国王選挙が迫っていく中彼の言葉を胸に昴が一人思うこととは・・・
そして人に拒絶された闇の力は何を目論むのか・・・
最終決戦序章第54話の始まりです。
それではどうぞ!
国王選挙が来月に迫っていく中、桜華高校は今日も平和に放課後を迎える。
「はぁ・・・楽しい時間ってあっという間だよね・・・」
「・・・」
「あれ?いつも見たいにのってくれないの?」
最早お約束のように机に伏せる茜は隣の昴に話しかけるが当の本人は上の空のようだ。
「へ、宇治金時に練乳は邪道だって?」
「一言も言ってないよそれ!?」
トンチンカンなことを言い出す昴に茜は心配する。
「どうしたの最近何か様子が変だよ。悩み事?」
「いや別に、それよりも今日は確か姉ちゃんも兄貴も用事なんだっけ?帰り道付き合ってやろうか」
何となく一緒に帰る提案をしてみるが茜には意外だったようだ。
「珍しいね、昴が自分から一緒に帰ろうなんて行ってくれるなんて。明日は雨だってりして」
「おいおい俺のこと何だと思ってんだよ。俺だってたまにはそういうこともあるんだよ。で、どうすんの?」
「う~ん・・・折角だけどいいかな。いつまでも甘えてはいられないからね。今日は一人で帰ってみるよ」
「そうか・・・気を付けて帰れよ・・・」
僅かながらも確かな成長を遂げた茜に驚きながら昴は教室を出る茜の背中を見届けた。
そして茜と入れ替わるように白井は昴の隣に現れる。
「何だ、もう帰ってしまったのか」
「ん?茜に何か用事でもあったのか?」
「なに、ちょっと良いものを手に入れたので彼女も誘おうと思っていたのだよ」
そう言い白井がポケットから取り出したのは焼肉屋のサービス券だった。
「どうだ。たまには皆で焼き肉パーティーと洒落込むのは」
「そういえば今までそういうことしてなかったな・・・」
珍しい機会なので昴は誘いに応じ同じく誘いに乗った斗真と弥生と共に焼肉屋へと向かった。
六野と合流し焼肉を囲うことになった五人。
ちょうど一段落ついたところで斗真がふと口を開いた。
「こうやって一度に顔を合わせることも何気に久しぶりだよな俺ら」
何気ない一言に周りはあっ、と声を漏らす。
「あの戦い以来アンノウンはすっかり見なくなったからな」
弥生が言うあの戦いとは当然金のエルとの戦いのことだ。と同時に樹が命を散らしたあの日でもある。
樹次郎に関する思い出はそのほとんどが最悪と言うべきもので今も心の中では彼を許せないと思うところがある。だが過去の問題への決着をつけたあの時以来共に戦い彼に助けられたこともあったことも事実である。
あの日家に帰って樹の死を知ったことと彼が死に際栞を通して残した言葉は昴の心を強く心を震えさせた。
「案外もうアンノウンはこの世からいなくなっちゃったんじゃないかな。あの金色のアンノウン・・・金のエルだっけ?あいつが親玉みたいだったようだし」
六野の楽観的な見方に白井は難色を示す。
「いや、親玉はあいつではなくで別の奴だ。金のエルはそいつの持つ強めの駒ってとこだろ」
それに、と斗真も初めて遭遇した時に金のエルが言っていたことを思い出す。
「あいつは自分のことを七柱の使徒の一人って言っていた。あいつ程強い奴が後6人いるってことだよな」
「ろっ・・・6人も!?」
「いや待て、樹が言っていた神話が事実だった場合、人間に力を与えた火の使徒、奴が名乗った名前に当てはめれば『火のエル』か。そいつは神に処刑されたらしいから後5人ということになるな」
「5人・・・」
白井が訂正したがそれでもまだエルロードは5人いる。
4人力を合わせてやっと倒したあの金のエルと同じ強さを持つであろう強敵とまた相見えることになるかもしれないという事実は4人を項垂なせた。
「そ、そう言えばさ・・・」
気まずい雰囲気だと感じた六野は空気を変えようと話を別の話題に切り替える。
「皆はどうするの?選挙のこと」
「選挙?ああ、アイドル総選挙のことか。もちろん俺はらいとに投票する気だが」
