城下町のAGITΩ   作:オエージ

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とりあえずプロローグができたので投稿しておきます。




第3部 バーニング アナザーアギト編
第29話 能力暴走期間


櫻田葵が帰宅するとそこには奇妙な光景が広がっていた。

 

「カナちゃーん。なんで石ころ生成してんの?」

 

「石ころはただだもの・・・」

 

「明日の天気は晴れの確率が85%・・・明後日の曇りの確率は・・・」

 

茜は風船のように宙を浮いている。奏は先程から石を生成し続けており、遥は目を血走らせながらブツブツとなにかを呟いていた。

 

「岬ちゃん、分身邪魔・・・」

 

「仕方ないでしょ!引っ込められないんだから!」

 

「破壊しちゃだめだ・・・破壊しちゃだめだ!うおおおぉ・・・」

 

「テーブルさん、熱いものを直接乗せられると嫌だよね?椅子さん、いつも皆に座られて大変だね」

 

リビングは岬の分身達が占領しており大人の姿になった光に絡んでいる。輝は腕を抑え、動かないようにじっとしており、その傍らで栞は延々と周りの物体に話しかけていた。

 

「やっぱり皆始まってたんだ、能力暴走期間(ブレイクアウト)

 

能力暴走期間(ブレイクアウト)

それは櫻田家の能力者に起こるランダム周期で能力が制御できなくなる現象である。

暴走の度合いはその都度変わり、ひどい時には隔離されることもあるがどうやら今回は皆そこまで危険な状態ではないようだ。

 

「ったく、なんでこんな能力の暴走きか・・・」

 

突然、葵の後ろに修が現れたと思えば言い終わる前にまた別の所へとテレポートしてしまった。

 

「アハハハ、兄貴の奴テレポートしながら喋ってやんの」

 

「お前・・・笑ってるけどな昴、結構これ怖いんだぜ。いつ壁にめり込むかと思うと・・・って危ねっ!?ほら今あと1センチずれてたらやばいことになってたぞ!」

 

櫻田昴はアイスを食べながら兄弟達の暴走具合を眺めていた。そんな昴を見てふと葵は疑問を抱く。

 

「昴、あなたは大丈夫なの?」

 

「大丈夫ってなに言ってんだ姉ちゃん?俺には能力は無いんだぜ。だから暴走しようがないじゃんよ」

 

「そ、それもそうね・・・」

 

今度は茜が浮きながら昴に質問する。

 

「ところでさ、なんでそんなにアイス食べてるの?」

 

「え?・・・あれ、いつの間にこんな・・・」

 

昴の横には空になったカップの山が置かれていた。

 

「いや、何か暑くてつい・・・」

 

『『暑い?』』

 

その言葉に兄弟全員が疑問を持つ。今の季節は秋、残暑も過ぎ葉も赤く染まり衣替えの季節になってきたばかりのところにも関わらずである。

 

「そう、なんか真夏日みたいな暑さでさ・・・エアコンつけるよ~」

 

そう言い昴はエアコンの温度を26℃に設定しだした。

 

「ふぅ~、涼しい涼しい」

 

『『寒い!』』

 

「へ?」

 

兄弟達も流石に昴に不審を抱いた。

 

「あんた正気!?暑いどころか少し肌寒いくらいじゃないの!?」

 

「いや暑いだろ?俺なんてもう汗ビッショリだぜ」

 

「・・・お兄様、もしかして風邪?」

 

「いやいやいや、大丈夫だよ栞、俺は生まれてこの方風邪を引いたことなんて無いんだぜ」

 

「いや、案外その線は間違いじゃないかも、ちょっと体温計取ってくるね」

 

葵が持ってきた体温計で昴の体温を測ると・・・

 

「40℃!?高熱じゃないか兄さん!」

 

「あ、ホントだ」

 

「あ、ホントだ、じゃないでしょすー兄!」

 

この異常事態に下の子達も昴を心配する。

 

「兄上!本当に大丈夫なのですか!?」

 

「やせ我慢とかじゃないよね?」

 

「お兄様、しばらく横になってて。栞がお粥を作るから」

 

「何度も言ってるけど俺はいつもと変わらないぜ。でもありがとな、心配してくれて。後必要はないけど栞のお粥は食べたいかな」

 

