東ドイツの軍と市民を恐れさせている武装警察軍。
だが、武装警察軍は決して一枚岩ではなかった。
二つのグループがあり、ベルリン派とモスクワ派がその覇権を争っていた。
モスクワ派は前回の「ナイセ川防衛戦」において、チェボラシカの欠陥機としての汚名を雪ぎ、シュタージ内の権威を高めるはずだった。
しかし、その企みはたった1機の未確認所属不明機によって破られた。
モスクワ派はソビエトへの恩を売るのに失敗し、窮地に立たされていた。
1983年 2月08日 東ドイツ
モスクワ派最強。
人員、装備、共に武装警察軍最強の「ヴェアヴォルフ大隊」は今、絶体絶命のピンチを迎えていた。
人狼の名を冠されたその部隊は交戦からおよそ30秒で片腕を失っている状態に追い込まれた。
未確認兵器を視界に捉えた瞬間。
突風と共に大隊の半数が消し飛んだ。
目的は件の未確認兵器の捕獲。
だが大隊員はそれが無理だということに瞬時に気がついた。
前方の目標体を視界に捉えたと思ったその時にすでにソレは大隊の背後に回っていた。
すれ違い様に半数の機を失った事実に大隊長ベアトリクスは舌を噛んだ。
いつもとはまるで立場が逆転していた。
狩る側だった人狼部隊が狩られる側になっていた。
(これ以上は士気にかかわる。)
ヴェアヴォルフ大隊は対所属不明機の訓練を打ち切る他なかった。
他の隊の機体から集めに集めた「ゲッター2」の情報を基に作り上げた仮想のソレはヴェアヴォルフに現実を押し付けた。
コットブス基地
テオドール・エーベルバッハは隼人を探していた。
今朝、見た悪夢が忘れられない。
それは忘れようと努めた記憶だった。
体制と迫る外敵に怯えながらも穏やかだった生活。
家族に囲まれて笑っている自分。
それは辛すぎる思い出となり、テオドールを苦しめていた。
もしもBETAがいなかったのなら。
(俺は家族と別れなくて済んだのだろうか?)
「妹を頼む」と最後に分かれた義理の父の顔が今も胸に焼き付いている。
その答えを知っている男を俺は探していた。
相変わらずその男は雪原を見ながら煙草の煙を吐いていた。
隼人はレーザー級について考えていた。
レーザー級より放たれる戦術機や爆撃や砲弾を全て撃ち落とす光線。
それがたった3メートル位の生命体が可能にしているということが腑に落ちなかったのだった。
隼人はもっと強力な光線を発する物を知っていたが、アレは高出力のゲッター炉心があってはじめて可能になるものだった。
あの小さな体にどれだけのエネルギーを秘めているのか。
それともこの地球の何かを変えてレーザー射出を可能にしているのか。
だがどれもこの最前線では分かりそうもなかった。
「今できることをするしかないか」
そう呟いて基地に戻ろうとするとテオドール・エーベルバッハが彼の前に現れた。
「ジン……てめえに聞きたいことがある。」
テオドールの顔は真っ青だった。
「何だ?」
「お前の世界はBETAがいなかったんだろ?」
「そうだ」
「BETAがいない世界の東ドイツはどうなったんだ?」
テオドールの口調はひどく震えていた。
まるで本当はその答えを聞きたくないかのようですらあった。
「この世界は俺のいた世界とは違う。同じ歴史になるとは限らんぞ」
「いいから答えろ!!」
テオドールは普段のクールな様子からは想像もできない程声を荒げていた。
隼人は煙草の火を靴で消し、テオドールの顔を見つめた。
「……6年だ。」
「は?」
「今から6年後の1989年……ベルリンの壁は崩壊する」
その答えにテオドールは信じられないといった表情をしていた。
「西側が攻め込んでくるのか?」
「いや、壁は崩壊し東西ドイツは統一される。そしてその一年後東西冷戦は終結し、ソ連はいくつかの国に分かれる。」
「そんな……」
テオドールに告げられたBETAがいない世界の話は彼にとって衝撃の一言だった。
「もっとも第二次大戦の末路が俺の世界と異なるから全く同じ道を辿るとは思えないが」
隼人の言葉はもうテオドールには届いてない。
テオドールはその場で膝をついた。
テオドールの眼に映っていたのは深い絶望と激しい怒りだった。
「奴らがいなければ、俺は……俺の居場所を失わずに済んだのに」
テオドールの眼に何かを感じた隼人は彼に何があったかを聞き始めた。
テオドールは隼人に養子としてホーエンシュタイン家に受け入れられたことや亡命のこと、そして失敗しおそらく家族全員が既に殺され一人で行き場のなく軍で戦っていること全てを話した。
また親しい人を失わない為に心を閉ざしていたテオドールはそれまでの反動のように口を開いた。
全く違う世界から来たからなのか隼人には話しやすかったのだった。
「俺にジンのような強さがあれば……家族を守れたかもしれないのに」
隼人は静かに首を振った。
(大切な人を失った悲しみにつけこんで親友を地獄へと追い込んだ俺が強いわけがない)
「俺はいったいこれからどうすればいい」
BETAとシュタージに家族を奪われ、夢も希望もないテオドールは打ちひしがれていた。
「俺に言えるのは……お前の死んだ家族は今のお前のそんな姿を望んでいないってことだけだ。」
隼人は雲の厚い空を見上げながら、独り言のようにつぶやいた。
「『死んだ奴はもう戻らない。』俺の一番の親友だった男が良く言っていた事だ。お前がこれからする事が失ってしまった人の犠牲を意味あることにするんだ。」
(そうか竜馬……お前の言ったことの意味がようやくわかったよ)
テオドールは顔を上げ、立ち上がった。
「……犠牲になった人の死を意味あるものにか」
「そうだ……それにエーベルバッハ少尉お前はもう一人じゃない。」
隼人は基地の方を指さした。
「テオドールさん~~! ハヤトさん~~!」
基地の方から彼らのよく知る少女が走ってきた。
「なんでテオドールさん! ハヤトさんと一緒にいるんですか! 私には近づくなって言ったクセに!」
カティアが可愛く怒りながらテオドールに食って掛かる。
「俺がどこにいようが俺の勝手だ!」
「なんですか! それは!! あれ? テオドールさん泣いてません?」
どうやらカティアはテオドールの顔色に気づいたようだった。
「泣いてねえよ! 戻るぞ!」
テオドールは泣き顔を隠すかのように基地へと戻り始めた。
「あ! テオドールさん? 待ってください。」
テオドールを追おうとするカティアを隼人は呼び止めた。
「待て、カティア。」
「はい? なんですか? ハヤトさん?」
隼人は少し笑うと「……テオドールを頼む」と一言言った。
カティアは少し不思議そうにすると「はい!」と力強く返事をしてテオドールの方へ走って行った。
カティアは隼人の言った言葉の意味が良くわからなかったが、テオドールと隼人が名前で呼んだことに異を唱えなかったこととテオドールを頼むと言われたことが嬉しくて気にならなかった。
隼人はなぜテオドールの眼が気になったのかがようやくわかった。
ミチルさんを失った自分と竜馬と同じような眼をしていたからだった。
彼を俺や竜馬のようにしてはいけない。
隼人にこの場所で戦う理由ができた瞬間だった。
隼人編 7話 終
アニメのアクスマン若すぎじゃないですかね。