恐怖に囚われた少年は舞台を演じる   作:Narvi

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 一週間も熱が引かないインフルというのもかなりレアな気がする。首は炎症を起こして痛みで眠れず、インフルなのに目の下に隈ができるというレアケースも。

 投稿遅れました。やろうと思ったら一日で終わるから、やっぱり何事も意欲の問題。

 それでは最終話です。どうぞ。


最終話 今日もベルは鳴り続ける

 目覚めの朝。ジリリリリとけたましい機械音が頭のなかに響き渡り、僕はゆっくりと起床した。悪くない、すっきりとした良い目覚めである。

 ゲーム内時刻は未だ六時を示しており、昔は早起きがかなり苦手だったものだから何故か少し感心する。よくもここまで変わったものだと、くすりと笑った。

 

 本当に変わった、という自覚があるほどには変わったと思う。良い意味でも、悪い意味でも。

 

 あれから数日がたった。あれ、というのは……。正直思い出したくない話ではある。一種の黒歴史だ。

 

 何かに取り憑かれたかのように動いていた昔の僕に、今の僕は驚きである。よくもまあ、あそこまでやったものだと。

 あの時はそれ以外に考えが思いつかなかったし、もちろん今でもこれで本当にいいのかとは思う。僕がみんなを助けることが出来なかったのは事実だし、そんな僕が悠々と生き続けるのは間違っているのではと、どうしても考えてしまうのだ。

 

「まあ、あんまり深く考え過ぎないほうがいいよね」

 

 人を頼れとはまさにこのこと。人間は一人で生きていけるように作られてはいない。もしそう出来ていたらこんなデスゲームは開始数日でクリアしていただろうし、そもそもこんなデスゲームは生まれなかったかもしれない。

 結局助け合いながら生きていくしかないんだ。僕は晴れ晴れとした気分でカーテンを開いた。

 

 

 

 

 

 喫茶店《時雨》の中に久しぶりに入った時、僕が最初に生まれた感情が安心感だった。僕は案外寂しがり屋なのかもしれない。

 何だかんだで思い出たっぷりの喫茶店だ。キリトの相談に乗ったり、アスナに問いただされたり。クラインが泣きながら突入してきたこともあった。あの時は呆れしか出てこなかったが、こうやって思い返してみるとどれも良い思い出だ。

 

 そろそろだろう。今日は既に店を開けている。ドアのベルがシャランと鳴った。

 

「やぁ、いらっしゃい。来ると思ってたよ、アルゴ」

 

「ハハハハ! バレちゃってたカ」

 

 そう言ってアルゴはカウンター席に着く。そのためにこの時間から店を開けていたのだ。僕はアルゴに準備済みのコーヒーを入れ、自分の分と一緒に出した。

 

「お? 今日はコーヒーなのカ?」

 

「これまでのお詫びも兼ねてサービスだよ」

 

 コーヒーでやるのはおかしいとは思うが、僕はアルゴと笑いながらコーヒーカップをぶつけ合う。そして一口。

 

「……苦い」

 

「ニャハハハ! おこちゃまレー坊にゃあまだ無糖は早いナ!」

 

「笑うなよ……」

 

 笑うアルゴに思い切り無視を決め込んで僕はいそいそと砂糖とミルクを足していく。ミルク二杯と砂糖を大量に入れて混ぜると、アルゴのコーヒーとは明らかに別の飲み物が出来上がった。それを静かにすする。

 アルゴがニヤニヤした顔を寄せてくるがムシムシ。それが一番なのだ。僕はあくまでゆっくり、コーヒーをすすった。

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、アルゴ」

 

 コーヒーを飲み終えて少しばかりの談笑を終えて、僕はアルゴに要件を切り出した。アルゴは未だニヤつき顔でこちらを見る。

 

「ん? どうしタ?」

 

「僕ってさ、今回のことでどれくらいの人数に迷惑かけたのかな」

 

「んー、小さいものまで含めるならかなりの人数にはなるゾ」

 

 それがどうしたと言うアルゴ。どうしたで済まされる程ではない気がするが、かなりいるのであれば流石に収まりきらないような気がする。

 

「じゃあ、やっぱりこうするよ」

 

 そう言って僕はウィンドウを出した。そして文字を打ち、それをアルゴに送りつける。

 

「これハ……そういうことカ」

 

「うん、そういうこと、だよ」

 

 なんとなく頷き合う僕とアルゴ。傍から見たら理解の出来ない光景だが、今は自分の店でありこの時間なら誰もこんな店にはこない。

 

「朝っぱらからやってるみたいだし、来てやったわよ……って、何やってんのよ……」

 

 ……前言撤回。お隣さんなら来ないことはないだろう。

 

「だからといってこのタイミングで来るなんて、フラグは折られるためにあるんだろうね」

 

「そうだナ、ニャハハハ」

 

「何言ってんのよ、あんたたち」

 

 素っ頓狂な顔をしたリズベットを見ながら、僕はまた甘い甘いコーヒーをすすった。

 

 

 

 

 

 折角来てもらったお客様を突然追い出す、なんてことを店員がするわけがなく、取り敢えずアルゴと同じようにサービスでコーヒーを出してみたのだが。

 

「……砂糖は入れないんですね」

 

「入れないわよ? 眠気覚ましにもなるし朝はミルクだけ」

 

 そう言ってリズベットはコーヒーをすする。苦そうな振る舞いはせず、出されたコーヒーを堪能するようにすすってカチャリと受け皿にカップを置いた。

 

「アルゴ笑うな!」

 

 取り敢えず側で笑っているアルゴに怒鳴りを入れておく。食べ物や飲み物は自分が一番美味しく感じる方法で食べるのが一番なのだ。料理した人を侮辱するように目の前で度が過ぎるほど味を変えるのはやめてほしいが。あれには怒りという感情しか湧かない。それなら自分で作れよと思う。