下の子達の頭を撫でる昴は本当に何もないように感じる。しかし、高熱なのは事実である。

 

「これは一度、病院で診察してもらうべきだな」

 

「え~俺は平気だって」

 

「それはあんたが鈍感なだけで本当に風邪引いてるかもしれないでしょ」

 

兄弟全員と母の五月が診察を強く勧めたことにより昴も折れて病院に行くことになったのだが・・・

 

「なにこれ!?」

 

櫻田家の前には救急車を囲むように大量の装甲車や戦車が、上空は空を覆わんばかりのヘリとジェットの群れが飛んでいた。

 

「お~い昴~、風邪引いてるって聞いて駆け付けたぞ~!これなら病院までの道のりは安全だから遠慮せず救急車に乗ってくれ!」

 

そのヘリの大群の中から総一郎の声が聞こえる。これらを用意したのは彼であろう。いや、彼以外にやるはずがない、子供を病院に連れて行くのに陸軍と空軍の五分の一を動員させるなど。

 

「あの親バカのバカ親父・・・」

 

誰が呟いたか家族は全員その言葉に納得していた。

 

その後総一郎は五月の愛妻弁当一ヶ月抜きや奏の一年間口をきかない等の脅迫を受け、渋々と撤退命令を出した。

 

 

 

 

 

 

 

桜華中央病院

 

「はあ、暇だ・・・」

 

あの後医者の診察を受けた昴だが思ったよりも深刻らしく病室で療養することになったのだ。いや、状況的は監禁と言っても差支えないだろう。

 

周りに設置されている監視カメラの死角は布団の中ただ一つ、ドアの前には3人のSPが交代で警護しておりトイレに行くときも護衛付きという有り様だ。これは間違いなく総一郎の仕業であろう。

せめて漫画の一つでも持っていくべきだったと後悔している昴に来客が訪れる。修と花だ。

 

「よう、元気にしてたか?」

 

「この状況で元気になれるかよ・・・そっちは佐藤さんでいいんだよね?」

 

「はい、はじめまして、佐藤花です。えっと・・・初対面ですよね?前にどこかで会ったような・・・」

 

「え!?いや、会った覚えないですねぇ・・・」

 

実は一度だけ素性を隠して花に会ったことがあるのだが事情が事情なので言えるはずがない。

 

花の自己紹介を終え修は本題に入る。

 

「で、どうなんだ体の具合は」

 

「後四日は退院できないだってさ。ったく、体が熱いこと以外は健康そのものだってのに」

 

頭の堅い医者やSP達の愚痴をこぼし始めた昴を二人が宥める。

 

「まあまあ、皆昴君を案じてのことだし、そんな風に言っちゃだめだよ」

 

「そうそう、逆に後四日で退院できるということに幸せを感じるべきだぞ」

 

「どういう意味それ?」

 

「親父の奴、お前をアメリカの病院に移す気らしいぞ。さすがに満場一致で反対されたが」

 

「マジかよ、親父ならやりかねないな・・・」

 

「あはは・・・その話ですと、その内顔が継ぎ接ぎの無免許医に十億払いそうですね」

 

「「笑えない冗談はよしてくれ」」

 

「ええ!?」

 

本当にあんな親バカでよく国を治められるものだ。もし自分が王になったら真っ先に総一郎の補佐をしている楠とメイドの曽和を労おうと二人は心の中でこっそり決心していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

桜華高校 三年棟

 

「ところでさ葵、様子はどうなの?」

 

先生に頼まれた張り紙を張っている最中、葵の友人の奈々緒が問い掛けてきた。

 

「様子って、何の?」

 

「弟君のだよ、テレビで見たけどなんか変な病気にかかっているらしいじゃないの」

 

「ああ、そのことね」

 

診察の結果、昴の体は彼が言う通り一つを除いて異常はなく健康そのものだった。

だが、体温だけが異様に高いという謎の症状に陥っておりこれは前代未聞のことだと医者はひどく動揺していた。

 

「お見舞いに行かなくて大丈夫なの?」

 

「ううん、心配だけどほら、先生から張り紙張り請け負っちゃったし、行くのはこれが終わってからかな」

 

「ふうん、じゃあ・・・」

 

すると、静流は葵が抱えていた張り紙をヒョイと奪い取った。

 

「え、ちょっと?」

 

