恐怖に囚われた少年は舞台を演じる   作:Narvi

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 ようやく投稿出来ます……。遅れた理由は活動報告に書いてるので気になる人は確認してみてください。
 本当にごめんなさいでした!

 お気に入り30件ありがとうございます! そういった話も含めて活動報告で感謝と謝罪の言葉を書かせていただきます。

 物語は着実に進んでいます。では、どうぞ。


第十二話 フラワーガーデン

 あたりは無数の花々で溢れかえっていた。どの花を見ても名前すらわかりはしないが、とても色鮮やかで美しいということは誰が見てもわかる。それほどにここの花は綺麗だった。

 ほのかに香る花のにおいが、僕の思考を意図も容易く停止させる。

 

「うわぁ……! ここが……!」

 

 それはシリカも同じようで、うっとりとした顔を浮かべていた。どの花もとても美しいのだが、それだけではない。レンガで作られた花壇は花自体の持つ華麗さをより引き立てており、特に広場の中心は圧巻でシリカはここへ来てからはずっとぼぉーっとしていた。

 

 ここは第四十七層《フローリア》。通称《フラワーガーデン》。

 十人十色ということわざがあるが、こればっかりは十人中十人がここをアインクラッドで一番美しい層だと言うに違いない。そこまで言わせる層に来ているのだからシリカの反応も当然といえばそれまでなのだが。

 もちろん、僕たちは楽しむためだけにここへ来たわけではなかった。

 

「楽しむのもいいけど、目的だけは忘れないでね」

 

 僕は少し笑いながら言った。シリカはハッとしておもむろに頭を振ると、すぐに申し訳なさそうにこちらを見る。

 

「ごめんなさい……あまりにも綺麗だったので……」

「いや、謝ることではないよ! 確かに綺麗だし!」

 

 シリカが少しうつむいて謝るので、僕は急いでそれを止めた。別にシリカがかけがえのない相棒――ピナを助けるということを忘れているとは思っていない。

 しかし、念には念を。いくら防具を強いもので固めているからといって、レベル差を完全に覆せるわけではない。このゲームにおいてレベルというのは高ければ高いほど多くアドバンテージを取れるわけで、レベルの数値はそういう意味では命の失いやすさを表しているとも言える。高ければ高いほど命を失う可能性は低くなるが、どこまでいってもゼロにはならない。それを補うための防具だが、それでも限度がある。

どこまでいっても結局は死なない保証なんてないのだ。だからこそ、油断は禁物である。

 

「ピナの為にもここで頑張って生き返らせて、この綺麗な景色のことも伝えてあげようよ!」

「そうですね! さぁ、頑張りますよぉ!」

 

 僕がそう言うと、シリカは張り切ってそういった。僕はその光景を見て微かに笑みを浮かべた。

 

 

 この層は結構人気がある。可憐に咲き誇る花々が人々の心にこの層のことを忘れさせないようにしているのだろう。

 だからか、たくさんの人がこの層には集まってきているのだ。どこかシリカの頬が赤くなっているような気がする。きっとこの人の量に呆気に取られているのだろう。

 僕はそんなシリカの手を握った。

 

「……え?」

 

 シリカは驚いたように肩を揺らす。

 

「さあ、行くよ!」

 

 僕はそんなこともお構いなしに、シリカの手を引っ張った。シリカはそんな僕の行動に戸惑いながらも、一切抵抗する素振りは見せなかった。

 よく考えてみたら急に手をつかまれるのは嫌だったかもしれない。それにシリカは女の子だから、こういったことに抵抗があるかもしれない。それ以前に、シリカにはそういった男性プレイヤーの強引な態度をどこか嫌っている節があった。

 でも僕は早くこの場から立ち去りたかった。さっきまでいた層の時から、この層まで来てもう我慢の限界だった。

 

 僕は周りの人たちから逃げるように、道を進んでいった。

 

 

 ここまで来たら大丈夫だろうか。僕はキョロキョロと周りを確認して、走るのをやめた。

 別に全てのプレイヤーを疑っているわけではないし、キリトやリズベットのような優しいプレイヤーがいるということも知っている。シリカもその中の一人だ。

 

