この話から原作と展開が異なってくると思います。
「遠坂、なんでここに・・・。」
「私、そのアーチャーのマスターなの。
こんな場所にサーヴァントと一緒に居るんだもの、分かるでしょ?」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!サーヴァントとか、マスターとか訳が分からないぞ!」
俺の質問になにやら遠阪は非常に微妙な顔をしている。
怒ったような、呆れたような、疲れたような、ともかく見たことの無い顔だった。
「・・・呆れた。」
「え?」
「呆れたって言ってんのよ!あーもー、そこのセイバー!」
「え、僕?」
「そーよ!アンタ、何にも説明してないっての!?」
「い、いやぁ、出るなり敵襲があったから・・・。」
俺も遠坂の態度に圧倒されたが、あれだけ凛としていた黄金色の騎士もすっかり気圧されている。
無理もない。
あんな剣幕で迫られたら誰だってああなるだろう。
「はぁ・・・。」
遠坂はため息をつくと随分と落ち着いた表情になった。
コロコロ変わる表情を見ているとついついこんな感想が出てくる。
(遠坂、随分猫被ってたんだな。)
それでも、なんとなくこっちの遠坂の姿の方が納得出来るような気がした。
「ちょっと、なに一人で「納得しました。」って顔してんのよ衛宮くん。
まだなんにも解決してないし、これは衛宮くんの問題なんだからね。」
「ああ、いや、なんでもないよ、遠坂。」
今度はジト目。
なんだか今夜の遠坂は俺にとってしっくり来るみたいだ。
「妙に落ち着いてるのね、衛宮くん。」
どうもその目線は感心しているというよりは、咎めているように見える。
「そうか?これでも分かんない事だらけで困惑してるんだ。
多分、落ち着いてるんじゃなくて、付いていけなくて呆けてるんだよ。」
遠坂はまた微妙な顔をしている。
こうしてみると、本当に表情が豊かだ。
「・・・いいわ、セイバーを止めるのに令呪まで使わせちゃったし、借りを作ったままなのは気持ち悪いから色々と説明してあげる。」
諦めたように目を伏せた遠坂だった。
「なんだかよく分からないけど、そいつはありがたいよ遠坂。」
自然と笑みが溢れた。
「遠坂って、やっぱり、イイ奴なんだな。」
「・・・。」
なんというか、遠坂は鳩が豆鉄砲食らったような、いや、そんな場面ほんとのとこ見たことないけれども。
そんな顔をしていた。
「はぁ、ほんと、心の贅肉ね、私の悪い癖だわ。」
「心の贅肉?なんだそれ?」
「なんでもないから気にしないで。
それよりも、衛宮くん達はどうやらお互い自己紹介も済んでないみたいね。
私もそこまでは面倒見切れないから、先に済ましてちょうだい。」
「あぁ、遠坂の言うことももっともだな、そうするよ。」
そう言うと遠坂はアーチャーと呼ばれた赤い外套の男のもとに歩いていった。
「・・・なんだかすごい人だね。」
「ん?あぁ、俺も初めて知ったよ、こんな遠坂は。」
なんとなく俺とこの騎士の心は完全に一致したような気がする。
「じゃあ、改めてマスター。
僕はラムザ=ベオルブ、君が呼び出したサーヴァントだよ、よろしく。」
「俺は衛宮士郎だ、よろしく。それよりもそのマス「ちょっとまったぁぁぁぁぁぁぁ!」
物凄い形相で遠坂がこっちに走ってきた。
「あかいあくま」そんな言葉がふと脳みそを駆け巡った気がする。
「マスターが間抜けならサーヴァントも間抜けか!」
「な、なんでさ、自己紹介しろって勧めたのは遠坂だろ!間抜けなんて随分な言い種だ。」
「何度でも言ってやるわ、間抜けも間抜け、おおっ間抜けよ!このアンポンタン!オタンコナス!
