恐怖に囚われた少年は舞台を演じる   作:Narvi

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 何だかんだ更新が遅くなったのは白猫のせい。
 呪斧め……。手こずらせやがって……。

 コホン……。取り乱しました。

 最近タイトルつけるのが楽しくって。短い中に色んな意味を含ませるのって、何かいいですよね。


第十五話 欠けていく

 僕が短剣を抜くと、犯罪者は一斉に動き始めた。前から向かってくる縦斬りを僅かに横に動いて躱し、今まで磨いてきた体術スキルで相手に足払いを決める。体制を崩したプレイヤーは地面に手のひらを付けると、即座に立ち上がろうとする。僕は短剣を前に構えた。

 その瞬間後ろからブオンッ、という鈍い金切り音が耳に響いた。咄嗟に頭を下げ、そのなぎ払いをスレスレで躱す。がら空きとなった胴に真っ直ぐ拳をぶつけて、再度短剣を握り直した。

 それを見ていた二人のプレイヤーが僕の両脇目掛けて切り裂こうとしている。しっかりと握った短剣を向かってきた剣にぶつけた。ぶつけられた剣は衝撃で行き場を失い、僕の横に落ちていく。

 横薙ぎをしゃがんで躱し、突き攻撃を短剣でいなし、縦斬りを相手の懐に急接近して止める。

 覚醒しきった脳が相手の攻撃を素早く分析し、それに最も適した行動をする。若干化け物じみた行動も、今の僕なら何故か可能な気がした。そしてそんな自信が多対一という無茶苦茶な状況を可能にしていた。

 

「ひ、卑怯だぞッ! ちゃんと戦え!」

 

 犯罪者ギルドの一人が急に馬鹿みたいなことを言い出した。それつられて剣を振る手を止め、それぞれが僕を罵倒し始めた。

 そんな常識的に破錠した光景に、僕は声に出して笑った。

 

「ハハッ! 面白いこと言うねぇ。これが卑怯? ちゃんと戦えって? お前たちみたいな人の頑張りを何の努力もせずに奪い取る奴らに言われたくはないね!」

 

 人殺しギルドの癖に、と僕は内心毒づいた。無抵抗な者を相手に大人数で畳み掛けるのが正義で、被害者は悪だなんて、あり得るはずがない。あり得ていいわけがない。

 これが卑怯なら、人殺しギルドはもっと卑怯だ。僕の怒りはもう限界だった。

 

「……まあ、いいよ。僕も飽きてきたし、もうそろそろ終わりにしよっか?」

「チッ! なめやがって!!」

 

 威勢よく剣を構えて突撃してきたプレイヤーに対して、僕は容赦なくソードスキルを放った。スキルに全く抵抗すること無く放たれた技は、狙い通り完璧に犯罪者の右胸に突き刺さった。ぶつかったときの衝突音と犯罪者の口から零れた鈍い音が混ざり合い、悲惨な音が鳴り響く。

 

 僕はその音を聞く。心の底から溢れてくるものに身を任せて、大口を開けて高らかに笑った。

 

「アハハハハハハ!」

 

――汚い! 消えろ! いなくなれ!

 

 僕は向かってくる犯罪者を切り続ける。溢れてくる《ナニカ》に身を任せて、培ってきたプレイヤースキルやレベルを存分に振るい続ける。

 

「こいつ……狂ってやがるっ!」

「チッ」

 

 不意にロザリアの舌打ちが場に響く。

 

「転移――」

 

 ロザリアの手には転移結晶が握られていた。しかし、最後まで言うこと無くロザリアの手から結晶が離れていった。

 見つけた瞬間僕は全速力でロザリアに駆け寄って転移結晶だけを斬り裂いたのだ。その勢いのまま、短剣をロザリアの首元に当てて、言った。

 

「なに? もしかして、逃げるの? ダメだよ、逃げちゃ。この回廊結晶でみんな牢獄に送るんだから」

「――嫌だって言ったら?」

 

 僕は短剣をロザリアの首元から外して、力任せに犯罪仲間の方へと蹴り飛ばす。そして静かに、言い放った。

 

「全員殺す」

 

 小さな悲鳴が鳴り響いた。僕が依頼主に渡された回廊結晶をしようすると、犯罪者は一目散にその中へと入っていった。今まで僕を罵倒し続けていたのが嘘みたいにただひたすら駆け込んでいく。その中には若干の涙を浮かべる者もいた。

 

