ダンジョンで真人間を目指すやつもいる   作:てばさき

15 / 33
セイルくんのお話です。

ゲスだ胸糞だと言われてますが、まあ、その辺りのお話。


第二章 ゲスとエルフと小人と昔話
第15話 陽だまりのような嵐


ギルド前で他の四人と別れたセイルは、エイナからもらった冊子をしまうと、目的の場所に向けて歩き出した。

 

ソーマ・ファミリア──そこが目的の場所だった。

 

下界に降臨し、その神威を封じられてなお、神酒(ソーマ)を造り出す酒造りの神。

 

セイルは多くの人を笑顔にしたかった。

幸せにしたかった。

その中で笑っていたかった。

 

だから、匠の酒造りから技術を学び──

 

 

「ちょ、ちょ、ちょ」

 

聞いていたリリルカの待ったが入る。

 

「いきなり盛らないでください。そこ変わったら着地点までブレるじゃないですか」

 

「えー、感動のサクセスストーリーだったのにぃ」

 

「そう言う演出はいいんです。なんなら要点だけでも構いません」

 

「ファミリア入った、ザニス君ボコった、団長就任」

 

「……ああもう、大体理解出来た自分が嫌になります」

 

カイトの戦友と言うのなら、どうせこの男も非常識な強さを持っているのだろう。

リリルカはボヤきながら、二杯目の果実酒に口をつける。

一緒に頼んだドライフルーツと、実に相性が良い。

 

「前団長様は、今どうしているのですか?」

 

「使い込みかましてたからな。恩恵剥奪した上で、イシュタル・ファミリアんとこで向こう三十年は下働き」

 

「エグい」

 

と言うか、

 

「イシュタル・ファミリアと親交が?」

 

この男の容姿ならさぞ持て囃されただろうが、それはそれで危険だ。

あそこはアマゾネスの支配地域なのだから。

 

「団長以外なら、美人揃いの良いトコだよ。まあ、結局主神が一番良い女だけどな、あそこは」

 

「……よく魅了されませんでしたね」

 

そうして、帰ってこなくなる男が何人いたことか。

 

「スキルのお陰でな。俺にゃ神の支配が効かないのさ」

 

「──は?」

 

何やら、凄いことを言われた気がした。

 

無神論者(アンビリーバー)っての。ステイタス更新を含めた、あらゆる神からの干渉を無効化出来るわけよ」

 

通り掛かったリューに、再度ブドウ酒を頼むと、セイルはリリルカのドライフルーツに手を伸ばした。

 

リリルカにぺし、と手を叩かれても止めず、皿の中を鷲掴みに拐っていく。

 

「調べたが、過去例があった。そいつは神って存在を生物進化の発展系と定義して、神性存在の解明を目指してたらしい。要は、そう言う生き物だって(神秘を否定)することに、躍起になってたのさ」

 

バレて狩り殺されたらしいけど、と、フルーツを咀嚼しながら言う。

 

「団長様も、神秘の否定を?」

 

どうでもいいかな、そんなこと(・・・・・・・・ ・・・・・)

 

持ってこられたブドウ酒を受け取ると、セイルは声を潜めて続けた。

 

「所詮、ちょっと痛めつければ(・・・・・・・・・・)、泣いて命乞いする連中だ」

 

目を見開いたリリルカに笑いながら、

 

「俺の人生に干渉するには、少々役者不足さ」

 

赤い口腔が覗く笑みは、まるで悪魔のようだとリリルカは思った。

 

「……昔色々あって、俺は大の神嫌いでね」

 

 

──だから、眷属に興味のない神こそが理想だった。

 

 

セイルがソーマ・ファミリアを選んだのは、単にそれが理由だった。

 

「人間が治めてる猿山なんざ、やり方次第でどうとでもなる。面倒くせえことに、この街で生きてくにゃ『神の恩恵』だけは必須だ。だから俺には、ソーマ・ファミリアこそが最高だったのさ」

 

わかるだろ? という言葉が、嫌でもリリルカには理解出来た。

眷属と関わろうとせず、ひたすら酒造りに没頭する趣味神、ソーマ。

そのファミリアは、団長だったザニスによって歪んだ利益を産むための集団へと変えられてしまった。

 