なにしれっと敵の前で真名を明かしてるのよ!」
腰に手を当ててこちら二人に指を指す遠坂は、言葉とは裏腹になんだか生き生きしているような気がした。
所謂ツッコミキャラって奴なのかも知れない。
「トオサカさん、だっけ。」
「なによ、このアホサーヴァント!」
「あ、アホって・・・。
あ、いや、そうじゃなくて、僕は真名を明かしても問題ないんだよ。」
「・・・どういう意味よ。」
「僕はこの世界の人間じゃないからね。」
「はぁ?嘘を付くならもっとマトモなものにしなさいよ。
セイバーのサーヴァントが第二魔法を使うなんてあり得ないわ。」
「僕は訳あってキシュア卿という方に協力してもらい、聖杯戦争に参加してるんだ。」
キシュア卿と聞いた瞬間に遠坂は豆鉄砲どころかショットガンにでも撃たれた鳩の様な顔になった。
もちろんそんな姿は見たこと無いけど。
「ちょ、ちょ、ちょ、ちょ!」
「遠坂、落ち着いて。」
「お、お、お、落ち着けるかぁーーーーーーーーーーー!待って!待って!
キシュア卿って言ったわね?間違いないわね!?」
「え、ええ。」
「確認するわ、キシュア=ゼルレッチ=シュバインオーグって名前で間違いないわね!?」
「う、うん」
遠坂は今度は金魚か鯉のように口をパクパクと忙しなく開いたり閉じたりしていた。
さっきから色んな動物に例えてしまえる遠坂の様子はなんだかとても面白い。
「こういうのって棚からぼた餅って言うのかしら・・・、いや棚からルビー・・・、いやダイヤモンド、はたまた金塊、むしろオリハルコン・・・?」
顎に手を当ててぐるぐるボソボソ。
なんだかとても貴重なものを見ている気がする。
「心の贅肉って大切なのね・・・。」
ほうっと一息ついた遠坂の様子は非常に満足そうだった。
「衛宮くん。」
「あ、なんだ?遠坂?」
「すぐ話をするわよ、さっさと、今すぐ、即刻、どうしても、さぁ、家に上げなさい!」
非常に鼻息が荒い。
ふんす、いや、むふー、いや、ふしゅーって感じか。
「そりゃ、願っても無いけどさ。
遠坂、そんな興奮して大丈夫なのか?ちょっとマトモじゃないぞ。」
遠坂の顔が今度はリンゴかトマトのように真っ赤になった。
動物の次は野菜、果物、遠坂の表情は多彩だ。
「・・・衛宮くん、いい?私が取り乱したことは今すぐ忘れなさい、即刻忘れなさい、は・や・く、忘れなさい。」
「遠坂。」
「なによ。」
「照れてるのか?」
ブチ、という音が聞こえた気がする。
ワナワナプルプルと手が震え、その握られた拳には青筋がくっきりはっきり浮かんでいる。
よくよく見れば脚も同じように震えている。
俯いた顔からは唇しか見えないが、きつく結ばれているどころか若干下唇を噛んでいるようにも見える。
風邪を引いて俺が無茶をした時に、一度だけ桜も同じ様子だった。
即ち
---エミヤシロウは地雷を踏み抜いた。
「ガンド!」
拳を振り上げた遠坂が北欧の地味な呪いの呪文を叫んだ次の瞬間に意識が遠退いていった。
「なん・・・でさ・・・。」
今度ははっきりと「あかいあくま」と脳髄が叫んでいる。
あぁ、地面が
すぐそこに
近付いて
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・
・・・
・
「ん。」
眩しくて目を開いた。
蛍光灯の薄ら白い明かりが瞼を透過して俺の目を刺激していた。
「あれ、なんで寝てるんだっけ・・・。」
前後の記憶がどうも不覚だ。
確か、遠坂がいて
「って、遠坂は!?」
「お邪魔してるわよ。」
頭上から声がした。
それに、俺の頭は柔らかい何かを下敷きにしている。
ここから導き出されるのは
「と、と、と、遠坂?」
「なによ。」
「これ、膝枕って奴なんじゃ。」
