かなり人を選ぶ内容になると思いますので読まれる際は心の準備をしておいてください。
ネタバレになるのであまり先の事は言えないのですがハッピーエンドは絶対に保障します。
それではどうぞ・・・
受付前にて櫻田茜は一人ぽつんと座っていた。
昴の容態が悪化し、急遽担当医の樹次郎による手術が行われることになったのだ。
手術が行われるにあたって病院の手術室付近が完全に閉鎖され親族どころか病院の医者や看護師まで立ち入り禁止にされている。
樹曰く、未知の病故手術のやり方もかなり特殊且つ繊細であるためバーニングシンドロームを熟知している自分以外の者がいると却って手術の妨げになりかねないからだそうだ。
『それに私はバーニングシンドロームの研究はしていたがその手術を行うのは今回が初めてでして、手術に専念できるよう手配していただけるとありがたいのですが・・・』
その言葉に総一郎も頷き現在の状況に至るのであった。
(大丈夫だよね、無事治ると良いけど・・・)
樹は最後に今の自分の腕なら昴の事を絶対に救う事が出来ると言った。事実彼はかなりの名医で医師の世界では知らぬ者が居ないと言われる程らしい。そんな彼なら何も問題は無いと院内の者達は安堵しているが茜はどうしても心の中でざわめく不安を抑えきれない。
(何でだろう?昴が私達の前で倒れた瞬間から胸騒ぎが止まらない。まるで最悪の未来が起きようとしてるかのように・・・)
虫の知らせというやつだろうか、今こうして一人でゆっくり座り込んでいられる(一緒に見舞いに来ていた岬には一人にして欲しいと言って家に帰らせた)のも嵐の前の静けさのような気さえもし、どうにも落ち着く気になれないのだ。
「茜?」
そんな自分に掛けられる声が聞こえ見返すと姉の葵が立っていた。
「隣、良いかな?」
「うん・・・」
返事を聞いた葵は茜の隣に座る。
「手術、始まる頃ね」
「・・・そうだね」
それから茜は自分から口を開かず手術室のある上を眺めているので葵は再び声を掛けた。
「茜は大丈夫なの?」
「大丈夫って何が?」
「昴の事よ、本当は昴の傍に居たいんじゃないの?」
「どうしてそれを!?」
葵はニッコリと笑って答える。
「だって私も同じだから」
「えっ、お姉ちゃんも?」
「そう、私達は家族でしょ、だから近くで見守りたいという気持ちは痛いほどわかるわ」
「・・・お姉ちゃん、私、昴の所に行きたい。樹先生は来ちゃ駄目だって言ったけど私達は家族なんだよ、せめて待合室で待つくらいの権利はあると思う」
「そう言うと思ったわ」
葵は立ち上がって手を差し伸べ、茜はその手を掴んだ。
「後で怒られちゃうかもね」
「エヘヘ、そうだね」
そして二人は向かう。大事な家族の元へ、そこで起きている惨事にまだ気づかずに・・・
手術室
樹次郎は黒い手術衣に身を纏い辺りに誰もいない事を確認する。
(こうも簡単に上手くいくとはな、ここの医者も国王も簡単に人を信じるきらいがあるな、本来なら憂うべきであろうが私が計画を進めるにあたって好都合ではある・・・)
周りを見渡した後、手術台に横になる昴を見下ろす。ずっと意識を閉ざしたかに思えたが突然昴は目を覚ました。
「うぅ、俺は一体・・・ってここはどこだ?」
「目が覚まされましたか昴様」
「ああ、あんたか、どうなってんだこれ?」
「あなた様の容態が悪化しましたので今から手術を始めさせて頂きます。まずは麻酔の注射を・・・」
そう言い樹が注射器を取り出すところを見た昴はかつての奏にやられた記憶がフラッシュバックする。
「え!?いや、ちょっと待って!心の準備が・・・」
昴は慌てふためき手術台から降りようと手足を動かすがそれは叶わなかった。
何故なら動かそうとしても体が糸が切れた人形のように動かないのだから。
「え、何で、体が動かないんだ・・・!?」
動揺し目を見開く昴を樹は冷静に見据え口を開く。棒読みのような口調で。
「どうやら先程の薬の効果が表れたようですね。本来なら意識も保てないのですがこうして口を開けるあたりは流石は昴様と言った所でしょうか・・・」
「薬って・・・まさか!?」
昴は思い出した。自分が意識を失う数時間前に樹から渡された錠剤を飲んだことを。
辛うじて動く首を上げ昴は感情性がない樹の瞳を睨みつける。
「お前、何のつもりだ・・・!」
激しい敵意を向けられても樹は淡々とした動作で動かない昴の腕を掴み注射器を向ける。
「昴様の問いは今わかることです・・・」
樹が昴の腕に注射針を刺し、中の液体を入れた瞬間、昴は全身が痺れる感覚を受けた。
段々とその痺れは強くなって痛みに変わり、昴は苦しみだす。
「う、がっ!?ぐががが・・・何だこれは・・・まるで内側から食い尽くされる感覚だ・・・」
「人工ウイルスですよ、某軍事国家が極秘に開発したのを私が奪いました。感染力が凄まじく他の人間を触れただけウイルスが移るのでご注意を。しかしご安心ください、ちゃんとワクチンは用意してあります。ですのでワクチンを投与して欲しいのでしたら私が今から言うことをしてもらいます。心配なさらないでください昴様のお力なら容易い事でございますから・・・」
樹はワクチンが入っているであろう瓶を昴に見せる。ここで初めて無感情な樹の表情に変化が起こる、それは悪魔のような形相だ。
その表情を見て昴の警戒心は上昇し続ける。
