第一話:嘘を喰う
「よーし!帝都に無事到着!!」
「おお………!」
もうこれはおおとしか言いようがない。田舎どころか村すらない俺にとっては、こんな人ゴミのthe 都会な空間はもはや異次元の世界だ。
俺らは今、帝都に居る。あのでこぼこした険しい山脈を下り、森を抜け、暫く続く平地で時に足を休め、二日間寝て途中で襲いかかる危険種を狩って、そいつを食料にしてととてもここの雰囲気には合わないような荷物を積んでここに居る。
周りの人から変な目で見られてる様な気がするが、気にしない。どうせこの荷物が問題なんだろうし。
「プッ、ルートは注目の的だね」
「別に可笑しくは無いさ。こんな荷物担いでるんだから」
「いや、そうじゃなくて……ねェ?もっと気にする所が……」
「気にする所?」
どう考えても気にするところと言えば、この随分と血にまみれたリュックとしか思い様が無いんだけどな。それ以外におかしい所なんて、俺は知らないぞ?
俺はとりあえず周りをきょろきょろしてみる。すると急に目をそらす奴や、未だに唖然としている表情の人、他には、指をさして母親と思われる人物に、あれなーにと言ってそうな顔だ。どれもこれもこの血みどろリュックに注目している様には思えない。言うならば、物珍しそうな目をしていた。
……中には鼻血を出している奴もいたが。
「はぁ……気付いてないなら良いよ。ルートにとってはそれが普通なんだもんね」
ないや、俺も何で飽きられているのかが分からないんですけど。
何その自分が今置かれている状況下すらも分からない空気の読めない人間を見るような目は。
分かんないんだから教えろよ。
「これで男の子なんだから、外から見たら女の子にしか見えないでしょうね……ここまで天然じゃ……」
「なんか言ったか?」
「ルートは何でこんなに天災なんだろうなーって」
クランがなんか呟いた様な気がしたが、それに対して追求しようとしてもなんかあからさまに適当にこじつけた発言をするものだからこれ以上の追及は却下する。
クランはこう言う奴だ。普通に嘘をつくし普通に騙す。
一度聞き逃したらもうおしまい。同じような内容は二度と聞けないと思う。
あとどうでも良いけど天才と言われて馬鹿にされた様な気がする。
多分気のせいだろうけど。
「ほーらさっさと行くよ?兵士志願なんでしょ?」
「痛い痛い!耳引っ張らないで!!」
急に俺の耳を引っ張り始めて強制的に移動しにかかるクラン。外見から見たらとても和むような雰囲気の中、彼女の顔は赤かった。いわゆる赤面と言う奴である。
「なんで顔赤くなってんの?」
「アンタが注目の的になってるからでしょ!こっちも恥ずかしいわ!そしてそれに気が付かないアンタの純粋さに毎回驚かされるわ!!」
なんか怒られた。なんでだろ?って言うか耳痛いから離して。後はもう自分で歩けるから。
あまりにも強く耳を引っ張られていたため、強制的にクランの手を俺の耳から引きはがす。なかなか痛みは引かなかった。強くやり過ぎだっての。
頬をさすりながらではなく、耳をさすりながら(くすぐったいからあまりしたくない)クランの早歩きに必死に合わせ15分。クランの足がピタリと止まり、視界に移る建物を指差す。
「これが兵舎よ。兵士を雇ってる所。今から入るから覚えておきなさい」
「今から入るのに覚える必要なんてあるんだろうか……」
「知ってて損は無いでしょう?ほら、今もたくさん人が並んでるんだから、さっさと並びなさい」
「はいはーい」
クランが校列に並ぶと同時に、俺も後ろへ並ぶ。何故か少し注目された様な気がしたが、何故だろうと首をかしげながらも人数の多さに気を取られる。これだけ人数が多い分、時間がどれだけかかるんだろうか?と出来ない計算を頭の中で繰り広げながら、結果50分と断定した。
ドタン!