「そうね、私に膝枕してもらえるなんてついてるわね?衛宮くん。」
なんでもないように言ってのける遠坂。
「な、なんで膝枕されてるんだ?俺。」
「あら、されてるなんて随分な言いようね。
していただいてるって感じじゃあないかしら。」
クスクスと笑いながら遠坂は、悪戯をしている小学生の子供のような顔で、俺を覗き込んできた。
蛍光灯でぶれた視界に被さった遠坂の瞳が、唇が鼻先が俺の目に飛び込んでくる。
シャープな輪郭はまるで、三日月のようでいて、けれど冷ややかな外気で赤らんだ桃色の頬は反対に満月のようでもあった。
細められた目から真っ直ぐ、長く勝ち気な睫毛が伸びて、瞳に影を落としている。
薄く小さな唇は赤々と満月に向かって伸ばされている。
或いは、それは蛍光灯よりも、眩しいような気がした。
「・・・。」
照れくさくなって目を反らす。
頭の上からはふっと笑いの息が漏れた気がする。
「さ、起きた起きた。」
そう言うと遠坂は立ち上がり俺の頭を畳に落とした。
「ぐえっ。」
大した高さじゃないから殆ど痛みは無かったけれど、それなりの衝撃が後頭部に訪れた。
「遠坂、一声掛けてくれよ。」
俺の言葉に特に反応するでもなく、遠坂はただクスクス笑っていた。
自分の思考を訂正、蛍光灯より眩しくなんかないな。
あれは悪戯する子供そのものだ。
「さて、衛宮くんも起きたことだし、話を始めましょうか。」
遠坂は今度は真面目な顔をして机の対面側についた。
辺りを見回して、ふと気がついた。
「なあ、遠坂?」
「なにかしら、衛宮くん。」
「なんかラムザがぐったりしてるんだけど。」
「あら、なんでかしら?」
まるで分からないといった風に遠坂は答えたが、ラムザの視線ははっきりと遠坂を非難していた。
さっきの様子だと多分根掘り葉掘りキシュアという人について聞き出されていたのだろう。
さっきのようにやぶ蛇は御免なので気にしないことにする。
「あれ。」
さっきのように?
「遠坂、結局なんで俺は寝てたんだ?」
遠坂は真顔だ。
「衛宮くんは急な出来事が続いて倒れた、いいわね?」
「アッハイ。」
有無を言わさぬその顔が、これこそやぶ蛇だと俺に告げている。
以降この話題は出さないようにしようと心に決める。
「マスター、いい加減トオサカさんに説明して貰おう。」
「あ、ああ、そうだな。」
俺もいい加減脱線が過ぎると思っていたし、それは渡しに舟だった。
「あ、ラムザ。」
「なんだい?」
「その、マスターって奴辞めてくれないか?俺は衛宮士郎って名前なんだからさ。」
「あぁ、そうだね、僕も気楽な方がいい。
これからはシロウと呼んでいいかい?」
「ああ、それでよろしくラムザ。」
中性的な騎士は、やはり柔和な笑みを浮かべて手を差し出してきた。
出会ってから数時間の関係ではあるけれど、その手を握った俺は確かにこの騎士に対する信頼を覚えていた。
「さ、話もまとまったし、説明するわよ。」
「あぁ、頼む遠坂。」
「それじゃ、まずは聖杯戦争についてね。」
遠坂曰く、聖杯戦争とはその名の通り聖杯を巡って七人のマスターが彼らと契約した七人のサーヴァントと共に聖杯を求め覇権を争い合う儀式だそうだ。
そしてサーヴァントとは、強力な使い魔で基本的には英雄などの英霊が呼び出されるらしい。
ただし、俺の場合は例外中の例外で、ラムザはかなり特殊なサーヴァントだとか。
そして、その争いに生き残った最後の一組に聖杯が与えられ、その願いを叶える権利を手にすることが出来る。
今回もまた、七人のマスターとサーヴァントが生まれ、俺と遠坂もその一人とのこと。
「待ってくれ遠坂。」
「なにかしら衛宮くん。」
「聖杯って、まさかあの聖杯だってのか?」
「ええそうよ、正しく万物の願いを叶える万能の聖杯、それがこの聖杯戦争のトロフィーよ。」