だからこそ、自分はあのファミリアを抜けるために、あらゆる手を使って金を貯めていたのだ。

 

小悪党の巣窟となった、人と()による支配が行われるあの場所は、さぞやこの男にとっての楽園になっただろう。

 

「今後、あのファミリアは生まれ変わる。良くも悪くも、今までの面影なんざ残さない」

 

「わからないことがあります。神嫌いのあなたが、どうしてこの街に?」

 

リリルカの疑問に、セイルは事も無げに答えた。

 

「ツレが行くって言ったからな。こんな世間知らず一人で行かせたら、現地の皆様にご迷惑だろうよ」

 

「その割に、カイト様は初めてお会いしたときから一人でしたが?」

 

「今まで散々助けられてきたから、こっからは一人でやりたいんだと。俺らも自分のねぐらが必要だったしで、一旦解散にしたわけ」

 

「っていうか、リリは結構苦労したんですが。主にこの人の振る舞いや、非常識さに」

 

「いいじゃん、生きてんだし」

 

ははん、と笑い、酒を煽るセイル。

 

カイトが仲間と言うくらいだ。何処かに信頼する要素があるのだろう……今は微塵も見えないが。

リリルカの印象は、愉快犯的で残酷、そしてゲス。

遊びで人を傷付けて、それを笑える人間だ。

 

だが、時折妙な顔をする。

出会ったときにしていたような嘲笑とは違う、極々普通と言って良い、ただの笑顔を浮かべることがあるのだ。

 

その顔がどうしようもない違和感として、リリルカの中に残った。

 

「他に……あなたの目的はないのですか?」

 

「秘密♪」

 

つまりはある(・・)と言うことか。

 

「……今更ですが、カイト様と戦友とおっしゃっていましたよね? お二人はどこか戦地にいらしたんですか?」

 

「あれ? 聞いてないの?」

 

意外そうにセイルは言う。

 

「マルネシアとラグウェルの十年戦争さ。こっちでも、話の種くらいにゃなっただろ?」

 

「あの小国同士の紛争ですか……確か、今年が十一年目でしたね」

 

記憶を辿るように、リリルカは思い出す。

ごくたまに、そうした話題を聞いたことがあった。

両国共に林檎の産地で、利権を巡った諍いが絶えないことで有名だった。

 

「いや、もうほとんど終わってる。今は後腐れがねえように、残党狩りの真っ最中だろうぜ」

 

セイルは片手に持ったグラスを振って見せる。

無言で次のブドウ酒を持ってきたリューが、空きグラスを回収していく。

 

「そこで六年間、同じ小隊だったのさ」

 

「……つまりカイト様は、九歳頃から戦場に?」

 

であれば、あの非常識さにも頷ける。実力も、内面も、だ。

 

「うんにゃ、こいつは開戦からずっとだから、足掛け十年だよ。五歳から戦場に立ってんの」

 

「はぁっ!?」

 

「貴重だぜ? なんせ、百人も残ってない最古参だからな」

 

んー、旨い。

飽きもせずブドウ酒を傾けるセイルに、リリルカは言葉を失った。

 

(五歳!? いやむしろ、なんで生きてるんですか? おかしいでしょうが色々と!)

 

「ま、そんなわけで、お前が思ってる以上にこいつはヤバくてキレてる」

 

リリルカは言葉が出ない。

話が本当だとするならば、カイトは、生身でレベル2の冒険者を倒せるような実力を身に付けるまで、一体どれほどの経験をしたというのか。

 

脳裏に掘り起こされる記憶は、最初に出会った路地裏。

竜巻のような暴力を振るう、冷たい目をした少年。

 

そして食堂。

思ったよりも普通に話す、ぎこちない笑顔の少年。

 

今日。

よく笑う。楽しそうに、嬉しそうに。

自分を守った頼もしい背中に、肩を抱いてくれた暖かい手の少年。

 

その全てが、人生の大半を戦争で育った、カイト・アルバトスという存在の上に乗っている。

 

「……理解が追い付かねえか?」

 

セイルはリリルカを見ていた。

リリルカは気付かない。今、自分が見られているということにさえ。

 

 

ただ、涙が流れていた。

 

 

だって、あんなに笑っていたのだ。

 

自分を励ましてくれた。

 

