1983年 1月15日 東ドイツ
作戦前の最後の休憩時間。
吹雪の中、隼人は基地の外である人物を考え事をしながら待っていた。
BETA。
この世界の人類を滅亡に追い込んでいる存在。その最大の特徴はあの物量。
あの物量を宇宙外から持ってきたとは考えにくい。BETAの着陸ユニットは中国とカナダに落ちた2回のみだ。
宇宙外からやってきたのでなければ、あれはこの地球で生産されたものだ。
隼人はそう確信していた。
自己増殖。
だが、BETAが地球上で数を増やしているとなると不可解な点がある。
突撃級と要撃級の硬殻。
モース硬度推定15度以上の物質は地球上には存在しない。
ならどこから持ってきたのか。
否。奴らはそれを地球にあるものから生み出した。
地球上の資源からゲッターロボの超合金にも匹敵する程の硬度の物を生成する技術。
加えて惑星間航空すら可能にする技術。
さらに自身の存在を脅かす物が現れた時のそれに対抗する自己進化。
自己増殖に自己進化。
その特徴はあまりにインベーダーと似すぎている。
だがインベーダーと大きく異なるのは種ごとの違いはあれど個体の違いなどまるでない姿。
隼人はBETAに関してある結論に達していた。
BETAという生命体は星の資源を食い尽くし、数を増やし、そしてさらにまたその惑星間航空によって次の星へとその魔の手を伸ばす生物兵器であろうと。
一体、誰が何のためにこんな生物を生み出した。
「……BETAの行動に何の意味がある」
(そしてなぜ俺はこの世界に送り込まれた?)
「直接アイツ等に聞いてみたらどうだ?」
隼人の前に彼を呼び出したテオドール・エーベルバッハ少尉が現れた。
「それで……何のようだ。エーベルバッハ少尉」
「ハヤト。なぜお前はいつまでもここにいるんだ?」
テオドールにとって隼人がこの基地に留まっているのは不思議だった。
なぜなら、BETA大戦最前線であるこの戦場でこの男が求めるような情報などたいして得られないからだった。
「そうしたいからだ。」
隼人の答えにテオドールは納得できなかった。
「そんな理由!」
「それに貴様のところの隊長と俺は共同戦線を組んでいる。」
「自分の血縁を出世の道具に使うような女だぞ。」
隼人が白い息を大きく吐いた。
「よく考えろ。エーバルバッハ少尉。あの大尉はそんな人間ではない」
隼人はアイリスディーナを信用していた。そのことがテオドールには理解できなかった。
「こんな短い間で何が!」
「わかるさ。あの女の行動をよく考えてみろ」
そう言って隼人は基地へと戻ろうとする。
「心配するな。突然消えた俺の代わりに貴様が殺されるような事にはならんさ」
隼人の身分は今、中隊預かりとなっている。そんな男がいきなり消えてはいらぬ疑いを中隊にかけることになる。
「俺は仲間を……裏切らない。」
基地へと戻ろうとする隼人にテオドールはもう声をかけなかった。
遠ざかる隼人の背中が少しさびしそうに見えた。
戦術機隊「ハンニバル」作戦司令室
作戦に備え、臨時集成戦術機大隊「ハンニバル」が結成された。
その指揮を執るのはホルツァー・ハンニバル少佐。少佐は部下のマライ・ハイゼンブルク中尉と共に最後のブリ―フィングをしていた。
「マライ、どう思う? この作戦は」
「鍵を握るのは武装警察軍の2個大隊です。あの部隊がこちらに協力してくれれば作戦は成功するでしょう」
武装警察軍の戦術機は全てバラライカよりも一つ性能の良いチェボラシカである。そんな部隊がこちらの味方になれば非常に心強い。
「その通りだ。だがほんとうに協力してくれればな」
武装警察軍の切り札が人民軍に味方を要請通りにしてくれれば何も問題はないのだ。
だが、彼らが本当に支援してくれるのかは確証がなかった。
