生まれ、心を持つがゆえの苦しみを我らは知る。
されど死は、誰にも等しく訪れる。
願わくば、その魂にささやかな眠りを――
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数ヶ月前のことである。かのアラン=ベルディア氏の屋敷に賊が入ったという椿事があった。財を成して一代にて街を作り上げたという氏の逸話は有名であり、当然、金目のものを狙っての犯行かとも当初は思われた。関係者も実害がなかったからと、すっかり忘れ去った様子であった。
だが――
夜中。仲の良い姉妹がちっちゃな声で会話していた。姉の方は、狭いベッドにふたり、寄り添って寝ていることについて文句を言える立場ではない。なにしろ手持ちの金銭もなくやってきて、妹の部屋に住まわせてもらっているのだ。ちなみにメイドは住み込みで働いているので、ちゃんとアランに許可ももらっていたりする。
早いところ仕事を見つけたい――そんな話から、いつしか妹は勤めている屋敷での出来事を語り出した。
「あのさ、お姉ちゃん。不思議なの」
「うん、何が」
「いつか話したじゃない。あのカプセルのこと」
「ええ……そうね」
「昨日見たらね、無くなってた」
「……うん」
「もしかして、何ヶ月か前に盗まれたものってあれだったのかなあ。アラン様の財産にも手を付けず、ローズ様やカール様のお部屋も荒らされた様子は無いそうだし。他には何も盗られてなかったんだから、あれのこと知ってた犯人が……」
「あのね、リリア」
「どしたの。そんな真剣な顔して。ああ、そーいやお姉ちゃんがこの街まで来たのも、ちょうどあのころだっけ……はっ、もしや!」
「リリア! 私は泥棒さんでもなければ、盗賊団の首領なんかもやってませんからね!」
「でもでもー」
「分かってる。ねえ、明日も早いんでしょう?」
「そうだけどー。あのさ、お姉ちゃん、何か話したいんでしょ? 嬉しそうな顔をしてるときは、だいたい自慢話か好きなひとの話だもんね」
「え。そうなのかな……」
「そうだよぉ。幸せそーに喋るんだもん」
「うー。じゃ、話してあげる。私が出逢ったハンターさんのこと」
「ハンターの話? ここじゃアラン様の話を耳にたこができるほど聞かされてるから、ちっとやそっとのことじゃ驚かないもんねっ。……でも、お姉ちゃんが好きだっていうなら、ちょっと聞いてみたいかな。どんなハンターなの?」
胸のあたりにそっと手をやり、彼女はにっこりと笑んだ。
「優しいハンターさんの、お話よ」
(了)