ダンジョンで真人間を目指すやつもいる   作:てばさき

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寒くね? って思ってたら雪降ってた。
ヤバくね? って思ってたら電車停まってた。

会社に行けなくて、僕はとても困ってしまいました(小並感)





第10話 楽しいダンジョンアタック 前編

拠点で荷物整理の後、ささやかなお祝いを開いてから一晩。

 

「うわぁ、凛々しいねぇカイト君!」

 

ヘスティアの感心した視線の先には、完全装備に身を固めたカイトがいた。

 

インナーの上にチェインメイル、その更に上から大きめにあつらえた耐火繊維製の襟つきシャツ。

これだけで、火矢くらいなら防ぎきれてしまう逸品だった。

色は灰色で、最後にややくたびれた黒のジャケットを着ている。

ジャケットには背面と上腕部を守るように鋼板が仕込まれていた。

特徴として、何故か左前腕部の袖が丸々切り取られている。

 

濃緑色のズボンは少し太めだが、耐火シャツと同じ素材を用い、脚部の各所を守るプロテクターを内蔵していた。

足元は靴底に硬い樹脂を使った特注品のショートブーツで、何かを踏み砕く(・・・・・・・)のに重宝する。

 

「どれもいい加減骨董品ですよ。かなり助けられもしましたけど。出来の良い軽鎧なんかはすごく高くて。こんな服の延長線みたいな装備になっちゃいました」

 

苦笑しながら、カイトは安宿から運んできた荷物のうち、立方体に近い箱を開く。

 

中にはまるで人間の肋骨に似た金属製の何かがあった。

ヘスティアはその用途がわからず、首をかしげた。

 

「それは?」

 

()です。神ヘスティア」

 

その肋骨の真ん中に、ジャケットの袖が落とされた方の腕を通して、残った右手で何やら操作する。

 

ガポン、と音がして、肋骨が腕を挟み込むように閉じた。

 

「視界を遮らず、小回りが聞くんです。デザインとか仕掛けは、こういうのが好きなやつがいて」

 

そうして出来上がったカイトの姿は、戦場で見たときと何ら変わりないものだった。

ただ一つ違うのは、その表情。

 

もう、人を殺さなくて良い、ということからか、知っているものが見れば信じられないくらい穏やかだった。

 

最後にいつもの黒剣を腰に佩くと、準備は完了だ。

 

「って、カイト君、荷物を入れるバッグなんかは良いのかい?」

 

逆に言うとそれ以外は何も持っていないカイトに、ヘスティアが慌てた様子で声を掛ける。

 

「大丈夫です。神ヘスティア」

 

カイトは笑みを浮かべた。

 

当てが(・・・)ありますから」

 

─────────────────────

リリルカは困窮していた。

 

今すぐどうにかなるわけでもないが、ダンジョンに潜れなければいずれそうなることだろう。

全ての原因は、あの男にあった。

 

確かにリリルカは、自身の不覚から犯罪を起こしていたことをカイトに告白してしまった。

しかし、それだけならば実は大きな問題にはならなかったのである。

 

カイトはあの時点で冒険者ではなく、わざわざリリルカのことを告発するような善性の人間ではない。

あのことだけであれば、リリルカはいつも通りのこそ泥ライフを満喫していたはずなのだ。

 

全てはあの路地裏で、カイトがロクデナシ三人組を容赦なくしばき倒したことに原因があった。

 

どうもあの三人は、あの運命の日の前日に、酒場で自慢気に話していたらしい。

 

サポーターが冒険者を狩るなんて生意気だ、俺達が逆に狩ってやる、と。

 

無差別ながらも的を得た復讐の結果は、知っての通りだった。

 

三人ともに重傷。

レベル2の男は、恐怖のあまり幼時退行を起こす程だったという。

 

その話は、当日のうちにオラリオに広がった。

 

曰く──

「パルゥムのサポーターは冒険者狩りだ」

「弱い見た目で油断させて、正気を失うほどの拷問をするらしい」

「実はレベル5相当の用心棒がついている」

「叩きのめしたのはその用心棒で、拷問はパルゥムがやったらしい」

「パルゥムは仮の姿らしい」

「もうなんか怖い、サポーター怖い」

「小さい子供を見ると身体が震えるようになった」

「逮捕」

「逮捕」

「ちょっ」

 