「なんだよ!試すくらいいいだろ!!」
「フザケンナ!兵士になるのですら抽選が必要なんだよ!!」
下らない計算を頭の中で繰り広げている中、謎のデカイ音が聞こえたので何事かと音の聞こえた方向に目を向ければ、一人の少年と目にクマがあるまさに不機嫌そうなおじさんが口論をしてた。
って言うか兵士になるのに抽選が必要なんだ。それって兵士になれる確率、この人数的に考えてほぼ無理だと思う。
と言うかあの少年、試すとか言ってたからどうせ腕でも見てもらおうとか考えてたんだろうな。
「この不況で希望者が殺到してんだよ!いちいち見てられっか!!雇える数にも限界があるんだよ!!」
「……え?そうなの?」
「解かったらどっか行けクソガキ!!」
バタン!
あーあ、締め出されちゃった。あの子は暫く兵舎に入れないな。あの状況じゃ。
締め出された少年は、放り出され地べたに座り込んだ状態で悩んでいるが、これ以上あの少年を気にしても仕方が無い。とりあえず言えることは、良い勉強になりました。これでよし。
「ほらルート前に進みなさい。後ろの邪魔になってる」
「あ、おう」
あの少年を気にしている間に、いつの間にかクランと俺の差が大きく広がっていた。あれ?意外と進むのが早い?と思いながらも歩みを進める。
数分後、50分もかかりそうとか言っていたが、実質10分で俺たちの出番が回ってきた。意外と早いんだな。
「お前も入隊希望者か……とりあえずこの書類書いて俺ん所に持ってきな」
うっわ、よりによって目にクマがあるおっさんかよ。ついさっきの出来事のせいでより一層不機嫌さが増している気がする。
ちょっと陰口を脳内で呟きながら、おどおどと紙を受け取る。
………え?
「え?終わりですか?」
「ああ、さっさと書いて持ってきな。俺も暇じゃねェんだ」
そう言うと目にクマがある不機嫌そうなおっさんは、シッシとあからさまにあっちに行けとでも言うように手首を素早く上下に振る。うわスゲー腹立つ。
とは言っても、またここで何かを言ったらあの少年の二の舞になると思い、しぶしぶこの場を離れる。この書類を書く場所無いかな~と探してみるも、すべて先客で埋め尽くされていた。
(こりゃ無理だな……)
流石に紙を置く隙間もないので、人ゴミをかき分けながら外へ出る。外にはもうクランが待っていた。が……
「おう、ねーちゃんカワイイじゃねえか。俺らと一緒に遊ばない?」
ナンパされてた。三人ぐらいの集団の男子がクランをナンパしていた。
まあ確かにクランは見た目はれっきとした美少女。ナンパされるのも無理は無い。でも、コイツの本性を知ったら多分付き合いたく無くなると思うぞ。そこのナンパ男子三人組。
しかしまあ、一応クランも立場はわきまえている様で、抵抗するようなそぶりは一切見せない。まあこんな人ゴミの中だし、仕方が無いと言えば仕方が無いのだが……誰にでもわかるような嫌な顔をしているクランに、何も感じない男子三人組の空気の読め無さに若干引いた。
とりあえず面倒なので、クランと男子集団の間に割り込む。
「スミマセン。コイツ連れなんでどいて貰っていいですかね?」
「あ?なんだッて、お姉ちゃんも可愛いねー俺らと一緒に遊ばない?」
「いや男だから」
「いやいや、こんなかわいい子が男なわけ……ってエエエエエ!?」
「いや男だから」
大事なことなので二回言いました。そして男と二回言っても信じていないような顔に少し腹が立つ。まあコイツらに関わっても良い事無いし、なんにせよ俺は薔薇の道になど進む気は無い。断じてそうだ。勘違いするなよ?
