小説の投稿は初なので至らぬ点もあると思いますが、読んで頂ければ幸いです。
「問おう、君が僕のマスターか。」
砂埃の薫る暗闇の中、転がるように駆け込んだ俺を蒼い閃光が包んだと思えば、その騎士は俺の前に居た。
俺のすぐ傍には、赤い槍が、居る。
呼吸はまとまらず、駆け込んだ姿勢のまま、殆ど尻餅をついたような姿を槍の男は一秒後に目にするだろう。
脳髄はずっと俺に逃走を命令している。
それでも
それでも、俺は目を離せなかった。
土倉で陶器の如く滑らかな光を放つ甲冑が光る。
銀の甲冑から流れる黄金色の緩やかな巻き毛は、月の光を帯びて眩むような美しさを湛えていた。
俺は目を、耳を、奪われた。
------------その在り様は何よりも透明で美しかった。
「ほーう?蔵なんぞに逃げ込みやがって何をするのかと思えば、坊主、まさか貴様が七人目のマスターとはな」
「ハァ、はっ、・・・ハァッ、クソ、訳分からないこと言いやがって、何者なんだよ、おまえッ!!」
「あん?お前、知らないで呼んだのか?・・・ほんっと世の中英霊になっても分からねぇもんだなぁ・・・。」
男は如何にも不思議そうに頭を傾げ、槍を持たない手をあごに添えた。
そして少しすると、平気で人を殺した男とは思えない、気持ちの良いさっぱりとした笑顔を見せた。
そこから覗く犬歯は、狼のように尖ってはいたが。
「まぁいい、俺も無関係な、しかも将来有望そうな坊主を鍛えねえ内から殺すのも実につまらねえと思ってたんだ。
おい、セイバーらしきそこのお前、俺と闘って生き残れたら坊主に説明でもしてやりな。」
静観していた黄金色の髪の男は静かに頷いてみせた。
「・・・そうだね、あなたはマスターに手を出すことは無さそうだ。ここじゃ狭い、表に出よう。」
「いきなり切りかかってくれても良かったんだがな。まぁ、そういう騎士道精神みたいなのも嫌いじゃないぜ。」
対峙する二人はこの数瞬の間に何を得たのか、これから殺しあうってのにまるで十年来の知己であるかのように連れ立って蔵を出ていく。
俺はその、力強い背中によく分からない憧れを感じていた。
「行くぞ、セイバーっ!」
「はぁ!」
それは、舞のようだった。
青い男が槍を振るう度に、朱色の円が望月を作り出し、それに応えるように黄金色の髪の男が白銀の騎士剣を振るい、白い半月や三日月を作り出していた。
それは丁度ヘリコプターのプロペラのようで、ただ剣戟による幻想的な軌道の跡だけが眼に映る。
頭上、足元、右手、左手、袈裟、どの位置どの角度であっても、青い男の振るう槍は美しい軌道を描き、金属音が三桁響いた頃には、朱い球体結界の内に居る様に思えた。
しかし、黄金色の髪の男の技もまた等しく美しかった。
彼の繰り出す剣はまるで水流か風のように、滑らかに青い男の球体を包み込み、この場所に重力が無いかのように錯覚させた。
「はん、やるじゃねーか色男!俺の槍に涼しい顔でついてくるたーな。」
「あなたこそ。私には聖剣によるヘイストの加護があるのに、とても攻めきれない。」
「なんだそりゃ、俊敏の魔術か?でも、まぁ、気にするな、こっちも途中から一つルーン魔術を使ってっからよ。」
「うーん、ゲイボルグには何も特殊な加護は無かった筈なんだけどな・・・。」
”ゲイボルグ”という言葉が発せられた瞬間、男の殺気が空間を満たした。
------エミヤシロウ------ はここで死ぬ、殺される。
シヌ、コロサレル------------。
「ぐっ、うあ・・・。」
頭の中、いや内臓、骨、筋肉に至るまで、”エミヤシロウ”という器に死が詰め込まれていくような感覚が俺を支配し、吐き気と頭痛から膝をつく。
1ミリでも身体を動かせばあの朱色が俺の身体を貫く、という情景はイメージではなくきっと事実だ。
死というものが怖いわけじゃ無い。
ただ、純度の高い殺気はきっと病原菌やウィルスや劇物に似ていて、それが俺の内側を犯している。
「貴様、いつ俺の真名を見破った。」
「真名?いや、僕はその武器を知ってるだけだ。」
「戯言を・・・、貴様ケルトの英霊か。」
「僕はイヴァリースの英霊さ、多分君は見たことも聞いたことも無い。」
「ああ、知らねーな。だがな、気が変わったぜ。
偵察の命令もあったし、この心地良い打ち合いを楽しんでから頃合を見て退こうと思っていたけどよ、貴様は俺の宝具を食らっていけ。」
空間が更に殺気で満ちた。
いつの間にか抱き込んでいた自分の身体が一秒ごとに冷たくなっていく。
本当の死体が作り出す死よりも純粋で濃密な死が空間に存在する。
------------コレはノロイだ------------
男の持つ槍が無限に死を孕み続けているように感じた。
これから死ぬんじゃない。
スデニシンデイル---------------。
どうしようもない矛盾。これから死ぬはずなのに、既に死んでいる。
それは呪いだ。これはそういうものだ。
「その心臓、貰い受ける!!---
青い男が疾駆すると、其れは一条の朱い閃光と化した。
庭の土は捲れ上がり、視界を塞ぐ。
それでも、確かにあの朱色の”死”を黄金色の髪の騎士は受け止めている姿が見えた気がした。
「ち、伊達で髪なんぞ結ってるのかと思ったが、そいつぁ強力な呪い避けの加護か。ドジったぜ。」
「ぐ、物凄い威力だ。それに、即死の概念が付いていた。リボンが無ければどうなっていたか・・・。」
土煙が晴れると、そこには左腕の篭手の一部が吹き飛んだ騎士の姿があった。
それでもその身体は無傷に見える。
「抜かせ、大した準備の良さじゃねーか。ゲイボルグの因果逆転を避けるなんてな。」
「こっちは召還されたばっかなんだ、準備なんて何も無いさ。」
「ふん、まぁいい。
俺のマスターは臆病でな、槍がかわされたのなら帰って来いって抜かしやがる。悪いが今日の戦はこれで終わりだ。」
「逃げるのか!」
「いや、追ってきてもかまわんぞ。
・・・ただし、その時は決死の覚悟を抱いて来い!」
振り返った槍兵の視線には必殺の一撃を放つその瞬間よりも鋭いものがあった。
そして、次の瞬間には遠く遠く、月に浮かぶシルエットになっていた。
「・・・マスター、大丈夫かい?」
「・・・マスターって俺のことか?」
先の激戦が嘘のように優しい微笑みを騎士は俺に向けた。
「うん。・・・マスターは君で間違いないはずさ。」
「よく分かんないけど、それよりお前の方こそ大丈夫なのかよ!」
「平気だよ、でも、ああ、源氏の篭手が・・・。」
「ん、お前の篭手、ボロボロだな。」
「これ、手に入れるの大変だったんだけどなぁ。」
「そっか。って、そうじゃなくて!お前、何者なんだ!?」
「僕はセイバーのサーヴァント、まぁ正確にはそれだけじゃないけどね。」
「サーヴァント?それはいったい・・・?」
「・・・悪いけど、マスター、新手だ。」
「お、おい!ちょっと待ってくれって!」
騎士はそういうとすぐに門まで駆け出した。
その後姿は、やっぱり月の光で眩むように美しかった。