAの前でも出したことない、今までAには体中(髪や顔、あとアソコやアソコなんかは死守した)を洗われたことがあるけど、でも、その時だってこんな声は出なかった。あたしにとって初めての体験で、こんな体験したくないけど、でも、でも、でも。

 

「さて、ま――」

 

「ちょっとあんた!! 何やってんのよ!!」

 




ブエノス・ノーチェス!! といわけで連載しないと言っていたが、アレは嘘だ。うん。する気はなかったんですがね、なんか書きたくなったんですよ。つまり、いつもの病気ですね。はい。

では、続きは近いうちに(書けるといいな)


では親愛なるハーメルン読者の皆様良き青空を。
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