「ここは一つ。未確認の機動兵器がこちらの味方をしてくれることを祈ろうか」
未確認の機動兵器―五日前に東ドイツ軍最強の戦術機中隊「シュヴァルツェスマーケン」を含む多数の東ドイツ軍人を救ってくれたという噂のことだ。
そちらの方がよっぽど確証などなかった。事実、マライもハンニバルもその噂をほとんど信じていない。
「少佐ともあろう人がそんな神頼みのようなことを」
マライは冗談めかして笑うがハンニバルの顔に笑みはなかった。
「既にこの国の現状は祈る段階に至っているよ」
ハンニバルの冷たい瞳がマライをみつめていた。
それから二時間後ついに作戦は開始された。
今回の作戦「ナイセ川防衛戦」はナイセ川を挟んで西側に防衛陣地を敷き、東側に戦術機大隊を展開、迫るBETA群に戦術機部隊をぶつけ、その進軍を遅らせその間砲撃によってレーザー級を殲滅、航空爆撃を仕掛けるというものである。
第666中隊9機を含めたハンニバル大隊は重金属雲が展開されたのちナイセ川東岸へと進軍した。
その時、隼人は白い外套を羽織り基地の外へと出ていた。
基地の警備など作戦中は有って無いようなものだ。抜け出すのは容易かった。
吹き荒れる雪の中でその姿は徐々に景色に溶け込んでそのまま消えた。
ナイセ川 西岸付近
戦術機部隊が前線を超えて群れの中に飛び込んですでに10分。
要塞陣地のT-55戦車大隊の指揮官は接敵まであと5分だと予測した。
武装警察軍の2個大隊に動く気配はない。
T-55の戦車の砲塔は全てBETA群へと向けられていて砲火が続いている。
「アイツ等は何を考えているんだ! 俺たちが全滅したら次は都市が戦場になるんだぞ!」
突撃級の群れがその砲火を受けながらもこちらに近づきつつあった。
これはもう駄目かもしれないと頭の隅によぎった瞬間。
ソレが現れた。
地面が割れその中から白銀のドリルが姿を見せた。
BETA群と戦車大隊の間にゲッター2が立ちふさがった。
ゲッター2の中の隼人は先日のアイリスディーナとのやりとりを思い出した。
「貴様には我が中隊への支援は禁じる。」
そう隼人に彼女は言い放った。
「いいのか? レーザー級狩りはゲッター2が加われば手早く終わるぞ」
それにアイリスディーナは首を振った。
「それは我々がレーザー掃討をしていない時にしてくれればいい。貴様にはやってもらいたい事がある」
「何だ?」
「前線の兵達を守ってやってほしい」
アイリスディーナの意思は自身の中隊の支援よりも前線の部隊の支援をしてほしいという事だった。
「それはかまわないが……お前やお前の部下は」
戦術機部隊が戦線維持に努めて、ゲッター2がレーザー狩りをするより確実に数的被害は抑えられる。
当然、隼人がゲッター2で前線を維持すれば兵の数の総合的な減りは最小限になるだろう。
「我々は東ドイツ最強の戦術機部隊第666中隊だ。我々をなめてもらっては困る。」
だが、BETA群の中の戦術機部隊の苛烈さに違いはない。
「頼んだぞ」
そう言って彼女は去って行った。
あの女は自身や自身の部下たちよりも東ドイツ全体の事を考えている。
そんな奴が自身の保身と出世のために家族を売るはずがない。
隼人はそう判断した。
それに……。
「俺は二度と仲間を裏切ったりはしない。」
隼人は懐の竜馬に渡したはずの銃に手を当てた。一度共同戦線を組んだ相手が全体のことを考えているのに自分が戦場から逃げる気になどなれなかった。
そして何より
インベーダーに似たその生物が許せなかった。
ゲッター2はBETA群の中へと猛スピードで突入していった。
(二度と仲間を裏切らない)
その誓いが後に隼人を苦しめることになるとはその時は想像していなかった。
隼人編 5話 終