守って、心配してくれた。

 

今日は間違いなく、リリルカ・アーデの人生にとって最良の……陽だまりのような時間だったのだ。

 

ならば間違いなく、リリルカを照らしていた陽はカイトそのものだった。

 

その暖かさの裏側に、想像も出来ない暴風が吹き荒れていたのに。

 

 

『……殺してない』

 

 

リリルカに叱られるカイトが言った言葉の、本当の重さに。

 

 

『もう二度と、何かを切り捨てる生き方はしたくない』

 

 

その言葉の意味するところに。

 

「……なんにも、気付きませんでしたよぅ」

 

千切れそうな声だった。

ただカイトは、手段はどうあれリリルカに優しかった。

偶然知り合っただけのこそ泥の、名前を呼んでくれた。

間違えていたけれど、大声で呼んでくれた。

 

「い、一緒に冒険しようって、言って、くれたのに!」

 

「助けて、くれる、って!」

 

「怪我したら、嫌だって!」

 

「何度、も、守って、くれて!」

 

「こんなリリを、家族だっ、て!」

 

嗚咽が止まらない。

涙が、堰を切ったように溢れ出てくる。

 

「何も知ろうとしなかった、リリを!」

 

顔を覆ってしまったリリルカに、何事かと店内の視線が集まる。

 

「あ゛ぁん?」

 

が、セイルが睨み付けると一瞬で散ってしまった。

一目でヤバいとわかる目付きだった。

 

「どうして──!?」

 

「……お前は、まず間違いなく恵まれて無い側で生きてきた癖に、優しいんだなぁ」

 

「よげいなおぜわでず!」

 

鼻水が垂れ下がり、ぐしゃぐしゃになった顔をこする。

 

「……使って下さい」

 

さっとリューが、おしぼりを差し出して来た。

受け取って顔を拭う。

 

「君も優しいね」

 

セイルが声を掛けるが、

 

「死ね」

 

素っ気なさ過ぎる返しだった。

 

「え? 愛してる?」

 

しかしセイルは懲りなかった。

 

「腐れ死ね」

 

ちょっと死に方に注文がついた。

 

「あっはっはっ、そんなに警戒すんなよぉ。心配しなくても、君やそのお友達には何もしやしないって」

 

「僅かでもそんな素振りを見せてみろ。生まれてきたことを後悔させてやる」

 

「え? 抱いて?」

 

恐らくは苛立ちに、肩を震わせながらリューは離れていった。

 

「照れ屋だな」

 

「死ねばよろしいのに」

 

復活したリリルカまでもが、ジト目でセイルを見つめていた。

 

「さて、どうやらなんも知らねえみたいだし、何なら昔話でもしようか?」

 

しかしセイルはどこ吹く風だ。

 

「……それは」

 

「賭けてもいいが、こいつはどうせ、戦場にいた、殺した、以上のことは言わねえよ?」

 

だって、自分がどんな具合にイカれてるのかわかってねえんだもん。

 

酒のせいか、随分と柔らかくなった笑みを見せる。

 

「………………聞かせてください。リリは、知っておきたいです」

 

ずび、と鼻をすする。

 

「でないと、リリにはこの人の横にいる資格もありません」

 

赤く腫らした目は、真っ直ぐにセイルを見た。

 

「お願いします」

 

「ああ、良いぜ。長くなる。何か食いながら話そうか」

 

先程から、警戒心を露わにしてセイル達の給仕を一手に行っているリューが、非常に不機嫌そうな顔で近付いてきた。

 

「ご注文は?」

 

「君の好きなものを」

 

「…………かしこまりました」

 

ああ、なんとなく、この人とは話が合いそうな気がする。

リリルカはそう思った。

 




多分恩恵受けるシーンを書くことはないので。

セイル・アーティ
種族:ヒューマン

レベル1

力 :I0
耐久 :I0
器用 :I0
敏捷 :I0
魔力 :I0

対人 :F

≪魔法≫
雷乗り(サンダライズ)
・速攻魔法。

≪スキル≫
無神論者(アンビリーバー)
・ステイタス自動更新(ただし減少もする)を獲得。
・種族:神から発生するあらゆる干渉を無効化する。



さあ、頑張って過去編行ってみよう!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。