翌日
岬と彼女についてきた遥は現在街中にてゴミ拾いに勤しんでいた。選挙云々も含まれているだろうが困っている人を放っておけない性分上このように町中のいろいろなことを引き受けているのである。
「すいませんね、いつもこうして手伝ってもらって」
「いえいえ、好きでやってることですから」
「岬様には頭が下がる一方です。ところで・・・」
清掃員はある方向に目を向ける。
「あれっ、袋が破けてる!?いつの間に!?」
「おお、やっと気が付いたか」
「気が付いたかってなんで教えてくれなかったんだ!?」
「どこで気づくか試したかったからだ」
「白井・・・」
「まあまあ弥生ちゃん。落ちた分はちゃんと僕が拾ってきたからさ」
「なんで六野さんも黙ってたんですか!?」
「その、白井ちゃんの無言の圧力で・・・」
そこには弥生と白井と六野の三人が騒いでいた。
「あの人達、誰ですか?」
「アハハ、知り合いってところです・・・」
取り敢えず岬は弥生を正座させ話を聞かせる態勢を作った。
「あのですね、もうこの際護衛云々はいいとします。でもせめて回りで騒ぎを起こすのだけは勘弁してくれませんか?」
「はい、善処いたします・・・」
弥生はしょんぼりとした表情で反省している。
「あなたは確か、白井咲子さんでしたよね?」
「白井で良い。それはともかく櫻田岬、君も大変だなこんな不器用に護衛されるんだからな」
「不器用ではない!」
白井の言葉に弥生が反射的に否定する。
「で、でもほら、不器用でも弥生さん自身は真面目ですし・・・」
「だから不器用では・・・」
「でも本当は直して欲しいところとかもあるのだろ?不器用なところとか不器用なところとか?」
「二度も言うな!」
「確かに弥生さんは不器用なところが目立ちますけどほら、そこがいいところかなって最近思えてきたんですよ」
「弥生様、それはフォローになってません!それに私は不器用ではありません!ただちょっと手先が思うように動かないだけです!」
「「それを不器用って言うのです(だよ)!」」
「むぅ・・・」
二人同時に不器用と言われ押し黙る弥生。
そうしていると、何やら向こうで騒がしい声が聞こえてきた。何事かとよって見ると子供達が木の回りを囲んでいた。
「どうしたの?」
岬が尋ねると子供の一人が木の上に指をさした。そこで子猫が鳴いていた。
「あー、降りられなくなっちゃったのね」
岬は猫を助けようと木へと近づくがそれを弥生が引き止めた。
「お待ちください!木から落ちたりあの子猫が悪魔改造されている危険性があります!ここはまず私が」
「前者はともかく後者は絶対ないと思いますけど?!」
それでも弥生は引き下がらず彼女が先に木に登ろうと小枝を掴んだ。しかし力を入れ過ぎたのか掴んだ瞬間枝は音を立ててへし折れてしまった。
「・・・ちょっと細すぎたか・・・」
周りに気まずい空気が流れた後、気を取り直して枝へと手を伸ばすがやはり掴んだ瞬間から枝が折れてしまった。
「ま、まだ他にも枝が・・・」
そう言い聞かせ他の枝にも手を伸ばすが次々と追っていき最終的に手で届く範囲の枝はすべて彼女によって折られてしまった。
「・・・のこぎり買ってきます」
「早まらないで!ってか切り落としたら猫が危ないし!」
「放してください!これでは完全に私が不器用な人みたいじゃないですか!」
「その話もういいですから!取り合えずそこで座ってください!」
分身達を動員して弥生を取り押さえ今度は岬が木にチャレンジする番だ。
(とはいえさっきので掴めそうな枝は全部折れちゃったしなぁ・・・あっそうだ!)
