城下町のAGITΩ   作:オエージ

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第30話 望まぬ再会

「昴様はこちらに居られます」

 

SPの案内によって葵と樹は昴の病室へと入る。

昴はこちらとは逆の方向を向いてベッドに横たわっている。

 

「昴、紹介したい人がいるの」

 

葵が声を掛けるが昴からの返事はこない。

変だと思い回り込んでみると昴は目を閉じて眠っていた。

 

「起きて、大事な話があるの」

 

昴の体を揺すって起こそうとするが目を開く気配はない。

 

「すいません、弟は熟睡中のようです。起きるには少し時間が・・・」

 

「いえ、問題ありません。昴様は起きていられますから」

 

「え、どういうことですか?」

 

「本来睡眠中なら瞼の裏の眼球は小刻みに揺れています。しかし、現在の昴様の眼球は静止しておられます。ここから察するに昴様は寝ているふりをしておいでです」

 

葵が再び昴を見ると昴は目を開けてこちらから視線を逸らしている。

 

「いや、違うんだ姉ちゃん。何か面倒な事になりそうだから寝たふりをしてやり過ごそうと思って・・・ね」

 

葵が昴を軽く説教して改めて樹が自己紹介に入る。

 

「お初にお目に掛かります。今日から昴様の担当医を任ぜられました樹次郎と申します」

 

「あんたが俺の新しい担当医か?じゃあカルテに異常無しって書いて早く退院させてくれよ」

 

「いえ、そういうわけにはいきません。理由は二つあります。まず一つ目はあなたの病気の名前を知っているから。そして二つ目はそれが危険な病気だからです」

 

そして樹は葵と昴に説明する。

 

「昴様に現在かかっておられる病気の名はバーニングシンドローム」

 

「「バーニングシンドローム・・・?」」

 

「はい、体温だけが異常に上がり続ける奇病です。今は初期症状なので体に異変はないようですが、もし何も措置を取らなかった場合あなたは・・・・・死にますよ」

 

「「っ!?」」

 

樹の衝撃の一言から病室は時が止まっているかのように静まり返った。

 

 

 

 

 

 

 

それと同時刻、斗真と弥生はアンノウンと戦闘を繰り広げていた。

 

ウニの姿のアンノウン シーアーチンロード エキヌス・ファメリカーレが投げる手裏剣をギルスは軽快な動きで躱してファメリカーレに飛び掛かり爪で切り裂く。

怯むファメリカーレに休まず猛攻を仕掛けるギルスだがそれを上空から現れたトンボのアンノウン ドラゴンフライロード ルベッルラ・グラキレの羽から放たれたソニックブームによって阻まれる。

ギルスは回避し、ソニックブームの直撃を受けた地面が痛々しく抉れているのを見てグラキレの危険性を確認した。

 

「弥生!あのカトンボを追っ払ってくれ!」

 

「任せてくれ!」

 

G3-XはGX-05を取り出しグラキレに向けて弾幕を張る。弾は全てグラキレに避けられるがグラキレも回避に徹しており地上への攻撃をするどころではない。

 

空中からの援護を失ったファメリカーレはギルスを近づけまいと手裏剣をばら撒く様に投げるがギルスフィーラーによって弾かれ、ギルスヒールクロウの餌食になって爆散した。

それを見たグラキレはGX-05の射程外に逃げて飛び去って行った。

 

「逃げられちまったか」

 

「そうだな・・・」

 

頭部ユニットを外した弥生の表情にはどこか憂いを感じる。

 

「どうした?」

 

「あ、いや、昴が居たなら取り逃がすことなく倒せたのだろうなと思っていたのだ」

 

「ああ、そういうことか」

 

昴は病院に閉じ込められているので戦うことが出来ず今は二人でアンノウンを対処していたのだが3人で戦ってきたときよりも苦戦を強いられることが増えてきた。

 

「思えば私達がこうして互いに正体を知っているのも昴が深く関わっていたのだな」

 

「確かにそうだな、あいつの紹介があるまで俺はお前を頭の堅い風紀委員としか思ってなかったからな」

 

「私だって、君の事をクラス一の不良としか見ていなかったぞ」

 

暫らくの間、互いが黙り、沈黙を破る様にフフッと笑い合う。

姿を消した今だからこそ昴の存在の大きさが浮き彫りになる。

こうも真逆な自分達を繋ぎ合わせ、互いが互いを理解し合う仲にしたのだから。

 

