クラウドとか考えたやつは死刑。
ちょっとリハビリがてら、軽めな話にしました。
第19話 ご注文は白兎……のムニエルですか?
「お前みたいなチビが、何の役に立つってんだ? 帰れ帰れ!」
思いきり突き飛ばされて、少年……ベル・クラネルは道端に転がった。
「うわぁっ!」
痛みに顔をしかめている間に、目の前の扉は閉まってしまう。
「あ……」
しょんぼりと、ベルは顔をうつ向かせてしまう。
これでいくつ目のファミリアを門前払いされたことだろうか。
「うう……どうしよう」
服についた土ぼこりを払い落とすと、ベルは立ち上がってフラフラと大通りに向かって歩き出した。
(冒険者になるって飛び出したのはいいけど、そりゃあ、僕みたいな子供を入れてくれるファミリアなんてそうはないよね)
肩を項垂れるその姿は、小さな身体を一層小さく見せた。
真っ白な髪に、ルベライトの瞳。
まるで兎のような──漂う雰囲気も含めて、ベル・クラネルはそのような少年であった。
「ぎゃはは」
つまり、
「どうしたね少年、そんなショボくれて」
セイル・アーティにとって、実に面白そうな弄り対象に見えた。
………
……
…
「なるほどな、そいつぁ難儀だ」
とある喫茶店で、紅茶を飲みながら話す二人の姿があった。
「やっぱり、僕みたいな子供じゃ無理なんですかね……」
すっかりしょげかえる少年、ベルは突然声をかけてきた歳上の男に、特に疑うこともなく着いてきていた。
彼がセイルに話し掛けられ、喫茶店へと向かう最中、その小さな背中には憐憫の視線が絶えず向けられていた。
──おい、あれ……
──うおっ、『邪王』セイルじゃねえか!
──あの子、終わったな。
──くそ、あんな小さな子まで!
──止めとけよ。変に首突っ込んで、丸々消息不明になったファミリアもあるって話だぜ?
──すまねえ……無力な俺を許してくれ、少年!
……主にそんな感じだった。
オラリオに来たばかりのベルは知らなかった。
目の前にいる男が、この二ヶ月足らずの間に何をしたのかを。
レベル1ながらも不吉極まりない『邪王』という二つ名を戴く彼の所業を。
その愉快犯的な気まぐれのような行為の被害者たちが、どれだけいるのかを。
「何、気にすることはないさ。誰もが最初はガキだった。生まれながらの英雄が、もし仮にいたとして、それは断じてお前を拒んだ連中のことじゃねえ」
至極真っ当な言い分である。
「人生は挑戦と失敗、そして僅かな成功で出来てるのさ、少年。だからお前は、そんな風に自分を卑下するよりも前を向くと良い」
なんとも前向きな、力の出る言葉である。
「もし良かったら、俺が知っているファミリアを幾つか紹介しよう」
ニタァ、と、実に邪悪な笑みが零れた。
それを見た他のテーブル客は、思わず天を仰ぐと神に祈った。
あの憐れな少年の、安らかな冥福を。
「ほ、本当ですか!? ぜひお願いします!!」
ああ、きっと、あの少年は素朴でも心根の優しい、素直な子なのだろう。
見る者全てにそう思わせる言動に、涙さえ流れた。
何の因果で、あのような悪魔に捕まってしまったのだ、と。
「任せてくれ。もちろん、入れるかはお前次第だがね」
そう言って席を立ち、連れ立って向かった先はイシュタル・ファミリアの支配地域である歓楽街。
その意図はお察しであった。
その喫茶店はしばらく、誰一人動くことなく神へ祈りを捧げる人だけの場所となった。
無論、届くことはない祈りだ。
そも、祈っている中に本物の神が数柱混じっている時点で、救いなど起こるはずもなかったのではあるが。
………
……
…
歓楽街、『夜の街』。
その名の通り、夜ともなれば見目麗しい娼婦達が、まるで蝶のように飛び交い、男と言う名の蜜を根こそぎ平らげていく。
セイル曰く、男のワンダーランドである。
「つう訳で、一発頼むわ」
「どんな訳?」
真っ昼間に起こされて、蝶とは程遠い不機嫌な目付きでアイシャ・ベルカは言った。
「いやぁ、何? 純真な性根の前途ある若者に、俺なりのエールってヤツ?」
馴れ馴れしくアイシャを抱き寄せながら、セイルは下卑た笑みを隠そうともせず言った。
「……意味無いウソついてんじゃないよ」
ため息。
視線の先では、数人のアマゾネスに囲まれ、
「本音は?」
「やだ、何この子、俺にからかわれるため生まれてきたの!? よし、弄ろう、的な?」
「ムゴい」
「童貞卒業した瞬間に踏み込んで、みんなでお祝いしよう」
「エグい」
「ケーキが要るな。あ、赤飯かな……めんどくせえ、ジャガ丸くんでいいか」
「あたしアマゾネスだけどさすがに引くわ」
「「「あ」」」
揃った声に視線を向けると……
「……きゅぅ」
鼻血を垂らしながら気絶する、ベルの姿があった。
「ははっ、純だな」
「清々しい声出さないでよ。本当にゲスいね」
「ふふん」
「なんで得意気……」
崩れ落ちたベルを片手にぶら下げながら、アマゾネスの一人がこちらへやって来た。
「どうする?」
