Fate/tactics night   作:もさま

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またまた遅れてしまいました。
現実、イソガシイ…。


正義の味方

「しっかし、衛宮くん、もう少しなんとかならなかったの?」

 

「仕方ないだろ?ラムザは霊体化出来ないんだから。」

 

遠坂が文句を言っているのはラムザの格好で、彼は今黄色い雨合羽を羽織ってその鎧を隠している。

自分で渡しておいてなんだが、色合いのせいか、その姿はどことなく幼稚園児を想起させた。

 

「いや、案外便利そうで気に入ったよこの服。」

 

彼の鎧を隠すにあたりこの雨合羽を渡し、水を弾くコートと説明したところ、大変気に入ったようだった。

曰く、彼の世界では水棲の魔獣を密猟し、加工することで初めて効果の高い撥水性の服を用意出来るそうだ。

それに比べて薄くて軽く、量産可能な雨合羽は行軍に大変な助けになるだろうとのこと。

 

「な?遠坂、本人もこう言ってるし。」

 

「うーん、まぁ、うーん。」

 

確かにまぁ、遠坂が唸りたくなるのも正しく、変と言えば変ではあった。

 

「なぁ、遠坂。」

 

あれだけの事があったというのに、遠坂は赤いコートを翻し翻し、疲れを感じさせない足取りで進んでいく。

不思議なことに、それだけの早足でありながら学校指定のローファーは踵の硬質な音を立てることなく持ち主の身体を前へ前へと運び、その役目を果たしている。

例えば遠坂が、俺の後ろを殺意無しに尾け回していたならば、きっと気付くことなど出来ないだろう。

改めて事の重大さと、最初に遠坂と出会えた幸運を噛み締める。

 

「なにかしら、衛宮くん。」

 

こちらを振り向くことなく返事を寄越す。

さっきから背中を少しも隠そうとしない遠坂は、俺が後ろから不意討ちする等とはまるで考えていないのだろう。

霊体化したサーヴァントがどの程度の速度で実体化し、攻撃に移ることが出来るのか分からないが、例えば先の槍の男---ランサー---や、ラムザであればそれよりも早く遠坂を斬ることなど恐らく赤子の手を捻るより容易い筈だ。

なぜここまでほぼ初対面と言ってもいい遠坂に信頼してもらえているのかは分からないが、今はとてもありがたかった。

 

「これから教会に向かうって言ってたけど、まさか監督役って神父さんなのか?」

 

俺には血腥いこの聖杯戦争と、正反対に厳かな印象を持つ教会という言葉にはどうしても関連性を見付けられなかった。

こういった秘密の小競り合いというと、例えは悪いが管理するのはヤクザのような人間というイメージがある。

どうにもこの闘争を治めるにあたって、教会というものでは貧弱なのではないかという気持ちが拭えない。

 

「ええ、正真正銘のエセ神父であり、私の後見人にして兄弟子よ。」

 

それはまた、なんというか

 

「随分複雑な縁なんだな。」

 

「そうね、ほんとに・・・。」

 

行間を読む、余白を読むというのはよく小説で言われることだが、それは現実でも同じことで、鈍いと言われがちな俺でもこの微妙な間に色々と含みがあることははっきりと感じられた。

遠坂は大いに苦労したのだろう。

自身の後見人を"怪人"だの"エセ神父"だのと評するくらいなのだから。

ただ、それよりも不可思議な点がある。

 

「神父さんなのに魔術を使うなんてご法度じゃないのか?」

 

本来であれば、魔術師と教会とは相容れないものだ。

魔術師が属する魔術協会、それと一神教のかの教会の暗部である聖堂教会。

彼らは手を結んでこそいるが、その実態は犬猿の仲である、というよりもむしろ水と油と形容した方が良いかもしれない。

教会は自身の教義に反する異端を嫌っている。

そして、その異端---人ならざるヒト---を排除する事が聖堂教会の役割の一つでもある。

だから魔術と魔術師が敵視されることはある意味自然な事なのだ。

本来であれば、人の身で到底成し得ない成果を上げる魔術というものは、一種の奇跡を起こしているに等しい。

けれど彼らの教義では、奇跡というものは選ばれた聖人によって行われるべきであり、それ以外は邪法に等しい。

 

