第二話です
私はイヴァリースの中世史を研究している
アラズラムと申す者…
貴君は“獅子戦争”をご存じかな?
かつて、
イヴァリースを二分して争われた後継者戦争は
一人の無名の若者、ディリータという名の
若き英雄の登場によって
幕を閉じたとされている…
ここで暮らす者ならば
誰もが知っている英雄譚だ
しかし、我々は知っている
目に見えるものだけが“真実”ではないことを
ここに一人の若者がいる
当時、騎士たちの棟梁として名高い
名門ベオルブ家の末弟だ
彼が歴史の表舞台で活躍したという記録はない…
しかし、昨年公開された
(長年、教会の手によって隠匿されていた)
“デュライ白書”によれば
この名も無き若者こそが真の英雄だという…
いやいや、教会によれば
この若者は神を冒涜し
国家の秩序を乱した元凶そのものだとか…
ところでこのベオルブ家の若者は
”デュライ白書”によれば、”獅子戦争”だけではなく
”聖杯戦争”なるものに参戦したそうだ
イヴァリース史を研究している私もそのような戦争について
耳にしたことは無い…
白書の終章に突如現れるこの”聖杯戦争”は
なんとも不思議なものだった
機工士の扱うような機械に溢れた世界に飛ばされ
若者は密やかな、されど恐ろしい戦乱に呑まれていく
白書の中から一つだけ切り離されたような不自然な項
しかし、これは一つの戦記である
さあ、私と共に
“聖杯戦争”を探求する旅へと出かけよう
慌てて追いかけた俺はそこで赤い外套の男に切り込む騎士を見た。
その男もまた尋常ならざる力を持っているのだろうか、騎士剣を双剣で器用に弾いていた。
得物の大きさは見たところ三倍、重さに至っては六倍以上は少なくとも違っているというのに、磁石の同じ極を近づけたかのよう騎士剣は跳ね上がる。
しかし、それだけの重量の違いがありながら、騎士剣の鋭さは双剣を優っている。
このままであれば双剣の破壊は免れないだろうと思われた。
「え?」
しかし、刃こぼれを起こしたように見えた刀身は次の瞬間には美しい孤を描いていた。
騎士剣は確かに刃に食い込んでいた筈だ。
「厄介な武器だな、勝手に直るのか?」
「さてな、どうだろう。」
「とぼけた口を!これで分かる!---
輝く剣を騎士が振り下ろすと、それまでとは異なり迎え撃った双剣を一撃で粉々にしてしまった。
「なるほど、 君の一撃は武具を破壊するのか。」
しかし、外套の男の両手にはまるで手品のように双剣が再び握られていた。
「・・・手は読めたよ、どうやら武器を作り出せるみたいだね。」
時間にすれば二分も無い間にこの攻防を繰り広げた男たち。
この”
(俺も・・・)
これだけの力があれば正義の味方になれるだろうか。
「察しのいいことだ。
しかし、タネがわかった所でどうしようもあるまい!」
対峙する赤い男が疾走する。
それはあたかも弾丸の如き様相を晒していた。
「そんなもの--!」
迎え撃つ騎士の剣はあくまでもしなやかだった。
しかし、その穂先の速さは多段階の加速を重ね、時には神速の領域へも踏み込んでいた。
彼らの動きはどちらも月をなぞる様な流線型のそれであったが、それでも騎士のそれと対峙する男のそれとでは大きな違いがあった。
対峙する男の流れる刃が、限りなく、限りなく、それこそ無限に等しいほどに角を増やして円に近付けた、謂わば液晶の解像度を限界まで上げて描写した円のような、鍛錬の賜物であるとすれば、騎士の刃は大海に浮き上がる渦潮のような、或いは落ちてくる桜の一片のような自然そのもののように見えた。
形容するのであれば、本物、真実、真理。
拮抗しているようでその実、贋物に過ぎない外套の男のそれは敗れるだろうと確信を持ててしまった。
(それでも)
それでも、どれほどの時を、どれほどの覚悟を、どれほどの信念を、どれほどの心血を注げばこれほど美しい贋作が出来上がるのだろうか。
そこには一点の曇りも無く、一切の意味が無いはずだ。
「はぁ!」
騎士が二度、剣を翻す。
双剣の一片は砕け、もう一片は弾き飛ばされて地面に刀身の全てを飲まれていた。
それでも男の不屈を体現するかの如く、騎士がもう一閃を繰り出す頃には両の手に白銀の月と漆黒の月が握られていた。
「ッ--------!」
しかし、そこまでだった。
確かに再び握られた双剣で騎士剣を防いだ外套の男であったが、その激突の衝撃の瞬間に騎士は右手を離し、半ば篭手と一体化した盾でもって外套の男の顎を打ち抜いていた。
「---
「--ぐッ!」
外套の男は素早く離脱しようともがくが、明らかに弾丸の如く飛び出した先までの鋭さは無く、動きの鈍さは最早致命的なほどだった。
「終わりにしよう。」
そして騎士はその剣を上段に構え、必殺の一撃を放たんと、
「って、それじゃダメだ!」
俺は止めに来たんだった。
「戦うのはやめてくれ!」
その瞬間、俺の左手の甲が赤い光を放った。
「なんだよ、これ?」
「な!マスター、正気なのか!このままなら押し切れたのに!」
上段からの一撃を繰り出そうとしていた騎士の腕はまるで誰かに掴まれたかのように止まっていた。
「待ってくれ、こっちはてんで分からないんだ!マスターなんて呼ぶんなら少しは説明してくれ!」
「悠長なことを!今僕は戦いの真っ只中なんだぞ!」
ふと、そんな言い合いの中にコツコツと足音が響いた。
「ふーん、つまりそういう訳ね、素人のマスターさん。」
気付かなかった。
こんな所にあいつが居るなんて。
いや、違う。こんな所に居るはずが無いと意識から追いやっていたんだ。
もともと俺はもう一人居ることに気付いていたはずだ。
「とりあえずこんばんは。衛宮君?」
「遠坂・・・?」
---つまりは、遠坂とはここで会いたくないと意識から追いやっていただけのこと。