アカメが斬る!~狼少年と嘘つき少女~   作:クラッシックス

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第五話:暗闇を喰う

「……はぁ……」

 

少しずつ、朱色の光がこの町を飲みこんでいく。

ルートは、ある住宅街の裏路地に体を落として、小さいため息をついた。

光が差す方向を見れば、もうすぐ暗くなる時間帯だと言うのに、子供たちがキャッキャと大人数で騒ぎたてながらボールを蹴って遊んでいた。

 

平和だ。

 

「……暇」

 

そう言って、少しだけマトモになった服装をぐいと引っ張る。どうやら不思議な素材でできているらしく、詳しい事は知らないが、それなりに防御力はある『帝都警備隊』の正装だった。

 

「クソ……あの将軍様め……」

 

頭の中にあのアホらしい将軍のヘラヘラ顔を思い浮かべ、そいつに脳内で散々毒を吐く。

どうして今日一日、こんな暇な事をしているのにはそれなりの理由があった。

 

 

「よし。合格したお前ら全員、俺の部下な」

 

昨日の夜。アーツェ将軍は、合格した人に全員……俺、クラン、ズレータ、レーズ四人に、いきなりそう言い渡した。皆、最初は、自分の精神が今日の戦闘で疲労しきっているための聞き間違いかと思った。が、しかし。

 

「俺の部下な。お前ら」

 

それを上手く聞き取れなかったと解釈したのかどうかは知らないが、アーツェ将軍は二度も同じことを繰り返したのだ。それと同時に、椅子に寝ているレーズ、それを看護しているクラン、二人で談話していた俺とズレータも、今までしていた他愛もない話を中断させて、声を「エーッ!?」と張り上げたのだ。

聞いていないとでも言うように、クランが声を張り上げる。

 

「ちょ、ちょっと待って下さい!一等兵からスタートと言う話は!?」

 

それに答えるように、アーツェ将軍はハハと笑った。

そして俺らの前で告白する。

 

「ありゃ嘘だ。合格しなくても、一等兵からスタートする奴も居るぞ」

 

またしても、皆は驚愕の声を上げる。アーツェ将軍は、それに付け足すように笑いながら言った。

 

「いや~エスデス将軍の三獣士みたいな部下が居たら良いなって、この前の特急危険種の討伐成功の報酬として頼んだんだけどさぁ。それなりのレベルを持って、動かせるような地位の人居ないって言われてな。そのかわりとして、今回の試験の中で、強そうな奴を必要な分だけ揃えてきて良いって言われたんだよ」

 

「…………」

 

それを俺は、呆然と見る事しか出来なかった。

 

 

そして今日。アーツェ将軍の所に行ったら、「今ちょっと帝都警備隊の人手が足りていないらしいから、手助けのつもりで一時的に警備してくれ」と言って、クラン、ズレータ、ルートに帝都警備隊の正装を手渡してきたのである。ちなみにレーズは、昨日の戦闘で足を骨折していたらしく、病院で大人しく寝ている。

 

ルートは、ポケットに入っていた紙を取り出し、それを丁寧に広げ、その地図に書いてある印を眺めてみた。

 

西の方角を意味する地図には、ここにはどんな店があるのかとやら、様々な情報が汚い字で書かれていた。

 

「お………ちゃ…」

 

今まだ確認できていない方向、東、南、北の方角は、別の仲間が探索する事になっている。

東はレーズ、北はクラン、南はズレータというふうに分けられており、探索がもしも終わってしまったら、帝都の中央にあたる噴水場で待ち合わせをするという設定になっていた。

ルートは、噴水の位置を確認しながらむむうと首を捻らせる。

 

「おね……ちゃ…」

 

確か、太陽は西から昇って東に沈む。と聞いたはずだ。この時間帯だと、太陽が沈むほうが東だから、太陽の沈む方向に進んでいけば、その内噴水場に辿り着くだろう。

そう思い、ルートは地図を丁寧に畳んだ。

 

「おねーちゃん!」

 

「うおっ!?」

 

体を斜め上に飛び上がらせる。

それと同時に、自分の右上の方向からビリッと嫌な音が聞こえた。

 

「あっ、ヤベッ」

 

慌てて地図を自分の目の前に持っていく。

案の定、地図の左部分が、折れ目に沿って半分程度破けていた。

 

「あ、ごごご、ごめんなさい!」

 