要するに魔術師というものは、そのもの異端。

したがって教会を任されるような敬虔な信徒であれば、魔術には尚更遠ざかっている筈なのだが----

 

「いや、違うか。

つまり、初めっからこっち側の人間なのか。」

 

「ええ、聖杯戦争を任される位だし、バリっバリの代行者よ。」

 

「教会の神父をしているのは、世を忍ぶ仮の姿って感じか。」

 

「そうね、生臭坊主ならぬ生臭神父というか、ともかく立派なエセ神父ね。」

 

「エセに立派も何もあるのか?」

 

「あそこまで堂に入ったエセ神父もきっと居ないんじゃないの?」

 

堂に入ったエセとはまたなんとも頭の痛い表現ではある。

なんとなく教会に向かう足取りが重く感じられた。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・・

・・・

 

 

家から歩くこと一時間弱、目的の教会に俺達は近付いていた。

住宅街の中の近道を通って、新都に繋がる橋までの道のりを短縮したおかげか、予想していたよりも時間は掛からなかった。

 

途中、ラムザが居ることも忘れて遠坂に女の子が夜中出歩くのは不用心だと間抜けなこと言ってしまい、遠坂には間抜けだと笑われ、ラムザには「僕はそんなに頼りないかい?」と拗ねたフリで責められた。

いつの間にやら、二人の息はぴったり合っていたようで、この発言をきっかけに道中散々弄ばれた。

夜道の中、街灯と月明かりで照らされて笑い合う二人はなんとも絵になっていて、なんとなく除け者にされたような悔しい心地だった。

五里霧中の中、とりあえず一つ分かったことはラムザは案外お茶目な奴だということだけだった。

 

「さて、あそこの辛気臭い教会が目的地よ。」

 

「辛気臭いって・・・。」

 

二の句を告げられなかったのは遠坂の発言に呆れたからではなく、外人墓地の脇を通った坂道の先にあるその教会が正しく陰気の塊だったからだ。

辛気臭いなんて言葉では生温く、不安、不穏、不審、そういった不吉な空気を撒き散らしているようでもあった。

 

「悪い、遠坂、これは確かに・・・。」

 

「ね?辛気臭いでしょ。」

 

遠坂は慣れてしまっているのだろう。

辛気臭いという形容は俺にとっては不十分に思えた。

 

小高い丘にあるその教会は、その殆どが清廉な白色を基調とした作りになっていて、正面の部分には四本の大きな柱が建物の屋根まで伸び、その間をまるまる埋めるほどの大きなステンドグラスが三階ほどの高さから三つ並んでいた。

そしてステンドグラスの下には、同じ様に柱の間毎に凱旋門のようなアーチを描いた入り口が見えていて、その分けられた入り口の中央には、身の丈よりも大きな聖女像が据えられている。

教会の頂点にある塔の先端は、柱を沢山持った鳥籠のような構造になっていて、鐘の姿がうっすらと確認出来る。

門からは教会へと真っ直ぐに、石で舗装された幅の広い道が繋いでいて、左右にそれを囲う背の低いツツジなどの木々が繁っていた。

よくよく見れば丘の上がまるごと教会の敷地なようで、教会の建っている正面を除けば、どこまで庭木が続いているのか分からない程だった。

 

・・・幾らか建物が古くなり、ガタが来ているようには見えるが、外観だけを見ればきっと、厳かな雰囲気を湛えた立派なロマネスク風の教会に見えることだろう。

実際俺も写真を見ただけであれば、物寂しさの中に美しさを感じることもあったかも知れない。

しかし、実際にこの場に立ち教会と向かい合うと、荒廃した、或いは腐敗したような空気を孕んでいるように思えた。

 

「さ、衛宮くん、質問があったら今のうちに頭の中でまとめておきなさい。」

 

「あぁ、わかったよ遠坂。」

 

歩を進め、門を潜って教会の敷地に入るとその腐敗したような空気は更に濃密な物となった。

 

