恐怖に囚われた少年は舞台を演じる   作:Narvi

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 この作品は常時オリ主視点で構成されております。SAOの二次創作作品ではありますが、キリト視点は無く、キリトやアスナと共に攻略組として戦うことはおろか、そもそも戦闘描写すら少なめですので、ご容赦ください。


第一章 喫茶店《時雨》
第一話 働く休暇


 ソードアート・オンライン。それはナーヴギアを利用したゲームの中での最高傑作とも言われた作品で、各メディアがこぞって大々的に発表していたゲームだ。

 自分がRPGの主人公となって物語を進めていくという、人々の夢を現実にしたようなそれを発売前は誰もが、今か今かと待ちわびていたのだ。

 

 しかし、いざ蓋を開けてみると黒い本性が姿を表した。

 最初はリリース直後の不具合だと思っていたものがゲームの仕様だと、製作者である茅場晶彦本人から公言されたのだ。

 ログアウト不可能。自分の命は左上に映るHPバーが表示するそれっきりで、一度それを切らせばその時点で人生から永久ログアウトだ。それを解決するには鉄の城《アインクラッド》を百層まで攻略するのみ。それ以外に方法は存在しない。

 

 天国のようなゲームの世界が、一瞬にして地獄のデスゲームと化したのだった。

 

 

 

 

 

 デスゲームが開始されてから約一年が経った。最前線は四十九層であるということから、こんな残酷な世界でもプレイヤー達は一歩ずつクリアへの道を進み続けているということがよくわかる。単純計算で後一年がかかってしまうが、モブやフロアボスのレベルは段々と上がっていくのだから、どれくらいかかるかなんて、もはや予想出来ない。

 なんだかんだ、僕も生き残っていた。なんとかこの仮想世界に生きている。レベルは七十一で、きっとこの世界にいるプレイヤーの中ではそこそこ高いほうだろう。

 

「はあ、今日も生きてるなぁ」

 

 別に死にたいわけではないと思うのだが、命が石ころのように転がっているこの世界では、こうやって生を繋ぎ止めているだけでも困難なのだ。よく生きられているな、と自分でも思ってしまい何故かため息が溢れる。

 

「幸せが逃げるわよ、レイン」

 

 自分の名前が呼ばれ、ふと顔を上げてみる。そこにはピンク色の髪をした年上の女性がいた。

 

「そんなことを言われてもねぇ……今日は休暇なんだよ、休暇。わかりますか、リズベットさん?」

「そんな不満そうな顔しなさんなって! 別にいいじゃない、近所なんだし来たって」

 

 明らかに不満そうな顔を浮かべてみると、リズベットは誤魔化すように笑いながら誤魔化した。事実、誤魔化したのだ。当然、一切この店から出る様子はなかった。それを見て、僕はどうすることも出来ずカラカラと笑った。

 

 最前線が四十八層になった頃。このフロアを見てリズベットは水車のある家に一目惚れした。そして三ヶ月の苦節の末、ようやく念願の水車付きの家を手に入れたのだ。

 それを僕はがんばってるなぁ……などと思いながら四十八層の家で自作の飲み物とお菓子をつまみながら眺めていた。その時は結構楽しかった。

 

「そっちは繁盛してるの?」

「まあ、ぼちぼちね。レインの方は……相変わらずか」

 

 僕の場合は休暇だからなのだが、どちらにしろ客足はほとんどない。しかし、リズベットの方は攻略組の顧客が増えてきているようで、有名どころで言うと閃光のアスナなんかもいるそうだ。あの攻略の鬼がご贔屓にしているのだ。何故か身震いした。

 

「アスナに言いつけてやるんだから」

「本当に勘弁して……」

 

 かくいう僕も一応喫茶店を営んでいる。常連は今のところリズベットのみ。律儀にお金は払っていくのだから、こうやってくる分にも常連と言って差し支えないとは思う。

 

「そういえば料理スキルの方はどうなのよ?」

 

 思い出したかのようにリズベットは言った。この世界の料理をお気に召さなかった僕は、デスゲーム初期にこの料理スキルを取ったのだ。

 

「もちろんコンプリートしたよ。じゃないと喫茶店なんて開けないよ」

「へぇ……」

 

 それを聞いたリズベットは最近出来たメロンソーダに口をつけた、かにみえて持っていたグラスを勢い良くカウンターに叩きつけた。

 

「はぁ!! あんたコンプリートしてたの!! というか喫茶店開いた時からってことは今から結構前じゃない!?」

「うん、まあそうなるね。でもコンプリートしてない状態で喫茶店開くなんて勇気ないよ」

 

 料理を出して代金を取る仕事上、食べてもらったものにケチを付けてもらっても困る。それに加えてこんな世界だ。料理に飢えている者の集う世界なのだから、食の恨みは恐ろしい。僕は自傷気味に笑った。

 驚きも収まったのかリズベットは一呼吸を置いて話しだした。

 

「まあ、いいわ。それなら今度料理スキル上げを頑張ってる友達にも教えようかな……」

「うん、宣伝よろしくねー」

 

 リズベット武具店に寄った後にでも、この喫茶店《時雨》をご贔屓にしてほしい。

 

「じゃあ、私は帰るわね」

「はーい。また今度、生きてたら」

 

 僕はいつもどおりの満面の笑みでリズベットを帰した。リズベットもこちらを見てため息を零した後、手を降って帰っていった。

 

 明日からはまた営業である。今日も最後まで演じきってご苦労様。自分で自分にねぎらいの言葉をかけて、僕は店の扉の鍵を閉めた。




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