「てめぇ、一体何者だ・・・何の為にこんな事をする・・・」
「お答えしましょう。私は昴様の支持者です。私はあなた様に王になって欲しいからこのような行動をとったのですよ。満足のいく回答でしたでしょうか昴様?いや・・・・・
仮面ライダーアギト」
ゆっくりと顔を近づけ囁く樹に対し、昴の警戒心は限界点を突破する。
何故自分の正体を知っているのか、その力を知った上で自分に何をさせるつもりなのか、それらの疑問が頭に過ぎるよりも早く彼への異常な恐怖心が脳裏を覆い、気が付けば昴は腰からオルタリングを発現させ叫んでいた。
「お願いします。通してください」
「し、しかし、誰も通すなとの命令でして・・・」
「そこをなんとか!」
現在茜と葵は手術室近くを警備していたSPに見つかり、問答になっていた。
茜はどうにか通してもらおうと頼み込むがSPも頑固で頑なに首を縦に振ろうとしない。
そんな中、葵はあることを考えていた。
(SPの人も私達を通さない事に後ろめたい様子を感じるし、今ならあの能力を使っても誤魔化せるかもしれない・・・)
葵は茜を下がらせるとSPに『要求』した。
「あの、少しの間だけでいいですから通させてもらえないでしょうか?」
それはただの要求であって何の強制力もない言葉である。
しかしSPは、
「はい、『葵様』」
虚ろな目になり茜の時とは打って変わって豹変し、道を開けた。
そのまま去っていくSPを見て茜は不審に感じる。
「え、なんで?さっきまであんなに拒んでいたのに・・・」
「き、きっと私達の気持ちを汲んでくれたのよ」
葵の解釈に納得した茜だが葵は原因を知っている。自分の能力で起こした事であるからだ。
これが葵の真の能力
自分が言った事を無意識のままに従わせる洗脳能力なのだ。
(できれば、これが私が最後に能力を使う瞬間であればいいけど・・・)
そのまま二人は目的の場所まで向かった。
SPの封鎖も解け手術室前まで来た茜と葵が聞いたものは絶叫だった。それも尋常じゃないほどの。突然の出来事に身構えると手術室のドアが乱暴に開けられ中から昴が出てくる。その目は強く揺れており自分達に気付いていないのかそのまま走り抜け逃げ去ってしまう。
「え?どういうこと?」
状況が理解できないでいる二人の前に手術室から樹が現れる。
「樹先生。一体何が起こったんですか!?」
「最悪の事態になった、としか言いようがありません・・・末期症状が起こってしまったのです・・・」
よく見ると樹は脇腹を抑えており手術衣には赤い血のような液体がこびり付いている。
それを見て葵はある事に気付き悟った。
「私も何とか抑え込もうを試みたのですが・・・メスを奪われこの有り様です・・・」
「そんな、今すぐ治療を・・・」
茜は樹の身を案じ近づこうとするが樹は前に手を出して静止させる。
「いえ、私の事はお気になさらず昴様を追ってください。あの方は今バーニングシンドロームの末期症状によって地獄の苦しみを受け正気を保っておりません。なんとしても彼を連れ戻し、手術を再開しなければ彼は死んでしまいます・・・!」
「・・・はい!」
茜は一瞬、困惑したが家族を助けたいという思いから樹の要請を聞き入れ昴を追って走って行く。
一方、葵は動かずただ立ち尽くしていた。
「どうしましたか?葵様は追わないのですか・・・」
「・・・その前に、聞きたい事があるからです」
その瞳には温厚な印象が強い葵には珍しく明確な敵意が感じられる。
「その服の赤い血のようなものの事についてですが」
「はい、手術中に昴様が暴れ出し止めようとしたところをメスで刺されてしまったのでございます」
葵は樹の証言と自分が先程見た昴の姿を照らし合わせ矛盾点を発見する。
「では、何故昴には返り血が付いてなかったのですか?それ程の出血なら昴にも血が付くはすですよ」
「・・・・・」
樹は沈黙する。しかしその表情に焦りはなく葵はさらに糾弾を続ける。
「あなたはさっき手術中に昴が暴れ出したと言いましたが奥に見える手術室には荒らされた様子はまったく無い。まるで最初から暴れることを予測して昴が飛び出せるように仕向けたように・・・」
「・・・・・」
「それだけじゃありませんよ。あなたがここに来た時から物事が大きく変化している。容態の悪化、末期症状、昴の逃走・・・これはあなたが仕組んでいるのですよね」
樹はフッ、笑う。自分の嘘を見抜いた葵に純粋に賞賛している笑みだ。
「櫻田家の長女は聡明であらせられますね・・・」
樹が自供し、葵は強く睨みつける。
「こんなことをして何が狙いなんですか?」
「私にはある目的があります。その為には昴様のお力を利用させてもらう必要があるのです。ですがご安心ください、昴様の命は保障しますよ。あの方は大切な私の操り人形となるのですから」
「それを聞いて安心する家族がいると思うのですか」
「思いませんね。それであなたはどうするおつもりですか?まさか私の首を絞めるなんて考えていないでしょうね。ご自分の能力を考えて行動すべきですよ」
「そうですか、なら私の能力を使ってあなたを止めます!」
葵は自分の真の能力
(本当は能力を私欲の為に使いたくない・・・でも、目の前のこの男が昴を、私の家族の平穏を脅かそうとするのなら・・・私は迷わずこの力を行使する!!)