いいことを思いついた岬は分身達に呼びかける。
「誰か私を肩車してくれない?そうすれば猫に手が届きそうだし」
しかし分身達からは返事がこない。どうしたのかと思えばライオが分身達を代表して返答した。
「別に岬が担ぐ役をしてもいいじゃなくて?」
「え?でもほら、私主人格だしだから担がれる役でよく・・・ないよね?」
ジト目で見る分身達は自分から担ぐ役をやる気はないようだ。本体に似て妙な所で頑固なのが分身達の短所である。
「・・・じゃんけんで決める?」
『『うん』』
こうして岬達によるじゃんけん大会が始まったがいかせん同一人物なので出す手が同じで何度もあいこを繰り返す。そうしている間に猫は伸ばした子供の腕に着地し子供達は安堵して去っていく。しかしじゃんけんに夢中になっている一同はそのことに気付かず終わらないじゃんけんをし続けていた。
その姿を遠くから白井と遥はため息をつきながら傍観していた。
「お互い面倒な奴を相方にしてしまったのだな」
「まあね、でも別に嫌な気がしないのはあなたも同じでしょう?」
「そうだな」
それだけの言葉を交わした二人は黙々とゴミ拾いを再開し続ける。
(なんか気まずい・・・)
誰も一言も声を発さない状況に肩身の狭さを感じた六野は何とか場を繋げようと遥に話しかけた。
「そういえば遥君ってさ、よく見ると姉の岬ちゃんそっくりだよね?分身ちゃん達の中に入ったら見分けつかなくなったりして・・・」
「まあ双子ですからね。身内以外の人はそうなんじゃないですか」
返答はしたもののあまりそっけないものだったので六野は少したじろいた。
「そ、そうだね。でもさ、ここまで似てるとひょっとしたら実は自分は岬ちゃんの八人目の分身の一人なんじゃないかって不安に思ったりしない?」
「昔似たようなことを友人に言われましたよ。『岬の分身の中でも遥は一番駄目な奴だな~』とね」
「え・・・ご、ごめん。やっぱり嫌だよね兄弟と比べられるのって」
「まあ今では勉強なら僕の方が上ですけどね。今は清掃に集中したいのでこの辺でいいですか」
「あ、うん・・・」
会話を打ち切られ再び静寂が訪れ六野にとっては何とも息苦しい時間が過ぎていった。
現在、岬と弥生はドタバタな町内清掃を終え帰路につく途中にある。白井と六野とはその場で解散し遥は新作の小説を購入するため本屋に立ち寄るためこの場にはいない。
「お力になれず申し訳ございませんでした」
「へ?どうしたんですか急に?」
弥生が急に頭を下げ岬は困惑して素っ頓狂な声をだす。
「私は岬様の護衛を任されながら守る所か岬様の迷惑になるようなことばかりし続けてしまったことのことです」
「(自覚あったんだ・・・)いやそんなに気に病むことじゃありませんよ、私ももう慣れましたし」
「しかし!これでは私は岬様のお役に立つことが・・・」
気を直させようと岬は気遣うが真面目で堅物な弥生はますます自身に重圧をかける一方である。どうすればいいかと岬が悩んでいると弥生はまた頭を抱えて苦悩する。
「ああ何故私はいつもこうなのだ、気を張り詰めれば張り詰めるほど必ず変な失敗を繰り返してしまう!」
(あれ?もしかして弥生さんって緊張すると気が逸るタイプなのかな?)
ある意味では茜と似たタイプであると察した岬は彼女に声をかけようとしたその時である。
突然、遠くから強い爆発音が周りを震撼させた。
「っ!?今のは一体?」
「岬様!?」
音の正体を確かめようと岬は音源へと走り出し弥生もそれの後を追って現場へとたどり着いた。二人の目の前で大きな建造物が赤い炎に包まれて燃え上っていた。
「何・・・これ・・・?」
目前の現象に岬は目を見開いて固まっていた。だが弥生はすぐに平静を取り戻し状況を整理するために頭を回転させている。
(野次馬がいないことや先程の爆発のことを鑑みるにこの火災はたった今起きたことになる。ということは消防署の出動もまだ、ここはまず岬様の身の安全を確保しなければ・・・)
「岬様、ここは危険です。一先ず日の届かないところへ・・・岬様!?」
岬を非難させようと手を伸ばすが彼女は前の方へと走っていく。そこには火災からなんとか逃げれたであろう人物が倒れていた。岬はその人を抱え声をかける。