今は二月で冬の真っ只中なのだから、辺りを囲う木々には当然果実や花は見当たらない。

にも関わらず、果実や花の蜜が腐って散乱しているような据えた臭いが鼻をついている気がして、辺りの木々に花が結び、果実のなっている姿を幻視する。

 

甘い、苦い、酸っぱい、生ゴミの袋、風化した古臭さ、夏のグラウンドに夕立が注がれて立ち上る濃密な砂の薫り、硫黄化合物の刺激臭、腐葉土の枯葉、着古した皮の服、自動車の吐き出す排気、沼地にこびりついた泥、古い図書館の本から放たれる甘い芳香、---人が焼けていく臭い---

 

「衛宮くん?」

 

「シロウ?」

 

「・・・。」

 

「衛宮くんってば!」

 

「あ、あぁ、悪いな二人とも、ぼーっとしてた。」

 

「今日は色々大変だったから疲れているんだろう。

シロウ、僕が肩を貸そうか?」

 

「もう!これからあのエセ神父から話を聞いて、ちゃんと家まで帰らないといけないんだから、しっかりしてよね!」

 

敷地を跨いだ瞬間に、今まで人生で嗅いできたあらゆる匂いが頭に立ち込め、失神しそうな眩みを覚えていた。

今となってはそんなもの、何処にも在りはせず、それは幻覚に相違ない。

それでも遠坂とラムザの声が無ければどうなっていたのだろうか。

 

「ありがとう二人とも、でも大丈夫だ。」

 

「それならいいけど、シロウは僕のマスターなんだから遠慮はいらないよ。」

 

心配そうにこちらの顔色を覗き込むラムザ。

その悪意の無い姿を見ていると、元気が出るようだった。

 

「あぁ、ありがとうラムザ。

ところで遠坂、こんな夜中にどうやって教会に入るんだ?見たところ呼び鈴も無さそうだけど。」

 

気付けば教会の扉まで来ていたので、今まで気付かなかった当たり前の疑問をぶつける。

仮に遠坂の言うとおり神父が起きていたとしても、常に礼拝堂の中に居るとは限らない。

扉が閉まっていれば呼び出すのにも一苦労だろう。

 

「鍵、開いてるわよ?」

 

「はぁ?」

 

なんて不用心。

冬木ではここのところ物騒な事件が続いている。

だからこそ、途中の道で夜中に出歩くことに注意を促したのだ。

 

「言ったでしょ、アイツは怪人みたいなもんでいつでも起きてるって。」

 

納得・・・はいかないが理解はした。

 

「・・・了解、それで、その神父さんはなんて名前なんだ?」

 

「言峰、言峰綺礼よ。」

 

「言峰さんだな、わかった。」

 

「随分可愛らしい名前だね。

僕はもっとなんかおどろおどろしい名前を想像しちゃったよ。」

 

ラムザの意見には全面的に同意だった。

 

「・・・そうかもしれないけど、190以上ある大男よ。」

 

む、190センチメートル以上か。

 

「あら衛宮くん、浮かない顔ね。

・・・ははーん?」

 

「なにさ。」

 

「ちょっとね、衛宮くんも男の子だもんねと思って。」

 

「む、何が言いたいんだよ遠坂は?」

 

「背が高いと見映えがいいものね。」

 

カチーンと来る。

図星だからだ。

 

「トオサカさん、僕もちょっとカチンと来るよ、それ。」

 

そういえばラムザもそこまで背は高くない。

見たところ172、3センチメートル位だろうか。

勿論、それくらいあれば日本では十分だろうが。

 

「あら、これは失礼。」

 

おどけた風に返す遠坂。

間違いなく悪いと思っていないし、反省はしてない。

暖簾に腕押し、これ以上の議論は無駄だろう。

ラムザもそれを悟って微妙な顔をしている。

 

「・・・遠坂、もういいから入ろう!」

 

「ふふ、そうね。」

 