途中から暇をもて余した神々も参加して、実に曲解された噂がばら蒔かれたのだ。

そうして、素性の定かではないサポーターの働き口が大きく減った。

しっかりとファミリアの名前を出せば一定の信用は得られるが、リリルカはそこに難がある。

 

ソーマ・ファミリア──色々と話の種にのぼることが多い、金に汚いチンピラ集団である。

 

当然信用など望むべくもない。

 

いっそのこと、再び冒険者としてダンジョンに潜ってしまおうか。そんな自暴自棄な考えさえ浮かんでくる。

 

「あの男さえいなければ……!」

 

今思えば、あのまま路地裏で連中の良いように殴られていれば……

 

(殴られて、誰も助けてくれなくて……?)

 

まるで容赦のない暴力ではあったが、それは結果としてリリルカを助けた。

助けたが、今はそれが原因となって彼女を苦しめる。

 

(これじゃあ、お礼を言って良いのかどうかもわかりませんよ……)

 

まだ早朝を少し過ぎたくらいの時間。

ギルド前の広場で、所在無さげに立つリリルカの姿は、今にも消えそうなくらい儚げだった。

 

リリカル(・・・・)!」

 

本当に、この瞬間までは。

 

「リリカール!!」

 

まさかそれが、自分を呼ぶ声等とは夢にも思わない。

 

思いたくない。

ましてやその声が、数日前に聞いたばかりのものであるなど、そんな訳がない。

ないったら無いのだ。

 

「リリカル・アーデ、探したよ」

 

知らん、誰だそいつは。どこの魔法少女だ。

 

「今日から俺も冒険者でね。早速ダンジョンに潜りたくて、君を探してた」

 

独り言ですか? まだお若いのに、大変ですね。

 

「リリカル、見たところ暇だな? ぜひ、サポーターとして一緒に──」

 

「リリの名前はリリルカ(・・・・)・アーデですっ! 名前を間違えるなんて失礼じゃないですか! 大体リリは忙しいんです! これからだって、ダンジョンに、ダンジョンに……!」

 

堪忍袋の緒が切れた。

 

「そいつはすまなかった。ごめんよリリルカ。どうやら、自分でも知らないうちに舞い上がっていたらしい」

 

しかし、目の前の男、カイトはどこ吹く風だ。

それが一層、リリルカをイラつかせた。

 

「何なんですか一体! 助けてくれたのは百万歩譲って感謝しましょう! でも、だからってこんな仕打ちは無いでしょう! お陰でリリは無職ですよ! 干されちゃいましたよ! どう責任を取ってくれるんですか、アルバトス様!!」

 

するとどうたろう。

カイトはあろうことか、今のリリルカからでさえも『頼り甲斐』があるように見える笑みを浮かべた。

 

「心配するなよリリルカ。責任なんか、いくらでも取ってやる」

 

言葉に詰まるとは、まさにこのことだろう。

 

「え、あ、え?」

 

ようやく開けた口からも、意味ある言葉が出てこない。

 

「一緒に冒険しよう!」

 

なんだその笑みは。路地裏のお前はどこに行った。

 

「干されたって? 気にするな。それなら俺が一緒にいてやる。いざとなれば、癖は強いが仲間もいる」

 

カイトはしゃがむと、リリルカの両肩に手を置いた。

 

「事情は知らん。でもお前が望むなら、二度と盗みなんてしなくてもいいように、何だって協力してやる」

 

「な、なんで……」

 

「俺の神は、そう言って俺を前に進ませてくれた。俺は善人なんて柄じゃないが、それでも、もう二度と、何かを切り捨てる生き方はしたくない」

 

勝手な理由だ。

だが、肩に乗る手は、初めて知る暖かさで──

 

「なんでだって? なら答えてやる。そうすることを、俺が望んでいるからだ」

 

「……なら」

 

それでも、とリリルカは考えてしまう。

それでもどうせ、いつか裏切られるなら、と。

 

「ならまずは、お試しということで……」

 

まずはこの辺から、始めるくらいでいいだろう、と。

 

「それにお前は、この街に来て最初の知り合いだからな。困ってるなら助けるさ」

 

「……まさか、あの時リリを食事に誘ったのは?」

 

「一週間も一人飯してたら、なんか虚しくなったから」

 

つくづく、あの時の緊張を返せと言いたい気分だった。

 

「まあ、元々は助けに入って礼金でもせびるつもりだったんだけどな」

 

「小者臭が凄いです!?」

 

「そしたらやられてるのが子供だったわけで」

 

……ん?