でもそれは実に奇妙な話だ。
「なんだってそんな物凄いものが冬木なんかにあるんだよ。
よく分かんないけど、普通そういうものが存在したとして、ヴァチカンだとかメッカだとか、そういう場所に存在するもんなんじゃないのか?」
「それについては私の先祖の仕業ね。」
「遠坂の家が聖杯を設置したのか?」
「正確には私の家と、他に二組魔術の大家が協力して聖杯を呼び出すシステムを作り上げたのよ。」
「なんだってそんなことを・・・。」
「魔術師だもの、目的を達成するために手段を選んだり努力を惜しんだりなんてしないわよ。
衛宮くんはそういう人では無さそうだけど、仮にも魔術師の端くれだもの、言ってることは分かるでしょ?」
遠坂は分かりきったことを説明するように言った。
例えるなら、鳥が卵から生まれるのは当たり前でしょってな風だ。
「そうなのか?俺の親父はそんなこと無かったけどな。」
「弟子が弟子なら師匠も師匠ねぇ、モグリだったんじゃないの?」
「ちょっと待ってくれよ遠坂!そりゃあ、俺は確かに半人前・・・以下かも知れないし、好きに言ってくれて構わないけど、親父はちゃんとした魔術師だったぞ。」
「ふーん、それじゃあ衛宮くんは一応その後継者なわけね。」
「いや、魔術刻印も継いでいないし、親父はもう死んじまったからこれから継ぐこともない訳で、ちゃんとした後継者ではないかな。
親父は俺が魔術と関わることに反対していたから、教えてもらったのも強化の魔術だけだ。」
「・・・あのねぇ、さらっと手の内明かしてどうすんのよ。
自分の魔術ってのは隠すもんなのよ?」
「そうなのか?でも親父は魔術は必死になって隠すもんじゃないって言ってたけど。」
「・・・それ、ほんとに言ってたの?」
「あぁ、多分あんまり規則に囚われるなって言いたかったんじゃないかな。」
遠坂は勢いよく机を両手で叩き立ち上がった。
「ふさけないで!
そんなことをのたまうあなたの父親は魔術師じゃないわ!そしてそんな奴に鍛えられたあなたも魔術師とは認めないから!」
「何怒ってるんだよ。
さっきも言ったけど俺はともかく、親父は立派な魔術師だったぞ。」
遠坂は困った顔でうろうろ、うろうろ。
あ、また座った。
「その、何を言いたいかと言うと・・・。」
まだ少しだけ言葉が固まっていないようだ。
俺はただ黙って見ている。
「・・・魔術っていうのは基本的に一人の人間で完結することは無くて、何代も何代も重ねて出来る命の成果なの。
だから、魔術師の家の子供って言うのは後継者でもあり伝承者でもあるのよ。」
噛み締めるように、或いは確かめるように、遠坂は口を開く。
「私も、他の魔術師も、そのために生きてそのために死ぬ。」
そう告げる遠坂の声には、確かな誇りと信念があるように思えた。
「人として生まれた子供を、長い年月を掛けて別のものにしてしまうのが魔術師の家。」
「・・・だから、あなたの父親は魔術師なんかじゃなくて、きっと人の親だったのよ。」
胸に込み上げてくるものがあった。
切嗣の情は今までも確かに感じていたし、それに感謝も喜びもあった。
俺は命であれ、心であれ、切嗣に救われていた。
きっとあらゆるものを度外視して目的を求める魔術師らしい魔術師というものは、切嗣がなりたかった、そして俺が憧れ続けている正義の味方とはまるで相容れないものだ。
「そっか・・・ありがとう、遠坂。」
「な、なんで感謝するのよ・・・もう。」
「俺、バカだから切嗣のそういう情は、わかってなかった。」
「・・・ほんと、正直者なのね、衛宮くんは。」
段々分かってきた。
遠坂はバツが悪いとそっぽを向く癖がある。
「・・・っと、話が随分ずれちゃったな。
悪い、遠坂、聖杯戦争の話をまた続けてくれ。」
「あ、そうね。