「大丈夫ですか!しっかりしてください!!」
「うう・・・あなたは・・・」
その声に反応して女性は目を弱々しく開ける酷く傷ついているようで目の前の岬が王女であることを認識していないらしく彼女は岬に縋り付いて懇願する。
「まだ、建物に逃げ遅れた人が・・・お願いします、どうか彼らを助けて・・・」
その言葉を残して女性は糸が切れたように脱力する。弥生は彼女の脈を測り死んでいないことを確認した。
「安心してください、彼女は生きています。ですが、危険な状態であることには変わりありません」
「そうですか・・・」
「まずは消防署に連絡を取り応急処置を・・・ってお待ち下さい!どこに行かれるつもりですか!?」
燃え滾る建物の中へ向かおうとする岬を見て弥生は慌てて引き止める。しかし岬に止まる気配はない。
「弥生さんは消防署への連絡とあの人の応急処置をお願いします。私は建物の人達の救出を試みますから」
「危険です!それなら私が・・・」
「あれだけ大きい建物から人を探し出すには感情分裂を持つ私の方が適しています。だから行かせてください」
「ですが・・・あなたは王族です!このようなところで身を危険に晒すのは・・・」
「じゃあ逃げ遅れた人はどうなってもいいんですか!!」
「っ!?」
真正面から激昂を受けた弥生は思わず閉口する。一方岬は今まで心に潜めていた思いを弥生にぶつける。
「あなたが王族のことをどう思っているかは知らない。でも私は!私にとっての王族は!今にも死にそうな目に遭っている人を見捨てたりはしない、人が苦しんでるなら迷わず救いの手を差し伸べる。それが私にとっての王族です・・・!!」
それは常に多くの人との付き合いを通して身近な者達の期待に応えように成長した岬ならでは価値観であろう。だがそれは軍人の家に生まれ親から最も敬うべき存在だと教え込まれていた弥生の心に強い衝撃を与えた。
「お願いします、手を放してください・・・」
しかし弥生は手を放すどころかより強く握りしめた。
「それならなおさら、あなたを危険に晒すわけにはいかない」
だが手を掴む理由は先程のものとは違かった。弥生は岬の目を真っすぐ見据えこう言った。
「私はあなたを守りたい。それは王族としてでも護衛対象としてでもでなく、あなた個人を、誰かの為に手を伸ばすことができるあなたがその思いをいつまでも持てるように守っていきたいんです!」
「弥生さん・・・」
それに、と弥生は続ける。
「実は私自覚があるんです、自分がどうしようもない不器用だってことを。そんな人間に死にかけの人の応急処置を任せて大丈夫なんですか?」
「確かにそうですね」
「即答!?」
今までいやというほど弥生の不器用ぶりを見てきた岬は彼女の言葉に納得する。
だが弥生は軽い冗談のつもりで言ってみただけなので即答されややショックを受けた。
「まあそれは置いといて急ぎましょう」
「は、はい!」
弥生が気を持ち直し、女性の手当ては分身の一人に任せ弥生と岬は火から身を守るために水をかぶり火災現場へと突入する。
しかし、そこで思いがけない存在に出くわした。
「ニ゛ィィィィィィヂィィ・・・」
「アンノウン!?」
昴達によって撃破されてきたシーホースロードの生き残り強化ウーヌスであった。
その手からは強力な電気が溢れ弥生は火事の原因を察した。恐らくこの建物の誰かを狙ってこのアンノウンが入り込み電気を発し、その結果何らかの機器に命中して火災が発生したのであろう。だが原因を知ったとしても今それを役立てることは出来ず強化ウーヌスは岬の能力に気付き抹殺すべく殺しのサインを下し接近してくる。
「岬様、ここは私が対処しますのであなたは逃げ遅れた人の救助を・・・」
「大丈夫なんですか?確か弥生さんは・・・」
弥生は昴達とは違いアギトではない。その為彼らのように変身することはできず一度Gトレーラーに行ってG3-Xを装着する手順を踏まなければ戦うことができないので今回のような突発的な事態に弱いのだ。
「大丈夫、とは言えませんが、今は一刻を争う状況です。ですので早く行ってください」
「で、でも・・・」
岬は戸惑うが相手はそれを待たず襲い掛かってくる。急な出現の為Gトレーラーも昴達も間に合うことはないだろう。