 

「子供から金を巻き上げるのは、うちの隊則でも禁止されてたし」

 

「ちょっと、アルバトス様」

 

「どうした?」

 

「失礼ですが、おいくつですか?」

 

「十五歳、多分」

 

見た目はもう少し上にも見えるが、まあそんなものだろうとリリルカは納得する。

 

「それなら、リリと同い年ですね」

 

フン、と鼻息で笑いつつ。

 

「はっはっは、冗談きついな。こんなにちいちゃいのに」

 

「ちいちゃいとか子供言葉で言わないで下さい! リリも十五歳です! 小さいのは、そういう種族なんです!」

 

「よしよし」

 

「頭撫でないでください!」

 

「飴食べるかい?」

 

「ぐ、このっ」

 

「あ、ないや飴」

 

「何がしたいんですかっ!」

 

「飴って言うか、武器以外なんも持ってきてないや」

 

「ほあっ!?」

 

「先に買い物に行こう。何が良いとか必要とか、アドバイス頼む。夕飯奢るから」

 

あれよあれよと言う間に、カイトはリリの隣に立って歩き出していた。

その足は、冒険者がよく立ち寄る朝市へと向かっている。

 

「……言っときますけど、お金は貸しませんからね」

 

仕方なく、リリルカも着いていく。

お試し期間ではあるが、頼られては仕方ない。

仕方ないのだ。

 

「ああそうか、財布も無かったな」

 

「ホント何しに来たんですか!? ぜっっったいに貸しませんからね!」

 

仕方ないから、取ってくるくらいは待ってあげますが。

 

「そうだな……お?」

 

カイトがふと、視線を横に移す。

釣られてそちらを見たリリは、朝から最悪の光景を目撃した。

 

同じソーマ・ファミリアに所属する、カヌゥと言う男とその取り巻きが、リリと似たような境遇であろう小柄なサポーターの少年の胸ぐらを掴み上げていた。

 

あの少年は無事では済むまい。リリルカはそう思った。

恐らく、リリルカと同じように仕事が無くなり、それでも頑張って売り込みを続けていたのだろう。

だが、相手が悪かった。

カヌゥ達はリリルカが知る中でもトップクラスのロクデナシだ。

そこそこ腕が立ち、容赦がない。

恐らくは殺しに近い犯罪にも手を染めているが、それが表立たないようにする頭もある。

 

「……よし」

 

そう呟いて、そこへ向かっていくカイト。

 

あの少年はさらに無事ではなくなるだろう。リリルカはそう思った。

カイトはリリルカが知る中でもトップクラスの残虐性を持つ……お人好しになりたい野蛮人だ。

アホみたいに腕が立ち、容赦という言葉を恐らく知らない。

絶対に一人二人じゃきかない数の人間を再起不能にしていることは間違いない。

しかも、そんな雰囲気を実に効果的に垂れ流している。

暴力の権化だ。

 

『神の恩恵』を受ける前からそうなのだ。

今のカイトを止められるとすれば、それこそ武闘派ファミリアの上級冒険者のみだろう。

 

リリルカが見ていると、カイトは掴み上げられているサポーターをカヌゥの腕から解放し、何事かカヌゥ達に話しかけた。

 

カヌゥ達は怒りを露にしつつも、カイトの装備を見ると嫌らしい笑みを浮かべ、傍の雑木林を指した。

 

頷いたカイトが、彼らを連れ立って林に入っていく。

 

十秒数えた。

 

物音一つしない。

 

更に十秒。

 

パンいちになったカヌゥ達が、顔面をボコボコにされた状態で、泣きべそをかきながら走り去って行った。

 

その後からカイトが、連中から巻き上げたと思われる財布と装備を持って現れた。

そして、実に良い笑顔でほざく。

 

「悪の栄えた試し無し、だな」

 

サポーターの少年はドン引きしていた。

リリルカは何一つ予想から外れていない光景に、晴れやかな空の下を駆け抜ける爽やかな風を感じる余裕さえあった。

要は現実逃避だった。

 

「大丈夫だったかな、少年。危ないところだったな」

 

カイトが笑顔のまま振り向くと、憐れな少年は震えながら泣き出し、なけなしの財産であろう小さな財布を差し出した。

 

仕方あるまい。

同じ状況なら、リリルカだって同じことをする。

 