とりあえず面倒なので、クランの腕をつかみ引っ張る。それと同時に金髪顔面不細工ナンパ男の一人がクランのもう片方の手をつかみ、残りのガリガリな男とふとっちょマン二人が俺らの道を遮る。そしてクランの手をつかんでいた金髪不細工顔面男が俺らの目の前に立ちはだかる。
「おい待てよ」
「邪魔。どけ。金髪顔面不細工」
「アァ!?てめえ女みたいな顔してる癖して、貴族の俺様に歯向うってのか!?田舎者の癖に!?」
「黙れ。社会のゴミ」
「ヘッ、威勢だけは良いだけで、ホントは抵抗できる力なんてブッ」
「「兄貴!?」」
そろそろ腹が立ってきたので、一時的に伸ばした爪でナンパ男一人を全力で引っ掻く。それと同時にナンパ男は顔面を抑え込み、地面で悶絶。うわ、痛そう。
まあこの光景を見ていたもう二人が、こんなことをした俺らを許すはずもなく。
「テメェよくも兄貴を!!」
「許さねェ!!」
そう言って男二人は、自分の洋服の懐からサバイバルナイフを二つ取り出し、俺らに向ける。
それと同時に周囲から悲鳴が上がった。
こんな人ゴミの中で厄介事は起こしたくなかったんだけどなぁ……仕方が無いか。
そうだ。仕方が無いんだこれは。ナンパした奴が悪いと言い聞かせ、もう一度爪を伸ばす。周囲から注目の的になっているせいで観客がより、周りから吃驚の声が上がる。
それと同時にナンパ男の太っちょ一人が俺に襲いかかる。
ブオン!
空振り。適当に振り回しておいて当たるわけないだろ。
俺はそのままソイツの腕をつかみ、足でひっかけ全力で地面に叩きつける。
「グハッ……」
そのままガクリと気絶する太っちょ。さて、残り一人。
「ヒ、ヒイイイイイイ!!許して下さい!!」
あ、戦意喪失してた。そんなに怖がらなくったっていいのに。
随分と怖がってるガリガリなナンパ男ににこやかな笑顔を送ってあげたが、余計に怖がらせてしまった。何で?
「アンタの笑顔が死ぬほど怖いのよ。目が笑ってないから」
ああ、成程。目が笑ってないのか。
そうクランに言われ、笑顔を元に戻す。
「ヒイイイイイイイイイイイイイイイ!!ゴメンなさあああああああああああああああああい!!!」
久しぶりに聞いた、大きな叫び声をあげて全速力で逃げるナンパ男。俺はそれを唖然と見届ける事しか出来なかった。暫く一時停止して数秒後。今何が起こったのかにやっと気が付く。
「あ、行っちゃった……」
「まだ笑顔でいてくれた方がマシだったようね……」
「じゃあどうしろと!!」
笑顔が駄目だと言われ、即座に真顔に戻したらこの始末。三人とも殴り倒してやろうかと思ったのに、せっかくのチャンスを逃してしまった。
ついでに周りからは、あの子強いとか、怖いとか、カッコイイとか色んな単語がぼそぼそと呟かれている。
あまり騒ぎにはなりたく無かったのに、結局注目の的になってしまった。
「ほら、さっさと行くわよ」
クランに手を無理やり引っ張られ、、腕と一緒に後をつけていく俺。痛いから離してと言うも、何も言わずただひたすら引っ張られ続け、どこかの喫茶店に入店し、無理やりテーブルに座らせられる。痛いっての。
「アンタねェ……自分の立場をわきまえなさいよ!!」
叱られた。まあ確かに、あんな大人数の場であの騒ぎは少しマズイと思う。
「スミマセン、反省してます」
「解かればよろしい。ほら、さっさとこの書類書くわよ」
そう言ってクランは、あの兵舎で渡された紙をテーブルの上にドンと置く。俺も遊び半分でドンと置いた。それと同時に、ここの店主らしき男の人がやってくる。
「こちらにメニューが御座いますので、確認をお願いします」
「あ、注文します」
クランがまだメニューを見ていないのに言う。
「畏まりました。ご注文をどうぞ」
「これとこれ二つづつ。以上です」
「はい。これとこれ二つづつですね。少々お待ち下さい」
いや、これとこれって何だよと心の中で突っ込みながらも、クランに何を頼んだか聞いてみる。
