1983年 3月1日
ソ連 ハバロフスク オルタネイティヴ研究所 午後0時
「ようやく、研究所に入れるのか。」
竜馬は、月詠少佐や他の数名とともにオルタネイティヴ研究所の入り口まで来ていた。
「いいか、流。下手な真似したら国際問題になるぞ。」
「そんなこと俺が知るかよ。」
月詠少佐は、竜馬の答えに予想どおりの回答だったのか、動じず言葉をつづけた。
「だが、研究所内で貴様が「偶然」にも迷ってしまえばそれは不可抗力だ。」
「わかってんじゃねえか。月詠。俺は好きにやらせてもらうぜ。」
竜馬はオルタネイティヴ研究所で、元の世界に帰る手がかりを手に入れなければならないのだ。
すなわち、ゲッター線とBETAの関係性。
「言っておくが、物は壊すなよ。中将に迷惑が掛かる」
堅牢な門をくぐると白衣を着た男達とエヴァが待ち構えていた。
「月詠少佐。視察に時間がかかってしまい、申し訳ない。」
白髪の年配の男が月詠に対して話しかけた。どうやら研究所の長らしい。
「かまいませんよ。突然の申し出を受けてくださってありがとうございます。」
「この研究所は本来外部の方が入るようになってはいないので準備に手間取ってしまいました。」
「まあ、見せられるものと見せられないものがあるでしょうからね。」
月詠は作り笑いを浮かべて、所長と言葉を交わす。
「それはそちらも同じでしょう。あの機動兵器にはまだ秘密がありそうだ。」
「あれは借り受けたものですから、詳しくはわかりません。そちらの研究員の視察を我々は受け入れていますからいつでもいらしてください。」
「わかるもんならな」と小声で御剣組の技術者が呟いた。
月詠少佐と研究所所長が腹の探り合いをしていると、竜馬はこちらをじっと見つめてくるエヴァと目があった。
「さて時間もないことですし、視察をはじめよう。」
幾重にも重なった堅牢なセキュリティーを越えるとようやく入り口に辿り着いた。
「こ、この研究所は地上1階、地下2階の施設になっています。」
イゴーリと名乗った若い博士が案内する。青白く線の細い気弱そうな男だった。
無機質な窓一つない廊下が永遠と続いていた。
月詠少佐達は研究員に案内され、研究所の奥へと進む。
そこに竜馬の姿はなかった。
誰にも一人いなくなったことに気がつくことはなかった、だがそれは奇妙なことだ。
超能力を持つエヴァすら竜馬がその場にいなくなったことに気がついていなかったのだから。
「おかしいぞ、真っすぐ歩いてきたのになんで一人になってんだ。」
竜馬は、研究所にぽつんと一人で立っていた。
研究物を案内されている時にスキを見て、単独行動をするつもりだったのだ。
だが、少しの間「武蔵」がこの世界に来ていることについて考えていた間に気がつけば一人になっていた。
「まあいい、それならそれで動きやすい。」
竜馬が割り切って研究所を探ろうとした時だった。
竜馬の背後から何者かが服を引っ張った。
「!?」
竜馬が、飛びのきながら振り返るとそこには虚ろな目をした銀髪の少女がそこに立っていた。
少女は、10代前半の容姿で、髪はセミロングで一つに結んでいた。
少女は、無言で竜馬を手招きした後踵を返し、研究所の奥へと歩いて行った。
「ついてこいってことか?」
銀髪の少女には近寄るなと言われていたが、研究所の内にあてもない。
竜馬は少女について行くことにした。
「しかし、妙だな。ムショ暮らしで鈍ったか。」
竜馬は少女が服に触れるまで、その接近に気がつかなかったことに不審さを感じた。
月詠少佐は、ホルマリン漬けにされた闘士級の姿を見ていた。
「我々の同士が多大な犠牲を払って捕獲した1体です。」
月詠少佐は感嘆を受けながらも、不自然さを感じていた。
「俺は、何をしにここに来たんだ?」
月詠少佐は、ここに来た目的を見失っていた。
少女は、竜馬を研究所の奥深くへと地下へ地下へと誘導する。
すでに地下3階まで来ていた。入口のセキュリティーが軽く思えるほどのセキュリティー、
隠された扉そのすべてが少女が歩くだけで開放された。
「何者だこいつ? こんなガキにここまで権限があるのか?」
地下3階の研究室内で竜馬は、一つのレポートを手に取った。
「BETAは生物なのか?」
我々は多大な犠牲を払い、BETA闘士級を343体捕獲した。
そこで我々は、体長、体重、体の部位、頭、鼻、足の大きさ、重さ、構成する元素に至るまで細部を徹底的に調査した。
そのことによって分かったことは、我々の想像を絶した。
343体すべてが、体長、体重、個々の体の部位すべてが同一だった。
寸分とくるいすらなかった。
これがどういうことか、わかるだろうか。
例えば、「人類」ホモサピエンスを見れば分かるだろう。
体色、性別、年齢、身長、人種、指紋、DNA。
60億人がいれば、それぞれが全く異なった「個性」を持つ。
ところが、この「闘士級」は全てが同一だった。
つまり、343体を横一列に並べて、番号をつけずにシャッフルするともうどれがどれか判別するのは不可能であるということだ。
これが生物と言えるだろうか?