『『いやそっちじゃなくて国王選挙の方!』』
アイドルオタクに他4人のツッコミを入れる各々の考えを述べた。
「私は別に誰でも構わないな。今日にでもサイコロで決めるか」
「いやそれ適当過ぎるでしょ白井ちゃん、しかもサイコロは6つしか目がないし・・・僕はやっぱり葵様かな」
「私は岬様に票を入れようと思う。あの方の国民に対する誠意はきっと国をいい方向に導いてくれるだろう」
皆それぞれ違う考え方を持っているのだなと昴が感じていると白井が意外と言う目でこちらを見ていた。
「『俺は兄弟で一番イケメンな櫻田昴にするかな~』なんて言うと思ってツッコミも考えていたが・・・まさか何も言わないとは・・・」
「え?ああ・・・冗談も言ってられない時期になってきたからな・・・」
意外にも真面目な昴に白井と弥生と六野が驚いていると斗真が焼いていた肉を昴の皿に置き言った。
「俺はお前に入れるぜ昴。お前が王になれば俺みたいな奴が少しでも生きやすい世になるかもしれないからな」
「ああ、ありがとな・・・」
礼を言い置かれた肉を見下ろしながら昴は自分が王になることについて考えた。
アギトの力を持つものが力を持つ故に苦悩することがないような世にしたい。
その思いで今まで選挙活動に励んできた。それは今も変わらない。
しかし昴の心は揺れていた。あの戦い以来ずっと考え込んでいた。
(俺の望みは王になることで叶えられる。だから今まで努力してきたじゃないか。今更悩みなんてあるわけ・・・)
昴は自分に言い聞かせる。しかし彼の胸の中は雨が降り続けているような感覚に見舞われる。それが本当にお前の望むことなのかと雨は問い掛けてくる。昴はそれに答えれず黙り込んでしまう。
心にある思いと向き合い正しい答えを見つけて欲しい
死に行く樹が最後に残した言葉が店内の至るところから聞こえる肉を焼く音をかき消して昴の耳の中をぐるぐる回り続けていた。
焼肉屋から別れ帰宅した昴は兄弟と共にリビングで選挙に関するニュースに目を通していた。
傍らでは努力したにも関わらず1ポイントしか上がらなかったことに落胆する輝を遥がフォローを入れている。昴は画面に写る自分の順位を見た。
―トップは依然葵様ですがその一方で長く続いていた2位競争を今週制したのは昴様です。
(俺が2位か・・・)
表面上は2位という立ち位置ではあるが持つ能力故に王になりたがらない葵は何としてで順位を下げようとするだろう。辞退することだって厭わないことを鑑みれば今自分は実質的な一位に立っていると昴は感じ取っていた。
一年間積み上げてきた努力が遂に報いられる時が来る。胸が躍る一方でやはり心の雨が手放しで喜ばせようとしない。
この感覚の正体を探ろうと思案を巡らしているとふと光が茜に訊ねた。
「ねえ、どうして茜ちゃんってそんなに人に注目されるのが駄目なの?」
『『!』』
光にとってはそこまで深く考えていない質問であった。だが事情を知る者達にとってそれはとても言いづらいものであるためリビングは一時的な沈黙に包まれる。
「そうそう、今度駅前で・・・」
「きっかけがあったの」
並々ならぬものを感じ取った遥はとっさに話を変えようとするが奏が説明しようとする。
それを修と葵は止めようとするが奏があくまで話すつもりのようだ。
「私も色々あったけど・・・前を向くことにしたわ」
そう言い振り向き修を見つめる奏。
二人の間で何が起こったかわ詳しくは知らないがどうやら奏はもうあの事故のことを気に病むことを止めたたらしい。
罪悪感から解き放たれた姉は今なお過去に囚われている妹を前へと向かせようとあえて今までタブーとしてきた領域に踏み入れる。
茜もそれを受け入れ一同は奏の話を清聴する。
「あれはまだ茜が今の輝より少し上くらいの時だったかな。まだ町中に監視カメラも無くて・・・」
この頃茜は正義のヒロインに憧れたお転婆娘だった。
そのために常に周りから能力の使い方が乱暴になってきていると心配されていた。