 

「とにかく、あるものは使っていいんだよ!」

 

「……レイン、落ち着きなさい」

 

 少しばかり冷静を欠いていたようだ。僕はアルゴをにらみつつ深呼吸する。

 

「そういえば、アスナがレインに聞きたいことがあるって言ってたわよ」

 

 唐突に話を切り出したリズベット。アスナから僕に聞きたい話、このタイミングではきっとあの話だろう。僕は思い浮かべた内容を口にした。

 

「攻略組に戻るか、とか」

 

「大当たりよ」

 

 何でわかるんだか、リズベットは呆れたようにそう呟く。

 攻略組に戻る、というのも一応考えたことだった。第一、戻ってきて欲しいという声も少なくはない。あんな事件を起こしてしまったとはいえ実力の方は周りにも信用されていたのだろう。

 

「僕自身も、戦いたいという気持ちはあるんだよ。やっぱりこのデスゲームにはかなり怒りもあるし、敵討ちにもなるし」

 

 結局、諦めはつかなかった。今でも殺したいほど憎い。しかし、それはこのデスゲームのせいでもあるのだ。仲間を殺されて浮かぶ憎悪もそうだが、今は同類を作りたくはないという気持ちも少しは存在した。

 

「でも、デスゲームがあったからなんて言いたくはないけど、そのおかげでみんなと出会えたしこの思い出の場所も生まれたんだと思うと、やっぱりこの場所も残しておきたいし店は続けていたいな」

 

 今でもこの場所でみんなと一杯語り合った時間が忘れられないのだ。ここがあった結果、僕はあの時思いとどまることが出来た。その先に手を出してしまったのは事実。だが、それでもこのひだまりに戻ることが出来たのは、捨てることが出来ない程の思い出を僕が手にしてしまっていたからだ。

 

「……そんな曖昧な答えだけど、取り敢えずは両立ということでいいかな」

 

 だから導き出す答えは、イエスでもなくノーでもない。攻略組ではあるけれど、明らかに違う存在。周りからは攻略組を舐めている、やる気が無いなんて言われるかもしれないが、それが僕の形だ。

 

「あんたがそれでいいなら、良いんじゃないの?」

 

「アーちゃんもたまにここに来るんだからナ。別に攻略組としてやるために店をやめろ、なんていわないダロ」

 

 僕の優柔不断な答えにも二人は笑って受け入れてくれた。

 

「……ありがとう」

 

「お? レー坊がデレたゾ!」

 

「デレたわね……しおらしいレインなんて珍しいわ」

 

「礼を言っただけでしょーが……」

 

 でも、これはこれで面白いかもしれない。これからはこんな毎日が続くのかと思うと、自然と笑みが零れた。

 

「……これにも慣れていかないとね」

 

「……ダナ」

 

 今日もまだまだ時間がある。こんな時間から二人も来るなんて、結構レアな一日だ。嬉しくて、ニコニコしながら少しになっているコーヒーを飲み干す。カップの底には溶けきらなかった砂糖が溜まっていた。

 

「俺っちは仕事があるからもう行くヨ」

 

「うん、わかった~。ご来店ありがとうございました~」

 

 アルゴはお金を払うと背を向けたまま手を振り、店の外へ出て行った。かとおもいきや、またもやカランカランという音と共に入ってくる。隣には一人の女の子を連れて。

 

「あれ、どうしたの……ってシリカ?」

 

「店の前であたふたしてたから連れて来てやったゼ!」

 

 じゃあまた、と言ってアルゴは再度店の外へ出て行く。今度は戻ってこなかった。

 

「いらっしゃいませ、シリカ」

 

「うん……」

 

 口数の少ないシリカはリズベットの近くのカウンター席に腰掛けた。ほのかに頬が紅いので、少し緊張しているのだろうか。こういった雰囲気の店に慣れていないのかもしれない。

 

「コーヒー飲める?」

 

「の、飲めますよッ!」

 

 馬鹿にしてるんですかと謎の剣幕で叫ぶシリカに僕は驚き半分、いそいそとコーヒーをカップに注いでいく。

 

「はい、どうぞ」

 

 シリカにコーヒーを出す。のんびりとした時間がゆっくり、ゆっくりと過ぎていく。

 

 リズベットとシリカは元々交流があったらしく、二人の会話はどこか姉妹のようで見ててほっこりする。こういったのんびりとした時間がいつまでも続いたらいいな、と思ってそんな甘えた考えを振り切った。

 この世界はあくまでデスゲーム。出来るだけ早くに終わらせないといけないのだ。

 

 だからといって急ぎすぎて自分を犠牲にするのは良くない。急がば回れということだ。

 

 だからもう少しだけ。こんな平和が続いてくれたら、なんてことを思った。

 

 ――カランカラン。

 

 今日もまた、人の訪れを告げる音が鳴り響く。




 これにて完結です! 続きはちゃんと書きます。というか少なくとも番外編をしないといけないです。最終話にフラグを入れたからちゃんと回収しないと。

 ようやくレインがレインらしくなりました。感情豊か、というわけではないですが幸せを噛みしめるようによく笑います。周りには本当に早く慣れて欲しい。
 シリカさんありがとう。方向音痴なわけじゃないけど、きっと恥ずかしかったんだと思う。あれから一度も会ってなかったし、気まずさはあるんだろうね。


 長編というほど長くはないですが、完結させた作品はこれで初になります。感慨深い気持ち、というよりは清々しいような感じです。
 これからもこちらの作品は更新を続けていきますので、これからもこの作品をよろしくお願いします!

 次回作もお楽しみに(告知乙!)
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