竜馬を早乙女博士殺害の罪でA級刑務所に投獄させることになったが問題が一つあった。
そう早乙女元気だ。
早乙女元気は短い期間で2人の肉親と竜馬、隼人という顔見知りを失うことになる。
そして元気を誰が面倒を見るのかということだった。
敷島博士が候補に上がったが隼人が却下した。
あまりにも人格に問題がありすぎた。
元気の心をケアするには荷が重い。
武蔵か弁慶なら引き取ってくれるだろうと予想した。
彼らは竜馬や自身と違うと隼人は感じていた。
人情。
そういうものがきっとあるのだ。
結果、武蔵が引き取ることとなった。
1983年 3月15日
東ドイツ
隼人がリィズの命を断とうとした瞬間だった。
隼人は何者かの視線を感じ、振り返った。
そこに信じられない者が立っていた。
「バカな。そんなはずが!」
隼人は冷静さを失い、叫んでいた。
そこに立っていたのは。
悲しそうに隼人を見つめる
「早乙女ミチル」だった。
隼人は目に映るものが信じられなかった。
ずっと前に失ったもの。
ずっと欲しかったもの。
友を地獄に送り込んで、その果てに諦めたものがそこにあった。
「ミチルさん!」
隼人は思わず叫んだが、早乙女ミチルは何も答えず、ただ悲しそうな瞳で隼人を見つめるだけだった。
静寂。
隼人とミチルは見つめ合う。
だがミチルの悲しげな瞳は変わらなかった。
静寂は長くは続かなかった。
「ウオオオオ」
突如動きを止めた隼人に獣のような叫び声をあげてリィズが襲いかかる。
リィズは予備動作なしに跳躍し、隼人の拳銃目掛けて蹴り上げた。
隼人は引き金を引いたが間に合わず、拳銃は空中で暴発した。
リィズの決死の一撃だった。
「私は死ねない! おにいちゃんのために!!」
さらにリィズは追撃をかけるが、隼人がリィズの知覚できる速さを遥かに上回るスピードで一撃を叩きこんだ。
リィズは頭から血を流し、今度こそ完全に意識を失った。
頭部から流れた血がリィズのリボンを汚した。
隼人は急いでミチルのいた場所を振り返る。
しかし、そこには影も形も足跡もなかった。
早乙女ミチルは消えていた。
幻?
だが数秒間確かに隼人は早乙女ミチルを感じていた。
なぜ彼女は突然現れた。
何か俺に伝えたいことが?
リィズを殺すなということか?
同じ過ちを繰り返すな。
そう言いたいのだろうか?
そうだ。
テオドールは隼人と同じであった。
テオドールは死に別れたと思っていた義妹とやっと会えた。
いくら非道な行いをしていたとしても妹は妹なのだ。
俺に、よそものの俺に奪う権利などない。
だがリィズを殺す以外の手段など。
どこかに閉じ込めておくことも難しい。
殺す以外の選択肢など。
不意に弁慶の顔が浮かんだ。
弁慶に頼むしかない。
東ドイツのコットブス県からグダンスクまで約500キロ。
ゲッター2なら15分あれば到着する。
弁慶がグダンスクにまだいるかどうかはわからないが、行くしかない。
隼人はリィズをジャガー号のコックピットに運び、座席に固定した。
ゲッターの機動にこの世界の人間が耐えられるのか不明だがやってみるしかない。
隼人はゲッター2を駆り、グダンスクへと向かう。
音速を超えた瞬間だった。
「ゴッフ!」
リィズが吐血した。
「頼む。持ってくれよ。」
今は衛士の強化装備を信じるしかなかった。
同時刻
旧ポーランド領 グダンスク
グダンスクは完全な対BETA前線基地として整備されていた。
各先進国の格納庫が設けられ、その中央に日本帝国軍用の特大の格納庫が用意されていた。
その理由は監視である。
ゲッター3がどこにあるか。今、何をしているのか。
格納庫にあるかどうか。
各国の関心はひとえにそこにある。
日本帝国が作り出した対BETA用特型戦術機。
それの所在を明らかにすることがこの基地の存在意義の一つであった。
グダンスクに到着してすぐにゲッター3はそこに置かれ、毎日各国の研究者が入れ替わり立ち替わり見に来ていた。
問題は、研究者に見られることではなく、自由にゲッター3を動かせないことだ。
戦車級と白兵戦ではなく格闘戦を行った弁慶は腕を吊りながら、それを眺めていた。
武蔵は、瑞鶴を降り、今はゲッターの正規パイロットとなっている。
今までと逆である。
武蔵が弁慶の代わりであった。
瑞鶴も同様に格納庫の中にある。
そしてもう一つの動かない武蔵のゲッターは、格納庫ではなく、日本帝国の船の中に隠されていた。
弁慶が船の中に戻ると、兵たちが騒いでいた。
「おい、どうしたんだ?」
「車少尉。あのゲッターが」
弁慶が、隠された武蔵のゲッターのある場所に行くと、そのゲッターがなんと発光していた。
「なんだって急に!」
弁慶が、ベアー号に乗り込むとレーダーがある座標を示していた。
モニターに映ったそれを確認すると、発光は消え、反応はなくなった。
グダンスクの郊外にある場所だった。
また武蔵のゲッターは動かなくなってしまった。
弁慶は、驚いていた。
やはりこのゲッターは死んではいなかった。
隼人の言ったとおりであった。
「弁慶! 何があったんだ?」
武蔵達もゲッターの様子を見に来たのだった。
「先輩! こいつが急に動きだしたんだ。」
「なんだと!?」
弁慶は、巌谷達に相談し、瑞鶴でゲッターの示した地点へ行くことになった。