特に同じ年である自分はよく茜に振り回されたっけ、と昴は昔の思い出に少し懐かしむ。
そんな彼女にある不幸が舞いかかった。
茜はその日親友の花蓮の家に遊びに行こうとSPを撒いて彼女の家へと行った。
この時思いも知らないことが起きてしまった。
花蓮の家に入り込んでいた空き巣と遭遇してしまったのだ。
茜は花蓮を守ろうと能力を発揮し何とか空き巣を撃退したのだが、焦りや恐怖によって能力が暴走、家を半壊させてしまう。
その後すぐに警察やSPらが駆け付け二人は無事保護された。
しかしその時茜は集まった大勢の野次馬から負の感情の視線を一斉に浴び心の中で叫んだ。
『見ないでぇぇぇぇぇぇぇ!!』
それ以降茜は人の視線を怖がるようになってしまったのである・・・
また、この事件が町中に監視カメラが設置されるきっかけとなったのは別の話。
「でもさ、泥棒も捕まえられたんだし良かったんじゃ・・・」
「ちっとも良くないよ」
光の言葉を遮るように茜はゆっくりと椅子から立った。
「注目されるってすっごく怖いことなんだよ。少なくとも私は・・・怖い」
「それを乗り越えるための答えが王様になってカメラを無くすってわけ?」
ドアを掴み部屋から出ようとする茜を奏は引き止めた。少しの間沈黙した茜はゆっくりと絞るような声で喋りだした。
「そうだよカナちゃん。カメラさえ無くなれば、注目されること自体無くなれば私の悩みは解決するに違いないんだから・・・」
「本当にそう思うか」
「昴?」
今まで黙り込んでいた昴が口を開き周りは彼に視線を向けた。
「それでいいのか、そんなことで満足できるのか?お前が本当に望むことは何なんだ?」
「私が、本当に望むこと・・・」
我ながら説教臭いことを言ってしまったと昴は言い終えた後になって気付いた。しかし茜も俯いて考え込んでいる様子なので効果はあったのだろう。
(でも何だろう。茜に言ったつもりなのに言葉が自分に突き刺さっているような気がするのは)
またあの雨が心に強く振り出した。こんな状態になった自分に茜のことが言えるのか。王が務められるのか。
そう曇らせていくと葵の携帯から着信が入る。
そして葵が放った言葉は兄弟全員を震撼させた。
「お父さんが・・・!?」
急報を聞き城へ駆けつけた一同が見たものは想像していたものとは拍子抜けの現実だった。
『『ぎっくり腰!?』』
「ははは・・・心配かけてすまんな・・・」
どうやら総一郎がふざけて五月をお姫様抱っこをしようとした結果がこれらしい。大したことではなくてよかったと兄弟達は胸を撫で下ろす。
「ぎっくり腰じゃ大人しく寝てるしか・・・」
「冗談じゃない。寝てる暇なんか、アーッ!」
無理に起きようとしてまた腰を痛める総一郎。そこまでして動こうとするのには理由があった。
間が悪いことに明日は海外の客人を招いての食事会、年度末の予算の書類整理に報道陣へのインタビュー、それに先日の大雨が原因による土砂崩れで孤立してしまった村へのお見舞いと大忙しなのだ。
「だから寝ている場合では・・・アーッ!」
「総ちゃん。無理に動くと腰が悪化するわよ」
意地でも起き上がろうとする総一郎を五月が抑え込む。
父の容態は心配だが公務のことも放って置くわけにはいかない。
そんな中葵が皆に提案した。
「ねえ皆。櫻田家の一員としてお父さんの代わりにできることがあるんじゃないかな」
葵の一言によりそれぞれが行う公務の役割分担を決め始める。
葵は客人の接待を、奏は書類整理で遥はそのサポートを務めることにした。光と栞は家で留守番、被災地の訪問は修と輝、そして茜に決まり最後に昴の役割分担を決めることになった。
「で、お前はどうするんだ?俺達と一緒に来るか」
「俺は姉ちゃんと接待に行くよ」
『『えっ!?』』
予想外の昴の答えに周りは目を開いて仰天する。
「兄さん・・・本気で言ってんの?」
「本気だけど」