BETAは「兵器」ではないだろうか。そう拳銃の「弾」のように、全て同一、同効果を持つために規格されたもの。
BETAは生物ではない。兵器なのだとしたら……
それは誰かの意思によって作られた兵器なのだろう。
では誰の意思だ?
誰が、人類を滅ぼそうとしているのだろうか? それは我々人類の一人も知ることはないだろう、神のみぞ知ることか。
それとも、神の意思か。
神が人を滅ぼそうとしているのか。
竜馬は、レポートを読み終え少女の方を向き直った。
「おいガキ!」
少女は、竜馬の呼びかけには答えず、寄り道をせずに早くこいといった感じで手招きをして竜馬を急かす。
「見せたいものがあるのか?」
竜馬は、少女に再びついて歩く。ふと違和感があった。
「おい! お前いつ髪切った?」
少女の髪型がショートカットに変わっていた。
「………………」
少女は答えなかった。
さらに、研究所の地下深くへと踏み入れたところ、青白く光る広大な空間が広がっていた。
その空間には数十にもなる培養液の入ったカプセルが並べられていた。
そのすべてに銀髪の少女が入っていた。
「人工的な超能力者の育成工場か。」
竜馬は苦虫をかみつぶしたような表情でそれを見つめる。
「胸糞悪いな。」
次の瞬間。
その光景は竜馬に猛烈な違和感を感じさせた。
(なんだこれは、俺はこの光景を視っている!?)
知っているのではない。視っている。
どこだ? どこで見た?
ここまで案内した少女がにやりと笑った気がした。
竜馬の眼に一瞬だけ映像が流れ込んできた。
そこはどこかの宇宙空間に浮かぶ巨大な宇宙船の中だった。
先ほど見たようにカプセルが数百、いや数千、数万にも並んでいた。
そのカプセルの中にいたのは男性だった。
「號?」
だが、そのカプセルにいた人物は……號ではなかった。
「今のは一体なんだ!? おいガキ今のは!?」
竜馬は、我に返り少女に問いただそうとした、だが少女はその場から消えていた。
その空間には、竜馬しかいなかった。
次の瞬間、基地内に警報が鳴り響いた。
「次から次へと一体何だ? 俺のわかるように誰か説明しろ!」
竜馬は、一人孤独に叫んだ。
同時刻 同研究所内 上階
「待て、流大尉がいない。」
エヴァは、突然気がついたようにつぶやいた。
月詠少佐もそれに気がついた。
だが、なぜ今の今まで誰も気がつかなかったのか。
その数秒経った後、研究所内に警報が鳴り響いた。
その警報が竜馬の居場所を指し示していた。
竜馬が、研究員たちに連れられて上階へと戻ってきた。
「お前、どこに行っていたんだ?」
竜馬はその質問に答えず、考え事をしていた。
だが、明らかに激怒していることはその場にいた誰もがわかった。
研究所長が竜馬に詰め寄った。
「君、どうやって研究所の最深部へと!? それまでのセキュリティーはどうやって突破した?」
「俺が知るか! 俺は案内されただけだ! あのガキどもに聞け!」
竜馬は吐き捨てると、研究所から立ち去ろうとしていた。
「待って流大尉。その子供が貴方を案内したって言うの?」
エヴァが尋ねると、竜馬は研究所から出ていきながら答えた。
「一つ結びと短い髪の銀色のガキ共だ。」
「嘘をつくな! 人形共は、全て研究所内から退避させている!」
研究所長の発言を無視する竜馬。
「……一つ結びと短い髪」
エヴァは思い立ったように研究所の一室へと向かった。
その一室にはこれまで生成された「人形」のリストがあった。
生成の最も新しい「第4世代」の中でも最新の2体。
ゲッターロボの「深淵」に触れた2体。
「や、やはり……そうか」
エヴァは納得いったように、言葉を発したが、その言葉は恐怖に震えていた。
その少女達の髪型はそれぞれ一つ結びと短髪だった。
その後エヴァは、基地内の監視カメラをチェックしたが、映っていたのは独りでに開くセキュリティーと竜馬の姿だけだった。
少女達の姿はどこにもなかった。
竜馬は、研究所を出た後、格納庫へと急行した。
竜馬は、黒いゲッターを睨みつけ、叫んだ。
竜馬が研究所の地下で見た光景。
宇宙船内にあった数万ものカプセルの中にいた人物。
號ではなかった。
それは……。
それは竜馬のよく知っている人物に他ならない。
「てめえ!俺の仲間に……武蔵に一体何をした!?」
鋼の機体がその問いに応えることはなかった。
……今はまだ。
1983年 3月2日
ソ連 オルタネイティヴ研究所
オルタネイティヴ研究所視察が終わったその翌日の未明。
「流! 起きろ!」
「……今度は何だ。」
カプセルの中の「武蔵」のことを考え、一睡もできなかった竜馬は、月詠を睨みつけた。
「ついてこい!」
巨大なモニターのある部屋に連れてこられた竜馬は、それに映っている物に驚きを隠せなかった。
「こいつは何がどうなってやがる!」
そのモニター内には、雪原を覆いつくすBETAの群れの中で激突する2機。
ゲッター2とゲッター3の映像が映し出されていた。
竜馬編 第12話終
読めない人もいるようなので削除して再度投稿しました。