 だからといってこの層のプレイヤー全員が善意で動いているか、といえばそうではない。善意なんてものは結局、自分で押し付けるものでしかない。赤の他人のために何かをして、自分が助けたのだと優越感に浸るものでしかない。

 善意の裏には見返りがあり、それを求めて人は動く。見返りが大きければ大きいほど人は善意を押し付けたがり、小さければそれ以前に見向きもされない。

 僕はそんな汚い大人が嫌いだ。自分のエゴのためなら他人を簡単に切り捨てる、殺しさえも厭わない大人が大嫌いだ。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 シリカの息を切らす声で僕は我に返る。急いでシリカの手を離すと、疲れているシリカをみて俯きながら謝った。

 

「あ、ごめん……急に引っ張っちゃって……」

「別に大丈夫ですよ! ちょっとびっくりしちゃいましたけど」

 

 僕の謝罪にシリカは笑いながら返す。息を整えながらもシリカは僕の方を向いている。その顔はずっと笑顔だった。

 

――なんで……そんな笑顔でいられるんだろう。

 

 そんなことを考えていたら、僕の口は自然と動いてしまっていた。

 

「なんで……」

 

 しまった、と思った。シリカは不思議そうに僕の顔を覗いている。

 しかし一度動いてしまった口は、止まることはなかった。

 

「なんでシリカはそんな笑顔なの?」

 

 そうして吐き出された言葉はシリカに対する疑問だった。

 

「僕なんかに付いてきて不安じゃないの? 僕が怖くないの? だって、おかしいよね? まだ会ったばかりの僕に、ピナを助けるためだからって赤の他人の僕に付いて来るなんて。年が近いから? 僕がもしかしたら他のプレイヤーと同じで君に相寄るための作り話をしたかもしれないのに。僕が普通に人を殺すかもしれないのに? 警戒した素振りも見せないなんて絶対におかしいよ……なんで笑っていられるの?」

 

 ただただ疑問だけが吐き出された。シリカも最初は軽く笑みを浮かべていたものの、僕の雰囲気を感じてかその笑顔は鳴りを潜めて、僕の言葉を黙々と聞いていた。

 そしてシリカはう~ん、と唸りを上げるように考え始めた。真剣な顔をしながらうつむいているシリカに、僕はほらまた、と一つため息を吐いた。

 よくわからない。それが僕の抱いた感想だった。

 注意を促し警戒心を引き出すような言い方をしたにも関わらず、シリカはちっとも警戒する素振りを見せない。僕を完全に味方だとでも思っているかのように行動するシリカに、嬉しさ反面恐ろしさも覚えてしまっている僕がいた。

 

「……なんででしょうね?」

 

 シリカは突然ポツリと呟いた。

 

「え?」

「どうしてかわからないですけど、シグレ君は安心できるんです。年齢が近いというのもあると思うんですけど、シグレ君は慢心してしまっていた私を変えてくれて、手を差し伸べてくれました」

 

 だから、と言ってシリカは少し黙った。一呼吸したあと、シリカは再度口を開く

 

「シグレ君はとても優いので私は全く怖くないです! こんなに笑顔でいられるのも、この世界に来てから初めてなんですよ? 本当にシグレ君は良い人です」

 

 僕はドキリとした。静かに顔を上げてみると、そこには笑顔を作っているシリカがいた。

 今ならキリトの気持ちがよくわかる。あのときのキリトはきっとこういう気持ちだったのだろう。

 

 本当のことを言えないことをここまでも心苦しく思ったのは、今までで初めてだった。

 

「……ありがとう」

 

 相変わらずそんな心を隠すことで精一杯で、僕はシリカの気持ちを真っ向から受け取ることはせず上っ面の感謝で僕の心を埋め尽くした。




 何だかんだ話数が二桁に到達したんですけど、きっとこの作品二十話あたりで完結します。多分僕の想定していた終わりを書いた後に、あれやこれやを詰め込んで、ゲームクリアまでをゆっくり書いていくのかな。

 実はもうすぐ完結ってところまで書き終えているので、この調子で書き終えちゃいます。期待を裏切るような作品にはしたくないので、必死に考えて最終的には僕の納得のいく作品を、堂々と読者に見せたいです。

 さて、がんばろっと。
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