慌てて小さな女の子が頭をぺこぺこと下げてくる。

この状況を他人に見られれば、誤解されかねないので、慌てて必死に謝る女の子に手をブンブンと振りながら「大丈夫だから」と言った。

 

すると女の子は少し落ち着きを取り戻したのか、涙目になりながらも、頭を下げることを止めた。

ルートはその女の子と同じ目線になるように腰を下げて、質問した。

 

「なにかようかな?」

 

すると女の子は、ルートの手を握り、こっちに来てとでも言うように引っ張ってきた。

ルートはそれに従うように、裏路地の外へ出た。

 

「あ~はいはい。成程ね」

 

外に出て、右に少し曲がったところの木を見た途端、ルートは何が起きていたのかを理解した。

そこには、ついさっき路地裏に入る前に遊んでいた子供たちが群がっており、木登りをしようとするも、上手くいかない様子が見て取れた。

勿論、木の上には、誰かが誤って力を入れ過ぎたのか、子供たちの手では到底届かない様な場所にボールは引っ掛かっていた。

 

「あれを取れば良いんだね?」

 

そう言うと、女の子はコクコクと首を縦に動かす。

 

「分かった。……お~い、そこの子供たち、危ないから木に登らない!」

 

すると、木の周りに群がっていた子供たちは、目線を木から後ろに居るルートの方へ。

肩車をしていた男の子二人はビクッと体を震わせて、こっちへと向いた。

怖がらせちゃったかなと頬を掻くも、別に何もしないとでも言うように両手を上げ、ジェスチャーを送りながら近づく。

子供たちは、ジェスチャーの意味が伝わったのかは分からないが、すこしだけ安心したような表情を出していた。

……否、どちらかと言うと、子供たちの警戒心のオーラが消えた様な気がした。

 

「こういうのは、大人とか、おにいさんとか、そういう人に頼めばいいんだって」

 

言い聞かせるようにそう言って、少しばかり幹の太い木に足を掛け、するすると昇る。

ルート自信、こういうのは昔から得意なので、なんとも思わない。

ものの数秒もかからず、ボールの近くまで上り詰め、ぐいと手を伸ばす。

 

が、なかなかうまく届かない。

 

(……結構面倒な所にあるな)

 

仕方がないと頭に言い聞かせ、足を細い枝の方に乗せ、そろりそろりと進んでいく。

 

(あと……少し!)

 

厳しい体制のなか、必死に右腕を伸ばし……

 

木の上に引っ掛かっていたボールを、ガシッと掴んだ。

 

「よし、取っうぉ!?」

 

急に足場となっていた枝が、ボキリと嫌な音を立てて、ルートは重力に従うように下へと落ちていった。

ああ、ボールを取った喜びで足に力を入れ過ぎたなと思いつつ、そのまま落下していく。

まぁこういう状況はよくあることだと自分に言い聞かせ、馴れた様子で、地面に足が付くようにバランスを取って、そのまま着地。

少しばかり高い距離から落ちたため、足の骨にジ~ンと、なんとも言えないような痛みが広がっていった。

 

「はい、このボールだよね」

 

そう言って、呆気にとられた様子の女の子に、ボールをポンと手渡しする。

女の子はハッと気づいたように、体をピクリと動かし、無言だが、丁寧にお礼を返してきた。

 

その様子をニコニコと見ていると、後ろからぐいと、誰かが服を引っ張ってきた。

今度はなんだと後ろを振り返ると、今度はぶっすとした表情をした男の子が、片方の手でぐいぐいと服を引っ張っていた。

 

「今度は何かな?」

 

女の子に接する時と同じように、姿勢を低くし、男の子との顔と同じくらいの高さで話しかける。

男の子は未だぶっすとした様子だったが……意を決したのか、ルートの顔を見て照れくさそうに言う。

 

「あのボール、俺のなんだ。取ってくれたおれいに、いいこと教えてあげるよ。ねーちゃん」

 

ねーちゃんじゃないんだがなと咄嗟に口を開こうとするも、その言葉は、男の子が次に発した言葉によって、喉元からは全く別のものへと変換されて出てきた。

 

「このちず、全部はんたいだぜ」

 

「ブッ!」

 

思わず口を抑えて、予想だにしていなかった言葉に吹き出してしまう。

片方の手に、地図の紙をぐいと押しつけられ、そのまま取り返したボールでキャッキャと遊んでいる子供たちの方へとかけていく。

 