絶体絶命の瞬間に見舞われたその時、
「うおりゃぁぁぁぁー!」
壁を突き破った一台のバイクが強化ウーヌスを跳ね飛ばした。
跳ね飛ばしたバイクはガードチェイサーで乗っていたのはG3-MILDに身を包んだ六野であった。
「ふう・・・間に合った。大丈夫かい弥生ちゃんに岬ちゃん」
「その声は・・・誰だっけ?」
岬の言葉に思わずズッコケる六野。
「あぁ、仕方ないか君とはあまり接点ないし・・・僕だよ六野隆弘だよ」
「もしかして白井さんと一緒に居た人?」
やっと思い出した岬の隣で弥生は疑問を感じた。
「助けてくれたことは感謝しますが、どうしてこんな急に?まるで予め準備していたみたいじゃないですか?」
「あーそれね、実はさっき遥君から白井ちゃんへ連絡があったんだよ。どうやら遠くで火事騒ぎを聞いた遥君はまさかと思って能力で計算してみたら悪い予感が当たってたってわけ」
「そういうことでしたか」
「さっすが遥、私のことをよく分かってるね」
六野の説明を聞いて弥生は彼が現れた経緯を知って納得し、岬は自分の行動を理解していた遥のことを純粋に喜んだ。しかし平安も束の間吹き飛ばされた強化ウーヌスが立ち上がりこちらを睨み付けてきた。
「とにかくここは僕は何とか時間を稼ぐから弥生ちゃんは近くで待機しているGトレーラーに向かって!」
「はい、了解です!」
G3-MILDが敵の腰に掴みかかり壁へ押さえつけている内に岬は残りの分身達を呼び出して救出活動に向かい弥生は一度離脱してGトレーラーへと向かう。
「もう準備はできている。後は君が装着するだけだ」
Gトレーラー内部には白井と遥が立っていてその隣にはG3-Xが用意されていた。
目を合わせた遥に礼をして弥生はすぐさまG3-Xを装着し現場へと再急行した。
Gトレーラーから飛び出すとすぐ目の前にG3-MILDの首を締め上げる強化ウーヌスを発見しG3-Xは横から体当たりを仕掛けG3-MILDを開放する。
「うぐっ・・・また格好悪いところを見せちゃったね・・・」
「いえ、六野さんいは感謝しています。あの時あなたが時間を稼いでくれたからこそ私はG3-Xを装着に専念することができました」
そういいG3-XはG3-MILDへ手を伸ばす。
「まだいけますか?」
「そうだね、ちょっときついけどこんな機会は滅多にないだろうし僕もちょっと無理してみようかな」
G3-MILDはG3-Xの手を掴み立ち上がる。
XにMILD。同じG3システムでありながら異なるコンセプトの元に作られた兄弟機が今同じ時の中並び立った。
「ギシャァァァァァッ!」
強化ウーヌスは目の前の敵を倒すべく刃先が螺旋状の槍を掴み突撃していく。
それをG3-Xが前に出てGK-06で受け止めた。
「はぁっ!」
「ギッ!」
両者は互いの得物を打ち付けあう。槍とナイフ、リーチの差から強化ウーヌスに軍配が上がると思われたがそこにG3-MILDが飛び出しガードチェイサーから取り出したGM-01を発砲する。
「相手は一人じゃないよ!」
G3-MILDの言葉通り銃撃に怯んだ強化ウーヌスに休む間を与えずG3-XがGK-06を投げ捨てインファイトに出る。連続で放たれる猛攻に強化ウーヌスは悲鳴を上げ逃れようと槍を振るうが奥のG3-MILDが打ち出したGA-04のアンカーが槍に巻き付く。
そこへG3-Xの手刀が決まり槍は折れ、刃先が付いている方を掴んだG3-Xは折れた槍を強化ウーヌスの左手を貫いた。
「ギャァァァァッ!」
畳みかけるように全身に槍の突きを放った後G3-XはG3-MILDと共に強化ウーヌスを蹴り飛ばす。
「これで決めましょう!」
「うん!」
G3-XはGX-05をガトリングモードに移行させ、G3-MILDはGA-04を外してGM-01にGG-02を合体させ狙いを定める。
「「はぁっ!!」」
GX-05の無数の弾丸によって体に無数の風穴を開けられた強化ウーヌスは最後にGG-02の砲撃を浴びたことによって体を爆散させ消え去った。
「やったね」
「そうですね」
勝利を確認した二つのG3システムはその腕を強く握り合った。
その後、しばらくして消防隊と駆けつけ火災は無事消火し中の人も岬の必死の救助活動によって救われた。