「だが、今ここに居ない奴のことを嘆いても仕方がない。あいつが安心して任せられるようにと今いるメンツで踏ん張るしかない。違うか?」

 

「ああ、そうだな」

 

二人が決意を新たにするとパチパチと手を叩く音が聞こえる。

音の主は白井だった。

 

「珍しいな、あなたが外に出てくるなんて」

 

「あの昴が病気にかかったのだ。それに比べれば私が外に出るくらいのことは珍事でもない。ところで秋原斗真、さっきから気になっていたことがあるのだが」

 

「俺がなんだって?」

 

「やけに暑そうな服装ではないか。まるでヒマラヤにでも登りに行くかのような格好だぞ?」

 

白井の言葉を聞いて弥生は斗真の格好を確認する。

手にはグローブをはめており、頭はニット帽を被っている。さらに首元はネックウォーマーで覆われ、露出している部分は顔だけという状態だ。

 

「これか?防寒のために決まってるだろ。こう見えても俺は寒がりなんだよ」

 

「そ、そうか・・・」

 

弥生は納得したようだが白井は斗真の発言にどこか不信感を抱いていた。

 

 

 

 

 

 

 

「そろそろ隠し通すのにも無理が出てきたか・・・首元まできていやがる」

 

アンノウンを探すため弥生達と別行動をとることにした斗真は路地裏でネックウォーマーやグローブを外し、ガラスを眺めていた。

 

そこに写っていた斗真の肌は十代の若者とは思えないほどのしわに覆われていた。

どうやら変身の後遺症のようで変身をするたびに体が老化していった。

最初は指先に違和感がある程度であったが変身を重ねるたびに体がどんどん老化していき今となっては老化現象に侵されていないのは顔だけになってしまった。

 

「幸い後数回は変身できるか・・・」

 

逆に言えば残りの変身回数が一桁台まで減ったことではあるのだが斗真は悲観しない。そうしてもこの問題が解決するわけではないからだ。

 

「昴が居ない今俺がなんとかしなきゃな、だからこのことはあいつらには言えない・・・」

 

再びグローブとネックウォーマーを装着し路地裏を出て交差点を渡ろうとすると斗真を後ろから呼ぶ声が聞こえた。

 

「斗真?お前、斗真だよな」

 

その声に聞き覚えがあった。水泳部のコーチだ。

 

「お前今までどこ行ってたんだよ!部活にも急に顔出さなくなってさ」

 

「いや、それは・・・」

 

「とにかく来い!冬の大会にはお前の力が必要なんだ!」

 

コーチはそのまま斗真の腕を掴み水泳部の部室まで引っ張り出した。

 

「おい皆朗報だ!斗真が帰って来たぞ!」

 

喜ぶコーチとは対称に先輩連中は誰もが冷めた視線を向けてくる。無理もない、彼らからして見れば鬼コーチに贔屓にされている生意気な一年坊主が帰ってきたのだから。コーチが部室から姿を消した途端、先輩の群れは斗真を囲み出した。

 

「おうおうおう、今更ご登場かいエース気取り君よぉ」

 

わらわらと飛び交う皮肉を斗真は聞こえないものとした。わざわざ一つ一つに突っ掛るのも馬鹿馬鹿しいからだ。

 

(お前らが俺より遅いだけだろ)

 

毒づいている斗真に先輩のある一言が耳に刺さった。

 

「遊び相手が居なくなって寂しかったのかなぁ?」

 

斗真はそれを言った奴の胸倉を反射的に掴んだ。

 

「それはどういう意味だ?遊び相手とは誰の事だ?答えによっちゃお前の歯の2,3本は覚悟してもらうぞ」

 

「な、テメェ!」

 

胸倉を掴まれたのだけでなく他の奴らも臨戦態勢を取っている。どうやら徒党を組んでいるようだ。

一触即発の空気を切り裂いたのは氷の様な視線と聞き覚えのある声だった。

 

「邪魔です。退いてください」

 

その声の主はかつて最初の変身の目撃者で斗真の恋人になるはすだった少女、片平小雪であった。

 

「す、すいません・・・」

 

年功絶対主義の先輩連中が年下の小雪に頭を下げ道を開ける。小雪もそれが当然であるかのように素通りしていく。そして一度、斗真と目が合った。

何と声を掛けるべきか斗真は悩むが彼女はすぐに自分に目を背けて去って行った。

その姿には以前の無邪気さは微塵も感じられない。

 