悪戯っぽい笑みを絶やすことなく、遠坂が扉に手を掛ける。

さっきの宣言通り錠は下りていないようで、大した力を掛けることなく扉は開いていく。

中には荘厳な雰囲気の礼拝堂があった。

蝋燭の光が薄暗く、その火が揺れる度に並んでいる椅子の影が揺らいでいる。

 

「ほんとに開いてるんだな。」

 

「そう言ったじゃない。」

 

「まぁ、そうだけだ。」

 

「アイツを普通の人と一緒に考えちゃダメよ、なんせ代行者よ。」

 

「そうなんだろうけど、遠坂?」

 

「なに?」

 

「いや、随分当たりが強いなって、仮にも兄弟子なんだろ?」

 

「一応、師匠でもあるんだけど、あれを師匠とは思いたくないのよね。」

 

「同感だな、凛。」

 

地を這うような深い低音、嘲るような声調、今までに経験したことの無いような不快感。

つまりこの声が、目的の人物。

 

「師を敬わない弟子など、弟子とは思いたくないものだ。」

 

礼拝堂の脇にある通路から姿を現したソイツは、今までの遠坂の言葉を全て納得させるような存在だと、一目で確信した。

揺れる蝋燭が浮き上がらせた男は巨駆を些かも曲げず、背筋を伸ばして、いや、まるで迫り来る壁のように歩いてくる。

その瞳は灯りに照らされている筈なのに、あらゆる光を吸い込んで黒々と浮き上がり、まるで虚か洞でも覗き込んだような不安を与えてくる。

影そのものか、或いは悪魔のようでもあった。

 

「再三の呼び出しにも応じなかったというのにどういう風向きかな?凛。」

 

気持ちの悪い笑みだ。

瞳が吸い込んだ光を咀嚼するように、口許を歪ませた。

 

「こっちだって出来るなら会いたく無かったわよ。」

 

「ふむ。」

 

遠坂に向けられていた瞳がこちらに向かう。

一瞥されただけで身悶えするような悪寒が走った。

 

「ボーイフレンドの紹介かね?よかろう、誓いの言葉くらい妹弟子の頼みならばくれてやらんこともない。」

 

「冗談!そんなことされたら続くもんも続かないから!

って違うわよ!分かってて言ってるでしょ!」

 

「なに、顔を見せるのも久しいのだから、少々師の戯れに付き合うくらいバチも当たらんだろう。」

 

息を吐くような嘘だ。

言峰綺礼の言葉に師弟の情など感じられない。

 

「では、如何なる目的で訪ねてきたのかね?懺悔であればいくらでも聞こう。」

 

「それこそ冗談じゃないわね、この半人前のマスターに聖杯戦争について叩き込んで欲しいのよ。」

 

「なるほど、少年、名前は?」

 

「・・・衛宮士郎。」

 

「ほう、衛宮、士郎か。」

 

怪人の目が僅かに揺れた気がした。

 

「よかろう、衛宮士郎、凛からおおよその事は聞いたのだろう?」

 

「あぁ、あんたは聖杯戦争を監督しているんだろう?

頼みがあってここに来た。」

 

「ふむ、言ってみるがいい。」

 

「聖杯戦争ってのは魔術師同士の戦いなんだろ?

だったら、俺みたいな半人前の魔術師ではなく正式な魔術師にマスターの権利を譲りたい。」

 

「ふふふ、これは重症だな、凛。」

 

「ええ、きっちり叩き込んでちょうだい。」

 

笑われることには慣れているが、これはともかく不快だ。

 

「さて、衛宮士郎、結論から言うのであればそれは不可能だ。」

 

「待ってくれ!なんでさ!」

 

「令呪を譲ることなど出来ないし、勿論辞めることなどできない、聖杯戦争とはある種の試練なのだ。」

 

「そんなこと納得出来るか!他のマスターを殺さないといけないなんて気にくわない!」

 

「衛宮くん、殺すしかないってのは誤解よ。」

 

「殺し合いだ。」

 

「黙ってて!

