城下町のAGITΩ   作:オエージ

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第4話 次男の憂鬱 後編

―続いて次のニュースです。

 

―今日の午後5時45分頃、桜華公園で株式会社ホウジョウの営業部部長花村克彦氏が死体で発見されました。

 

「ねぇ、チャンネル変えない?」

 

光の声に耳を貸さず、昴はただテレビのニュースを直視していた。

 

「あんた、今日の講演会蹴ったようね」

 

奏が声をかけた。その声色には失望があった。

 

「・・・・・・・」

 

「自分が何をしたか分かってるの?あんたの演説を聞きに来た人達をさんざん待たせた挙句気が乗らないですって?前に私に言ったことは嘘だったの?」

 

「・・・・・・・」

 

「何よ、何か言いなさいよ!」

 

「・・・・・・・」

 

昴はテレビで流れる情報を凝視する。

 

殺されたのは花村克彦、47歳、妻と娘の三人暮らしだった。

誠実な人柄で家庭仕事両関係は良好、その日は二十歳になる娘の誕生日でプレゼントを買いに行っていた所だったそうだ。

画面には突然の父の死に涙にくれる花村母娘が映されている。

 

―夫が真面目で人に恨まれるような事は一切ない人でした。何故あの人が死ななければならならなかったのか私には理解出来ません!

 

―もし父が誰かに殺されたとしたら、私はその犯人を絶対許しません!

 

彼女以外にも会社の部下や上司も彼の死を悲しみを表していた。

人が死ぬ。

文字ではこんなに単純に表現されるが、現実はもっと複雑だ。

その人の築いてきた道が一瞬で遮断され、残された者はそれでも生き続けなければならない。

 

(俺のせいだ・・・)

 

もしも、自分が迷わずアンノウンの所へ向かえば殺された彼を救えたのかもしれない。

しかし、それは『もしも』であってそうならなかったから今こうなってしまったのである。

 

ニュースが別の話題になったと同時に昴はテレビの電源を消した。

 

「俺、寝るわ・・・」

 

「はぁ!?何言ってるのよ!話はまだ終わってな・・・っ!?」

 

奏が食って掛かろうとするが昴の目を見て、言葉を失った。

昴の虚ろな瞳を見て

 

「いや、分かってる、姉貴の言う通りだよ。どうかしてたわ俺。自分の都合で大切なことを見落としていた・・・」

 

そう言ってすぐに昴は部屋を出て行った。

 

「ねぇ、今日のすー兄少し様子が変だよね」

 

「少しどころじゃないでしょ」

 

近くで昴の様子を見ていた岬は双子の弟の遥に話しかける。

 

「あんなに落ち込んでるすー兄の姿初めてみたよ。すー兄ならどんな事があっても笑顔でいそうな感じだったからさ、なんかすー兄がすー兄と思えないくらいだよ」

 

「どうかな?ひょっとしたあれが兄さんの素の姿かもしれないよ」

 

「えぇ!?あんなどよーんとしているのが本当のすー兄?ないない、第一なんで家族相手に偽る必要あるのよ」

 

「家族だからって常に本当の素顔を見せているわけじゃない。とんでもない一面を隠してたりするものだよ。岬だって覚えはあるんだろう?兄さんがただ明るいだけの人間じゃないってことを」

 

遥の言葉を聞き、岬の脳内に過去の記憶がフラッシュバックする。

 

 

『泣くなよ岬。大丈夫だ、俺がついている』

 

本当は自分が一番泣きたかったのにそれでも涙を最後まで堪えていた見栄っ張りの兄の姿を

 

(でも・・・)

 

岬の中で兄に対する疑問が浮かんだ。

 

(なんで家族に話さないの?すー兄にとって家族ってなんなの?)

 

今すぐ昴の後を追って問い詰めたかったが岬は諦めた。

問うても彼は答えてくれないだろう、家族だから

 

 

 

 

昴は部屋の中でうずくまっていた。

頭の中で遺族の声が反響する。

 

(何が、王になって国民を守るだよ!全然守れてないじゃねぇか!)

 

どんどん思考が後ろ向きになっていくの感じた。自分が自分を貶めていく。

 

(俺はいつもこうだ。自分がすごいと思い込んでやりたい放題、間違いを犯すまで気が付かない。なんてバカな奴だ、この役立たず!?)