「あんたね、それは接待の意味を分かって言っているんでしょうね。あんたが何かやらかしたらこの国の信用がガタ落ちすることだってあるのよ」
「そんなことあるわけないじゃん姉貴は心配性だなぁ・・・徹夜で英語を勉強しないと・・・」
「ちょっと今聞き捨てならないこと聞こえたんだけど!?ってかよく考えたら昴あんた外国語一言も話せないから接待無理じゃん!」
「まあまあ落ち着いて皆。私ができる限りフォローしていくから」
結局昴は葵と共に客人の接待に決定した。当日兄弟全員から何かしら忠告を受ける。彼の性格から鑑みて当然であるのだが実は昴にはある考えがあり、そのために慣れない正装に着替え葵と同じ所へ向かうのであった。
城での食事会に置いて兄弟達の不安は外れることとなる。
会話の問題は前日に最低限の言語を葵から教わりどうしてもという部分は葵の通訳で乗り切った。
とはいえ何時間も言語の違う相手と会話するのは精神的な疲労を起こさせ今昴は葵と会場から離れ城下を一望できるバルコニーにいた。
「ごめん姉ちゃん。少しでも姉ちゃんの手伝いをできたらと思ってたけど逆に姉ちゃんに迷惑かけちまって」
「そんなことないよ。昴が私のために慣れないことをしてくれただけでも嬉しいから。それじゃ私は会場に戻るから気持ちが落ち着いたらあなたも戻って来てね」
そう言って会場へ足を戻そうとする葵の後ろ姿を見て昴は呟いた。
「やっぱり姉ちゃんは凄いや・・・」
「え?」
昴の呟きに反応した葵は振り向いた。今度はしっかりと聞こえるように話す。
「頭も良いし、思いやりもあってその上優しいときた。姉ちゃんが選挙活動しないのに一位をキープしてきたのもそういうところにあると俺は思うぜ」
「昴・・・何が言いたいの?」
昴の自分に対する唐突な賞賛に意図したものを感じ取った葵は困惑し怪訝な表情になる。昴は自分の思いを葵に言った。
「俺さ、昨日の夜から今までずっと考えてたんだ。誰が一番王様に相応しいかって。俺は・・・」
「姉ちゃんに王様になって欲しいと思う。姉ちゃんなら絶対にうまくやっていける」
昴は真っすぐに葵を見つめ言っていることが本気であると示した。
それに対し葵は見つめ返し跳ね除ける意図の言葉を紡ぐ。
「私の能力の事をあなたは知っているでしょ」
「うぅ、それは・・・」
予想通りとはいえ解答に苦しむ問いを投げかけられ俯き押し黙る昴。
当然の王になりたくないという葵の気持ちは兄弟の誰よりも理解している。だがそこを押してでも彼女に王になってもらいたいと昴は考えている。
今の自分は本当にしたい事が分からず心に雨が降り注いで何事も捗らない状態だ。こんな状態で王を務めることはできない。むしろ多くの者に負担をかけてしまうだろう。だが望まずとも王の座が迫ってきている。だから昴は葵に一位であり続けそのまま国王になって欲しいと思っていた。
とはいえ自分が不甲斐ない故に姉に王の座を押し付けようとしているという事実に昴の胸は鉛のように重くなる。だとしても葵に王になって欲しいという気持ちは本当だと自分に言い聞かせ説得を再開した。
「確かに姉ちゃんの能力がやばいっていうのは知っているよ。でもそれは使い方次第だよ。姉ちゃんならその力も正しいことに使えると思うから・・・」
「絶対順守をどう正しく使うというの?」
後ろめたさに潰されそうになりながらも昴は必死に考えた葵の能力の有効活用例を述べた。
「例えばさ、戦争している国に姉ちゃんが戦争を止めてくださいって言えばそれで戦争は終わるわけだよね。他にも困ってる人には優しくしましょうとか人を傷つけてはいけませんとか大勢の人に言い回れば皆姉ちゃんの言葉を守って悪い奴はいなくなる。姉ちゃんの能力があれば世界は平和であり続けられるんだよ」
「昴・・・」
その時葵が自分にとても悲しい目を向けてきた。
大事なことをあなたは忘れている。目だけでそう言おうとしているのが痛いほど伝ってくる。