 

 

「まあそう気を落とすなよ秋原、またあいつらを見返してやればいいんだからよ」

 

先輩も小雪も居なくなった部室で同級生達が斗真を励ます。先輩達とは違い斗真に悪い印象を持っていないようだ。だが斗真には気になる事があった。

 

「部長はどうしたんだ?」

 

あの時絡んできた先輩の群れには部長の姿が無かった。一番自分を目の敵にしていた彼が居ないのは少し不自然と感じたからだ。

 

「あ、ああ、部長ならお前がここに来なくなってからしばらくたった後に辞めたぜ」

 

「辞めた?何で急に?」

 

「いや、それは・・・」

 

同級生達の口調はぎこちなかった。まるで何かに圧されているかのように。

 

「とにかく、俺達は何も知らないし、何も見ていないんだ。悪いな・・・」

 

 

 

 

 

部活からこっそり抜け出しアンノウン捜索を再開した斗真の頭にはある疑問が過ぎっていた。小雪の様子、それに対する部員達の脅えようである。

 

(俺が居なかった内に水泳部で一体何が・・・?)

 

思考を巡らすも束の間斗真はアンノウンの気配を察知する。

 

(とにかく今はアンノウンが先決か・・・)

 

アンノウンの居る所へ走り出そうとした時、突然後ろから強い衝撃を受け斗真は転んでしまう。斗真が振り向くとそこには五人程チンピラが立っておりその内の一人の手に血痕の付いた鉄パイプが握られていた。

 

「秋原ぁ・・・俺が誰だか覚えているよなぁ・・・」

 

鉄パイプを持ったリーダーと思しきチンピラが立ち上がった斗真に眼を飛ばすが当の本人は覚えが無いようで、

 

「お前は誰だ?」

 

「ハァ!?忘れただとぉ!?こっちはテメェへの恨みを一度たりとも忘れてねえのによぉ!」

 

「いやホントお前誰?」

 

そう言えば前に桜庭らいと親衛隊の隊員がカツアゲに会ったところをカツアゲ犯を殴って助けたことがあったがそれと何か関係があるのだろうか?と斗真が疑問に思っていると突然後ろからチンピラ達に向けて声が放たれる。

 

「そいつに関わらない方がいいわよ・・・」

 

そこに居たのは小雪だった。

 

「何たってそいつは、化け物だから・・・」

 

(小雪!?何でお前が!?)

 

一方邪魔をされたチンピラ達は怒りの矛先を小雪に向ける。

 

「ああ?何だお前は?痛い目に遭いたくなきゃとっとと消えな!」

 

そう言い鉄パイプを振り上げようとするチンピラ。対する小雪はゆっくりとした挙動で手を翳した。

 

しかし鉄パイプが蛇のように曲がりチンピラの首を絞めだした。

 

『『っ!?』』

 

小雪を除く周りはその現象に目を見開いた。

 

(超能力だと!?)

 

斗真は小雪から自分や昴に近い気配を感じ取った。彼女の力はアギトと同系統の力なのだろう。

 

「ぐぎぎぎ・・・」

 

小雪は超能力を発し続けチンピラの首を絞め続ける。

チンピラは既に泡を吹き出してきている。

 

「おい止せ!それ以上やると死ぬぞ!」

 

ここにきてやっと小雪は斗真に目を合わせる。

しかし視線を変え、その先には誰も乗っていない自動車が停めてあった。

小雪が車に手を翳すと無人の筈の車が動き出した。チンピラに目掛けて、

 

「止めろ!!」

 

斗真が強く叫んでも小雪は無視して車を超能力で動かし続ける。

止むを得ないと感じた斗真は車の前に立ち、叫ぶ。

 

「変身!!」

 

チンピラ達の前でギルスに変身した斗真は車を掴み上空へと投げ飛ばす。

投げ飛ばされた車はそのまま地面に激突して爆発を起こした。

 

「ばっ、化け物!?」

 

それだけを言いチンピラ達は一目散に逃げ去っていき、この場には斗真と小雪だけになる。

小雪はギルスの姿を嘲りの目で目視する。

 

「相変らず醜い姿、あなたみたいにならなかったのが私の最大の幸運ね」

 

「・・・どういうことだ?」

 

「何が?」

 

「何故お前に能力が芽生えている!」

 

「ああ、そういうことね」

 