 

自分ではない自分、しかしそれはたしかに自分の中に存在していた自分に自信を持てない自分だ。

今までは無理やり押し込んで、過剰なまでに自分を自賛することで抑えてきた。

それが今回の事件で抑えきれなくなってしまった。そして自分の心を浸食していく。

 

(お前、自分が王に相応しいと本気で思っているのか)

 

「な、何が言いたい?」

 

(対して頭が良いわけじゃない、王家の能力だってない、人の足ばっかり引っ張る無能者のお前に何ができる)

 

「アギトに変身できる。それだけ充分だろ!俺には力があるんだ!」

 

(だがそれも使うヤツがバカじゃ意味がない、それが今回証明されたよな)

 

「くっ」

 

(もう一度聞くぞ、自分が王に相応しいと思っているのか)

 

昴は沈黙した。そして・・・

 

 

 

 

 

「俺は王に相応しくなんかない」

 

(うるさい黙れぇぇぇぇ!!)

 

「・・・・・っは!?」

 

一瞬、心と体が逆転し、思わず昴は耳を塞ぎ、体を布団に埋もらせる。

 

「・・・寝よう。もう考えたくない。アイツと話したくない・・・」

 

 

 

 

その日から昴は変わった

時間さえあれば選挙活動に打ち込んだ。それは逃げる為だ。

心の中にいるアイツに。少しでも隙を見せれば自分の心を犯していくのを感じた。だから違うことに集中することによってそれから目を逸らそうとする為に。

強風の日は自分にとって好都合だった、雨の日はもっと良かった。風の吹く音が雨の打つ音が思考を邪魔させアイツの存在を忘れさせた。

 

「・・・今日はこの辺にしとくか」

 

大雨の中、昴は家に帰るため掲げた旗を片づけるべく手を伸ばす。

しかし、旗があると思った所を掴もうとすると空振ってしまう。

 

「あれ?」

 

よく見たら手は旗の真横にあった。

 

「おかしいな、たしかにそこに置いてあるように見えたのに」

 

その次の瞬間視界が揺れ、体は動かなくなってしまった。

疲労を無視した行動へのツケだった。

支えのない昴はそのまま倒れていく。

 

しかし、何者かが昴の腕を強く掴み、それを防いだ。

昴は思わず顔を上げるとそこには見覚えのある人物がいた。

 

「・・・斗真?」

 

そう、昴の親友、秋原斗真だ。

 

 

 

斗真は昴を近くの公園の屋根の付いたベンチまで連れて行き、そこに昴を座らせ、自販機で買ってきた缶コーヒーを差し出す。

 

「疲れてるんだろ?飲め」

 

「いやぁ~、悪いね。さすがに天才の俺でも無理をし過ぎたかな?」

 

当然これは本心ではなく心配させないための空元気である。

だがそれを聞いた斗真は

 

「・・・立て」

 

「へ?」

 

「いいから立て」

 

言われるままにベンチから立ち上がった昴に斗真は思い切り腕を振るい昴を殴り飛ばす。

突然の出来事に昴は抗議も反撃もせずキョトンとなった。

 

「俺にそんな猿芝居が通じる思ったか?思ってたんだろうなぁ、立てよ。もう一発ブチ込んでやる」

 

「お、おい!何を急に。一応俺王子だぜ」

 

「王子だろうが王様だろうが関係ないね。俺は目の前の腑抜けがムカついたから殴った。それだけだ」

 

「腑抜けって・・・相変らず遠慮がないなぁ、お前」

 

「それが俺のいい所だよ」

 

違いない、と昴は純粋に思った。この秋原斗真は取り繕うことを知らない。人は彼を身勝手な人間だというがそれでも自分の曲げない斗真を憧れていた。

そしてその男が今、自分の目を強く見つめていた。

 

「こりゃ、話すまで殴られ続けるだろうな・・・」

 

 

「自分が王に相応しいかを考えていた?」

 

「あぁ、それで思ったんだ、バカで自惚れ屋で腕っぷししかない俺が王に相応しいわけないって、皆の足かせになってしまうんじゃないかって」

 

普段の昴なら絶対に言わない自分への卑下を聞いた斗真は驚く様子もなくきっぱりと言う。

 

「そうだろな。お前バカだし、自画自賛ウザいし、無駄に腕力あるし、そんなヤツなら邪魔にならないよう隅っこに立ってるのが得策だろうな」

 

「ひでぇなお前!?こういう時は、なんか励ますのがお約束だろっ!?」

 

「そうした所でお前が自分をダメだと思ってるなら意味ねぇよ」

 

だがな、と斗真は付け加える。

 

「お前をそういう風には思わないやつらだっているんだぜ」

 

そう言って斗真はポケットに入れてた紙切れを昴に見せる。小さな地域新聞社の記事の一部のようだ。そこには雨の中選挙活動をしている自分の姿が載っていた。

 

「そこの連中、お前の事を高く買ってるようだぜ、他の兄弟たちを差し置いてお前をトップ記事にするんだからな」

 