「あんたの分は私達がやるから、安心していきなよ。」

 

「でも、それだと皆に・・・」

 

「大丈夫ですよ、それよりも早く弟さんの所へ行ってあげてください。それだけでもきっと弟さんは元気になれるでしょうから」

 

「皆、本当にありがとう」

 

卯月達の後押しもあって葵は一足先に学校を出た。

願わくはこの三人の優しい親友達といつまでも一緒に居たいと思う葵であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

親友達に張り紙を任せ、葵は病院までの道のりを歩きながらあることを考えていた。

昴が前に言ったことである。

 

『大丈夫ってなに言ってんだ姉ちゃん?俺には能力は無いんだぜ。だから暴走しようがないじゃんよ』

 

(本当は嘘なんだろうなぁ・・・)

 

実は葵は気付いていた。昴が何らかの力を隠していることに。

根拠はない。ただ自分にはわかったのだ。昴が何か大きなものを隠していることに。

 

(多分、私も同じく真の能力を隠しているからシンパシーを感じたのかな)

 

葵の能力は完全記憶能力の完全学習(インビジブルワーク)だと公表されている。

しかし、昴のクラスメイトの白井はそれを頭が良いだけと否定し、過去にも妹の奏がそれと同じことを自分に突っ込んだことがあった。

 

彼女らの言う通り完全学習は仮の能力であり、葵の本当の能力を知っているのは彼女自身と両親と一握りの人物達だけで兄弟や親友でさえも葵の秘密を知らない。

そしてその真の能力が葵が王になりたがらない最大の理由なのだ。

 

(私が一番恐れていることはこの秘密が周りに露わになること。それはきっと昴だって同じはず。だから私には昴の秘密を聞く権利なんてないのよ・・・)

 

その理屈を何度も自分に言い聞かせてきた。昴の秘密を探ろうとしていた茜にも探るのを止めるように言ったこともあった。その時、茜が自分に言った言葉は今でも蘇る。

 

『家族にも言えない秘密を一人で抱え込み続けるなんて悲しすぎるよ!』

 

(・・・・・まるで私に言っていたようにも聞こえたわ)

 

しかし幾ら理屈を理解しても彼女の心から迷いが消えることは無かった。

昴は自分の大切な家族である。その家族が今も一人で問題を抱え込んで苦しんでいると考えると、そしてそれを知りながら見て見ぬふりをし続ける自分が思うと胸が今にも張り裂けそうだ。

父さんだったらどう言うのか?母さんだったらどう受け止めるのか?昴のことを想うといつも最後に出てくる疑問だ。

 

(こういう疑問が出てくるということはやっぱり私はまだ子供なんだな・・・)

 

しかし、今ここで悩んでも答えは出ないと割り切り歩を進めた葵に受難が降りかかる。

 

「お、アレ葵様じゃね?」

 

「え、ホントだ櫻田家のお姫様じゃん!」

 

「マジウケるんですけど!なあ、写真とってネットにあげようぜ!」

 

品性の無い声が聞こえてきたと思えば不良達が葵を囲い携帯で写真を撮り始める。

葵がそれを無視して素通りしていこうとするが不良達はしつこく後ろを付き纏ってくる。

 

「ホラホラこっち見ろよぉオヒメサマ」

 

「いつもカメラに撮らてんだからこれくらいいいだろぉ」

 

「へっへっへっ、ところで今暇?俺達と遊ばなぁい?」

 

このようなことは初めてというわけではない。王族として生まれた自分には避けて通れないものだと理解はしている。だが許容できる範囲というものだってある。

本当はすぐにでも「やめてください」と言って逃げ去りたい気分だがそういうことが自分にはできないのだ。

 

もし、「やめてください」と『要求』した時、葵の能力が発動してしまう。忌み嫌うあの能力が、

 

彼らが飽きてどこかへ行くまで耐えようと決めた矢先、突然不良のものと思われる怒号が聞こえる。

 

「あぁん!何すんだテメェ!」

 

振り向くと黒いロングコートを着た長身の男が自分と不良の間を割り込むように立っていた。その男の左手には彼の私物と思われるトランクケースが、右手には不良から取り上げたのであろう携帯電話が握られている。

 

「何邪魔してくれてんだよ、返せよ、殴られてぇんか!」

 

携帯を取り上げられた不良が男を睨みつけるが男は怯む様子はない。

 