「先輩どう思う?」
「あのゲッターが死んでないってのがわかったことはよかったが」
武蔵の操る瑞鶴の中で弁慶は、突如動いたゲッターについて武蔵と話していた。
「隼人のやつはあれが自分の意思で動かないって言ってたが」
「ゲッターの意思か。」
武蔵は、彼に似合わず深刻な顔をしてつぶやいた。
「だったら、なぜ今日いきなり動き出した?そしてなぜまた動かなくなった?」
「わからねえな、先輩。ゲッターに意思なんて本当にあるのか。」
「わからねえな。今はただあの場所に行ってみるしかないってことだ。」
グダンスク郊外についた瞬間だった。
地中から隼人のゲッター2が現れた。
隼人はグダンスクではなく、その郊外を目指した。
ゲッター2でグダンスクの基地に直接向かうのは目が付きすぎると考えたからだ。
リィズは呼吸をしていたが、かなり辛そうだった。
グダンスク郊外でレーダーが日本帝国の瑞鶴をキャッチした。
彼らは弁慶を知っているはずだ。
彼らと接触するほかない。
隼人はゲッター2を浮上させ、リィズを抱き抱え、外に出た。
瑞鶴はゲッター2の近くへと降下し、中から弁慶と武蔵が出てきた。
「隼人、突然だな! そいつは東ドイツの嬢ちゃんじゃねえか!? 生きてるのか?」
「武蔵、弁慶! 勝手を言って悪いがこの子を頼みたい!」
武蔵と弁慶は顔を見合わせたが、弁慶はリィズを隼人から受け取った。
隼人のただならぬ剣幕に体が勝手に動いていた。
弁慶は、リィズを抱いた瞬間に彼女の容体が危険だとわかった。
「先輩! 先に船に帰ってこの子を手当てしてもらってていいか? 俺はコイツに聞きたいことがある」
「ああわかった! 巌谷と篁には言っておく」
武蔵は、弁慶からリィズを受け取ると瑞鶴に乗り、船へと向かった。
「何があったか話してもらおうか! 隼人!」
隼人は、リィズが東ドイツのシュタージのスパイだったこと。
同時に隼人の仲間のテオドールの肉親であること。
そして始末しようとしたこと。
全て話した。
弁慶は凄まじく怒っていたが、隼人が思い止まったことでかろうじて殴りかかることはなかった。
隼人の様子も普通ではなかった。
「何があった? お前はどうしてあの子を殺さなかった?」
隼人は、少し躊躇っていたが話し始めた。
「俺がリィズを殺そうとした時、ミチルさんが出てきたんだ。」
「ミチルさんだと!?」
弁慶は、この世界で見たミチルの幻を思い出していた。
ミチルさんが隼人にも?
「ミチルさんがリィズを殺すなって言ってる気がして、殺すことが出来なかった。だがリィズをそのままにすることはできなかった。弁慶、お前しか頼れなかった。」
「ミチルさんが隼人にも?」
「まさか弁慶、お前も?」
「ああ、俺もこの世界で見た。隼人は話できたのか?」
「いや、顔を合わせただけだ。どこか悲しそうだった。」
「そうか、ミチルさんが隼人を止めてくれたんだな。」
弁慶は空を見上げた。
「何か理由があるはずだ。この世界にミチルさんの幻がいることに。そうだ、武蔵は? 武蔵は見たことあるのか?」
「いや、先輩はないって言ってたぞ」
「そうか、俺たちだけか。」
「隼人! もういいだろう。俺たちと一緒に来い!」
弁慶の呼びかけに隼人は首を横に振った。
「俺はテオドールを守る。たとえアイツに恨まれても、殺されるためだったとしても生きる目標になってやりたい。」
東ドイツが落ち着くまでは、東ドイツにいると隼人は弁慶に告げた。
「そうか、隼人。もし俺が竜馬に先にあったらこの事を話すぞ」
「‥‥」
隼人は黙した。
「竜馬が決めることだが」
「もう行くぞ。リィズを頼んだ。」
隼人は、何も言わずにゲッター2に乗り込む。
「俺は竜馬にもう一度お前を信じたいって言うからな! 隼人!!」
弁慶は、隼人が東ドイツを守るために手をかすと言ったことを、テオドールのためにリィズを殺そうとしたことを、そして何より弁慶を頼り、ミチルをまだ想っていること、その全ての行動が隼人を信じられると感じさせていた。
隼人は変わっていなかった。
月面戦争から変わっていない。
冷血に見えて熱い男だ。
その後、巌谷が弁慶を迎えに来た。
弁慶が船に戻ると大騒ぎになっていた。
武蔵が東ドイツの重傷者の軍人を持って帰って来たからだ。
結論から言えば人道的観点から保護し、治療することとなった。
篁は、特にリィズの身体に興味津々であった。
ゲッターの最高速度の機動に晒されたからだ。
リィズは日本帝国の船に隠されて、治療を受けている。
この少女は、工作員。
だが時代の被害者だった。
この子が東ドイツから解放されたことはよかったのかもしれないな。
弁慶はリィズの様子を見ながら、また隼人とミチルを思った。
2人は、あの事故の前、互いを慕い、恋人になりかけていた。
そんな隼人がミチルを失い暴走してしまったのは仕方のないことだったのかもしれない。
ミチルさんが隼人を止めてくれた。
竜馬も止めてくれるだろうか。
船の中のゲッターは沈黙したままだったが、確かに生きていた。
誰かの意思を乗せて。
次から第一部最終章です。
アークネタというか原作漫画ネタは結構入れてるのでアークを見た方は最初から読むと新たな発見あるかもしれません。