「戦争は悲しいことだわ。でも誰もが人を殺したくてそれを始めるわけではない、止むに止まれぬ事情があって起こってしまったりするものよ。その事情に触れようともせず無理に終わらせようとすればまた戦争は起こってしまうわ」
グサリと言葉が自分の胸に突き刺さるのを実感していく。
葵の糾弾はさらに続いていく。
「その次に昴が言ったことは良い事なのかもしれない。でもね、人の感情を無視して能力でルールを守らせることを平和とは言わないわ。支配って言うのよ。それに私の能力の効き目にも限界がある。仮にそれが無くなったとしても私が死ねば能力も消えて人々は抑圧の反動で大いに荒れることになるかもしれないのよ」
昴は頭を抱える。葵の言葉を塞ごうとしているのではなく自分に恥じているからだ。
自分は何と浅はかな事を言ってしまったのか、と。
「力は使い方次第。それには私も納得できるわ。だからこそ私の能力は『使わないことが正しい使い方』だと私は信じているの」
「ごめん姉ちゃん。俺どうかしてたよ。王になることに疑問を持つばかりに姉ちゃんにまた迷惑をかけてしまった。馬鹿な弟だよな俺って・・・」
自嘲気に落胆し俯く昴に葵は優しく諭す。
「馬鹿なんかじゃないわ。だって昴は悩んでいる。それは自分の答えを見つけ出そうとしているからよ」
ハッと昴は顔を上げた。そこにはいつもの優しい表情を見せる葵がいた。
「悩んでいいのよ。いっぱい悩んでいっぱい苦しんでその先にある自分が望むものを見つけ出す。それが樹先生が伝えたかった言葉じゃないのかな」
「姉ちゃん・・・」
「私から言えるのはここまで。後は自分で考えるてみて。それでも手詰まりになった時は他の人の言葉に耳と化すといいわ」
そう言って葵は今度こそバルコニーから出る。話している間に疲れも吹き飛んだ昴は彼女の後を追って歩き出す。葵の隣まで行った昴はさらに歩を進め葵を追い越した。
「あれ?」
ここで昴は違和感を覚える。
なぜ自分は葵を追い越したのか。追いつこうと少し早足で歩いていたものの隣に来た後は歩幅を葵に合わせていたはずなのに。
不思議に思って振り返ってみると葵は止まっていた。
「どうしたの姉ちゃん。早く行こうよ」
葵の手を掴んで進もうとする。だが何故か葵は動こうとせず昴も前に進めない。
妙に感じてもう一度振り返ると昴は目を見開いた。
葵の表情がさっき振り向いた時と全く変わっていなかったのだ。
それだけじゃない。葵の髪が揺れたまま空中に静止している。
(こんな事前にもあったよな・・・)
そう、初めてあの青年の声を聞いた時もこれと同じ現象が起きてたではないか。
(奴がくる!)
身構えた昴の行動は迅速だ。
「変身!」
簡略化された構えでアギトに変身し感覚を研ぎ澄ませる。
すると前から突然ユニコーンのように細長い角を携えた白いアンノウンが出現した。
昴は殴り掛かりに行きたい気持ちを抑え込んだ。このような芸当をできるアンノウンとは言えば間違いなくエルロードであろう。
「我は陽のエル。この世界の時間を支配するものなり」
予想通り目の前のアンノウンはエルロードだった。だが今度は予想外の出来事が起きた。
突然華やかな城の内装が消え周囲が真っ黒な空間に包まれる。隣にには時間を止められた葵がいたはずなのに彼女は消えていた。
「姉ちゃんをどこへやった!」
真に迫った様相で叫ぶアギトを見て陽のエルは嘲笑して答えない。
それなら答えを吐かせてやる。そう思いアギトはバーニングフォームとなり陽のエルに飛び掛かろうとするが横から強い衝撃を受け吹っ飛ばされ変身を解除される。
すぐさま立ち上がって襲撃者の容貌を捉えると昴は驚愕した。
襲撃者は自分が変身するアギトに酷似した姿であった。酷似したと言ったのはそれがアギトそのものではないと気付いたからだ。
自分が変身したアギトはあんなに真っ黒な容貌をしていない。
あれほど攻撃的な厳つい顔をしていない。
間違いなく視線の先にいるのはアギトに似た何かであった。
「我は七柱の長 陰のエルである。この空間は我が創りしまやかしである」
「何だと・・・!?」