クラン曰く、コーヒー二つとアイスクリーム二つを頼んだらしい。
え、俺コーヒーとアイスクリームとかいう名前聞いたことが無い。あ、でもアイスクリームは名前的にどういうのが出てくるのは予想できる。しかし、コーヒーとは初めて聞く単語だ。
「コーヒーって何?」
「甘くて美味しい黒い液体。以上。さっさと書きなさい」
「えー」
他になんか面白いものは無いかと周りをきょろきょろしてみるも、大して面白そうなものは何もない。しぶしぶ書類を書こうと目の位置を元に戻した時だった。
茶髪の少年が視界に入った。
あ、あの人ついさっき目にクマがある人に追い出されてた人だ。どうやら隣に居る、大分飲んで食った跡がある若い女性と何かを話しているようだ。何を話しているのか気になったため、耳を傾けてみる。
「……それより士官出来る方法を教えてくれよ」
「あーそれはだな……人脈と金だ」
へー早く士官出来るのに必要なのは、人脈と金なのか。勉強になります。
「言っておくけど、あれ詐欺よ」
「詐欺!?」
「声が大きい!!」
おっと失礼。あまりにも信用し過ぎていたため、つい大声を出してしまった。ゴメンなさい。詐欺の邪魔をしてしまって。って言うかあの少年とことんついていないな。神様に見放されてるんじゃないのか?
少年と話している女性は、詐欺に馴れているのか単に聞こえなかっただけなのか、何も知らないそぶりも見せている。まあアレだけ大声出して聞こえていないってのは無いだろう。
少年のほうは集中しすぎていて聞こえてないように見えたが。
とりあえず帝都にはどのような詐欺の手口があるのか気になるので、耳を傾けて勉強する。
それと同時にコーヒーとアイスクリームが届いた。
届いたコーヒー?と思われる液体に口を近づける。こんな黒い液体が飲めるのかと疑心暗鬼になりながらも、思い切って口の中に入れてみた。
「苦いじゃねーか!!」
「私が本当のことを言うとでも?」
冷静に返された。うう……俺苦いの嫌い……
シュンとなりながらも詐欺の手口の内容には、目を離さないだけに耳を離さない。
「私の知り合いに軍の奴がいてな」
「本当は居ないけどね」
クランさん!?何詐欺しようとしている女性の本心を読み上げてるんですか!?邪魔にしかなりませよ!?女性のほうは顔引きつらせ始めましたからね!?
それでも女性は隠し通しながら少年に話す。
「そ、そいつに小遣い出せすぐだ、すぐ!」
「まぁ私の小遣いになるだけだけどね」
「うぐ……」
もう止めてあげて下さい。そろそろ女性のメンタルも崩れ落ちますよ。
しかもアレだけクランが告げ口してるのに少年は何も気づかないという。……哀れだ。
結果、そのまま少年はお金を女性に渡してしまった。
しかし、そのあともクランが告げ口を決して止めず、この店を出るまでずっと女性の本心を読み上げていた。
最終的には、その女性はグッタリとうなだれながら店を出て行った。
「そうかー人脈が大事かー」
そう言ってうんうん頷く少年。もう憐れみの目を向ける事しか出来ない。
とは言っても、今回俺はクランが居たからこそ気付いただけであって、実際居なかったらあの少年の二の舞になっていただろう。決して笑ってはいけない。そうだ、笑ってはいけないのだ。24時間ずっと。うん。
ゴメン。やっぱりここから離れたら笑ってしまいそう。
とりあえず詐欺の手口はあらかた聞き終えたので、溶けすぎたアイスクリームを覚めたコーヒーを同時に口に入れ飲み込む。アイスクリームと一緒に食べたら意外と美味しいものだった。
とりあえず完食したところで、やっと渡された書類に取り掛かる。
えーっと、名前はルート。性別は男……扱える武器は……爪でいいや。危険種の討伐数……ざっと15体かな?多分それ以上だけど。何処出身か……森?森でいいや。あの森の名前知らないし。住所は……無い。
「住所って何書けばいいの?」
「これを映しなさい」
「はいはーい」
言われたとおりにさっさと書き写す。よし!完了!!