ところで、セイバー、あなたのマスターがポロポロ手の内を出してくれた訳だけど、良いのかしら?」
「・・・実のところ、僕はこの世界の人間じゃないから、魔術師について詳しくは知らなかった。
だからトオサカさんの話はとても面白かったよ。」
少しも喋らずじっとしていたのはそういう理由だったのか。
「うーん、前途多難ねぇ。
まぁいいわ、衛宮くんの左手に赤い痣が浮かんでるでしょう?」
「ん、あぁ、これだな。」
「それが令呪、聖杯戦争のマスターの資格であり、サーヴァントを律する呪文よ。
それがある限りサーヴァントを従えていられるの。」
「ある限り、って引っかかる言い方だな、遠坂。」
「令呪は絶対命令権になっているの。
サーヴァントの意思を無視してでも、言い付け通りにさせることが出来てしまうのがその刻印。
ほら、セイバーをさっき止められたでしょう?」
「あぁ、確かにラムザの腕は何かに捕まれたみたいに止まったな。」
「ただし、令呪は三画しかないんだから、衛宮くんはもうあと二回しか使えないの。
無駄遣いしないようにね。」
「わかったよ。」
「さっき説明したように、これは殺し合いよ。
もし令呪を使いきって、サーヴァントを従えることが出来なくなったら、命は無いと思いなさい。」
「・・・。」
「私から言えるのは、衛宮くんはもう戦うしか無いってことと、サーヴァントは強力な使い魔だから上手く使いなさいってこと。」
「ふぅ・・・。」
溜息、なんだってこんなことに。
「ま、こんなところね、説明は理解できた?」
「頭では、なんとか。」
「ま、もっと詳しい話は聖杯戦争を監督している奴がいるからそいつに聞きなさい。」
「・・・。」
「さて、衛宮くんから聞いた限りだとセイバー、あなたは魔力の供給も殆どされて無いのよね。」
「そうだね、シロウはマスターとして成立していない。
ただ、僕の場合は事情が事情だけに自前の魔力があるから、大きな問題はないんだ。」
「はぁ、なんかもういちいち驚いてらんない、つくづく特殊だわ。」
ラムザと遠坂でどんどんと話が進んでいく。
俺は半分も理解できていない。
「おい、なんの話だよ。」
「通常、サーヴァントはマスターに魔力を供給されることによって現界しているの。
半人前のマスターのあなたじゃ、ろくに供給出来ないから本当はとても困る筈なんだけど・・・そうじゃないみたいね。」
「いえ、トオサカさん、魔力を供給されない以上、万全とは言えないしシロウによる支援は望めない。
加えて霊体化だって無理なんだから、ハンデであることは間違いないよ。」
「・・・正直に話してくれるなんて思わなかったわ。」
「トオサカさん、君、本当のところ僕の状態に何となく察しはついていただろう?」
「・・・そうね、あなた装備とか一向に直る気配が無いんだもの。」
確かに、ラムザの着けている籠手はボロボロになったままだった。
あの赤い外套の男は双剣を何度も直していたが、あれは魔力の供給によって為されていたのだろうか。
「シロウは門外漢だし、僕も他の英霊と比べて知識に乏しい。
そしてこちらが黙っていても、既にトオサカさんは察しをつけている状態、それなら君のような頭のいい人に知って貰うことで現状の理解を努めた方がいい。」
さっきまでの柔和な笑顔からは想像も出来ないような鋭い眼差し。
癖のある柔らかな金髪はそれこれ猛獣の鬣のようで、緋色に近いその瞳は百獣の王さながらの貫禄を見せている。
それこそここにいる騎士は獅子の化身そのものだと言われても信じるほどだった。
「・・・風格あり、強い、マスターの魔力を食わない。」
「遠坂?」
いつの間にやら用意されていた湯飲みを持って本日二度目の机バン。
そしてまた立ち上がり頭を抱えている。
「あ"ーーーもう!ますます惜しいわ!!