「それで気が済むのなら殴るといい、だが敵意を持って拳を振るう以上は私もそれに応じるが構わないな」

 

「けっ、カッコつけてられるのも今の内だよおっさぁん。俺は空手一段なんだぜぇ、怪我したくなきゃさっさと返しな」

 

ふっ、と男の口から嘲笑というよりも失笑というような声が漏れる。

 

「そうか、たった一段か・・・」

 

次の瞬間、信じ難いことが起きた。

男が携帯を掴む手を強めると携帯はグシャリ、と音を立て九の字に曲がる。

彼の手から落ちた携帯は中身が出ることなく最初からそういうデザインであったように曲がっていた。握力で携帯の形を無理やり歪ませたのである。

 

不良達は口をあんぐり開けながら歪んだ携帯と歪ませた男を交互に見返し続ける。

 

「私は三十段だ。一度しか言わないぞ、立ち去れ・・・!」

 

こちらに背を向けている男の表情は見えないが不良達の比喩無しの『青ざめた』顔を見れば恐ろしい顔をしているのは想像に難くない。

そして不良達は表現しようのない程の悲鳴を上げながら逃げ去っていく。

 

不良達が完全に視界から消えると男は葵の方を振り向いた。男の顔から推測するに父とほぼ変わらないくらいの年齢であろう。そして男は葵に向けて深く90度までお辞儀をする。先程とは打って変わって紳士的な対応だ。

 

「出過ぎた真似をして申し訳ございません。ですが、この国に住まう者としてあのような輩の振る舞いを見過ごすわけにはいかなかったことをご理解くださいませ」

 

「いえ、こちらこそ助けていただいてありがとうございます」

 

「礼には及びません。あの程度の輩にはハッタリを言えば退かすことなど容易いことでございます」

 

「ハッタリ?ということは空手三十段というのも・・・」

 

「はい、そもそも空手の上限は十段ですし初段とは言っても一段とは言いませんからね」

 

男の口調は落ち着いているというよりも無感情のように感じた。まるで予め書いておいた台本を棒読みするかのように。

 

「ところで葵様はこれからどちらへ赴かれるおつもりですか?」

 

「弟のお見舞いに行こうかと」

 

「そうですか、もし宜しければ私もお供しても構わないでしょうか?」

 

「え?」

 

「私は昴様の支持者でして彼のことが心配で一度お見舞い申し上げようと考えていた所存にございます」

 

彼が昴の支持者ということには少々驚いたが助けてもらった恩もあるので彼と共に病院に向かうことにした。

 

「あの、あなたのお名前は?」

 

(いつき)と申します。以後お見知りおきを・・・」

 

 

 

 

 

 

 

桜華中央病院

 

葵と樹が病院の受付前まで行くと何か口論しているのを発見する。

そこには困り顔の医者と彼に泣きついている女性がいた。傍らには血を流した少年がおり穏やかではない雰囲気だ。

 

「どうかされたのですか」

 

「葵様!?」

 

葵が近づくと女性は葵の服を掴んで懇願し始める。

 

「お願いしますどうか息子を助けてください!」

 

突然の事で困惑する葵を医者が女性を引き離して説明する。

 

「ここの近くで大きな交通事故が起こったんです。そしてここにいる少年が被害者でこの女性は少年の母親なのですよ」

 

一方、樹は少年の容態を観察し医者に報告する。

 

「彼は非常に危険な状態です。今すぐ措置を施さなければ命にかかわります」

 

「そうしたいのは山々なのですが・・・」

 

医者の話によると現在病院にはその交通事故による他の被害者の手術が既に行われており、手術室が空いていないらしい。その為、別の病院に移すことを母親に伝えたところ現在に至るという。

 

「息子は元々病弱で体が弱いんです!だから一刻も早く治療を施さなければならないのです!」

 

「ですから、その為に別の病院から要請を送って・・・」

 

母親は錯乱しておりとても医者の話を聞く精神状況ではない。

どうするべきか葵が考えていると樹が立ち上がった。

 

「でしたら私が今この場で手術を行いましょう」

 

「本当ですか!お願いします!どうか息子を・・・」

 

母親の承諾を得て樹は持っていたトランクケースを開けるとそこにはなんと大量の医療器具がしまわれていた。

 