「クランは終わった?」
「貴方が書き始めた五分前に終わってるわよ。じゃ、お金払って出ますか」
クランはそのまま会計の場所へ。手早く済ませ、店を出る。そしてまたあの兵舎へ。
兵舎へ到着したが、弊社から出るときに倒したナンパ男はもう居なくなっていた。まあもう流石にここらへんには湧かないだろう。きっと。
とりあえず大人数の中、並びながらあの目のクマが酷いおっさんの列に並ぶ。
自分の出番はすぐに回ってきた。
「じゃ、次……アンタか。ほら、書類よこせ」
「はい」
相変わらず態度悪い。この人絶対に独身だと思いながらその男を眺める。
男は書類が全てキッチリ書かれているのか確認している様で、俺が書いた書類をブツブツと読みあげている。
「ええと、名前はルート……性別は……男!?」
「男です」
即座に返答。何度も言うが、俺は男だ。
「武器は……爪!?」
「こんな感じです」
そう言って爪を一時的に伸ばし、見せつける。
「危険種討伐数は15体……出身地は……森!?」
「森の名前は知りません」
目にクマのあるおっさんは、こんな奴初めて見たとでも言わんばかりに口を開く。その口はなかなか閉じることは無かった。これこそまさに、開いた口がふさがらないと言う奴だろうか。と言うかコイツ、さっきから大分失礼な事言ってるぞ?普通だったら殴り飛ばしてるところだ。
「ま、まあ問題は無いだろう……ご苦労。帰って良いぞ」
いちいち命令口調なのが無駄に腹立つ。まあまた騒ぎを起こしたくないので、しぶしぶ外に出る。
クランはもう済ませたようで、外でレンガの壁に背もたれしながら待っていた。流石に二度もナンパはされないらしい。デジャヴの様な事は無かった。
「さっさと宿に行くわよ。私も疲れたし、明日に備えなきゃいけないからさっさと寝るように」
そう言われ手を引っ張られる。毎回思うが、力強く握りすぎだ。非常に痛い。
クランから離れないようにと、必死におどおどしながら付いていく。
暫く歩いて30分。クランの足が止まった。
「これが今日泊まる宿」
「うわ、デカイ……」
それはそれはレンガで造られた巨大な建物。時折張り付いてあるガラス窓と、レンガにへばり付いている植物のツルがなんとも宿らしい雰囲気を出していた。
クランは問答無用で建物の扉を開き、ズタズタと入って行く。一応お前は客なんだろと思ったが、逆に考えれば客だからこそ堂々と入るんだなと言う事で納得する。
どうこう悩んでいるうちに、クランはロビーで手続きを済ませたようで、俺に「はい。これアンタの部屋の鍵とタオルと見取り図」とだけ言ってさっさと階段を上って行ってしまった。
俺も渡された部屋の鍵の番号と、この建物の見取り図を頼りに自分の部屋を探す。
しかし、こんな大きい建物の中でも方向音痴というスキルは作動する様で、何度も迷ってしまった。
自分の部屋にやっとたどり着いた時、既にロビーに居た時間から一時間も経過していた。どんだけ迷ってんだ。
ガチャ……
鍵を鍵穴に差し込み、回して扉をあける。
なんとも普通な部屋だった。
ベットもそこまで上等とはいかず、テーブルも木材で作られた、何処にでもあるよう物。ただ唯一嬉しいと思ったのは、質素とまではいかず、普通のものは何でもそろっていると言う事だ。ちゃんと電気も通っている。
あとは水だけか……
流石に旅に出て暫く水浴びをしていないのだから、体はベタベタ。早めに汚れを洗い流して寝たいものだ。
しっかり、それでいてなんとなく全ての部屋をチェックし、バスルームへ向かう。
トイレとよく分からないホースみたいなやつがあった。トイレの存在は流石に知っているが、これは一体何だろう?一応バスルームなんだし、これから水が出るのは予想が付くけど……
