「悪く思うなよ竜馬」
早乙女研究所には大勢のパトカーが停まり、竜馬が確保されていた。
早乙女博士殺害の罪で竜馬はこれでA級刑務所に収監されることとなる。
「時間がかかりすぎだ。そうだろう、スティンガーくん」
「う、うん、そうだね、コーウェンくん」
「「消してしまえばよかったのでは?」」
「竜馬は我々の計画が失敗した時の保険だ。」
2人の男が隼人と共にいた。
「早乙女博士を回収して、すぐに計画に移るぞ」
俺はもう動き出してしまった。
だが、計画が達成されたなら、竜馬も理解してくれるはずだ。
いや、理解されなくてもいい。
計画のために走り出した時点で竜馬とは袂を分かったはずだ。
計画の名は「真」ドラゴン計画。
そして最終段階「聖」ドラゴン計画。
「これで人類は次なる進化へと進む!」
「煩わしい寿命と老いる体の克服!!」
「「それこそが進化!進化!進化!」」
2人の博士は盛り上がっているところだが、隼人にとって人類の進化などどうでもよかった。
隼人には早乙女博士の目的がコーウェンと同じなのかそれとも隼人と同じ目的なのかわからなかった。
だが、計画には積極的だった。
インベーダー殲滅。
人類の進化。
今の隼人にはどちらもどうでもいい。
A級刑務所に収監される竜馬は隼人を恨むだろう。
その恨みが竜馬の怒りをより強くする。
その怒りはきっと人類の力となる。
だから今はこれでいい。
真ドラゴン計画のための真ドラゴンに乗るパイロットを造ること。
それが急務だ。
隼人の目的は最終段階の聖ドラゴン計画の中にあった。
結局のところ、叶うことはなかった。
真ドラゴン計画の真実に気がついた時には全てが遅かった。
だが流竜馬は復讐のため月面戦争時よりも苛烈にもっと強くなっていた。
それだけがせめてもの救いだった。
1983年 3月15日
東ドイツ
BETA群を排除した第666戦術機中隊は基地へと帰投した。
テオドールは、リィズが未だ帰投していないことに愕然とした。
「そんなバカな」
テオドールはチェボラシカに再び乗り、リィズと別れた地点を目指した。
「ハヤトどういうことだ。リィズは任せろって言ったじゃないか」
思えば不可解な点が多かった。
突然BETAが現れたこと。
リィズの機体だけがエンジン不良を起こしたこと。
「チェボラシカが欠陥機だからって!」
そんなタイミングよく暴発するのか。
リィズと別れた地点に着くと機体の破片と掘り返した穴があった。
その穴と機体の破片で全てを察した。
「ハヤト?」
テオドールはしばらくリィズがベイルアウトしたかもしれないと周りを探したが誰も見つけることが出来なかった。
日が落ちてテオドールは探すのをやめて基地に帰投した。
そこでオットー技術中尉にリィズの機体を整備したのは誰かと尋ねたところとんでもない回答が返ってきた。
リィズ機を整備したのは隼人だと。
テオドールは血相を変えて隼人を探し始めた。
「テオドールさん、落ち着いてください。」
「落ち着いていられるか!リィズの命がかかっているんだ!!」
「す、すみません」
カティアのショックを受けた顔にテオドールも悪いと思ったのか、「今はほっておいてくれ」と告げて走り去った。
テオドールは基地中を走り回った。
いつもの雪原に隼人は1人で立っていた。
「ハヤトオオオオ!!」
テオドールは隼人に向けて叫んだ。
「リィズは! 俺の義妹はどうした!」
隼人は何も言わず水色と白色の布をテオドールへと手渡した。
「これはリィズの!」
それはリィズの髪に巻かれていたリボンだった。
だがそれは赤く汚れていた。
それは乾いた血だった。
誰の血かなど言うまでもない。
テオドールは言葉を失い、その場に座り込んだ。
「リィズ・ホーエンシュタインはシュタージのスパイだった。これがその証拠だ。」
隼人は録音していた音声をテオドールに聞かせた。
そこには武装警察軍の上司にテオドールの心を掌握したという報告があった。
「リィズがシュタージのスパイ?」
そのはずがないと信じていたが明らかな証拠に何も言い返せなかった。
だが、テオドールは隼人に妹を託していた。
その信頼をこの男は裏切ったのだ。
絶望は怒りへと変わり、義妹への仇と化した男に鬼の形相で向き直る。
「ハヤトおおおおおお」
テオドールは隼人に向かって殴りかかるが、隼人はその拳を正面から止めた。
「お前の怒りはもっともだ。」
「俺はお前を信じていたのにどうして!」
「俺はこの隊にとって一番良いと思う選択をしただけだ。」
「分かったぞ!アイリスディーナの命令か! あの女!」
テオドールは錯乱していた。
無理もない。
生き残った唯一の肉親を奪ったのが信じていた男だったのだ。