小雪はケラケラとギルスの問いに嘲笑した。

 

「あなたのその姿を見たときからこの力は発現し始めた。日を重ねる内に段々と増していき今では水泳部で私に逆らえる奴なんて居なくなったわ」

 

「ということは部長はお前が・・・?」

 

「そう、あいつ、私にしつこくまとわりついてきたから部員全員の目の前で手足の指を残らずへし折ってやったわ。あいつの泣き叫ぶ様と周りの私を怯える目つきはあなたにも見せてやりたいほどよ。アハハハハハハ!」

 

変わり果てた小雪を見てギルスは頭を抱える。

 

「なんでそんなくだらないことに力を使うんだ・・・」

 

「何ですって」

 

「お前は間違ってる!お前にはその力を振るう資格などない!」

 

「黙れっ!」

 

小雪は激昂し、超能力でギルスをガードレールまで吹き飛ばし、さらに能力を使ってガードレールを捻じ曲げギルスの体に巻き付かせる。

その力はギルスに変身して強化された斗真の力を持ってしても解くことは出来ず逆に体を圧迫されいく。ギルスの変身を解除されてもなお小雪はガードレールの拘束を強めていく。

 

「ぐう・・・お前・・・」

 

「誰の所為でこうなったと思っているの?あなたの所為よ!あなたその醜い姿を私に見せたからこの力に目覚めてしまったよ!全部のお前の所為だ私は悪くない私は被害者だぁぁぁぁぁぁ!!」

 

あまりにも身勝手、自分の行いを斗真の所為だと言い張る小雪に斗真は、

 

「そうか、なら気が済むまで俺を殴ればいい。だから他の奴らを傷つけようとするな」

 

その全てを受け入れた。

 

「何よ、どういうことなの!?私はあなたをこんなにまでしてるのに・・・」

 

「そうだな、だが、それでもお前にこれ以上罪を重ねて欲しくないと思っただけさ」

 

「馬鹿にしないで!」

 

小雪は先程壊れた車を浮かせ斗真に投げつけようとする。

 

「これでもあなたは私を受け入れるというの!?こんなに変わり果てた私を、それよりも醜く変わったお前が!!」

 

「ああ、お前には俺と同じ苦しみを味わって欲しくないからな」

 

「ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

小雪はそのまま車を斗真にぶつけようとしたその時、車が小雪の意志とは関係無く真っ二つに割れた。それは上空から能力者の気配を感じ取って出現したグラキレのソニックブームによるものだった。

小雪は周りのあらゆる物体を浮かせグラキレ目掛けて投げ付けるがグラキレの素早い飛行能力に全て躱され目の前まで接近を許してしまう。

驚愕の瞳を向ける小雪の首をグラキレが両手で締め上げる。

 

「あ・・・がぁっ・・・!?」

 

グラキレは小雪の命を奪おうと締め上げる手を緩めない。小雪も必死で抵抗するが首を絞められ力を出せずどんどん弱まっていく。しかし、弱まったことにより斗真に巻き付いていたガードレールが地面に落ち斗真は解放される。

 

「変身・・・!」

 

ボロボロの体に鞭を打ってグラキレに飛び掛かりギルスはギルスクロウを突き刺して小雪を解放する。

 

「ウォォォォォォ!!」

 

ギルスは獣の様に吠えグラキレをギルスクロウで切り刻むが先程ガードレールに巻かれた傷みにより攻撃を中断してしまう。グラキレはそれを見逃さず、ギルスの頭を掴んで上空まで浮上する。

 

「シュゥワァァァァァ!」

 

肘打ちで抵抗を続けるギルスをそのまま空中へと放り投げる。

 

(まずい、これじゃ身動きが・・・)

 

一瞬、目が合ったグラキレの表情がニヤリと笑っているようにも見えたのも束の間、グラキレの鋭利なソニックブームがギルスの体を引き裂き、地面へと叩きつけた。

 

地面に叩きつけられ立ち上がる気配の無いギルス。もう彼には戦う力は残されていないのだろうか・・・

 




ドラゴンフライロード ルベッルラ・グラキレ
殺害方法 対象を上空まで運び、強烈なソニックブームで切断する。
細身のトンボの姿のアンノウン。飛行速度はアンノウンでもトップクラスで航空中に攻撃を浴びせることは不可能に等しい。対抗するなら完全に動きを封じたところに強力な一撃を叩き込むことしかないだろう・・・
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