「・・・救助よりも疲れた・・・」
その後事情聴取やマスコミのインタビューの嵐を避けて岬はどうにかあの場所から離れることに成功した。そんな疲れ切った岬の前に頭部ユニットを外した弥生が立っていた。
岬を見るや否や弥生は彼女にまた頭を下げる。
「岬様、火事を見た私はどうにしてあなたをあの場所から引き下げようと考えていました。それがあなたの思いに反することだとも知らずに・・・本当に申し訳ございません」
「謝る必要なんてないですよ。弥生さんは間違ったことなんてしてないじゃないですか」
「ですが私は、あなたを守ろうと気を張るばかりにあなたのことを分かろうとしなかったそんな私にボディガードを務めることなんて・・・」
「そうですね、確かに弥生さんはボディガードには向いてないかもしれませんね。不器用ですし、何よりも護衛のことに集中し過ぎて周りが見えなくなってしまいますし」
「返す言葉もありません・・・」
はっきりと本人から駄目出しを受け意気消沈する弥生。だが岬はそんな弥生の手を握りこう提案した。
「ですから私と友達になってくれませんか?」
「え?どういうこと、ですか?」
「何というか弥生さんって緊張すると失敗するタイプだと思うんですよ。今までだって私を王族として守らなきゃって感じで気張りすぎてあんなことやこんなことになってしまったんですよね」
その問いに弥生は確証を持てないながらも多分そうだと首を縦に振った。
「それなら簡単ですよ。弥生さんが私と友達になればいい。友達同士なら緊張する必要ありませんもんね。弥生さんはどう思いますか?」
「は、はぁ・・・私でいいのですか?知っているでしょうけど私不器用ですよ?」
「まあ慣れましたしそれに私としてもあなたと友達と呼べる仲になりたいんです」
「私と友達に?」
はい、と岬は弥生に思いを告げる。
「今日まで色々悩まされましたけど気付いたんです。弥生さんがいつだって真剣だってことに、だからこそあなたを信じることができる。あなたと本音を言い合える中になりたいって、私の言ってること変ですか?」
「いえ、光栄です。こんな私の岬様の友人を務まるかどうかは分かりませんが・・・努力はします」
「やだなぁ弥生さん。友達がそんなかしこまったこというわけないじゃないですか。私のことだって呼び捨てで良いですよ」
「しかし・・・」
弥生は呼び捨てにはできないと言おうとしたがそれは岬の意志に反するのではないかと思い言い淀んだ。考えた末に彼女は口を開く。
「でしたらその、岬さんと呼んでもいいでしょうか?」
その言葉に岬は笑顔になる。そして弥生の手を掴んだ。
「いいですよ。それじゃ行きましょうか」
「行くってどこへ?」
「そりゃ折角友達になったんですから色々と、ね」
「そういうことでしたら付き合いましょう岬さ・・・ん」
慣れない呼び方に赤面する弥生を見て岬は顔が綻んだ。いつか彼女がその呼び方に慣れるその時を待ち遠しく思い岬は弥生を連れてどこかへと去っていった。
その光景を遥と白井は奥の方から覗いていた。
「これで一件落着ってことなのかな」
遥は独り言のように呟いた。
彼はどちらかというと身内以外の人とは関わりを持つことに抵抗を感じるタイプの人間なので双子の姉に友人ができたことに複雑な感情を抱いているのだ。
「どうかしたのか櫻田遥?大好きなお姉ちゃんが自分から離れていくようで怖いと感じているのか?」
「別に、ただ今あなたのことを腹立たしく感じただけだよ」
わざとらしい顔を浮かべて問い掛ける白井に対し遥はやや苛立った口調で返答する。
最近まで弥生が岬に張り付いていた関係上、白井と顔を合わせる機会が増えたのだがどうも彼女は自分の事をシスコンだと決めつけからかってくる傾向にあるのをどうにかしなければと遥は思っていた。
「そうか、それはそうと君の予想は外れたようだな」
「どういう意味?」
「樹の事だよ」
そう、樹が家族を狙っているとして遥が計算した彼が家族の前に現れる確率で葵、光、岬の三人が飛び抜けて高かった。その為に昴、斗真、弥生の三人が彼女らの護衛に回っていたのだが今まで樹が襲ってきたことがなくただ時間だけが過ぎていく状況にあるのだ。