決意を固めた葵は樹に強く『命令』した。
「もう二度と、私達家族の前に、現れないで!!!」
「言いたい事はそれだけですか?」
はっきりと『拒絶』した。
(どうして!?何で効かないの!?能力の効果は絶大なはずなのに!?)
予想外の事態に動揺を隠しきれないでいる葵を樹は無感情な目で見据える。
「なるほど、それが葵様の真の能力と言った所でしょうか。いやはや恐ろしい、櫻田家の超能力は持ち主の人格と一致するわけではないのですね・・・」
そして樹は葵の一歩近づく。真正面から見る彼の長身は威圧的で圧倒的な雰囲気を放つ。
「あなたが今考えている事を当てて差し上げましょうか?どうして能力が聞かないのか、で間違いありませんね」
「っ!?」
「どうやら正解のようですね。確かにその能力は恐ろしい。本来なら私もその能力の支配下に置かれ計画を断念せざるを得なかった。私が『普通の人間』でしたらね・・・」
「・・・どういう意味ですか・・・?」
「簡単ですよ。私は『普通の人間』ではない。『進化した人間』でして超能力を持っただけの普通の人間であるあなたの能力は受け付けないのですよ・・・」
彼は答えたが葵にはまったく理解できなかった。
進化した人間とは何か?自分達ですら彼からしたら普通の人間でしかないとはどういうことなのか?
混乱する葵に樹は待たず話を続ける。
「ということで葵様。あなたは私の正体の片鱗を知ってしまった。これ以上計画の邪魔をされては困りますので少しの間眠って頂きます・・・」
言い終えた瞬間、葵の腹に強い衝撃が走り、彼女の意識は闇の中へと消えて行った・・・
一方その頃、昴は病院を抜け出し走っていた。樹から少しでも遠ざかる為に、
(なんなんだあいつは!?俺を王にする?俺にやってもらうことがある?何がしたいんだ奴は・・・駄目だ、全然底が見えない・・・!)
正体を知られていることに気付いた時、最初に現れた感情は恐怖だ。
自分の能力を知った上で彼は何をやらせようとしたのか、考えただけでも背筋が凍る。
「とはいえどうする?ウイルスが体の中に入り込んでいる以上はあいつの所へ戻らないと・・・いや、駄目だ!何を命令されるかわからないんだ。だからあいつから離れないと・・・ウッ!?」
また体が痺れ始め、昴は地面へ倒れ込みのた打ち回る。
そんな時、後ろから聞き覚えのある声が聞こえる。
「昴・・・?」
双子の妹で大切な家族の一人である茜が自分の元へ駆け寄っていく。
「良かった~、間に合って。ほら、戻るよ病院に」
「悪い、病院には戻れない・・・このままだと俺は・・・」
「このままだと昴は死んじゃうんだよ、だから戻ってきてよ」
「・・・無理だ!」
「わかったよ、それなら私が無理やり連れて行く!」
「何だって!?」
昴の脳内に樹が言っていた言葉がリピートされる。
『感染力が凄まじく他の人間を触れただけウイルスが移るのでご注意を』
そうとも知らずに茜は昴へと手を伸ばす。
(まずい・・・このままじゃ茜が・・・!)
「俺に触るなっ!!」
昴は立ち上がり叫んだ。それを聞いた茜はえ?といった顔で呆然としている。
「俺に触るな・・・近づくな!絶対に・・・」
茜が呆然としている内に昴は駆け出し茜の前から消えて行った。
(そうだ、俺の体にはウイルスが蔓延している。こんな状態じゃ俺は誰とも近づくことなんてできない!)
昴は人々から逃げた。自分にかかっているウイルスを移させないために必死で。
そして昴の逃亡から30分が経ち、そのことはあらゆる媒体を通して全ての国民に知れ渡った。
『奇病に侵された王子が病院を逃亡、一刻も早く連れ戻さなければ命に関わる』と
人々は昴を追った。国の希望といえる王子を自分達の手で救おうと。
誰も気付かない、これが樹が策謀する壮大な計画の前準備でしかないことに・・・
最後に私から一言・・・
葵ファンの皆様、本当に申し訳ございませんでした!