 そして残るはロザリアのみとなった。ロザリアは地面にあぐらをかくと、僕の方を睨んだ。なかなか立ち上がろうとしないロザリアに、脅すつもりで短剣を抜く。

 

「……あんた、裏切りレインでしょ」

 

 ロザリアは挑戦的な視線を向けたまま小さく言った。その言葉に、僕は何も返さなかった。

 

「自分が作ったギルドを、自ら壊滅に陥れた馬鹿で無慈悲なギルドリーダー。レッドに敵対心を持ち、グリーンからも恐れられ、終いには攻略からも逃げ出した最低最悪のプレイヤー」

「何が言いたい……」

 

 自然と短剣を持つ手が震えていた。気づかれないように背中で隠し、平然を装ってロザリアに問いかけた。ニヤリとロザリアは笑う。

 

「そんな弱虫でヘタレなあんたに、私を殺す勇気があるのかしら?」

「ッ!?」

 

 嫌な笑みを浮かべているロザリア。目の前にいるというのに僕はその場から動くことはせず、ただぐるぐると頭の中で考えだけが回り続けた。どうすればいいのかなんてことは既に決まっている。

 

 殺せばいい。

 そのために僕は生きているのだ。元々犯罪者ギルドを壊滅させるために動いているのだから、別に壊滅数が増えようが気にすることはない。

 でも動かない。凍ってしまったのかと錯覚してしまうほどに、僕の体は思うように動かなかった。

 ロザリアの顔が、嫌な記憶を思い出させる。その表情は、仲間たちを死に至らしめた犯罪者の顔と全く同じだった。

 無力感と恐怖感を感じる。目の前のことに集中出来ない。

 

 ――気づけば、僕とロザリアの間は広がっていた。

 

「殺せないでしょ、どうせ。あんたには無理よ。私達オレンジと同じ、あんたは犯罪に快楽を覚える類なの。そんなあんたが、今の状況じゃ人を殺せるわけないのよ」

 

 ロザリアはゆっくり立ち上がりながら言った。僕は驚いてまた一歩下がる。

 

「どうせギルドメンバーも馬鹿揃いだったんでしょうね。じゃあ、機会があったら会いましょ? 最低最悪なギルドのリーダー君?」

「……待て」

 

 ロザリアが僕の隣を横切ろうとした瞬間。僕はロザリアの左腕を掴み、腹に短剣を突き刺した。ロザリアの表情が驚きと恐怖に染まる。

 

「え?」

「最低最悪のギルド? 馬鹿揃い? 全て知ったようにギルドのことを口にすんなよ!」

 

 短剣を抜き取る。そしてもう一度、短剣を突き刺す。ロザリアはもがくが、レベル差のおかげか拘束を解くことは出来なかった。

 

「ギルドメンバーは何も悪く無い! 全部僕が悪いんだよ! 知ったようなこと言うな! 僕が弱いから! 僕が死ぬべきだったんだ! お前なんかに何がわかるんだよ! ふざけんな!」

 

 思考が全くまとまらないまま、僕はただひたすら短剣を振り下ろした。

 僕が麻痺で身動きがとれない間に、全員殺された。レッドプレイヤーに騙されて罠に引っかかった弱虫でちっぽけな僕を助けるために戦って、そんな光景を見ていることしか出来なかった。

次々にホログラムとなって消滅していく様に、永遠と無力感と恐怖感をたたきつけられたあの時。僕がいくら叫んでも、願っても仲間たちは逃げてくれなかった。

 

「どうすればよかったんだよ! 僕のせいだってわかってる……わかってるけどさぁ! なんで……なんでッ――」

 

 ――何で僕を誰も責めないんだよ……!

 

 僕は必死に逃げようとしているロザリアに短剣を振り下ろす。空中を滑るように鮮やかな弧を描いた短剣は、静かに目の前のプレイヤーを捉えた。

 

 断末魔の叫びがあたり一面を埋め尽くす。安全圏を保っていたはずのHPバーは最早見る影もなく、徐々に先へ先へと向かっていく。

 

 そして、その色がなくなった瞬間。

 

 

 

 

 命が欠けた音がした。




 久しぶりの戦闘シーンは三回くらい修正が入ってます。気が向いたらまた修正は入れるかもしれないですけど、取り敢えず自分の中での及第点はあれです。

 大丈夫かなぁ……。

 今回は結構まさかな展開になったと思います。ロザリアさん、二回目の修正で死ぬことが決まりました。

 やったね!
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