昴は二つの意味で驚愕した。アギトに似た何かがエルロードだったこと。そして今自分が二体のエルロードと向かい合っているということ。
一体でも圧倒的な力を持つエルロードに斗真と弥生の救援が見込めない状況で相手の土俵で戦わなくてはならないという自体に昴は肝を冷やし額に大粒の汗を流す。
だが幸か不幸かその懸念は払拭された。黒服の青年が延々と続く黒の間を裂いて現れたからだ。青年は二体のエルロードを傍に控えさせる。
「また会いましたね」
「お前・・・!」
昴は敵意の目を向けるが青年はそれを無視して話し出した。
「あの時あなた方から受けた痛みは未だに消えません。私は人を愛し人が幸せである道へと導こうとした。だけどあなた方はそれを拒んだ」
「当然だ。人の未来は人の物だ。お前にどうこう言われる筋合いなんてない」
「そうですか・・・人は変わってしまったのですね。私はもう人を愛していいのか分からなくなりました・・・そうして苦悩し私は決めました」
「もう一度、一から全てをやり直そうと」
青年の言葉に昴は背筋を凍らせた。超常的な力を持つ彼が言う『全てをやり直す』ということは今の世界を破壊するということだろう。
収拾がつかなくなったゲームのデータを一度消して最初からやり直す。彼はそんな感覚でこの世界を破壊するだろう。あの時今際の金のエルが言い残したことはこれを予期してのことだったのかと昴は今になって気付く。
「そんなことさせるかよ!!」
「やはりそう来ましたか。ならば私はあなたにチャンスを与えましょう」
そう言い青年は浮遊し昴を見下ろした。まるで必死にもがく蟻でも見るかのような目で。
「私が世界を『修正』するのにはまず世界のどこかに『聖地』を定めでそこで準備を整える必要があります。期間はおおよそ一月」
「それまでにあなたが聖地を見つけられれば私は負けを認め『修正』を断念することを誓います。どうでしょうか?」
「・・・その聖地って奴はどこにある」
「それは言えません。あなたにとって最も近く遠い場所とでも言っておきましょう」
世界を賭けた勝負を申し込む神に昴は疑問を抱いた。
その気になれば物理的に世界を消し去る力を持っているであろう彼が何故それを使わず回りくどい手で世界を壊そうとするのだろうか。
一言も口にしていない疑問に青年は答えた。
「終末まで私を見つけられるよう励みなさい。そして思い知るのです。自分がしたことの重さを、人の未来は人の手から落ちているということを・・・」
そう言い青年は僕と共に姿を消し黒い空間も先程までいた城内に戻り時間も動き出した。
神の宣戦布告を受けた昴は呟いた。
「終末まで後一月・・・」
それは丁度国王選挙当日であった。この国を未来を定める日に世界そのものの未来が消えるかもしれないのだ。
「守り切れるのか俺は・・・あいつらから、この世界を・・・家族を・・・」
陰のエル
闇の力の配下の中でも最も主に近い属性を持ち他の者とは一線を画すエルロード。
空間を操る能力を持ちその力は疑似的な異世界を作りだすほど。
戦いにおいては空間を捻じ曲げる力を利用し敵を圧倒する。
その姿はアギトに酷似している。
ラスボスその一です。特別篇の舞台はこいつが他のエルロードの補助を受けて創ったという設定でした。
S.I.C.アギトバーニングフォームを真っ黒にしてアンノウン特有のデザインを取り入れた感じの容姿です。
陽のエル
ユニコーンを彷彿させる姿のエルロード。
時間の概念を作った存在であり手に持つ杖で時間を操る。
美しい容貌だが中身は醜悪そのもので人間を取るに足らないものと見下している。
ラスボスその二です。
最初は光のエルという名前にするつもりでしたが櫻田光と名前がかぶってしまうので陽のエルに変更。相棒も陽に対になるように陰に変えました。
果たして昴達は最強のアンノウンに太刀打ちできるのか
闇の力から人々を守り切れるのか
決戦に備える次回をお楽しみにしていてください。