「アイリスじゃない。俺の独断だ。」
怒り。怒りだけがテオドールの自我を保った。
「ウオオオオ!!」
手を掴まれたままにテオドールは隼人に蹴りを放ったが、隼人はテオドールの腕を引き思い切り投げ飛ばした。
だがテオドールは止まらない。また隼人に襲いかかる。
隼人が何かをテオドールにむけて投げた。
テオドールはそれを受け取り、それに目をやる。
それはあの拳銃だった。
竜馬に渡したあの拳銃だった。
「シュタージとの決着がついた後、それで俺を撃て、俺は逃げも隠れもしない。」
テオドールはその拳銃にリィズのリボンを巻きつけると、隼人に拳銃を向けた。
「ハヤト! シュタージを全滅させるまで元の世界に逃げるなよ!!お前を殺すのは俺なんだからな!!」
と言い、テオドールは基地へと戻った。
基地でテオドールを待っていたカティアはテオドールのただならぬ様子を見てテオドールを追いかけた。
「ほっておいてくれ!」
「そんなことできるわけありません!」
テオドールは自室内にカティアを引き込み、カティアをベットに押し倒した。
「テオドールさん? そんないきなり」
「カティア。お前はどこにも行かないよな。俺の側を離れたりしないよな。」
カティアはテオドールが震えているのに気づき抱きしめた。
「大丈夫ですよ。私はずっとテオドールさんといますから」
テオドールは、考えていた。
一刻もはやく、シュタージを倒して、そして義妹の仇を討つことを。
裏切り者をこの手で殺すことを。
隼人はしばらく佇んでいた。
(やはり、俺は裏切り者からは脱却できないらしい。)
だがこれでいい。
テオドールが恨むのは俺だけだ。
そう思っていると、後ろに気配を感じた。
アイリスだった。
アイリスはひどく隼人を心配そうに見つめていた。
肩には雪が白く降り積もっている。
長時間外にいたのは明白だ。
そして隼人とテオドールのやりとりを見ていたのだろうと分かった。
「ハヤトあれでよかったのか?」
「ああ。これで良い。」
「良いはずがないだろう!」
アイリスディーナが戦闘時以外で大声を出すのは珍しかった。
「お前は中隊の、東ドイツのために! リィズを処理した。どうして私のせいにしない!」
隼人は目を見開いた。
感情を爆発させた彼女を目にするのが初めてだったからだ。
「これで良いんだ、テオドールに恨まれるのは俺だけで良い」
「だがしかし!」
「どうしたアイリス。兄を手にかけ、全てを捨てても国を守ると誓ったお前はどこに行った?」
アイリスディーナにも自分の状況がうまく飲み込めていなかった。
だが隼人があれだけ拒んでいた「仲間への裏切り」をさせてしまうことにアイリスディーナはひどく嫌悪感があった。
「俺の存在ごときで変わるなアイリス。お前のそのスタンスに俺は賭けたんだ。」
今も、海王星作戦の時も人々を守るという心意気に隼人はシンパシーを感じていた。
それは同調であり、憧れでもあった。
隼人のその言葉にアイリスディーナも言葉を抑える。
「それに悪いことじゃない。テオドールはこれからの戦い必ず生き残る。俺への怒りがテオドールをさらに強くする。」
かつての竜馬のように。
ここに復讐鬼が再び生まれた。
武装警察軍との最終決戦が近づいていた。
たとえ仲間の心を裏切っても、仲間を守る。
矛盾していた。
海王星作戦の時とは異なる選択をした。
隼人はだがこれでよかったのだと思っていた。
これでよかったのだ。
自身のした選択に後悔などなかった。
それがあの時と。
竜馬の時と違うことだった。
3日後
1983年 3月18日
目を覚ますと、見知らぬ天井だった。
体を動かそうとすると、自分の体がいくつもの管に巻かれていた。
おそらく骨もいくつも折れている。
気力を振り絞っても立ち上がることもできない。
満身創痍だった。
ここはどこなのか?
疑問は尽きないが現状を把握するほかできることはない。
「病院?」
周りを見ると少し揺れていた。
船の中のようだ。
船酔いの心配はなかった。船酔いする余裕もない。
ガラスに映った自分の姿はまるでミイラだった。
兄からもらったリボンも無くなっていた。
代わりに大きな白い包帯が頭に巻かれている。
部屋には自分以外にも誰かいた。
男が少女の手を握ったまま眠っていた。
暖かい。
知っている顔だった。
数日前に命を救われたばかりだ。
確か名前は。
「ベンケイさん?」
男の顔は以前と同じで朗らかだった。
体と頭の疲労は大きく、また眠りに落ちそうになる。
眠りにつきながら思考した。
全てが疑問だったが何より一番分からないことは。
あの男は確実に私を殺すつもりだった。
なのになぜ私は生きているのか。
一体あの時何が起きたのか。
次もできれば早く更新したいですね。