「マジかよ……」

 

慌てて地図を開き、まったく逆の事を書いている事に絶望する。

 

「ちなみに!太陽は東から昇って西に沈むんだぜ!」

 

男の子が最後に放った言葉は、ルートの耳にしっかり届き、残っていった。

 

 

「……ふぁ~……暇ね……」

 

北に位置する公園のベンチに腰掛けながら、クランは呑気に伸びをしていた。

あまりにも暇なため、北の商店街のスウィーツを食べ歩きしながら、暇な一日を有意義に遊びとして使っていった。

だがしかし、もう粗方そこらへんの店は見たり食べたりとして回ったので、完全にする事が無くなったクランは、仕方がなしと公園に向かって、そこらへんにあった椅子に腰かけたのだ。

 

だが、公園に行って椅子に腰かけたと言えど、それで暇が潰れるわけでもない。クラン自信、どうしてこうなったのかは分からないが、まぁ目的に一歩早く近づけたのなら、それはそれで好都合というふうに、状況をいち早く整理していたのだった。

 

(今更あの将軍にぐちぐちと言葉を吐いたって、なにも変わらないのも事実だし)

 

ふと、公園に建てられてある時計塔を見れば、遠目からではあるが、時刻は午後5時の時間帯を示していた。

集合する時間には少しばかり早すぎる気もするが、どうせここで時間をつぶそうとしたって、暇と思う時間が増えてかえってストレスがたまるだけだ。それだったらいっそ、集合場所に行ってからいつまでたっても来ないルートをいじる計画を立てていた方がまだマシだと判断し、椅子から腰を浮かせた。

 

と、そこで貴族らしい少女が、クランの視界に入りこんできた。

 

少し遠いため、詳しくは見れないが、金髪で癖っ毛のある少女である。特徴から言えば、クランと少々似ているかもしれない。

近くには、大量の荷物を運んでいる護衛人が居た。

 

「ふぅん……あんな子も居るのね」

 

そう言ってクランは、口元を妖しげに歪めた。

……彼女には、嘘が見える。それが小さな事であっても、大きなことであっても、嘘に値する事であれば、なんでも見透かせるのだ。

それが嘘をかぶった『仮面』であっても。

 

別にこの商店街で、大量の荷物を運んでいる付き添い人や、買い物をしている貴族など、今日は散々みてきた。

ただ、クランの目に留まった彼女。彼女だけは、一般人の域を越した嘘が、酷く淀んだ状態で見えたのだ。

 

一体どんな嘘をついているのかは分からない。だが、それでも結構な嘘をついている事は容易に分かった。

 

「……あれ、あの子……」

 

物珍しそうにその少女を眺めていると、ふと自然に、その後方から出てきた、大量の荷物を持った少年が目に映る。どこかであった事があるようなと頭を捻らせ、ああ、あの時兵舎から追い返されていた少年かと、理解したように軽く握った手を、もう片方の手の平の上にポンと乗せた。

 

「……さて、少し時間に余裕があるけど、帰ろうかな」

 

そう独り言をつぶやいて、気がつけばまた座っていた椅子からもう一度腰を浮かし、そのまま南方向へと足を進めていった。

 

そこで、足をピタリと動かすのを止める。

 

(そう言えば、ルートに東と西の方向を逆にして教えていたわね……)

 

独自行動を行う前に、クランはルートに放った言葉を思い出していた。

しかし、まぁなんとかなるでしょ。と頭の中で結論づけ、そのまま高揚した気分のなか足を進めていく。

 

(早くアイツのがっかりする顔が見てみたいなぁ)

 

心なしか、彼女の足取りは、とても軽そうに見えた。

 

 

「……おいズレータ」

 

「ぐがーっぐごーっぐがーっ」

 

完全に闇が町を飲みつくしたこの帝都。その中央の噴水場の長椅子に、これでもかと大音量のいびきを響かせている少年に、長い銀色の髪をした少年が、可愛らしいその目をジトッとさせながら、その近所から見たら迷惑極まりない少年を見下していた。

 

「……はぁぁぁ……」

 

長い銀色の髪をした、可愛しい少年……ルートは、額を手で押さえながら、呆れるように息を大きく吐く。

対して、噴水場の長椅子に、まるでアニメのような鼻ちょうちんを今にでも出しそうなくらいに大きいないびきをかいている少年は、未だにぐーすかと、決して安らかでは無い寝息を立てていた。