「おいおい、見損なうなよ。俺がそんなもの(・・・・・)、欲しがると思うか?」

 

だから、そういう発言がマズイのだ。

リリルカが止める間もなく、少年はその場で土下座を敢行した。

 

「家に病気のお姉ちゃんがいるんです。どうか売るのだけは勘弁してください!」

 

外道にしか見えない男がそこにいた。

 

「……アルバトス様は少し黙っていてください」

 

流石に見ていられず、リリルカは間に割って入った。

 

「もう大丈夫ですよ。さ、立ち上がってください」

 

努めて優しく、リリルカは少年を諭すように言った。

 

「良いですか? この人はどの角度から見ても危険人物ですが、あなたに危害を加えたりはしません多分。怖がっても良いですから、涙を拭いてください?」

 

あんまりな台詞だった。

 

「……ほ、本当ですか?」

 

涙を拭りながら、少年はリリルカに尋ねる。この場において、唯一の味方と思ったのだろう。

 

「はい。何かしようとしたら、私が止めますから大丈夫です」

 

多分。

 

「お、お姉さんは、その人の、お友達ですか?」

 

「違います。言うなれば、仕事仲間というやつです」

 

少年はカイトを見る。

やや憮然とした顔で、手の中の戦利品(・・・)を玩んでいる。

何かを察したように、再び少年はリリルカを見た。

先程より大量の涙が溢れ出す。

 

「い、命だけは」

 

「何でそうなるんですか!? 私、今変なこと言ってないですよねっ!? って言うか、なんでアルバトス様が金目的で私が命狙いだと思ったんですか!?」

 

「拷問しないで……」

 

「あっ、わかりました! 全部アルバトス様のせいですね! いい加減訴えますよ!?」

 

リリルカまで涙が溢れてくる。

 

「……理不尽だ」

 

頭をかきながら呟くカイト。

何一つ理不尽ではない。

あえて言うなら悪乗りした神々も悪い。

が、カイトも確実に悪かった。

 

「……あなた、お姉様がいらっしゃるんですね?」

 

「お姉ちゃんだけは助けてください!」

 

「それはもういいんです!!」

 

荒げた声を一度落ち着ける。

 

「薬を買うために、ダンジョンに入るつもりだったんですか?」

 

少年は頷く。

 

「薬はいくらするか知っていますか?」

 

「い、一万ヴァリス……」

 

リリルカはカイトへ振り返る。

 

「アルバ──」

 

「任せろ少年。そんなもん、今日一日でどうにかしてやる」

 

カイトは少年に歩み寄ると、しゃがんで目線を合わせる。

 

「夕日が沈む頃、もう一度ここに来い」

 

笑う。

この男はよく笑う。

初めて会ったときよりも、よく。

 

「大丈夫だ。俺達を信じると良い」

 

「……ありがとうございます!」

 

だからこんな簡単に、誰かに信じてもらえるのかも知れない。

……誰かに。

 

リリルカは気付く。

何故今、自分はカイトへと振り返ったのか。

何を期待して、何を言って欲しくて──

 

何を言ってくれると信じて(・・・)自分は……

 

頭を振って、慌てて考えを否定する。

 

冗談ではない。

自分はそんなに、簡単ではないのだ。

 

「行くぞリリルカ。行けるとこまで行って、チョロく稼いで日帰りだ」

 

「かしこまりました。ところでアルバトス様、装備はどうなさるのですか?」

 

「今、拾った」

 

カヌゥ達から巻き上げた装備から、ポーションの入ったウエストポーチを掲げて見せながら歩き出す。

 

「残りは売ってしまいましょう。あの子に預けると、後でトラブルになるかもしれません。ギルドに預けて、帰りに回収しましょう」

 

「わかった。リリルカ、サポート頼む」

 

「……リリとお呼びください、アルバトス様」

 

「カイトと呼んでくれたら、考える」

 

「かしこまりました、カイト様」

 

「頑張ろうな、リリ」

 

二人は言い合いながら、ギルドの中に消えていった。

 




あ、ありのままに起こったことを話すぜ。
俺は装備紹介の後、さっさとダンジョンに潜ってひたすらリリがいじられるシーンを書こうとしたら、リリパートだけで5000文字を超えていた。

何を言ってるのかわからねえと思うが俺にもわからねえ(ry

リリ可愛いよリリ
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