衛宮くん、この街の聖杯っての霊体で、聖杯戦争はサーヴァントを退去させる儀式なの。」

 

「てことは。」

 

「ええ、サーヴァントだけを倒せばマスターを殺す必要はない。」

 

「そうなのか?」

 

これは一番大切なことだ。

さっき説明してくれてもよかったんではないだろうか。

 

「しかし、サーヴァントをもってしてもサーヴァントを破るのは容易くない。

如何に強力なサーヴァントであろうと、マスターを消せばいずれサーヴァントも消滅する。」

 

つまり

 

「したがって、マスターを消す方が早い。」

 

「・・・。」

 

「そして、令呪がある限り、サーヴァントが先に倒れようとマスターの権利を失することはない。

或いはマスターを失ったサーヴァントを従え再起を図ることも出来るだろう。」

 

「それなら、それならその令呪をここで使いきったら?」

 

これは歩いている間も考えていた事だ。

殺し合いなんて行われるべきではないし、参加すべきでもない。

 

「確かにマスターの権利は失われるな。」

 

「それなら・・・!」

 

「だが、強力な魔術を行使出来る令呪を自ら捨てるというのであれば、それは半人前ではなくただの腑抜けというものだ。」

 

「くっ!」

 

「だが安心したまえ。

監督している者の義務として、そのような腑抜けの身も聖杯戦争が終わるまではこの教会で匿ってやろう。」

 

「遠坂は何十年かに一度、聖杯戦争をしているって言ってた。

以前もそうだったのか?」

 

「そうだ。

聖杯戦争は五度目だが、前回が10年前だから今までで最も短いサイクルということになる。

最も、始まる前から逃げ出すほどの腑抜けは未だかつて居なかっただろうがな。

そして、前回もまた己が欲望のために殺し合いが行われたのだ。」

 

「・・・もし、とんでもない悪党が聖杯を手にしたらどうするんだ?」

 

当然の疑問。

万能の願望器が悪用されたらどれ程恐ろしいのかは、言うまでもない。

 

「どうもしないだろう。

聖杯戦争を勝ち上がった正当な権利者に干渉することなどありはしない。

そもそもサーヴァントを従えた聖杯戦争の勝利者に、我々が口を挟むなど不可能なことだ。」

 

「なんだよ、それ!」

 

沸々と怒りが湧いてくる。

あまりにも無責任な答えだ。

監督するということはそういう事態を管理するということではないのか。

 

「なに、それが嫌ならば衛宮士郎、キミが聖杯を勝ち取れば良いのだ。」

 

今までで一番愉快そうに口許を歪める。

コイツは見世物の見物客の気分なんだろう。

 

「俺には、戦う理由なんてない・・・。」

 

「では、衛宮士郎、君は10年前の出来事にも関心がないと?」

 

「10年前?」

 

10年前は、俺と、切嗣が出会った年。

 

「前回の聖杯戦争は相応しくないマスターが聖杯に触れ、冬木に大災害をもたらした。

何を願ったのかは伺い知るところではないが、その願いは新都の大火災という形で顕れ、爪痕を残した。」

 

「あれが、聖杯戦争の・・・。」

 

あの日、焦熱の地獄が俺の全てを焼いていったあの時、あれは全て聖杯によるもの。

焼け焦げた人の臭いが、頭を巡る。

 

「聖杯が顕れるだけなら簡単なことだ。

七人のサーヴァントが全て揃えて時を待てば聖杯は姿を見せる。

そう、凛の言うとおりだ。」

 

「なら、なんで・・・。」

 

「聖杯は、アレは自らを手にするに相応しい者を選ぶ。

故に、戦いを避けた男が手にした聖杯は完成しなかった。」

 

「要は他のマスターと決着を着けないで手にしても、意味がないって事でしょ?