しかし遥は白井の発言に少しムッとした。例え傲慢だと言われようが自分の生まれ持つ能力に強い信頼を寄せる彼にとって能力を否定されることは自分を否定されると同義と感じているからだ。
「僕の能力は外れたことがないんだ。さっきだって僕の能力のおかげで解決できたことでしょ」
「それはそうだな。だが、もし計算したこと自体が間違っていたとしたら、そういうこともあるのではないか?」
意味深にそれだけを言って白井は立ち去って行った。
遥は白井が言っていたことが気になり再度確立予知を使用して今度は別の確率について計算する。
計算の結果が出た時、遥は思わず手に持っていた本を落とした。
新品の本が泥に濡れるがそれに気を取ることなく遥は震えた手で家に電話をかける。
「おう遥か、どうした?」
電話越しに昴の声を聞いた遥は彼に家の状況を質問する。
「今家にいる兄弟は何人?」
「どうしたんだよ急にさ?お前ら双子以外の全員だぜ。あ、いやついさっき茜が輝と栞を連れて買い物に行ったんだっけ。前はあいつらに押し付けちゃったからそれを気にしてたんだろうな茜の奴」
「っ!?」
兄の言葉を聞いた遥は思わず頭を抑えた。
「遅かったか・・・!」
「何がだ?もしかして買い出しのメニューにプリンでも入れて欲しかったのか?」
「兄さん、真面目に聞いてくれ」
いつもとは違うトーンで話す弟に昴は並々ならぬものを感じ取った。
「岬に何かあったのか?」
「いや、岬は無事だよ。たった今僕は樹の件について計算し直したんだ。『樹が兄弟の前に現れる確率』じゃなくて『兄弟の誰かが樹の前に現れる確率』をね」
昴は目を見開いた。もしそれが本当ならば樹が利用しないわけがない。
「どういうことだ、そんなことがあるわけ・・・」
「僕もそう思いたいよ。でも計算してみたらある人物が100%樹に出会うという結果が出たんだ」
「・・・で、そいつは一体だれだ?」
驚かないで聞いてくれ、と遥が前置きし答えを聞いた昴は約束を守れず思わずそんなバカな!と大声を上げたのであった。
その頃、買い物に向かった茜達は本来のスーパーへのルートから外れて小さな雑木林にいた。
「いきなり走り出してどうしたのですか姉上?」
「え・・・いや、その・・・カメラが、ね」
茜は予め記憶しておいたカメラの少ない道のりに沿ってスーパーに向かっていたのだがその先に火事騒動で集まったマスコミのカメラを目撃し思わず二人を連れて遠くへ逃げてしまったのであった。
「私がカメラにびっくりしたばっかりに、駄目なお姉ちゃんでごめんね」
「いえ!問題ありません!例え何が起きたとしても僕が命を懸けて姉上をお守りしますので!」
「あ、ありがとう輝。でも、命までは懸けて欲しくないかな・・・」
相変わらず熱血な末弟に茜は苦笑いする。丁度その時茜は異変に気付いた。
「あれ・・・栞がいない・・・もしかしてはぐれちゃった!?」
「あ!ホントだ!?ちゃんと手を繋いでいたはずなのに・・・まさか、昨日のテロリストに誘拐されたのか!?」
「・・・それは無いと思う。でもどうしよう!」
二人は栞が居なくなったことに動揺し慌てて周りを右往左往していた。
その栞がどこにいったかというと実は茜達から少しばかり離れた場所で歩いていた。
カメラを避けようと町中を歩き回りこの雑木林にたどり着いた時、栞は奇妙な声を聞いたのだ。微かに聞こえてくる声を。『・・・・けて、か・を・と・・』と聞こえてきた。
茜と輝が無反応である為それが自分の能力によって聞こえているものだと気付いた彼女は気掛かりになり二人に心配をかけてしまうことを申し訳なく思いながら輝が周りに気を取られている内に手を放して声のする方へと向かっていった。
進むにつれて声ははっきりとしたものになっていく。完全に聞き取れるようになった時、目の前の木に何者かが座り込んでいるが見えた。
「誰なの?私を呼ぶのは・・・」
恐る恐る木に回り込む栞。
そして彼女は見た。
割れかけのアンクポイントを抑えながら座り混む樹次郎の姿を。
予め言っておきます。
ロリコンの皆さん、落ち着いてください!
うっかり書き忘れてましたが樹が兄弟を狙うのはアンクポントが修復するまでの時間稼ぎとして人質を狙っていたというものですので見つかった途端襲われることはありませんので。