私がセイバーのマスターならこんなの勝ち間違いなしなのに!!!」
頭をグルグル、体をぐにゃぐにゃ、遠坂は悶えている。
既に分かっていたことではあるが、改めて学校での様子を思い出し、大した役者だなと思う。
「って、それ俺がラムザには相応しくないってことか?」
「当然でしょ!このへっぽこ!マヌケ!」
「はぁ?」
これは完全な八つ当たりだろう。
そこまで言われる筋合いは無いと思うけども。
「そういや、遠坂、アイツはどうしたんだ?」
「アイツ?あぁ、アーチャーのこと?外で見張りしてるわよ。」
「見張りって・・・こんな夜中にあんな格好で外でじっとしてるのか?」
自分があのタイツに赤い外套を羽織ったような姿で見張りをしている場面を想像する。
・・・寒いし、何よりも他人の目が気になる。
いくら夜とはいえ、誰かが通り掛かれば不審者そのものだ。
何故か、その格好をした自分にしっくりと来てしまったことは忘れたい。
「寒そうだし、目立つんじゃないか?」
「あ、そっか、うっかりしてた。
衛宮くんに説明してなかったわね、サーヴァントは霊体化して実体を消せるから、その状態で見張ってもらってるわ。
そしてその逆も然り、霊体から実体化することも出来るの。」
「そうか、アイツは霊体と実体を使い分けられるのか。
って、あれ?ラムザは出来ないってさっき言ってたか?」
「そうだね、シロウ、僕は出来ない。」
「ま、衛宮くんがちゃんと魔力供給出来ないんだから仕方ないわね、諦めなさい。」
いちいち引っかかる物言いと、その実親切なのが遠坂なのだろう。
「さて、衛宮くん、出掛ける支度をしなさい。」
「出掛けるって、どこに?」
「さっき言ったでしょ、聖杯戦争の監督している奴のところ。」
時計を見てみる。
時間は1時の針と2時の針の間、つまり深夜、丑三つ時である。
「遠坂、行くのはいいんだが、幾らなんでも遅くないか?」
「大丈夫よ、アイツは殆ど怪人みたいなもんだからいつ行ったって起きてるだろうから。」
平然と言い放つ遠坂。
「怪人みたいなって・・・。」
「ニヤニヤと人の痛みをほじくり回す奴だから、衛宮くんもせいぜい気を付けなさい。」
俺は頭のなかに笑ゥせぇるすまんの喪黒福造を思い描いた。
・・・うん、警戒しよう、そうしよう。
「あぁ。」
「じゃ、先に外に出てるわね。
向かう先は教会よ」
「わかった。」
遠坂は赤いコートを羽織ってさっさと出ていってしまった。
「さてと、着替えるか。」
胸元には血と穴、肩口も破け血が出ている。
「シロウ、そういえばその胸元の穴はどうしたんだい?」
「これは・・・。」
そう、俺は一度死にかけた筈だ。
ランサーの一撃は確実に致命傷だった。
「そうだ!」
左後ろのポケット、ない。
右後ろのポケット、ない。
左のポケット、ない。
右のポケット、あった。
「ラムザ、これについて何か知らないか?」
赤々と輝く大粒のルビーを加工して作られたネックレスを取り出す。
改めて見れば非常に価値のあるもののように見える。
「多分、俺の命を救ってくれたものなんだ。」
「・・・大粒のルビーだね、悪いけどそれ以外はわからない。」
「・・・そっか。」
「でも、今は無理だけど、後で僕が調べれば何か分かると思う。」
「ほんとか!助かるよ、ラムザ。」
思わぬ一声。
正直に言えば別にラムザに聞いて答えが分かると思っていた訳ではなかった。
時間軸で言えばラムザの方が後に来たことは間違いないのだから。
だからこれは思わぬ幸運。
「さて、そろそろ出ようかシロウ。」
ラムザが障子を開くと、窓ガラスが盛大に割れていた。
「あっ。」
藤ねえと桜に一体どんな言い訳をしようか。
頭が痛い出来事がまた一つ増えた。
なんだか妙に長くなってしまいました。
説明回だから仕方ないよね、うん。