前回、聖杯に触れたマスターは甘ちゃんだったのよ。」

 

「さて、話はここまでだ。

・・・いや、もう一つあったか。

どうしても聖杯の縁から逃れたいのであれば、令呪を持つ部分を切り落として他人に譲渡することも出来なくはないだろう。」

 

「バカなことを考えないでよ、衛宮くん。」

 

俺は

 

「さて、衛宮士郎、聖杯戦争に参加するのか、否か。

ここで決めよ。」

 

「俺は戦う。

マスターとして、戦う。」

 

「・・・そうか、喜べ少年、君の願いはようやく叶う。」

 

それは、猛毒だ。

聞いてはいけない。

或いは、聞かなくていけない。

 

「例えそれが容認し得ぬものであっても、正義の味方には倒すべき悪が必要なのだから。」

 

そう、分かっていた事だ。

正義の味方には倒すべき悪が無ければいけないことを。

正義があるということは、反面悪があるということを。

 

「それでも、俺は戦う。

見過ごすことなんて、出来ない。」

 

どんな矛盾があっても、10年前のようなことは許せない。

あんなことは、間違いだ。

 

「ラムザ、俺はマスターとして、戦う。

俺がマスターってことで、いいか?」

 

金髪の騎士は蝋燭の灯りに揺られながら微笑む。

 

「シロウ、君は初めから僕のマスターだよ。

僕は君の騎士になると決めていた。」

 

「ありがとう、ラムザ。」

 

今度は俺から手を差し出す。

あの時は受け身なものだったけど、今度は俺の意思で、この騎士の手を取りたかった。

 

「改めてよろしく、シロウ。

ラムザ=ベオルブは君の騎士として、君の剣にも盾にもなろう。」

 

「ああ、よろしく!」

 

俺の手を握ったその掌は、どこまでも頼もしかった。

 

「さて、凛よ、これで用事は済んだだろう。」

 

握手の最中に嫌な声が聞こえる。

水を差された気分だ、待ってくれても良かっただろう。

 

「そうね、それじゃ、衛宮くん、さっさと帰りましょ。」

 

「あ、そうだな、そうしよう。」

 

二人して握手を無視するのはどうかと思うが、確かにこの場は離れたかった。

 

「また何時でも来るが良い。

教会の門はいつでも開けておこう。」

 

「誰が来るもんですか!行こ、衛宮くん。」

 

何時の間にやら、早足でさっさと扉に手を掛けている遠坂。

 

「待ってくれ、遠坂!ここに置いてくのはよしてくれ!」

 

心からの叫びだった。

 

「それじゃさっさとしなさい!」

 

遠坂によって開かれた扉に、ラムザと二人で電車に滑り込むように駆け込む。

本当に危ないところだった。

 

「トオサカさん、勘弁してよ・・・。」

 

全くもって同意である。

 

「あんなとこ居たくないもの。」

 

「なら、一人でさっさと行かないでくれよ、薄情だぞ。」

 

「のろのろしてる方が悪いのよ。」

 

それは少し横暴だと思う。

門に向かってずいずい進んでいく遠坂に恨めしさを込めた目線を送る。

 

「・・・ラムザ?」

 

慌てて遠坂に追い付こうとしている俺の横にラムザの姿が無い。

振り向くと彼は月を見上げていた。

 

「僕にとっても、ちょっと耳の痛い話だなって思ってね。」

 

「ラムザ・・・。」

 

それは今まで見たことの無いような儚い顔だった。

柔和な笑顔でも、獅子の化身のような気迫でも、悪戯っぽい笑顔でもない、掠れたような姿。

 

「・・・さて、切り替えないと!

トオサカさん、待たせたら怖そうだ。」

 

「・・・そうだな、早く追い付こう。」

 

気付けば遠坂は門の向こうで頬を膨らましてこっちを見ている。

ラムザの言うとおり、怒らせるのはまずい。

 

「悪い、遠坂!今行く!」

 

俺が駆け出すとすぐに隣から金属の擦れるガチャガチャとした音が出る。

ラムザも慌てて駆け出したのだろう。

あの静かで苛烈な、家での殺陣が嘘のように鎧が揺れていた。

一体俺が寝てる間にどれだけ面倒な思いをしたのだろうと、頭が痛くなった。

 

あかいあくまという言葉が再び頭を過った。




まだ戦闘に入れない…。
自分の筆の遅さに嫌気が差します。

それよりもディシディアにラムザが出ましたね!
少年期の衣装に想像以上のイケメンぷりにテンション上がりました。
またFFTをやりたくなりました。
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