 

「起きやがれ!!」

 

「ごふう!!」

 

寝ていた少年から珍妙な声が上がってくる。

ルートは、呑気にぐーすか寝ている少年、ズレータの様子に腹を立てて、全力で長椅子の下を蹴飛ばしてやった。

勢いよく蹴られた長椅子は、見事半回転し、そのままズレータの体を背中から落としていった。

ゴン、と、鈍い音が前方から聞こえた。

 

「痛ってェ……誰だよ……」

 

背中をさすりながら、若干涙目になりながらも体を上げてくるズレータ。ルートは、それにこたえるように、ズレータの前で腕を組み、頬をぴくつかせながら、腹の底から響くような怒りの声を上げた。

 

「休憩しろとは言っていないが、熟睡しても良いとは言ってないんだけどな」

 

「……げっ、ルートじゃねぇか……」

 

と、分が悪そうな声を上げてくるズレータ。

いつから眠っていたのだろうか。彼の髪型は、寝癖の跡が残っており、目やにを落としているのか、ゴシゴシと目をこすっていた。

ルートは腕を組んだ状態から、ズレータに質問する。

 

「一体いつから寝ていたんだ」

 

「うっ……」

 

問い詰めるようにじりじりと、一歩ずつ足を前に歩めていくと、ズレータもまた、ずるずると這いずるかのように、少しずつ後退していく。

背中に噴水の石造りの壁がある事に気づいたのか、ズレータは諦めたように口を開いた。

 

「……お前らが来る二時間前くらいだよ」

 

「嘘ね」

 

後ろからいきなり声がかけられたため、ルートはビクリと体を震わせた。

恐る恐ると後ろを振り向く。

 

「クラン……」

 

後ろには、クランが口角を上にあげた様子で、ズレータをゲスい目で見ていた。

クランは、ルートの声を無視するように、ズレータの前まで歩き、折角の可愛らしい顔が大無しになる程度にまで顔を歪ませて、にこやか(ルートから見たらゲス顔)な笑顔を向けてズレータに言った。

 

「ほら、本当は何時から寝ていたのか、早くゲロッちゃいなさいよ」

 

流石に相手が悪いと判断したのか、ズレータは、口をごもごもと動かしながらも、喉から震えるような声を出して答えた。

 

「ご、五時間くらい前……」

 

近くにあった時計を指差しながら、ズレータは言う。

ルートは、ああ、やっぱりかとでも言うように、呆れた様子で頭をゆっくりと横に振った。

対してクランは、邪悪な笑みはもうすでに消え失せ、変わりに普通の笑顔が彼女の顔を飾っていた。

 

「じゃあ夜間警備確定ね」

 

……言っている事は、あまりにも残酷な内容だったが。

 

「ク、クラン様!どうかお慈悲を!」

 

と、ズレータが頭を地面にこすりつけながら、必死に慈悲を懇願してくるが、クランはそれを軽く一蹴して、今度はルートの方に向き直った。

 

「ルート。貴方も西の方角の探索、終わってないでしょ?」

 

ビクッと、魚が跳ねるように反応するルート。それをクランは肯定と受け取ったのか、ズレータに向けた時と同じような笑顔で残酷な閻魔の宣言を下した。

 

「じゃ、西側の夜間警備、二人でよろしく~」

 

そう言ってクランは、あははと笑いながらこの場を去ろうとする。ズレータは、仲間が居てくれてありがたいという目でルートを。対してルートは、なんで俺がと頭を抱え込んで落ち込んでいた。

 

後方から、クランの無邪気で明るい声が響いてくる。

 

「ちなみに、太陽は東から昇って西に沈むのよ~」

 

ルートは、去っていく少女をキッと睨んで、「お前の仕業かぁぁあ!!」と、近所迷惑になるくらいの大きな叫び声を上げる。

ズレータは、その二人の様子を、ニコニコとした様子で眺めていた。

 

 

「いや~本当に助かった!ありがとうな!ルート!!」

 

夜の街灯が、街をゆらゆらと照らし、その薄暗い空間の中を堂々と歩く二人。

一人は両手を上げながら、ヘラヘラとした様子で、隣に居る少年の背中をバンバンと叩く。

対して、もう一人の少年は、怒りで背中をわなわなと震わせ、背中を叩かれた少年の手をバッとどかし、機嫌が悪そうにその足を進めていた。

 