ちょっと戸惑いながらも、ホースみたいな奴の近くにある、水道と化で使いそうな回す奴を回してみる。
案の定、水は出た。
「おお……!」
ホースみたいな奴から雨のように水が降ってくる。これは便利だ。名前は知らないけど。
そんな感動と同時に、自分はどれだけ時代に遅れてい来た来たんだと環境の違いを思い知る。こっちにもこう言うのがあれば良いのに。まあ森だから無いだろうけど。
とりあえずさっさと服を脱いで汚れを取ってしまおう。目ざわりだからな。この汚れは
「よいしょっと……」
とりあえず服を脱いだ。と言うか、今気が付いたんだけど俺ってずっとこんなボロキレな服を着ていたのか。確かに帝都の雰囲気には合わないし、注目の的になるのはよく分かる。クランが言いたかったことも多少は解かる様な気がした。うん。頭の中で「違う。そうじゃない」とクランの声が聞こえたのは気のせいだろう。
ま、変な話は放っておいて、さっさと水浴びしよう。
そう思い、ホースみたいな奴の前に立って水が出る巨大なねじみたいな奴を回す。この際これはなんて表現すれば良いんだろう?取っ手でいいのかな?駄目な気がする。
水が顔面にかかると同時に、この無駄に長い髪をぬらしていく。
「重い。邪魔い」
どうでもいい独り言。しかし、実際にそうなのだ。すごく重い。しかも水に濡れたらその重さは倍増。そして邪魔い。だったら切れば良いじゃないかと言う者もいるが、その……ハサミで髪を切る音が嫌いだ。うん。
あのシャキッていう音が俺はとても嫌いなんだ。
人間なら何ともないと思うが、俺は耳が良い。だから……その……無理なんだ。髪を切るのは。って俺さっきから誰に話してるんだ?
とりあえずさっさと水浴びを終わらせ、貰ったタオルで髪と肌を拭く。一枚目は髪のせいで殆どビシャビシャになってしまったが、クランがそのことを配慮していたのかどうかは解からない。何故かタオルが三枚あった。
残りのタオルで体を拭き、例のボロキレを着る。これが一番着やすいけど、帝都の雰囲気に合わない。これは事実だ。後で金稼いだら新しい服でも買うかと思う。ま、まだ兵士になると決まったわけではないが。
「あ………」
兵士と言えば、何故クランは兵士になろうとか思ったんだろう。見た所、どこかの村でも貴族っぽかった気がする。洋服もちゃんとしていたし。それなら何で?俺とは違って、裕福に暮らせるはず……多分。
ま、これは後で直接本人に聞いてみよう。なんか理由がありそうだし。うん。そうしよう。
とりあえず着替え終わったところで、急に疲れが身体に出始めたのか、瞼が重くなる。
ま、そりゃそうだ。三日三晩野宿、狩り、さらにはろくな寝どこもない様じゃ疲れる。逆に今まで途中で倒れなかったのが不思議に思えるくらいだ。
フラフラとした足取りになりながらも、ベッドへダイブ。結構気持ちよかった。もちろん気持ちいいわけだから、重かった瞼がより一層重くなるわけで、もう殆ど意識が無い。
瞼が完全に閉じた後、残った意識であの少年の姿が脳裏に浮かぶ。
あの子、詐欺にあったけどどうなったんだろうなと思い、最後に誰もいない部屋でこう言った。
「お休みなさい……」
8980……何故こんなにかけたのかが不思議なくらいです正直。
自分でもびっくりしてます。
ま、それほどこの作品に愛着があるのでしょう。
あ、ついでに言っておきますがこの物語、タツミ君とは現在進行形の状態で進みます。
ですので、出てこないキャラがいくつか存在します。
察してください。
あ、あと誤字多いかもしれません。今回は文字数が特に多いので