「でもこれはただ・・・」

 

「例えお前にその意図が無かったとしてもそいつらがお前を信じてるの事実だ。だったらその期待に応えるの筋ってものだろ」

 

「でも、そんなの偶像で本当の俺じゃない・・・」

 

「まぁそうなだろうな。じゃあその偶像を本物にすればいい」

 

「はぁ!?」

 

「お前が自分に自信が無いなら、他人から見たお前の偶像を真似るんだよ。今よりはマシになるだろ」

 

そうかそういうことか、

『自分から観た自分』の中に自信は無い。ならば『人から観た自分』の中にある自信を取り出せばいい。そうして自分を変えるのだ。

 

「何だよ・・・こんだけ悩んでたのに・・・こんな簡単に解決しちまうなんて」

 

それと同時にアンノウンを察知した。

 

「斗真、俺、『変わって』来る」

 

「そうか・・・行って来い!」

 

昴はそのまま公園に停めていたバイクにエンジンをかけ、アンノウンの元へと向かう。

彼の迷いを断ったのを祝福するかのように雨は止み、空は青く広がっていた。

 

 

 

 

昴はバイクで町を駆けていた。

 

「そうだ、俺を信じてくれている人達がいる。その人達のためにも俺は立ち止まるわけにはいかないんだっ!」

 

そして昴は叫ぶ。

 

『変身!!』

 

その掛け声と共に三つの『変化』が起きた。

一つは昴のバイク。普通のバイクからアギトの力で強化された専用バイク『マシントルネイダー』に変身した。

一つは昴の身体。アギトの姿へと変身した。

そして最後の一つは昴の心。自分の闇を振り払い、本当の意味での自信を持った心に『変心』したのだ。

 

アンノウンの所へと向かうべく町の中を風の様に疾走する。その為、人々は彼を完全に目で捕らえることは出来ず、部分的にその姿を見て人はこう呟いた。

 

「仮面の・・・ライダー?」

 

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

アギトはジャガーロード パンテラス・トリスティスを見るや否やフルスロットルでバイクをぶつけ、近くにあった廃倉庫へと跳ね飛ばす。

 

「さぁ、決着を付けようか!!」

 

殺された花村克彦とその遺族の無念を晴らすために、悩んでいた自分と決別するために、二つの意味を込めてアギトは言った。

 

「ググゥ・・・」

 

トリスティスは頭の上に天使の輪のようなものを浮かび上がらせ、そこから槍を取り出してこちらに向けて構えた。

 

(敵はこいつだけじゃねぇ・・・あの白い奴もいるはずだ)

 

アギトは気配を探る。そしてもう一人のアンノウン、ジャガーロード パンテラス・アルビュスが廃倉庫の天井に潜んでいる事を察知した。

 

(矢を避けながら戦うのは難しい・・・なら!)

 

アギトはオルタリングの左端だけを叩く。

するとアギトの色が金から青へと変色、オルタリングから出た棒を抜き取り、刃を展開させ、両刃の薙刀『ストームハルバード』を構える。

これがアギトのもう一つの姿、素早さと跳躍力を兼ね備えた『超越精神の青』ストームフォームだ。

 

「はぁぁぁぁ・・・」

 

アギトはストームハルバードをプロペラのように振り回す。

それと同時に周囲に突風が吹き荒れる。

これもストームフォームの能力だ。

 

「これなら矢は放てないだろ、いくぜっ!!」

 

アギトはトリスティスへストームハルバードの連撃を仕掛ける。

トリスティスも応戦するが元々素早いストームフォームに追い風までついた連続攻撃を捌ききれず、槍を弾く。

その瞬間をアギトは逃さない。

吹き荒れる風を全て刃先に集約し、トリスティスの体を切り裂いた。

これがストームフォームの必殺技『ハルバードスピン』だ。

 

その一撃に耐え切れずトリスティスは爆散した。

 

「よしっ次は!」

 

アギトは上を見上げる。アルビュスが弓を構え矢を放った。

ストームハルバードで打ち返す体制をとる。

 

 

 

しかし、その矢はどこから放たれた銃弾に弾かれる。

 

「なんだっ!?」

 

アギトは弾が飛んできた方向を向く。

そこには見たことのない青い装甲を纏う戦士の姿があった。

 

「なんだあいつは!?」

 

驚くアギトを気に掛けることなく青い戦士はその手に握られた銃に別のパーツを取り付け、大型の銃口を天井のアルビュスへと向けて放つ。

まるで竜が火を噴くごとく弾丸はアルビュスに直撃、天井から落ちた。

 

「よく分からないがチャンスだな!」

 

アギトはグランドフォームに戻り、クロスホーンを展開し、アルビュスに向けてライダーキックを放った。

 

それを受けたアルビュスは数メートル吹き飛んだあとに爆散した。

それを見て青い戦士はそのまま去って行った。

 

「一体何者なんだ?」

 

勝てたはいいが謎の戦士への疑問がアギトの胸に残った。

 

 

 

1週間後

 

―さぁ、それでは今週末の選挙の順位発表です!