「葵様、重ね重ね申し訳ございません、助手をしてくださいませんか?心配はいりません、私が言った器具を渡すだけで構いませんので」

 

「はい、わかりました」

 

今から始まろうとする樹の手術を病院の医者が止める。

 

「待ちたまえ。君、医師免許はあるのかね?」

 

「以前は持っていました」

 

「持っていましただと?つまり君はもぐりだということか・・・?」

 

「そうなりますね」

 

医者は唖然となるが、少年の母親はもうこの際もぐりでも手術してくれるならそれでいいという考えであり、この場で止める者は医者一人だけだ。

 

「止したまえ!今に隣の病院から救急車が来る。もぐりのお前が出る幕ではない、むしろ容態を悪化させかねないのがわからないのか!」

 

「先程私は言いましたよ『持っていました』、と。私はある事情があって医師免許を捨てただけで技術自体には自信があります」

 

「そんなものなんの証拠もないではないか!」

 

「だったら何です?このままいつ来るかわからない救急車を待ってこの少年を見殺しにするつもりですか?だとしたらあなたは白衣を着た人殺しだ」

 

「うぐっ・・・だがもぐりなんぞに手術をやらせるわけには・・・」

 

「それが医者の言うことか・・・!」

 

樹は医者に鋭い眼光を向け、医者はその気迫に思わず一歩下がる。

 

「医者に求められるのは技術と結果だけです。過程や様式など一切役に立たないものは切り捨てるべきです。それが理解できないのならあなたは医療に携わる資格などない・・・!」

 

その凄みを聞かせた発言に医者は遂に樹に手術をさせることを許可した。

 

許可を受けた途端、樹は最低限の事しか言葉を発さないようになり流れるような手つきで少年に措置を施していく。

不謹慎だと思いながらも葵はその姿を熟練した職人に重ね合せた。ただ知識があるだけでは到底できない手捌きであった。

 

そして手術は十分もしない内に終了し、それと同時に少年も目を開いた。

 

「これでもう彼は大丈夫でしょう」

 

母親は樹に何度も頭を下げ感謝の意を表し、息子を連れて病院から去って行った。

 

「ここかね、騒ぎがあった場所・・・は・・・!?」

 

先程までの騒ぎを聞きつけたのか院長と思われる人物が現れるが彼が樹の姿を見ると大きく目を見開いた。

 

「その黒いロングコートにトランクケースに詰めた医療器具・・・あなたはまさか樹先生では!?」

 

「院長、彼を知っているのですか?」

 

知らないのかね!?と院長は医者に食い気味で樹の事を説明する。

 

「いくつもの病院を回り、不可能とされてきた難手術をいとも簡単にこなしてきた(いつき) 次郎(じろう)先生とはこの方のことだぞ!!」

 

「樹次郎!?まさか、幻の名医と名高いあの樹次郎先生!?」

 

すると院長は樹の手を強く握り始めた。

 

「いや~あなたが樹先生ですか、幻の名医と謳われたあなたにお会いできて光栄であります」

 

「わ、私も先程とんだご無礼を、先生と知っていれば・・・」

 

医者も豹変してヘコヘコと樹に頭を垂れる。しかし当の樹は驕る様子はない。

 

「いえ、私はただ医師として為すべき事を為しているに過ぎません」

 

「おお!流石は医師の鏡とも呼ばれるお方!ところで樹先生はどういったご用件で当院に来られたのですか?」

 

「はい、ここの病院にいらっしゃる昴様の担当医になろうとこの病院に足を運びました」

 

(っ!?)

 

衝撃的な発言に葵は動揺を隠しきれないでいたが院長達は樹先生が担当してくださるなら心強いと任せるつもりでいる。そして樹がこちらの前で膝をついた。

 

「ご安心を・・・昴様は私の全てに賭けて救い出します・・・」

 

「はい・・・よろしくお願い致します・・・」

 

 

 

 

 

 

―今思えばこの時能力を使ってでも彼を病院から追い出すべきであった。

 

―でもこの時点では私、櫻田葵は気付かなかったのだ

 

―この男が昴にとって、いや

 

―私達家族にとって最悪の事態をもたらすなど・・・




第3部のキーキャラクター樹次郎の登場です。
彼がこれから物語にどう関わっていくのかが3部の見どころであります。

それではまた次回まで!
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