「うーん、まあ、気絶しちゃ面白さ半減だな。今日は撤収」
「えー、あたしのことはー?」
「また今度な。遊びに来たら、君を探しに行くよ」
そう言って、ショートカットで童顔な戦闘娼婦の、瞳と眉間の間に唇を落とす。
「約束だよ?」
「もちろんさ。例え死んでも、俺は女との約束は守る」
「アハハ、キモーイ」
「えー、じゃ、もう来ないー」
ニヤニヤとした笑みで、事も無げに言い放つ。
「え、え、嘘! 嘘だから! ごめんね、セイル」
途端に不安そうな声音で、媚びるようにすがり付く彼女に対し、
「なんつって」
おどけた仕草で頭を撫でながら、セイルはベルを受け取ると襟首を持ったまま引き摺って歩き始めた。
「……何しに来たのさ、あんた」
アイシャの問いに、セイルはニヤついた顔で宣った。
「このガキが入れるファミリアを探してやってるのさ」
「……本音は?」
「本音だよ」
「ちっ……だったら、初めからこんなとこに連れて来るんじゃないよ。ウチの団長に見つかったら、絞り尽くされて干物になっちまうさ」
団長、その言葉にセイルは顔をしかめつつ、
「まあ、必要なことさ」
とだけ言って、歓楽街を去っていった。
ズルズルと、ベルを引き摺りながら。
「あー、行っちゃったー」
先程までセイルと話していたアマゾネスが、残念そうに呟いた。
「……あんま肩入れするんじゃないよ」
無駄だろうな、と思いつつ、アイシャの口から零れ出た忠告は──
「ああ……セイル」
残念ながら届くことは無かった。
色街で娼婦にモテる男はクズだと相場が決まっている。
この街に限れば、そこに金持ちか英雄も入る。
つまりはどのみち、マトモな人間ではない。
そんな中でもあの男、セイル・アーティは異質な存在だった。
羽振り良く、程々に強く、それでいて捉えどころがなく、何処か子供っぽい。
あれだけの美形にも関わらず、彼に買われた女は皆、口を揃えてこう言うのだ。
『可愛くて頼もしい』
アイシャはため息を吐いた。
見れば、お天道様はまだまだ空の真ん中に座している。
叩き起こされた身は睡眠を欲しており、そう思えば強烈な眠気ものし掛かるようにやって来た。
アイシャは再び惰眠を貪るために、ベッドのある自室へと向かうことにした。
部屋には大きめなベッドがあり、先程起きた時の乱れがそのままに残っていた。
「だる」
呟くように吐きながら、そのままベッドへ倒れこむ。
ふと、枕の下の違和感に手を入れると、何か小瓶の様なものが触れた。
「ん?」
取り出してみると、薄緑の液体が密封されている。
蓋を開けると、穏やかな森のような香りが立ち上ってくる。
「香油?」
しかし、覚えがない。
昨日までは無かったはずだ。
それが今あると言うことは、昨晩自分と寝た男の置き土産だろう。
「あの、バカ」
好みなど話したことは無いはずなのに、それはアイシャにとって非常に、まあ、悪くない……外してはいない……つまりは好きな香りだった。
「あぁ、まったく」
蓋を閉めた瓶を枕元に置くと、アイシャは呟きながら目を閉じた。
「ガキ臭くてええ格好しいなやつ」
あの金髪のゲス男は、まったく。
開けっぱなしの窓から緩やかな風が吹き込んで来る頃、アイシャはもう夢の中にいた。
………
……
…
「いやいやいや、なんか綺麗な感じになってますけども!」
復活したベルに、何やら不明なツッコミを受けながら、セイルは次なる目的地へと向かっていた。
「はっはっはぁ! どうした少年、まだまだこれからだぞう?」
「セイルさん、なんか面白がってません!?」
「な、なぜそれを!?」
「わかりますよ!」
半泣きになりながら喚くベルに、セイルはいつものゲスマイルを向けた。
「ちなみに、今のファミリアな、お前がここ数日回ってきたトコをまとめて潰せるくらいにゃでかくて強い。もしお前が男を見せてたら、俺が直々に主神に売り込んでやったのになぁ?」
胡散臭い。
とにかくその発する言葉や仕草の尽くが。
ベルは初めて、疑いを持って接しなければいけない人間がいることを学んだ。
「さ、次だベル。選ばせてやる」
とは言え、もはやベルにだってアテなどない。
足を棒にして街を歩き回り、結果は何一つ得られなかったのだ。
一応、セイルが紹介するのは本物のファミリアであることも相成り、渋々でも従うしかない。
「勇壮無比! でも九割ホモか、純情可憐! ドSの巣窟」
「オジーチャアァーン! タスケテ!!」
「はっはっは、まあ、どっちも行くけどね」
ズルズルと、襟を掴まれ引き摺られる。
「イヤアァァァ!」
憐れな子兎の悲鳴が、オラリオの空に響き渡った。
調子良くないですね。。
取り敢えず、仕事落ち着くまでは更新遅くなりそうです(泣)
アイシャさん出したのは良いけど口調忘れてます。
後で原作読んで直そう(決意)
また、感想に対するご返答が遅れております。
必ず、どのようなものに対しても、返答はさせていただきます。
いつも励みにさせていただき、感謝の言葉もございません。