「クッソ、クランの奴め……分かってて、俺に嘘ついたんだな……」

 

そう言ってルートは、新しく交換された地図を両手に広げ、その両端をグシャリと握り潰す。

それを見かねたのか、ズレータは、ルートを慰めるように言葉をこぼした。

 

「……まぁ、今回はアイツも悪いと思うぜ。俺が謝っておくように言っておくから、今日は我慢しなって」

 

「その顔が完全に笑ってるから説得力皆無なんだが」

 

二ヤけ顔のズレータの説得力がない発言を、毒を吐くように一蹴するルート。ズレータは、「おお、怖い怖い」と呟いて、ルートから少しだけ距離を取った。

 

ルート達は今、西側の豪勢な住宅が集まる道を歩んでいた。

アーツェ将軍曰く、どうやら最近、ここ周辺で大富豪や、政治を行う重役が殺害される事件が起きており、西側の警備は、今すぐにでも増援が欲しいとの要望が多数寄せつけられているようだった。

 

しばし無言が続く中、じれったいと思ったのか、ズレータがあくびをしながら口を開く。

 

「まったく。こんな所にナイトレイドなんて出るのかねぇ……」

 

ふぁぁと、大きな口を開けながら言うズレータの言葉を、ルートは頭の中で復唱していた。

 

『ナイトレイド』

 

(帝都を震え上がらせている殺し屋集団さ。名前の通り、夜中に夜襲を仕掛けてきて、帝都の重役人や、裕福層の人間達が次々と殺されている。元将軍のナジェンダ、帝都の暗殺者だったアカメ、百人斬りの異名を持つブラート、もう一人、昔殺し屋を一人でやっていたシェーレが、現在指名手配中だ)

 

そう言って、指名手配のビラを俺たちに見せてくるアーツェ将軍の顔を、ルートは思い出した。

 

「確か、ナジェンダ、アカメ、ブラート、シェーレだったよな。今指名手配されてる奴」

 

アーツェ将軍の言葉を思い出し、ナイトレイドのメンバーの名前を口ずさむ。

ズレータは、そうそうとでも言うように、ルートを指差して口を開いた。

 

「そう。そいつらさ」

 

そしてズレータは、少しのだけ間を置き、そしてすぐにまた言葉を続けた。

 

「もう警備してからすでに一時間たってるんだぜ?流石にもう来ないだろ」

 

そう言って、ズレータは腕に装着されている時計を見る。

 

針は、深夜0時を示していた。

ルートは、呆れるようにズレータの言葉を否定した。

 

「相手が寝つけた時間帯に襲いかかって来るから夜襲なんだろうが」

 

やれやれという様子で、ルートは眠たげな双眸を上に持ち上げ、上空を眺める。

 

今日の夜は天気の調子が良いのか、数々の小さいゴマのように散りばめられた星が、爛々と紺色の夜空を輝かせていた。

 

―――と、視界から五つの黒い影が、スッとルートの上空を通って行く。

 

「……?」

 

ルートは、最初は何かの見間違いかと首をかしげたが、警告を意味するかのようなゾッとした寒気が、ルートの背中をぬっと撫でていった。

 

「ッ―――!」

 

慌ててルートはかけだした。

黒い影が進んで行った、反対の方角に。

 

「あ、おい、いきなり何処に行くんだ!?」

 

後方からは、かすかにズレータの叫ぶ声が、ルートの耳を通って行った。

 

この暗闇の歴史がまた一つ、カチリと歯車を動かしていく。

 

 

「あらら……見つかったかも」

 

「まったく……レオーネが遅いからよ。……って、シェーレまた居ないじゃない」

 

「ごめんって。良い人材を見つけたんだから、それで許してくれよ」

 

「だが、見つかったら見つかったで危険だな。少し遠回りしてから帰るか?」

 

糸の橋を相当なスピードで駆けていく中、黒色の長い髪をした赤い目の少女は、何一つ動揺を見せず、今この場に居る全員に言い渡した。

 

「このまま全速力でアジトまで帰還する」

 

それを聞いた四人は、誰一つ文句を言わず力強く呟いた。

 

「「「「了解」」」」




まぁ……早い方かな。うん

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