 

兄弟全員がテレビに釘付けになる。もちろん昴も。

 

―今回の大きく順位を上げたのはなんと昴様!票数も先月の二倍にまで上がり、現在の順位は八位!

 

―昴様はここ数週間、選挙活動を熱心に取り組んでいらしてましたからですね

 

―まだ上位組に届きませんがこれはかなりの進歩です

 

―この調子で行けば一位もありえるかもしれませんね

 

「まぁ、やるじゃないの昴、少しは見直したわ」

 

「お、奏が昴を褒めるとはな。こりゃ、明日は隕石が降ってくるかもな」

 

「今落としてあげましょうか『お兄様』」

 

「いや、それは勘弁・・・まぁ、何だ、俺は信じてたぞ、お前がやればできる子だって」

 

「すー兄やるじゃん!」

 

「さすがです兄上!!」

 

「努力が実ったのね」

 

兄弟たちの賞賛の声を聞き、昴は思わず顔を隠す。そこから、う、うぅ、うぅぅ、と小さな声が聞こえる

 

「どうしたのすーちゃん?」

 

「お兄様どこか痛いの?」

 

「いや、これはもしかして・・・」

 

「泣いてるの?」

 

茜達はそう思って昴に近づく。

しかし、よく聞くと、う、うひひ、くくく、あはは、と言う声が聞こえたと思えば昴は突然立ちあがり、

 

「あーはっははー!!!ざっとこんなもんよ!俺が本気を出せばな!よぉしこのまま一気に一位へ駆け上がるぜぇぇぇ!!!ひゃっほーい!」

 

あまりのテンションの高さに兄弟一同は昴に呆れかえる。

最近まで凹みモード(命名者茜)だった昴を励まそうと色々苦労かけていたのが無駄になったのだ。

 

「前言撤回、見直すんじゃなかったわ」

 

「おいどうした急に、さては追い抜かれるんではないかと焦ってるな、ブラックホールの俺に」

 

「それを言うならブラックホースだよ、バカ兄」

 

「バカ兄!?」

 

「これを兄扱いするとは岬は優しいな」

 

「お前は俺を兄扱いしてないの遥!?」

 

「昴を励ますために皆で作ったケーキ無駄になっちゃたわね」

 

「せっかくだから皆で食べようよ、昴抜きで」

 

「オイオイオイ!!何故俺をハブくんだよ!俺にも食わせろよ!!」

 

「ケーキさんがすーちゃんに食べられたくないって栞が今、小声で言ったよ」

 

「栞はそんな事言わない」

 

「大丈夫だよお兄様、栞のケーキを半分あげるから」

 

「栞ありがとぉぉぉぉぉぉ!!でもハブかれるの前提なんだ」

 

「兄上!遂に暗黒面から抜け出せたのですね!!」

 

「お前にいたってはどこの銀河系に居るんだよ輝!」

 

「・・・・・・」

 

「いや、なんか言えよ兄貴・・・って逃げるなぁ!」

 

いつもの調子を取り戻した昴を兄弟は暖かく(?)祝っていると、サクラダファミリーニュースは次のコーナーになる。

 

―さて、次は町の都市伝説コーナー!今回ご紹介する都市伝説はズバリ!仮面ライダーです。

 

『『仮面ライダー?』』

 

―その顔をマスクで隠し、金色のバイクで一瞬の内に町を駆け廻る神出鬼没の存在、その正体は正義か悪かっ!?

 

(あ、俺の事だなこれ)

 

「へぇ、仮面ライダーかぁ、かっこいいじゃん」

 

「どうせ、こんなのただの作り話よ」

 

「でも目撃例かなりあるらしいよ」

 

それぞれが仮面ライダーの都市伝説について語り合う中、昴は心の中で考えた。

 

(『仮面ライダーアギト』、悪くない名前だな・・・)

 

 

 

 

「何に斜に構えてるのよ?ケーキ食べるわよ」

 

「え、くれるの!?やったぁぁぁぁぁ!!」

 

「ウザいからやっぱナシ」

 

「うそーん」

 

なんやかんやで昴はケーキに貰い、櫻田家は騒がしさを取り戻した。

 

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